神様からの贈り物~幸福の卵~

丸井まー(旧:まー)

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神官長がやって来た数日後。
バルトロは再び臙脂色の堅苦しい服を着て、玄関先で人を待っていた。神官長の許可が下りたので、今日はシュタインの両親がやって来る。慣れない華美なクラバットをシュタインに整えてもらっていると、馬車が走ってくる音がした。バルトロはすっと背筋を伸ばした。何故だか妙に緊張する。

馬車が玄関先に到着し、壮年の品のある男女が馬車から降りてきた。どうやらシュタインは母親似らしい。特に上品な笑みを浮かべている口元が、笑った時のシュタインとそっくりだ。
白いものが混ざった金髪をキレイに整えているシュタインの父親が、真っ直ぐにバルトロを見た。瞳は父親に似たらしい。母親はシュタインのものよりも深い色合いの青だ。
シュタインの両親がバルトロ達の前に立ち並んだ。


「お初にお目にかかります。シュタインの父親、ダーナクル・ドォルーガでございます。こちらは妻のミモザです」

「……バルトロ・ベネデットであります」

「お久しぶりです。父上。母上」

「久しいな。シュタイン。元気そうだ」

「はい。お入りください。母上がお好きな栗のケーキを用意しております」

「まぁ、ありがとうございます。シュタイン。ベネデット様。シュタインの母、ミモザでございます。どうぞ、よしなに」

「はっ。バルトロ・ベネデットであります。自分のことはどうぞ名前でお呼びください。様も不要であります」

「シュタインから手紙で聞いておりましたが、軍に勤められていたとか。確かに、雰囲気が軍人のそれですな」

「……はい」


静かにこちらを見つめる視線に、どうしても落ち着かない。シュタインが2人に声をかけ、居間へと移動した。
バルトロはシュタインと並んでソファーに座った。すぐに執事や使用人達が紅茶を運んでくる。今はバルトロも紅茶だ。ミモザが好きだという栗のケーキも運ばれてきた。
ダーナクルがじっとバルトロを見ながら口を開いた。


「まずは、遅くなりましたが寿ぎを。『神様からの贈り物』を授かり、おめでとうございます」

「……ありがとうございます」

「シュタインはきちんと伴侶の勤めを果たしておりますか」

「はい。十分過ぎる程に」

「それは何より。シュタインは年をとってから授かった子でしてな。ついつい甘やかしてしまった故、此度の大役、無事に果たせるか不安がございました」

「……とてもよくしていただいてます」

「左様ですか。基本的に魔術にしか興味がないものですから、どうなることやらと案じておりました。……仲良くされてらっしゃるのでしたら、一安心です」

「……どうも」


なんとも居心地が悪い。目が泳がないようにするので精一杯だ。隣に座るシュタインが口を開いた。


「父上も母上もお元気そうでよかったです。兄上達はお元気ですか?」

「あぁ。皆元気でやっている。バーターの末娘は最近歩くようになった」

「ほほほ。とても活発な子なのですよ。愛嬌があって、とても可愛らしいのです」

「もう少し大人しくてもいい気がするがな」

「まぁ。旦那様。ほんの小さいうちは、元気過ぎるくらいがちょうどいいでしょう」

「それもそうか」

「アンデリールにも会いたいですね。会ったのはもう半年以上前です。バルトロ。アンデリールは1番上の兄上の二女なんだ。産まれたばかりの頃は、義姉上にそっくりだった。明るい赤毛で、すごく可愛いんだ」

「そうか」

「バルトロ殿はご兄弟は?」

「上に2人、兄がおります。軍に入ってから故郷には帰っていないので、手紙でしか様子を知りませんが、甥や姪が合わせて5人います」

「ほう。仕事熱心でいらっしゃったのですな」

「……は、はぁ……」


居心地が悪すぎて、背中にじんわり汗をかいてきた。何故、こんなに緊張して、居たたまれないような気分になるのか。相手が上位の貴族だからかもしれない。所作の一つ一つに品がある。貴族の人間にはシュタインで少し慣れたと思っていたが、全然だ。住む世界が違う人間と接するのは、どうしても気を使う。シュタインの両親ということも、それに拍車をかけている。

シュタインの両親は、半刻程で帰っていった。別れ際に、バルトロはミモザから手製だという産着を渡された。ミモザが刺繍を施したらしい産着は、上等な布地でできていて、白い糸で繊細な刺繍がされていた。2人から、要約すると『シュタインをよろしく頼む』と言われた。末っ子のシュタインを、2人はとても可愛がり、案じているみたいだ。バルトロはそんな2人が気の毒になった。本来なら、家柄も人柄もよく、美しい娘がシュタインの伴侶になる筈だっただろう。それが、こんな若くも美しくもない、むさ苦しいオッサンが伴侶となってしまった。
バルトロは自分の下腹部を撫でた。ここに『神様からの贈り物』がいる。そのせいで、シュタインが歩む人生が狂った。バルトロ自身にはどうしようもないことだが、なんとも言えない苦味を感じる。シュタインの両親は、間違いなくシュタインの幸福を願っている。シュタインはバルトロの伴侶で、幸福になれるのだろうか。






ーーーーーー
バルトロは汗だくの身体でごろんと仰向けに寝転がった。汗以外にも色んな液体で身体が汚れている。すぐ隣で寝転がっているシュタインが、荒い息を吐きながら、バルトロの胸に覆い被さるようにして身体を預けてきた。


「バルトロ」

「なんだ」

「考え事でもしてたのか?」

「……別に」

「いつもより集中していなかっただろう」

「大したことじゃねぇよ」

「私の両親に会ったからか?」

「……いや。人が良さそうなご夫婦だったな」

「父上と母上は昔から仲良しだ。父上は結構切れ者らしいぞ。私にはよく分からないが」

「ふーん」

「お前の母上は健在なのだろう。『神様からの贈り物』が無事に産まれたら会いに行きたいな」

「お袋にか?」

「あぁ。どんな人だ?」

「死んだ親父より肝っ玉が太いな。ちょっとやそっとじゃ動じねぇ感じだ」

「お前は母上に似たのか」

「さぁな」

「母上は何が好きなんだ?」

「……肉?」

「お前と一緒だ」

「滅多に食えねぇご馳走だからな」

「流石にフーデリア領まで生肉は運べないな。干し肉なら大丈夫だが」

「干し肉でもお祭り騒ぎになるな」

「そうか。なら沢山用意させよう」

「何で俺のお袋に会いたいんだよ」

「私の義理の母上じゃないか」

「……そうなるか」

「そうだぞ。私の家族にもなるんだ。会ってみたいのは普通だろう」

「そういうもんか」

「そういうものだ」


バルトロの胸に頬をつけているシュタインが、バルトロの分厚い胸板に掌をつけ、円を描くようにぐりぐりと撫で始めた。


「やめろ。毛玉を作ろうとするな」

「毛玉ができたらむしり取る」

「何が楽しくて、隙さえありゃ毛玉を作ろうとしやがんだよ」

「お前の身体は毛がもさもさじゃないか」

「悪かったな。理由になってねぇよ」

「地味に楽しい」

「マジかよ」


クスクスと小さくシュタインが笑った。シュタインが眠そうな欠伸をして、寝心地がいい所を探すかのようにもぞもぞ動き、バルトロの胸に頬をつけたまま、すぐに寝息を立て始めた。地味に重い。
バルトロは溜め息を吐いて、胸の上のシュタインの頭をやんわり撫でた。指通りがいいシュタインの金髪は汗でしっとりしている。シュタインの頭が胸の上に乗っているので、動けない。掛け布団は足元に丸まっている。秋になったとはいえ、まだそんなに冷えることもない。全裸でそのまま寝ても風邪なんか引かないだろう。ぴったりくっついているシュタインの体温が温い。
バルトロは目を閉じて、シュタインの穏やかな寝息に誘われるようにして眠りに落ちた。

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