応募してない抽選に当たったら勇者が嫁に来たんだけどぉぉ!!

丸井まー(旧:まー)

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44:初雪

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 ダルバ村に来て、早くも半月。ダルバ村の秋はあっという間に終わり、ここ数日で、急に冷え込むようになってきた。

 朝日が昇り始める頃。ロルフが、ガルバーンと一緒に水汲みをしていると、ちらほらと白いものが空から降ってきた。掌で白いものを受け止めると、白いものはすぐに小さな水滴になった。


「ガル。これ、なんですか?」

「雪だ」

「雪。へぇー。これが雪なんですねー」

「早く終わらせる。身体が冷える」

「あ、はい」


 ロルフは、急いで、ガルバーンと一緒に水汲みを終わらせた。ガルバーンが家畜や馬達の世話をしに行っている間に、ロルフは台所の手伝いをする。既に台所にいたハルーに朝の挨拶をすると、ハルーが穏やかに笑った。


「おはよう。ロルフ。鼻が真っ赤よ。外は寒かったでしょう? 火にあたりなさいよ」

「ありがとうございます。あっ! 雪が降ってました! 初めて、雪を見ました!」

「あら。キリリク村は、雪は降らないの?」

「降らないです。話に聞いたことはあるんですけど、雪を見るのは初めてです」

「あら。そうなのね。それにしても、今年の初雪は少し早いわねぇ。もうちょっとしたら、晴れた日には雪かき祭りになるわよ」

「雪かき?」

「屋根に積もった雪を落として、家の周りや道に積もった雪を、邪魔にならない所に積むのよ。そうしないと、最悪、家が潰れたり、家から出られなくなっちゃうの」

「へぇー」

「雪が降る時に外に出る場合は、必ずガルと一緒にいるのよ。雪はとても危険なものなんだから」

「ひょえ……絶対にガルと一緒にいます!」

「えぇ。そうしてちょうだい」

「あ、お義母さん。朝ご飯に、豆のスープの作り方を教えてもらえませんか?」

「いいわよー。バルが好きでね、よく作ってるの。キリリク村では、どんなものを食べているの?」

「えーと、朝ご飯は、干し肉と野菜たっぷりのスープとパンと、肉があれば肉を焼きますね」

「まぁ。朝からガッツリね。いい事だわ。ガルはいっぱい食べるから、作るのが大変でしょう?」

「ガルと一緒に作ってるので、全然です! ガルは野菜を刻むのが速いから、すごく助かってます!」

「まぁ、そうなの。さて、豆のスープを作りましょうかね」

「よろしくお願いします!」

「はぁいな。まずは、豆以外の具を切りましょうね。干した野菜と腸詰め肉を使うの。この村では、冬は畑が雪で覆われて使えないから、秋までに採った野菜は、全部塩漬けや酢漬けにしたり、乾燥させて、保存ができるようにしてあるのよ」

「ほぁー。なるほどです」

「さっ。お腹を空かせた男達が戻ってくる前に、サクサク作っていくわよー」

「はいっ!」


 ロルフは、ハルーから色んな話を聞きながら、ハルーと一緒に、手早く朝食を作り上げた。
 居間のテーブルに朝食を並べていると、家の外から、ガルバーンとバルドールが戻ってきた。2人とも、頭や肩に雪がちらほらついている。ロルフは、パタパタとガルバーンに近寄って、背伸びをして、ガルバーンの頭についていた雪を手で払った。鼻が赤いガルバーンの頬に触れれば、とても冷たくなっている。

 ロルフは、ガルバーンから離れ、急いで台所に戻った。ハルーに一声かけてから、急いで甘いミルクを作る。砂糖も卵も山羊乳もあって助かった。甘いミルクを味見したハルーが、パァッと顔を輝かせた。


「美味しいわ! ロルフ」

「よかったです。早くガル達に飲ませないと。身体がすごく冷えてました」

「慣れてるから大丈夫よー。でも、朝ご飯が冷えるのはよくないもの。早く運びましょうね」

「はい!」


 ロルフは、お盆に人数分のカップをのせ、甘いミルクを居間に運んだ。ハルーに習いながら作った豆のスープは、ちゃんと美味しく出来ていた。甘いミルクを飲んだバルドールが、どうやら気に入ったらしく、無言でお代わりをねだってきた。ガルバーンももう一杯飲みたいとのことだったので、ロルフは上機嫌で、台所に向かった。ハルーもついてきて、一緒に甘いミルクを作る。ハルーに作り方を教えながら、手早くお代わりを作ると、ロルフは、いそいそと居間に戻った。

 朝食後は、ガルバーン達は狩りに出かけた。ロルフは、ハルーと手分けをして家の中の掃除をしてから、冬の女衆の仕事だという機織りを始めた。ロルフも一応、狩りはできるが、罠を使ったものしかできない。森と山では、勝手が違うので、キリリク村で使う罠では、あまり獲れないのが、ダルバ村に来て数日で分かった。ロルフは狩りを諦めて、女衆の仕事を手伝うことにした。

 ロルフが、ハルーと機織りを始めたタイミングで、マリーナとナタリー、それから、ナタリーの娘のアメリーが来た。ガルバーンの兄達は、其々、近所に自分の家を構えているが、機織りをする時は、いつも実家であるこの家でしているそうだ。機織り専用の部屋があるからという理由らしい。それに、大ベテランであるハルーから、技術を学ぶ為でもあるそうだ。

 ロルフは、慎重な手つきで機織りをしながら、賑やかな女性陣と一緒にお喋りをして、この村のことや雪のこと、ガルバーンが小さかった頃の話を沢山聞いた。

 ちょうど昼食が出来上がる頃に、ガルバーン達が戻ってきた。玄関に出迎えに行けば、玄関先に、角が立派な大きな鹿が横たわっていた。キリリク村の森に住んでいる鹿よりも、ダルバ村の山に住む鹿は大きくて、長い毛がわっさわさ生えている。解体は昼食後にするそうで、ロルフは、ハルーと一緒に、出来上がっている昼食を温めて、居間のテーブルに運んだ。

 美味しい昼食を食べ終わった後は、ハルーと一緒に手早く後片付けをして、ロルフは、鹿の解体を見に行った。ガルバーンも解体が上手だが、バルドールは、もっと上手だった。あっという間に、大きな鹿をキレイに捌いてしまった。ロルフは、思わず拍手をした。バルドールが、無言でロルフの頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。

 バルドールが干し肉を作る手伝いをガルバーンがするので、ロルフは午後も機織りをやった。昼食前に帰ったマリーナ達も再びやって来たので、皆でお喋りをしながら、機織りをする。ガルバーンの家族の男達は、皆、バルドールに似て体格がいいから、服を作るのが一苦労らしい。マリーナは3人子供がいて、3人とも男の子だ。ナタリーは、5人子供がいて、アメリー以外は皆男の子である。マリーナの長男は結婚していて、春先には子供が生まれる。ナタリーの長男も、春になったら結婚式をするそうだ。花婿衣装を作るのに必要な布を、ナタリーは一生懸命織っている。布を織ったら、布を淡い緑色に染めて、刺繍を施すらしい。おめでたいけど、結婚式までの準備が大変なのよー、と、ナタリーがげんなりした顔をしていた。

 夕食は、ガルバーンも一緒に作った。ロルフは、ガルバーンと一緒に、ハルーから、美味しい鹿肉料理を習った。少しでも、ガルバーンの故郷の味を覚えて帰りたい。ダルバ村まで里帰りするのは、そう頻繁にはできないから、ガルバーンが故郷の味を忘れないようにしてやりたい。それに、ハルーに料理を習っていると、母が生きていた頃を思い出す。母が生きていた頃は、ロルフは、よく母の手伝いをしながら、料理を習っていた。母は、『何かあった時の為に、男でも料理ができなくちゃ駄目よ』と、いつも言っていた。母の教えのお陰で、ガルバーンに美味しいご飯を作れるので、本当に、亡くなった母には感謝の念しか無い。

 夕食後の後片付けも、ガルバーンとハルーと一緒にやった後、ロルフはガルバーンと一緒に風呂に入った。温かい温泉に浸かりながら、風呂場の小さな戸板の窓を開ければ、外は白い雪がはらはらと降っている。なんだか、とても幻想的でキレイな光景だ。

 ロルフは、少しの間、初雪を眺めて、静かに窓を閉めた。


「ガル」

「なんだ」

「なんだか、毎日が新鮮で、すごくワクワクします」

「そうか。この程度の雪なら積もらないが、雪が積り始めたら忙しくなるぞ」

「はいっ! 頑張ります!」

「皆で頑張る」

「はい。家族皆で頑張りましょうね」


 ロルフは、広めの浴槽の中を、ガルバーンのすぐ隣に移動して、ガルバーンの太くて逞しい腕に自分の腕を絡めた。
 バルドールやハルーからすると、家族が増えたのだろうが、ロルフからしても、家族が一気にいっぱい増えた。ありがたいことに、皆、ロルフの存在をすんなり受け入れてくれた。
 ロルフは、なんだか胸の奥が熱くなって、ちょっとだけ、泣きたいような気分になった。それを誤魔化すように、ロルフは、ガルバーンの逞しい肩に、ぐりぐりと頬擦りをした。ガルバーンが、優しくロルフの頭を撫でてくれた。

 ダルバ村の本格的な冬が始まった。

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