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1:婚活パーティーでの遭遇

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春の陽気が気持ちいい朝。
カールは気合を入れて髭を丁寧に剃り、ビシッとした一張羅に着替えた。
今日は婚活パーティーだ。なんとしてでも結婚相手を見つけたい。
カールは丁寧に長めの前髪を後ろに撫でつけ、何度も鏡でチェックしてから家を出た。

カールが暮らしているダリダナ国では、男はだいたい25歳までに結婚するのが普通だ。カールは今年で26歳になる。結婚適齢期を微妙に過ぎてしまったので、正直焦っている。友達は皆結婚しており、子供までいる。独身なのはカールだけだ。
カールは見た目は悪くないと自負している。黒髪はいつもきっちりオールバックに整えているし、深い青の瞳は理知的だと言われたことがある。顔立ちもそれなりに整っている方だと思う。が、今まで恋人と長続きしたことがない。
原因はカールの仕事である。カールは海軍に属している。長い航海の時には、数カ月から下手したら1年位国に帰らない。帰らないカールを待ちきれず、自然解消ということで見切りをつけ、歴代の彼女達は結婚していった。
カールは海軍を辞めるつもりはないので、ちゃんとカールの帰りを待ってくれる相手がいい。

今日は8回目の婚活パーティーだ。今日こそ理想の相手を見つけたい。浮気をせずにカールの帰りを待ってくれて、美人じゃなくていいから、笑うと愛嬌があるような女がいい。できたら若い女がいいが、子供が産める年齢なら、多少年増でも構わない。
カールは気合を入れて、婚活パーティー会場へと向かった。





-------
婚活パーティー会場の隅っこで、カールはジュースを片手に溜め息を吐いた。
いいな、と思った女性全員に声をかけてみたのだが、カールが海軍で船乗りをしていると言うと、皆、控えめに断って去っていった。婚活パーティー会場を見回せば、カップルが既に成立していたりもしている。心底羨ましい。
カールが溜め息を吐きながら、チビチビジュースを飲んでいると、見知った顔が近づいてきた。

カールは情けなく丸めていた背筋をピシッと伸ばし、パッと敬礼をした。
やって来たのは、昔の上官である。嘗て隊長だった元上官は、海賊との戦闘の時に右足を酷く負傷し、切断せざるを得なくなった。元上官は船を降り、今は内勤をしていると聞いている。
元上官・セガール・パートルが、ゆるく笑って敬礼を返してくれた。


「よぉ。カール。久しぶりだな」

「はっ。隊長もお元気そうで何よりです」

「今の隊長はお前だろう?」

「あ、あー……そうですね。新人の頃からセガール隊長が俺の隊長だったので、つい……」

「ははっ。船に乗る度にゲロ吐きまくってたお前が今じゃ隊長だもんな。立派になったもんだ」

「えーと、ありがとうございます?」

「相手は見つかったか?」

「はっはっは。全滅です」

「まぁ、海軍の船乗りは人気がないからな。長期で帰らず、そもそも帰ってこない場合も割とある。旦那に先立たれたい女も早々いないだろうよ」

「そうなんですよねぇ……でも、俺、船に乗るの大好きだから、船から降りる気はないですし。セガール隊長はどうして此方に?風の噂で結婚したって聞いてましたけど」

「ん?あぁ。嫁が男をつくって娘を置いて出ていったんだよ」

「おおぅ……マジですか」

「あぁ。娘はまだ10歳だ。母親がいた方がいいかと思って来てみたんだが、駄目だな。バツイチ子持ちって段階で断られる」

「あー……確かに厳しいかもですね」

「俺がもうちょい若かったら違ったかもしれんのだがなぁ」

「隊長、いくつでしたっけ?」

「今年で40。船を降りた時には30手前だったからな」


セガールが小さく溜め息を吐いて、ガシガシと自分の後頭部を掻いた。セガールは割と歳をくっているが、十分男前である。黒髪に白いものが混ざっているが、それが逆にダンディーさを醸し出している。丁寧に整えられている口髭も素直に格好いい。昔は問答無用で精悍な男前だったが、今は落ち着いたナイス髭ダンディーな男前になっている。
セガールが義足とは思えない軽やかな足取りでカールの隣に立ち、少し小さめの声で話し始めた。


「まだ内々の話だが、お前が住んでるボロ官舎、取り壊しが決まったぞ」

「はぁ!?マジですか!?」

「あぁ。一番古い官舎だからな。しかも木造。壊して新たに鉄筋のしっかりしたものを造るらしい」

「え?マジのマジですか?」

「マジだ。多分来月辺りに公表される。早めに引越し先を見つけておいた方がいいぞ」

「えぇー。来週から俺、ざっくり半年くらいの航海に出るんですけどー」

「なら、尚更急いだ方がいいな」

「おぉぅ……どうしよう……」

「一時的に実家に引っ越せばいいんじゃないか?」

「……俺、親父と喧嘩別れして早10年です。どの面下げて実家に帰れと……」

「とりあえず土下座しとけよ」

「嫌です」

「……なら、うちに来るか?」

「え?いいんですか?」

「あぁ。官舎を壊して建て直すのに1年はかかるだろ。嫁が出ていったから部屋はあるしな」

「でも再婚されるんでしょ?」

「相手が見つからねぇのよ。これで婚活パーティーに参加するのは12回目だ」

「わぉ。上には上がいた」

「いい加減諦めてるし、官舎ができるまで俺の家に住むといい。もっとも、お前は殆ど海の上だろうがな」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?私物は少ないんで。あ、家賃とかは払います」

「いらんいらん。殆ど荷物置き場になるだけだろ。家にいる時は娘の相手をしてやってくれ。それで十分だ」

「はい。じゃあ、明日も休みなんで、早速明日からお邪魔してもいいですか?」

「いいぞ」

「では、よろしくお願いいたします!」

「あぁ」


カールはピシッとセガールに敬礼をした。
今日、セガールに会えて幸運だった。知らなかったら、どうなっていたことか。
婚活パーティー会場にこれ以上いても無駄だし、カールは早速引っ越しの準備をする為に家に帰ることにした。




------
翌朝。カールは大きな鞄二つを持って、昨日のうちに聞いておいた住所の家の前に立っていた。
呼び鈴を押すと、ラフな格好をしたセガールがすぐに出てきた。


「おはようございます!本日からよろしくお願いいたします!!」

「おー。今、うちのお姫様がちょっと荒れてるが、まぁ気にするな。部屋に案内する」

「は、はぁ……お嬢さん、大丈夫なんですか?」

「お年頃なんだよなぁ」


セガールが疲れた顔で小さく溜め息を吐いた。
セガールの家は街外れの丘の上にあり、大きな2階建てで、庭も広かった。家の中は、一言でいうと汚かった。散らかり放題で、甲高い女の子の声が玄関の辺りにまで聞こえてくる。


「ママじゃなきゃヤダ!!ママ以外を家に入れないで!!」


ガシャーンっと何かが割れる音がした。大変荒れてらっしゃるようだ。
セガールが疲れた顔で、家の奥へ進んで行った。


「シェリー!物に当たるんじゃない」

「パパなんか嫌いよ!!ママがいい!!」

「そのママが出ていったんだから仕方がないだろう」

「パパのせいよ!!ママに何か意地悪したんでしょ!!」

「俺は何もしていない。ほら。同居人を連れてきたから挨拶するんだ」

「同居人?」


荒れまくった居間にいた女の子は、キレイな黒髪で、セガールに目元がよく似ていた。可愛らしいパジャマを着たままの女の子が、カールを見て、キョトンとした顔をした。


「なに。このおじさん」

「……ギリギリお兄さんです」

「事情があって、今日から、うちに住むことになった」

「えぇー!!やだ!!ママが帰ってこれないじゃない!!」

「カールが住んでも、住まなくても、もうママは帰ってこない」

「いやよ!いやよ!ママじゃなきゃいや!!」

「ははは……これが毎日だ……家政婦が来るのも嫌がってな。この有様なんだよ」

「……お疲れ様です」


セガールが乾いた笑みを浮かべた。カールは先行きに若干の不安を感じた。

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