応募してない抽選に当たったら勇者が嫁に来たんだけどぉぉ!!

丸井まー(旧:まー)

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9:夏だ! 川だ! 水遊び!

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 本格的な夏になった。連日、茹だるような暑さが続いている。数日おきに雨が降ってくれるので、作物は元気いっぱいだが、ガルバーンは、キリリク村の蒸し暑さに、げんなりしていた。
 ガルバーンの故郷は、こんなに蒸し暑くなかった。去年の今頃は、結婚前で、ロルフの家で暮らし始めたばかりだった。去年も、あまりの蒸し暑さに辟易したものだ。
 暑さにバテて、食欲が少し落ちている。ガルバーンが食事をお代わりしないと、ロルフがとても心配して、医者を呼ぼうとした。単なる夏バテだから、医者を呼ぶのはやめさせた。

 どれだけ蒸し暑くても、農作業や家畜の世話に休みは無い。ロルフは、キツかったら休んでいいと言ってくれたが、家にいたところで、蒸し暑いのに変わりはない。むしろ、外で身体を動かしていた方がマシな気がする。

 朝から一際暑い日の朝。
 ロルフが、朝食を食べながら、ガルバーンに話しかけてきた。


「ガル。今日は家畜の世話が終わったら、森に涼みに行きましょうよ。毎日、こうも暑いと、慣れてる僕でもバテます。川遊びしましょう。川遊び」

「行く」

「お昼ご飯にパンを持っていきましょうね。あ、釣りもします?」

「する」

「じゃあ、後片付けが終わったら、釣り竿を出しますね。また、魚をいっぱい釣りましょう。……あ、そうだ。この間、行った所じゃなくて、今日は水遊び専用の場所にも行きましょうか。子供達の遊び場なんですけど、大人が遊んだっていいですよね」

「あぁ」


 この蒸し暑さから、一時的にでも開放されるのなら、なんだっていい。ガルバーンは、朝食をなんとか食べきると、いそいそとロルフと一緒に後片付けと家畜の世話をして、森の中の川に行く準備をした。

 森の中は、外よりもだいぶ涼しかった。木々の間を通り抜ける風が心地いい。それでも、汗がだらだらと流れているが。今日はワインではなく、空のワイン瓶に、水を入れて持ってきている。釣りよりも先に、まずは思いっきり涼みたい。ガルバーンは、ロルフの案内で、子供達の遊び場だという場所に向かった。

 そこは、川底が浅く、川の流れが穏やかな場所だった。今は子供達の姿は無い。『今日は暑いから、そのうち来ますよー』と、ロルフがのほほんと笑っていた。
 ロルフが服を脱ぎ始めたので、ガルバーンも汗で濡れた服を脱ぎ始めた。下着一枚の姿になって、川に入る。川の水はひんやりとしていて、暑さで火照った身体に気持ちがいい。ガルバーンは、少し深くなっている所を見つけると、風呂に入る時のように、肩まで川の水に浸かった。全身が心地よく冷やされて、大変良い。あー、と意味のない声を上げるガルバーンを見て、近くの川底に座っているロルフが可笑しそうに笑った。


「もう少し、早く此処に連れてくればよかったですね」

「仕事はいつだって山積みだろう」

「まぁ、そうなんですけど。暑さが和らぐまで、3日に一回くらいの頻度で、午後から此処に来ましょうか。一番暑い時間帯に作業するのも大変ですし。日が落ちるのが遅いから、夕方の少し涼しくなった時間に残りの仕事をしたらいいですよ」

「ん」


 ロルフが、ガルバーンを気遣ってくれているのが分かって、ガルバーンは嬉しくて、なんだか、胸の奥が擽ったい感じがした。
 子供なら泳げるだろう深さだが、ガルバーンが普通に川底に座って、肩までの深さしかない。

 ガルバーンが、のんびり川の水で涼んでいると、少し遠くの方から、元気な子供達の話し声が聞こえてきた。
 ガルバーンは、ふと、思った。


「ロルフ」

「なんですー?」

「子供達が俺を見て泣かないか」

「あー……どうでしょう?」


 ロルフが眉を下げて、小首を傾げた。ガルバーンは、顔が怖いという自覚があるし、身体には、数え切れないくらい傷痕がある。ロルフの家で暮らし始めて、初めてロルフの前で半裸になった時は、ロルフでさえ、ぎょっとして萎縮していた。子供達に泣かれる予感しかない。
 ガルバーンは、小さく溜め息を吐いて、ざばぁっと立ち上がった。もう少し涼んでいたかったが、子供達に泣かれるのは少々堪えるし、折角、遊びに来た子供達が気の毒だ。
 立ち上がったガルバーンを見上げて、ロルフがきょとんとした後、へらっと笑った。


「ガル。さっきと同じ体勢でいてください」

「む」

「立ってる方が、子供達がビックリしちゃいますよ。ガルは大きいから」

「そうか」

「大丈夫ですよ。多分。子供って、順応性が高いから、すぐに慣れます」

「……そうか?」

「はい。多分」


 ガルバーンは少し迷ってから、ロルフの言うとおりに、川に浸かって、元の入浴スタイルになった。子供達の声は、どんどん近づいてくる。ガルバーンは、内心ハラハラしながら、子供達がやって来るのを待った。


「あーー! ロルフ兄ちゃんだぁ!」

「わーー!! 熊のおっさんもいるーー!!」

「ぎゃーー!! 熊のおっさんだーー!!」

「誰が熊だ」 


 子供達の叫び声に、ガルバーンは思わずボソッと呟いた。それが聞こえていたのだろう。ロルフが、堪えきれないように吹き出した。
 ロルフが笑いながら、子供達に声をかけた。


「皆、遊びに来たんでしょ。一緒に遊ぼうか」

「熊のおっさんも? 俺達、食われない?」

「食わない食わない。ガルは優しいよ」

「えぇー? ほんとにぃ?」

「ほんとに。遊んでもらいなよ。ガルは力持ちだから、きっと楽しいよ」

「むぅ。ロルフ兄ちゃんがそう言うなら、遊んでやってもいいからな! 熊のおっさん!」


 ガキ大将っぽい少年がそう言うと、子供達がわちゃわちゃ騒ぎながら、服を脱いで、下着一枚の姿になった。
 ガキ大将っぽい少年が、じりじりとガルバーンに近寄ってきて、大人しく座っているガルバーンの二の腕あたりを、つんつんと突いてきた。そのまま動かないでいると、ガキ大将っぽい少年が話しかけてきた。


「熊のおっさん。勇者だったって本当なのかよ」

「あぁ」

「なんでロルフ兄ちゃんと結婚したの? 男同士じゃん」

「ロルフが抽選で当選した」

「ふーん。熊のおっさん。そこどいて。上の石から飛び込んで遊ぶから」

「あぁ」


 ガキ大将は、どうやら肝が据わっているようである。将来、大物になりそうだ。ガルバーンは、小さく口角を上げて、ざばぁっと立ち上がった。瞬間、子供達が、わーー!! と叫んだ。


「やっぱり熊だ!!」

「誰が熊だ」

「おっさん!!」

「……む」


 ガルバーンは、ちょっとした悪戯を思いついた。ガキ大将の小さな身体を抱き上げて、高い高いしてやる。


「わー!! たっか!!」

「落とすぞ」

「へ? へぶぁっ!?」


 ガルバーンは、高い高いした状態から、ガキ大将の身体を掴んでいた手を離した。子供には少し深い所だから、川底にぶつかって怪我をしたりはしないだろう。ぶっはぁと水面から顔を出したガキ大将が、目をキラキラと輝かせて、ガルバーンの腹に抱きついてきた。


「熊のおっさん! もっかい! もっかいやって!」

「ん」


 ガルバーンは、再びガキ大将を高い高いして、今度は少しだけ宙にガキ大将の小さな身体を放った。自然と落下していくガキ大将は、満面の笑顔だった。
 ばしゃぁんと、ガキ大将が川に落下して、ぷはぁっと水面から顔を出した。


「お前ら! ちょーやべぇぞ! 石から飛び降りるより楽しい!!」

「えー! じゃあ、俺も!」

「俺も! 俺もやって!」

「おーれーもー!!」


 ガルバーンの周りに、わちゃわちゃと子供達が集まってきた。ガルバーンは、予想外の展開に困惑して、助けを求めて、ロルフを見た。ロルフが楽しそうに笑って、立ち上がった。


「はーい。皆、順番な」

「「「「はぁーい」」」」

「はい。よいお返事です。ということで、ガル」

「む」

「頑張ってください」

「お、おぅ?」


 ガルバーンは、目を白黒させながらも、子供達を代わる代わる高い高いしては、少しだけ宙に放り投げて、川の深めの位置に落とすというのを繰り返した。

 結局、1日中、子供達と川で遊んでいた。キレイな形の石を探したり、石を水面に投げて、何回、川に石を落とさずに、石を水面に飛び跳ねさせられるかを競ったりした。

 夕方が近くなると、ロルフの一声で、全員服を着て、森の中を歩いて、村へと帰った。
 子供達は、どうやら皆、孤児院の子供達だったようだ。ロルフと一緒に子供達を孤児院まで送り届けると、ガルバーンは、ロルフと一緒に、夕焼けに染まる道を歩いて家へと帰った。

 家に帰り着くと、ロルフが楽しそうに笑って、口を開いた。


「子供達に完全に懐かれましたね」

「そうか?」

「はい。もうあの子達の中では、お友達認定されてますよ」

「ふっ。そうか」

「また、遊びに行きましょうね」

「あぁ」


 ガルバーンは小さく口角を上げた。今日も、とても楽しい1日だった。ロルフが子供達との緩衝材になってくれたお陰である。
 ガルバーンは、少し遅めの夕食の支度を、ご機嫌に手伝った。

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