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40:妊娠生活
妊娠が発覚して五か月が過ぎた。年越しや新年を迎えてからのパーティーは大事をとって全て欠席し、離れの屋敷で、ペーターと2人でのんびり過ごした。
季節はもう初夏になっている。シグルドは目覚めると、ペーターの柔らかい頬を引っ張ってペーターを起こした。下腹部がじわじわ大きくなってきている。つわりも特になかったので、腹が膨らみ始め、胎動を感じるようになって、漸く子供ができたという実感が湧いてきた。
寝間着から着替えると、シグルドはペーターと手を繋いで、屋敷から出て、のんびりと庭を散歩し始めた。
鍛錬は禁止されているが、適度な運動は必要だということで、毎朝必ずペーターと庭を散歩している。正直、物足りない運動量だが、子供を無事に産むまでは我慢である。ペーターと他愛のないお喋りをしながら歩くのも悪くないので、そんなに我慢がしんどいということはない。珈琲や酒が飲めなくなったが、ペーターも飲まないので、1人だけの我慢大会にならずに済んでいる。
ペーターは、余程急ぎの仕事がある時以外は、午前中だけ仕事をして、午後からはシグルドと過ごしている。お互いに暇だから、使用人から産着の作り方を習って、ちまちま産着作りをしている。針仕事なんて初めてだが、やってみたら意外とできるもので、小さな産着を作るのが地味に楽しい。
今日もペーターと寝室のベッドの上でちまちま産着を作っていると、寝室にバニヤンがやって来た。両親と姪っ子達が来るそうで、シグルドはペーターと一緒にベッドから出た。
両親も兄もシグルドの妊娠をそれはもう喜んでくれたが、特にオリビアが心配している。妊娠中によい食べ物や飲み物を頻繁に届けてくるし、5日に一度は顔を見に来る。出産経験者として、妊娠中や出産時のこと、産後のことを話して聞かせてくれるのは素直にありがたい。なんの心構えもなく出産するのは流石に怖すぎる。
シグルドが温かいミルクを飲みながらオリビアと話している間に、ペーターは絨毯にアーカイドと子供達を乗せて、庭をふよふよ飛んでいた。窓の外の空飛ぶ絨毯を見上げて、オリビアがふふっと笑った。
「赤ちゃんが大きくなったら、ペーターにまた絨毯で飛んでもらいましょう。きっと赤ちゃんも気に入るわ」
「そうですね」
「シグルド。困っていることはないかしら」
「今のところは大丈夫です。ペーターが過保護なくらいよくしてくれています」
「あなたには過保護なくらいがちょうどいいですわ。あなたのことだから、ペーターが側にいないと動き回るでしょう?」
「あーー。まぁ。多分」
「お喋りの相手が欲しい時はいつでも呼びなさい。わたくし達は引退しておりますから、基本的に暇ですもの」
「ありがとうございます。ペーターが仕事が忙しい時は、甘えさせていただきます」
「ペーターはお仕事も頑張っているようですね。ジークハルトが褒めていましたよ」
「いつだって一生懸命な奴ですから」
「ふふっ。本当にとてもよい子と結婚できましたね」
「そうですね。母上」
「なにかしら」
「子供が幸せを運んできてくれる小鳥というのが、なんとなく理解できるようになってきました。ペーターが前以上に優しく気遣ってくれています。腹が日に日に大きくなってきていて、順調に育ってくれているのが嬉しい。ペーターと一緒に子供を抱っこする日が楽しみでなりません」
「そう。それはよかったわ。無事に産まれるまでは油断できませんが、あまり気を張りつめ過ぎても疲れてしまいます。ペーターと一緒にのんびり構えているのがいいでしょう。子供の名前はもう決めたのですか?」
「はい。今、言いますか?」
「いいえ。産まれた時の楽しみにとっておきますわ。シグルド。まずはあと数か月、頑張りましょうね。その後は、きっと幸せなことでいっぱいな日々が送れるでしょう。子育ては大変なこともありますが、あなたとペーターなら大丈夫です」
「はい。ペーターがいれば、なんとかなると思います」
「ふふっ。あなた達は本当に仲良しですね」
「あーー。まぁ、そうですね」
嬉しそうに笑うオリビアに、ちょっと気恥しい気もするが、否定するつもりはない。
絨毯で空を飛んでいたペーター達が戻ってきた。子供達がお腹の赤ちゃんにと、歌を歌ってくれた。アーカイドが絵本を持ってきてくれていたので、それをハインリッヒがシグルドのお腹に向かって読んでくれた。胎教というやつらしい。
シグルドとペーターの子供は、沢山の人に望まれて生まれてくる。生まれたら、きっと沢山の人に愛してもらえるだろう。ペーターの実家に手紙を送ったら、それはもう嬉しそうな返事と共にベルナ特製の御守りが送られてきた。まだ見ぬ我が子は愛されるために生まれてくる。そのことが本当に嬉しい。
両親達が帰ると、シグルドはなんとなく隣に立つペーターの手を握った。ほっそりとしているが、温かくて優しい手だ。ペーターがシグルドを見上げて、二ッと笑った。
「シグルドさん。ご飯の時間まで、産着の続きをやります?」
「あぁ。刺繍も習ってみるか? 今は無地のやつしかないし」
「いいですねー。楽しそうです! 可愛いの作りましょう! 可愛いの!」
のほほんと笑うペーターを見ていると、なんだか安心する。シグルドはゆるく繋いだ手を振りながら、ペーターと一緒に寝室に戻った。
夕食と風呂を終えた後、ベッドの上で、ペーターが絵本を読み始めた。両親が来る度に絵本を持ってくるので、結構な量の絵本がある。新たに寝室に本棚を置いて、そこに並べている。優しい声で絵本を読んでいるペーターを眺めながら、シグルドはやんわりと腹を撫でた。ぽこっと内側から腹が蹴られる。なんだがペーターの声を喜んでいるようで、ちょっと可笑しくなる。父親大好きな子供になりそうな気がして、それはそれでいいと思う。ペーターと子供が戯れているところを想像して、シグルドは小さく口角を上げた。
腹が大きくなってきて、不便なことも増えてきた。相変わらず、我慢しなくてはいけないことが多いし、たまに本気でうんざりするが、ペーターがいつも側にいてくれるから、なんとか頑張ろうって気になる。腰が痛む時はペーターが優しく擦ってくれたりするし、細かな気遣いを沢山してくれる。シグルドの伴侶は、本当に誰よりも優しい。
絵本を読み終え、本棚に戻したペーターがシグルドの隣に座り、優しくシグルドの腹を撫でた。ぽこっとまた内側から腹を蹴られる。ペーターが嬉しそうに笑った。
「元気ですねー。男の子かなぁ」
「さぁな。女の子だったら、おてんばになりそうだ」
「元気でいてくれたら、それだけでいいです」
「そうだな」
「あ、義父上が、もうお祝い用のお酒を買ったらしいですよ。授乳が終わったら一緒に飲みたいそうです。かなり奮発したらしいですよー」
「父上が奮発したって相当いい酒だろ。楽しみが増えたな」
「ですねー。僕はブランデー入りの紅茶でお付き合いしますー」
「あ。子供が産まれたら、今年できたブランデーを買うか。成人する年に一緒に飲みてぇ」
「いいですね! 18年もののブランデー! 気が早いけど、今から楽しみー」
我ながらいいことを思いついたと思う。子供が成人する頃には50を超えているが、多分まだ現役バリバリだと思う。今から本当に楽しみだ。
シグルドはゆっくりと寝転がり、くっついてきたペーターの手を握った。ペーターがシグルドの唇に触れるだけのキスをして、『おやすみなさい』と言って、すぐにすぴーと寝息を立て始めた。慣れたペーターの温もりに安心しながら、シグルドも静かに目を閉じた。
季節はもう初夏になっている。シグルドは目覚めると、ペーターの柔らかい頬を引っ張ってペーターを起こした。下腹部がじわじわ大きくなってきている。つわりも特になかったので、腹が膨らみ始め、胎動を感じるようになって、漸く子供ができたという実感が湧いてきた。
寝間着から着替えると、シグルドはペーターと手を繋いで、屋敷から出て、のんびりと庭を散歩し始めた。
鍛錬は禁止されているが、適度な運動は必要だということで、毎朝必ずペーターと庭を散歩している。正直、物足りない運動量だが、子供を無事に産むまでは我慢である。ペーターと他愛のないお喋りをしながら歩くのも悪くないので、そんなに我慢がしんどいということはない。珈琲や酒が飲めなくなったが、ペーターも飲まないので、1人だけの我慢大会にならずに済んでいる。
ペーターは、余程急ぎの仕事がある時以外は、午前中だけ仕事をして、午後からはシグルドと過ごしている。お互いに暇だから、使用人から産着の作り方を習って、ちまちま産着作りをしている。針仕事なんて初めてだが、やってみたら意外とできるもので、小さな産着を作るのが地味に楽しい。
今日もペーターと寝室のベッドの上でちまちま産着を作っていると、寝室にバニヤンがやって来た。両親と姪っ子達が来るそうで、シグルドはペーターと一緒にベッドから出た。
両親も兄もシグルドの妊娠をそれはもう喜んでくれたが、特にオリビアが心配している。妊娠中によい食べ物や飲み物を頻繁に届けてくるし、5日に一度は顔を見に来る。出産経験者として、妊娠中や出産時のこと、産後のことを話して聞かせてくれるのは素直にありがたい。なんの心構えもなく出産するのは流石に怖すぎる。
シグルドが温かいミルクを飲みながらオリビアと話している間に、ペーターは絨毯にアーカイドと子供達を乗せて、庭をふよふよ飛んでいた。窓の外の空飛ぶ絨毯を見上げて、オリビアがふふっと笑った。
「赤ちゃんが大きくなったら、ペーターにまた絨毯で飛んでもらいましょう。きっと赤ちゃんも気に入るわ」
「そうですね」
「シグルド。困っていることはないかしら」
「今のところは大丈夫です。ペーターが過保護なくらいよくしてくれています」
「あなたには過保護なくらいがちょうどいいですわ。あなたのことだから、ペーターが側にいないと動き回るでしょう?」
「あーー。まぁ。多分」
「お喋りの相手が欲しい時はいつでも呼びなさい。わたくし達は引退しておりますから、基本的に暇ですもの」
「ありがとうございます。ペーターが仕事が忙しい時は、甘えさせていただきます」
「ペーターはお仕事も頑張っているようですね。ジークハルトが褒めていましたよ」
「いつだって一生懸命な奴ですから」
「ふふっ。本当にとてもよい子と結婚できましたね」
「そうですね。母上」
「なにかしら」
「子供が幸せを運んできてくれる小鳥というのが、なんとなく理解できるようになってきました。ペーターが前以上に優しく気遣ってくれています。腹が日に日に大きくなってきていて、順調に育ってくれているのが嬉しい。ペーターと一緒に子供を抱っこする日が楽しみでなりません」
「そう。それはよかったわ。無事に産まれるまでは油断できませんが、あまり気を張りつめ過ぎても疲れてしまいます。ペーターと一緒にのんびり構えているのがいいでしょう。子供の名前はもう決めたのですか?」
「はい。今、言いますか?」
「いいえ。産まれた時の楽しみにとっておきますわ。シグルド。まずはあと数か月、頑張りましょうね。その後は、きっと幸せなことでいっぱいな日々が送れるでしょう。子育ては大変なこともありますが、あなたとペーターなら大丈夫です」
「はい。ペーターがいれば、なんとかなると思います」
「ふふっ。あなた達は本当に仲良しですね」
「あーー。まぁ、そうですね」
嬉しそうに笑うオリビアに、ちょっと気恥しい気もするが、否定するつもりはない。
絨毯で空を飛んでいたペーター達が戻ってきた。子供達がお腹の赤ちゃんにと、歌を歌ってくれた。アーカイドが絵本を持ってきてくれていたので、それをハインリッヒがシグルドのお腹に向かって読んでくれた。胎教というやつらしい。
シグルドとペーターの子供は、沢山の人に望まれて生まれてくる。生まれたら、きっと沢山の人に愛してもらえるだろう。ペーターの実家に手紙を送ったら、それはもう嬉しそうな返事と共にベルナ特製の御守りが送られてきた。まだ見ぬ我が子は愛されるために生まれてくる。そのことが本当に嬉しい。
両親達が帰ると、シグルドはなんとなく隣に立つペーターの手を握った。ほっそりとしているが、温かくて優しい手だ。ペーターがシグルドを見上げて、二ッと笑った。
「シグルドさん。ご飯の時間まで、産着の続きをやります?」
「あぁ。刺繍も習ってみるか? 今は無地のやつしかないし」
「いいですねー。楽しそうです! 可愛いの作りましょう! 可愛いの!」
のほほんと笑うペーターを見ていると、なんだか安心する。シグルドはゆるく繋いだ手を振りながら、ペーターと一緒に寝室に戻った。
夕食と風呂を終えた後、ベッドの上で、ペーターが絵本を読み始めた。両親が来る度に絵本を持ってくるので、結構な量の絵本がある。新たに寝室に本棚を置いて、そこに並べている。優しい声で絵本を読んでいるペーターを眺めながら、シグルドはやんわりと腹を撫でた。ぽこっと内側から腹が蹴られる。なんだがペーターの声を喜んでいるようで、ちょっと可笑しくなる。父親大好きな子供になりそうな気がして、それはそれでいいと思う。ペーターと子供が戯れているところを想像して、シグルドは小さく口角を上げた。
腹が大きくなってきて、不便なことも増えてきた。相変わらず、我慢しなくてはいけないことが多いし、たまに本気でうんざりするが、ペーターがいつも側にいてくれるから、なんとか頑張ろうって気になる。腰が痛む時はペーターが優しく擦ってくれたりするし、細かな気遣いを沢山してくれる。シグルドの伴侶は、本当に誰よりも優しい。
絵本を読み終え、本棚に戻したペーターがシグルドの隣に座り、優しくシグルドの腹を撫でた。ぽこっとまた内側から腹を蹴られる。ペーターが嬉しそうに笑った。
「元気ですねー。男の子かなぁ」
「さぁな。女の子だったら、おてんばになりそうだ」
「元気でいてくれたら、それだけでいいです」
「そうだな」
「あ、義父上が、もうお祝い用のお酒を買ったらしいですよ。授乳が終わったら一緒に飲みたいそうです。かなり奮発したらしいですよー」
「父上が奮発したって相当いい酒だろ。楽しみが増えたな」
「ですねー。僕はブランデー入りの紅茶でお付き合いしますー」
「あ。子供が産まれたら、今年できたブランデーを買うか。成人する年に一緒に飲みてぇ」
「いいですね! 18年もののブランデー! 気が早いけど、今から楽しみー」
我ながらいいことを思いついたと思う。子供が成人する頃には50を超えているが、多分まだ現役バリバリだと思う。今から本当に楽しみだ。
シグルドはゆっくりと寝転がり、くっついてきたペーターの手を握った。ペーターがシグルドの唇に触れるだけのキスをして、『おやすみなさい』と言って、すぐにすぴーと寝息を立て始めた。慣れたペーターの温もりに安心しながら、シグルドも静かに目を閉じた。
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