俺と隊長とちびっ子の呪い

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
11 / 24

11:のんびり日向ぼっこ

しおりを挟む
宿の裏庭の隅っこにあるベンチに座り、ジョルジュとシーリーンは日向ぼっこをしていた。今日はよく晴れており、すぐ近くでキャラウィルが洗濯物を干している。昨日着ていたジョルジュの狐の着ぐるみパジャマが風で揺れている。
朝食を食べた後、シーリーンとキャラウィルと一緒に洗濯をした。キャラウィルが干してくれると言うので、今は休憩中である。ラコタとホセは朝稽古と称して、裏庭のど真ん中で組手をしている。2人とも手練だから、中々に迫力があり、実に見応えがある。シーリーンも2人の組手をじっと見ている。しっかりとジョルジュの手を握っているが、震えてはいない。
ジョルジュは、真面目な顔をして、でも楽しそうに組手をしているラコタを眺めながら、シーリーンに声をかけた。


「すげぇ格好いいだろー。2人とも強いんだぜー」

「うん。アンタもあれくらいできんの?」

「できる訳ねぇじゃん」

「できねーのかよ」

「ラコタさんは今でも隊内で一番強いし。ホセ先輩もすげぇ強いし。俺は普通だもん。普通」

「ふーん。ウィルは?」

「キャラウィルも強いよー。短槍すげぇし。それに、体術はこれからガンガン伸びるってラコタさんが言ってた」

「へぇー」


シーリーンはキャラウィルのことを『ウィル』と呼んでいる。キャラウィルが『ウィル』でいいとシーリーンに言ったからだ。家族からは『ウィル』と呼ばれているらしい。キャラウィルは三人兄弟の真ん中だと聞いたことがある。確か、下の妹とは5、6歳離れていた筈だ。キャラウィルも下の妹とシーリーンの歳が近いからか、シーリーンのことをかなり気にかけている

洗濯物を干し終えたキャラウィルが、シーリーンとは反対側のジョルジュの隣に座った。ズボンのポケットから包み紙に包まれた飴を取り出し、ジョルジュとシーリーンに差し出した。


「どうぞ。ナナトル味です」

「あざーっす!」

「……ありがと」


シーリーンがおずおずと手を伸ばして、キャラウィルの掌から飴を1つ取った。初対面の時に比べたら、格段に進歩している。キャラウィルが小さく笑った。ジョルジュも飴を貰い、包み紙を開いて飴を口に放り込んだ。ナナトルの実の甘い香りがして美味しい。飴を口に入れたシーリーンが目を輝かせた。


「んまい」

「んまいなー。これ」

「ホセ班長が買ってきてくれたんです。分けっこして食べなさいと。まだいっぱいあるので、少しずつ食べましょう」

「うぃーっす」

「うん」


キャラウィルも飴を口に放り込み、美味しそうに顔をゆるめた。キャラウィルは本当に美味しそうに食べる。ジョルジュは手を伸ばして、キャラウィルの短く整えてある髪をわしゃわしゃと撫でながら、ラコタ達の方へと目を向けた。
ラコタがホセの身体を担ぎ上げ、思いっきりぶん投げた。投げられたホセが猫のように空中でくるりと回り、すたっと危なげなく着地して、すぐにラコタへ向かっていった。思わず3人で拍手をしていると、若い女の声が聞こえてきた。
声がした方を見れば、10代後半から20代前半くらいの女が数人、裏庭の入り口辺りでラコタ達を見ながら、小声できゃーきゃー騒いでいた。『あのおじさん達かっこいー!』『ねー!あたし黒髪のおじさんがいいわ。すっごい素敵ー!』『あたしは金髪のおじさんがいいわ!』というような話し声が聞こえてくる。問答無用で美形な渋くて格好いいラコタもだが、ホセも人気のようである。ホセは顔立ちそのものは普通だが、お洒落さんで、蜂蜜色の髪をお洒落な感じに整えており、口髭もいつも丁寧に手入れをしている。理知的な深い青い瞳は、今は闘志に溢れて鋭く輝いている。確かに、ホセはホセで格好いい。

組手を中断したラコタとホセが、こちらに近づいてきた。2人とも汗びっしょりである。ジョルジュはポケットからハンカチを取り出し、側に来たラコタに差し出した。ラコタが小さく笑って、ハンカチを受け取った。
自分のズボンのポケットに入れていたハンカチで顔の汗を拭きながら、ホセがキャラウィルに話しかけた。


「キャラウィル。お前も少しやるか?」

「いいんですか!?あ、でも……」

「ジョルジュ達の側には俺がいる。シーリーン。ジョルジュの隣に座ってもいいか?」

「…………どーぞ」

「ありがとう」

「……じゃあ、お願いします!」

「あぁ」


ホセが穏やかに笑って頷いた。嬉しそうにキャラウィルが椅子から立ち上がり、ホセと一緒に裏庭の中央に移動した。キャラウィルが座っていた所にラコタが腰掛ける。ジョルジュの手を握っているシーリーンの手に少し力が入るが、ジョルジュが繋いだ手をにぎにぎすれば、シーリーンの手から少しだけ力が抜けた。
早速組手を始めた2人を眺める。警邏隊に入るまでは短槍ばかりで体術とは縁がなかったキャラウィルだが、真面目に訓練に参加し、自主的に鍛錬もしており、特にここ半年程でメキメキと伸びてきている。元々、身体がそれなりに出来上がっており、運動神経と動体視力が優れているから、そう遠くないうちに体術も隊内で上位の腕になるだろう。馬術は入隊した頃から優れていたし、警棒術も中々のものだ。一番好きで使い慣れているのは短槍なので、いつも短槍と同じ長さの棒を使っているが、ちゃんと警棒も使いこなせる。
シーリーンがジョルジュの手をにぎにぎしながら、話しかけてきた。目は組手をする2人に向けたままである。


「ウィルってマジで強い?オッサンに負けてねぇじゃん」

「強いぞー」

「キャラウィルは既に強いし、特に体術に関しては、まだまだ伸びる」

「もっと強くなんの?」

「あぁ。キャラウィルは努力家だし、身体能力もいい。何より勘がいい。相手の動きをよく見た上で、相手の動きを予測し、動くことができている。速さがあるから先の先をとれるし、相手の動きをよく見ているから後の先をとるのも上手い。これから場数を踏んでいき、経験を積めば、もっともっと強くなるだろう」

「へぇー。すげー。ちびっ子は?」

「ん?ジョルジュは普通だ。真面目に訓練に取り組んでいるし、家で俺と組手をしたりしているが、すごく普通だ。弱くも強くもない。頑張っているが普通だ」

「へぇー」

「世の中には、頑張って伸びる奴と伸びない奴がいるのよ……」

「腕っぷしは普通だが、ジョルジュは現場での勘と判断力が優れているから、仕事はものすごく出来るぞ。検挙率は隊内で常に上位だ」

「そうなの?」

「あぁ。こちらの指示の意図を正確に把握して動いてくれるから、非常に使える部下だな」

「えへっ。やだぁ!ラコタさーん!てーれーるー!」

「ふーん。ちびっ子もすげぇんだな」


話していると、ホセがキャラウィルの身体をぶん投げた。キャラウィルが華麗に着地して、再びホセに向かっていく。『きゃーー!』と黄色い声が聞こえてきた。若いイケメンにテンションが上がった女達が、実に楽しそうに声援を送っている。
ジョルジュも女の子にきゃーきゃー言われてみたい。ちょっと羨ましい。髭が似合わないのは既に実証済みなので、髪型を今度変えてみようか。ホセみたいな髪型はどうだろう。ホセは前髪と頭頂部の毛が長めで、側頭部と後頭部は短く刈り上げている。長めの前髪は整髪剤を使って、ぬるく自然な感じに上げており、お洒落感がすごい。
ジョルジュはラコタの大きな手を握って、ラコタを見上げた。


「ラコタさーん」

「ん?」

「ホセ先輩みたいな髪型って、俺に似合うと思う?」

「……悪くはないんじゃないか?多分」

「よし。王都に戻ったら床屋に行ってくるっす」

「ホセの真似っこか?」

「俺も女の子にきゃーきゃー言われたいんすもん」

「浮気か」

「ちげぇっす。『きゃー!ジョルジュさん格好いいーー!』とか、黄色い声援を浴びたいだけっす」

「……声援を送ってくれる女がいるといいな……」

「え、ちょ、その生温い目はやめて?いるからね?絶対きゃーきゃー言ってくれる女の子いるからね?」

「うんうん。そうだな。……髪型を変えたいのなら、伸ばしたらどうだ。昔みたいに」

「うちの家族にはクッソ不評だったんすけど」

「俺は似合うと思うんだが」

「髪長い方がいいっすか?」

「短くてもいいが、長いとお揃いっぽくて少し嬉しい」

「俺、髪伸ばすわ」

「ん」


ジョルジュは髪を伸ばすと決意した。ラコタが嬉しそうに、はにかんで笑った。
ラコタとお揃いとか最高ではないか。髪の結い合いっことかしたら楽しそうだ。ラコタはすごく手先が不器用だけど、髪を結うことはできる。
ジョルジュはラコタと髪を弄り合うことを妄想して、だらしなく笑った。絶対楽しい。
ニマニマするジョルジュを見下ろして、シーリーンが呆れた顔をした。


「イチャイチャすんな。オッサン達」

「微笑ましいだろー」

「全然」


ジョルジュはシーリーンとラコタとポツポツ話しながら、上機嫌にぷらぷらと足を揺らした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...