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5:報告と出立
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ラコタはジョルジュを抱っこして急ぎ足で靴屋に寄って靴を買い、ジョルジュの実家へと向かった。ニーグルが子供服を用意してくれると申し出てくれたが、ジョルジュの実家に行く方が早い。ジョルジュの母キャサリンと妹のトレーシーは針仕事が本職だし、末娘のアニータも針仕事ができる。ジョルジュは兄弟が多いので、多分弟達の服が残っている筈である。仮にサイズが合うものがなくても、今日明日着る分はキャサリン達がなんとかしてくれるだろう。旅の間に着る服は、ラコタのものも含めて、明日上役に報告をして許可を貰ってから買いに行けばいい。今夜は今着ている服で寝ても構わないのだ。
ラコタはうとうとしているジョルジュを抱っこしたまま足早に下町にあるジョルジュの実家に行き、玄関の呼び鈴を鳴らした。
ジョルジュの姿を見た家族達は、ものすごく大騒ぎした。当然だろう。30を過ぎた男が5歳児の姿になってしまったのだから。キャサリン達が大慌てで物置にしている一室から取っておいた子供服を引っ張りだし、完全に寝てしまったジョルジュの身体を採寸して、子供服を仕立て直し始めた。
ラコタはその間に、義父であるジョバンニに改めて事情を詳しく話した。ジョバンニが大きな溜め息を吐いて、頭を抱えた。
「ばーかーむーすーこー」
「ジョルジュは部下を庇っただけです」
「……うん。それは立派だ。すごく立派だ。でもなぁ、心配するこっちの身にもなってほしいわ。これが死ぬような呪いだったらどうすんだよぉ」
「……はい」
「あ、すまん。ラコタ君が一番心配だよな。わりぃ」
「いえ……」
「はぁ……事情は分かった。ラコタ君。毎度毎度申し訳ないが、ジョルジュを頼む。俺達はなんもできねぇ。ラコタ君だけが頼りだ」
「はい。絶対にジョルジュの呪いをといてきます」
「頼んだ。ラコタ君も怪我なんかしないでくれよ?十分気をつけて行ってきてくれ。俺達はラコタ君のことも心配してるんだからな」
「はい」
そう言うジョバンニの真剣な顔に、ラコタは小さく笑みを浮かべた。そんな場合ではないのだが、ジョバンニ達がラコタのことを家族として大事にしてくれていることが嬉しい。
ラコタは寝息を立てているジョルジュをジョバンニ達に頼んでから、一度自宅へと戻った。明日の朝一で上役に報告する為に、報告書を作成しなければ。ジョルジュの側にいたいが、どうしても必要なことだ。口頭だけの報告では不十分で、その後、書類でも報告書を提出しなくてはならなくなる。二度手間になるくらいなら、ジョルジュの側を少し離れてでも、今ある情報をまとめて、報告書にして提出した方が話が早く済む。
ジョルジュの実家の鍵は持っているので、自宅で報告書の作成が終わったら、すぐにジョルジュの実家に戻る。幼い身体にされたジョルジュが心配だ。
ラコタは暗い自宅に1人で帰り、大急ぎで報告書を書き上げた。
------
ジョルジュは真新しい子供服を着て、ラコタに抱っこされていた。貸馬屋で借りた馬に、ラコタと共に乗る。ラコタの前に座る形で馬に乗ったジョルジュの頭をやんわりと撫でて、ラコタが一緒に旅をすることになる2人に声をかけた。
1人はホセという名前の先輩だ。ジョルジュよりも5歳年上で、バーバルン族出身の穏やかな顔つきをした男である。バーバルン族特有の入れ墨を顔や身体に施してあり、割と平凡な顔立ちだが、髪型や口髭がお洒落だ。読書が好きで穏やかな性格をしているが、腕っぷしの方は隊内で上位に入る。羨ましい程筋肉ムキムキな身体つきをしている。警棒術と体術がかなり強い。
もう1人はキャラウィルだ。ジョルジュの後輩で、まだ19歳である。鮮やかな赤毛と派手めに整っている顔立ちのせいでチャラついてみえるが、ものすごく真面目な性格をしている。見た目で少し損をしているところと、料理好きなところに親近感をもっている。キャラウィルが入隊した当初にジョルジュが新人指導役をしていた事もあり、仲がいい後輩の1人である。短槍使いで、馬に乗っている今も、刃に鞘をつけた短槍を背負っている。普段の訓練や職務中は、短槍と同じ長さの固い木の棒を使っているが、道中に何があるか分からないからと、今回は自分の短槍を持ってきている。
ラコタも自分の弓矢を持ってきている。ラコタは一度シャークマレーに帰省した後、ずっと王都でも弓の稽古をしている。矢が放てる場所を警邏隊詰所の訓練場内に作り、時間に余裕がある時は、1人で稽古をしている。
ジョルジュ以外は、中々に戦闘力が高い面子である。大人の姿でも、ジョルジュが最弱だ。ジョルジュは弱い訳ではない。強くもないが。極めて普通と評される程度の腕っぷしである。
ラコタが2人に声をかけて、王都から出た。大きな街道を馬で移動し始める。ジョルジュの実家と警邏隊には、昨日のうちに出立の挨拶を済ませてある。
ジョルジュは馬に揺られながら、頼もしいラコタの胸に寄りかかった。
昼を少し過ぎる頃に、森の中の川辺で馬を止めた。馬に水を飲ませながら汗を拭いてやり、馬を休ませている間に昼食をとる。
料理好きのキャラウィルと一緒に、昼食を作る。火を起こすのはラコタがやってくれた。馬の世話をホセがしてくれているので、ジョルジュは持参していた小麦粉に水を加えて捏ねた。乾燥させた野菜や干し肉をキャラウィルが切ってくれたので、水を入れて沸かした鍋に野菜や干し肉、香草を入れ、捏ねた小麦粉を手で細く麺状にしたものを入れる。ラコタの故郷シャークマレーで習った料理だ。本当は、小麦粉ではなくポコという穀物を粉にしたものを使うし、シャークマレー独自の調味料を入れて味付けするが、王都でも手に入る材料だけで作れるようアレンジをした。小麦粉の麺はがっつり捏ねなくてもいい。まとまればいい程度で、シャークマレーでも小さな子供が普通に手伝いとして作っていた。ラコタが好きなので、家でよく作っている。
キャラウィルに味見をさせれば、キャラウィルがパアッと顔を輝かせた。
「美味いです」
「だろー。これ、簡単だから子供でも作れるんだわ」
「いいですね。作り方をメモしてもいいですか?」
「いいぞー」
キャラウィルがいそいそと上着の胸ポケットから手帳を取り出した。キャラウィルはとても真面目で、大事なことや覚えておきたいことは必ずメモを取る。派手な見た目からは想像もできない行動だと、結構よく言われているのを知っている。
料理が出来上がり、周囲の様子を見に行っていたラコタが戻ってきたので、昼食の時間である。
ジョルジュはラコタの隣に座り、はふはふと熱い麺入りのスープを食べた。上手く出来ている。隣のラコタも美味しそうに食べてくれている。
食べ終わったら4人で手分けして昼食の後片付けをして、再び馬に乗る。ジョルジュはラコタに抱き上げられて馬に乗るなり、うとうとし始めた。5歳児の身体になっているからか、ものすごく体力が無くなっている。今もめちゃくちゃ眠くて、ほんの少しでも油断すると、夢の国へと旅だってしまいそうだ。
馬に揺られながら手の甲で瞼を擦るジョルジュの腹を落ちないようにと支えているラコタの大きな左手が、やんわりとジョルジュの腹を優しく撫でた。
「ジョルジュ。眠いのなら寝ていろ。街に着いたら起こしてやる」
「いやっす。寝ないし」
「無理はするな。体力が落ちているんだ。無理をすると熱を出すかもしれない。眠い時は素直に寝ろ。身体がそれを求めている」
「むぅ……うぃーっす……」
「おやすみ。ジョルジュ」
「おやすみ。ラコタさん」
ジョルジュはくわぁと大きな欠伸をして、ラコタの温かくて逞しい身体に全力で寄りかかり、目を閉じて、そのまま眠りに落ちた。
ラコタはうとうとしているジョルジュを抱っこしたまま足早に下町にあるジョルジュの実家に行き、玄関の呼び鈴を鳴らした。
ジョルジュの姿を見た家族達は、ものすごく大騒ぎした。当然だろう。30を過ぎた男が5歳児の姿になってしまったのだから。キャサリン達が大慌てで物置にしている一室から取っておいた子供服を引っ張りだし、完全に寝てしまったジョルジュの身体を採寸して、子供服を仕立て直し始めた。
ラコタはその間に、義父であるジョバンニに改めて事情を詳しく話した。ジョバンニが大きな溜め息を吐いて、頭を抱えた。
「ばーかーむーすーこー」
「ジョルジュは部下を庇っただけです」
「……うん。それは立派だ。すごく立派だ。でもなぁ、心配するこっちの身にもなってほしいわ。これが死ぬような呪いだったらどうすんだよぉ」
「……はい」
「あ、すまん。ラコタ君が一番心配だよな。わりぃ」
「いえ……」
「はぁ……事情は分かった。ラコタ君。毎度毎度申し訳ないが、ジョルジュを頼む。俺達はなんもできねぇ。ラコタ君だけが頼りだ」
「はい。絶対にジョルジュの呪いをといてきます」
「頼んだ。ラコタ君も怪我なんかしないでくれよ?十分気をつけて行ってきてくれ。俺達はラコタ君のことも心配してるんだからな」
「はい」
そう言うジョバンニの真剣な顔に、ラコタは小さく笑みを浮かべた。そんな場合ではないのだが、ジョバンニ達がラコタのことを家族として大事にしてくれていることが嬉しい。
ラコタは寝息を立てているジョルジュをジョバンニ達に頼んでから、一度自宅へと戻った。明日の朝一で上役に報告する為に、報告書を作成しなければ。ジョルジュの側にいたいが、どうしても必要なことだ。口頭だけの報告では不十分で、その後、書類でも報告書を提出しなくてはならなくなる。二度手間になるくらいなら、ジョルジュの側を少し離れてでも、今ある情報をまとめて、報告書にして提出した方が話が早く済む。
ジョルジュの実家の鍵は持っているので、自宅で報告書の作成が終わったら、すぐにジョルジュの実家に戻る。幼い身体にされたジョルジュが心配だ。
ラコタは暗い自宅に1人で帰り、大急ぎで報告書を書き上げた。
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ジョルジュは真新しい子供服を着て、ラコタに抱っこされていた。貸馬屋で借りた馬に、ラコタと共に乗る。ラコタの前に座る形で馬に乗ったジョルジュの頭をやんわりと撫でて、ラコタが一緒に旅をすることになる2人に声をかけた。
1人はホセという名前の先輩だ。ジョルジュよりも5歳年上で、バーバルン族出身の穏やかな顔つきをした男である。バーバルン族特有の入れ墨を顔や身体に施してあり、割と平凡な顔立ちだが、髪型や口髭がお洒落だ。読書が好きで穏やかな性格をしているが、腕っぷしの方は隊内で上位に入る。羨ましい程筋肉ムキムキな身体つきをしている。警棒術と体術がかなり強い。
もう1人はキャラウィルだ。ジョルジュの後輩で、まだ19歳である。鮮やかな赤毛と派手めに整っている顔立ちのせいでチャラついてみえるが、ものすごく真面目な性格をしている。見た目で少し損をしているところと、料理好きなところに親近感をもっている。キャラウィルが入隊した当初にジョルジュが新人指導役をしていた事もあり、仲がいい後輩の1人である。短槍使いで、馬に乗っている今も、刃に鞘をつけた短槍を背負っている。普段の訓練や職務中は、短槍と同じ長さの固い木の棒を使っているが、道中に何があるか分からないからと、今回は自分の短槍を持ってきている。
ラコタも自分の弓矢を持ってきている。ラコタは一度シャークマレーに帰省した後、ずっと王都でも弓の稽古をしている。矢が放てる場所を警邏隊詰所の訓練場内に作り、時間に余裕がある時は、1人で稽古をしている。
ジョルジュ以外は、中々に戦闘力が高い面子である。大人の姿でも、ジョルジュが最弱だ。ジョルジュは弱い訳ではない。強くもないが。極めて普通と評される程度の腕っぷしである。
ラコタが2人に声をかけて、王都から出た。大きな街道を馬で移動し始める。ジョルジュの実家と警邏隊には、昨日のうちに出立の挨拶を済ませてある。
ジョルジュは馬に揺られながら、頼もしいラコタの胸に寄りかかった。
昼を少し過ぎる頃に、森の中の川辺で馬を止めた。馬に水を飲ませながら汗を拭いてやり、馬を休ませている間に昼食をとる。
料理好きのキャラウィルと一緒に、昼食を作る。火を起こすのはラコタがやってくれた。馬の世話をホセがしてくれているので、ジョルジュは持参していた小麦粉に水を加えて捏ねた。乾燥させた野菜や干し肉をキャラウィルが切ってくれたので、水を入れて沸かした鍋に野菜や干し肉、香草を入れ、捏ねた小麦粉を手で細く麺状にしたものを入れる。ラコタの故郷シャークマレーで習った料理だ。本当は、小麦粉ではなくポコという穀物を粉にしたものを使うし、シャークマレー独自の調味料を入れて味付けするが、王都でも手に入る材料だけで作れるようアレンジをした。小麦粉の麺はがっつり捏ねなくてもいい。まとまればいい程度で、シャークマレーでも小さな子供が普通に手伝いとして作っていた。ラコタが好きなので、家でよく作っている。
キャラウィルに味見をさせれば、キャラウィルがパアッと顔を輝かせた。
「美味いです」
「だろー。これ、簡単だから子供でも作れるんだわ」
「いいですね。作り方をメモしてもいいですか?」
「いいぞー」
キャラウィルがいそいそと上着の胸ポケットから手帳を取り出した。キャラウィルはとても真面目で、大事なことや覚えておきたいことは必ずメモを取る。派手な見た目からは想像もできない行動だと、結構よく言われているのを知っている。
料理が出来上がり、周囲の様子を見に行っていたラコタが戻ってきたので、昼食の時間である。
ジョルジュはラコタの隣に座り、はふはふと熱い麺入りのスープを食べた。上手く出来ている。隣のラコタも美味しそうに食べてくれている。
食べ終わったら4人で手分けして昼食の後片付けをして、再び馬に乗る。ジョルジュはラコタに抱き上げられて馬に乗るなり、うとうとし始めた。5歳児の身体になっているからか、ものすごく体力が無くなっている。今もめちゃくちゃ眠くて、ほんの少しでも油断すると、夢の国へと旅だってしまいそうだ。
馬に揺られながら手の甲で瞼を擦るジョルジュの腹を落ちないようにと支えているラコタの大きな左手が、やんわりとジョルジュの腹を優しく撫でた。
「ジョルジュ。眠いのなら寝ていろ。街に着いたら起こしてやる」
「いやっす。寝ないし」
「無理はするな。体力が落ちているんだ。無理をすると熱を出すかもしれない。眠い時は素直に寝ろ。身体がそれを求めている」
「むぅ……うぃーっす……」
「おやすみ。ジョルジュ」
「おやすみ。ラコタさん」
ジョルジュはくわぁと大きな欠伸をして、ラコタの温かくて逞しい身体に全力で寄りかかり、目を閉じて、そのまま眠りに落ちた。
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