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4:デイビッドにとってのいい日
デイビッドは窓の外の空が完全に明るくなると、椅子に座ったまま、んーっと伸びをした。
研究中の新たな障壁魔術の魔術陣の完成まであと少しだ。この二日研究室に泊まっていたので、今日は祖母が待つ家に帰る予定である。
できるだけ祖母を一人にさせたくないので研究に熱中していても家に帰るように心がけているが、昨日一昨日はついつい熱中しすぎた。
朝食を買いに行こうと魔術協会の建物から出ると、どことなく疲れた顔をしたリードを見かけた。
デイビッドはリードに片想いをして早十年である。つい最近まで男に惚れるなんて自分はおかしいとずっと思っていたが、リードが色んな男から告白されていることを知り、漸く開き直ることができた。
デイビッドは朝からリードに会えたことが嬉しくて、うきうきとリードに声をかけた。
「おはよう! 好敵手よ! 朝日が眩しすぎるな!」
「あ、おはよう。デイビッド。もしかして、研究室に泊まってたの?」
「あぁ。徹夜で魔術陣を弄ってた」
「お疲れ。今から帰るの?」
「いや、朝飯を調達しに行くだけだ。今日は定時で帰る予定だがな。昼飯も買ってくるから、今日も一緒に食べようじゃないか!」
「え、やだ」
「なんでだぁ!」
「……今日の僕は口を開いたら愚痴しかでないから絶対に嫌だ」
「愚痴でもなんでもどんどこいっ! 溜め込むとよくないぞ!」
「はいはい。お気遣いどうも。徹夜したんなら、昼休憩の時はご飯食べて仮眠すれば? 目の下に隈があるよ。お祖母さんが心配するんじゃない?」
「むっ。しまった。二徹しなきゃよかった」
「二徹かよ。尚更仮眠しなよ」
「んー。でもリードと一緒に昼飯食いたいから一緒に食う。そんでちょっと寝る。昼休憩の時間になったら迎えに行くな!」
「いや、来なくていいから」
「じゃあ! 後でなー!」
デイビッドは軽やかな足取りでお気に入りのパン屋へ向かった。
お気に入りのパン屋で朝食と昼食を買い、近くの菓子屋でジャムクッキーを買う。
リードはジャムクッキーが好きだから、きっと喜ぶ筈だ。
昼食用のパンはリードの分も買った。リードは痩せている。いつも少ないサンドイッチしか食べていないようだから、少しでも食べさせて健康的に太らせたい。
リードとの昼食を楽しみに、デイビッドは研究室へ戻った。
昼休憩の時間まで集中して魔術陣を弄り、昼休憩を知らせる鐘が鳴ると、いそいそと事務室へ向かった。
事務室のカウンターの側にいた事務員に声をかけると、露骨に顔を顰めたリードがやって来た。
「今日は一緒に食べないって」
「オススメのパンとジャムクッキーを買ってきたんだ。特にパンはお前が食べないと誰も食べないぞ?」
「……食べ物を粗末にするのは嫌いだ。はぁ……しょうがない。弁当持ってくるから待ってて」
「あぁ!」
少しだけ待っていると、布に包まれた小さめの箱と水筒を持ったリードがやって来た。
二人で中庭に移動して、木の下に腰掛ける。
デイビッドはリードに売店で買った珈琲を手渡した。
「まだ熱々だぞ」
「あ、ありがとう」
「馴染みのパン屋のオススメパン! 黒胡椒がきいてる揚げた鶏肉と野菜と卵サラダが挟んであるんだ。俺の一番のお気に入り」
「……もらう。ありがとう。……あ、美味しい。ソースもちょっとピリッとしてていいね」
「だろ? こういう惣菜パンの種類が多い店なんだ。こっちの腸詰め肉をのせたパンもオススメ。腸詰め肉自体がめちゃくちゃ美味い上にふわふわのパンと相性抜群」
「もらう。……んっ! ほんとに美味しい」
今日はしかめっ面しか見ていなかったリードが、ふわっと笑った。
口の中のものを飲み込み、珈琲を一口飲んだリードはほぅと息を吐いた。
「珈琲も美味しい。家じゃ誰も飲まないから飲めないんだよね」
「親父さんも珈琲飲まないのか?」
「苦手らしいよ。お祖父ちゃん達も皆、紅茶派」
「へぇー。美味いのにな。ばあちゃんが淹れた珈琲は最高だぜ。飲みに来ないか?」
「魅力的だけどやめとく。そんな時間に余裕なんてないし」
「下に成人済みの弟がいただろう。休みの日に半日くらい家のことを任せてもいいんじゃないか?」
「んー。結婚が決まったからなぁ。恋人との時間も必要だろうし、中々ねー」
「その下の双子は? 来年あたり成人じゃなかったか? 確か」
「うん。今は図書館司書の資格試験と就職試験の勉強に集中させたいから無理だね」
「むぅ。お前が休める日がないじゃないか」
「まぁ、いつものことだから慣れてるし」
疲れた顔で笑うリードは、なんだか自分のために生きることを諦めているように見えた。
家族は大切だ。デイビッドだって、育ててくれた祖母のことをとても大切に思っている。
しかしである。今のリードは家族のために生きているようなものだ。少しくらい、自分のために生きてもいいんじゃないかと思う。
思ったことを言おうとしたら、ジャムクッキーを食べて珈琲を飲んだリードが嬉しそうに小さく笑った。
「なんかちょっと元気出た。ありがと。デイビッド」
「これくらいのこと別に構わんさ。さぁ! 愚痴るがいい!」
「それは嫌。食べ終わったなら寝たら? 昼休憩が終わる前に起こしてやるから」
「膝枕を所望する」
「調子に乗るな」
「木の根っこを枕にしろと?」
「……それは微妙だな。しょうがないなぁ。昼休憩が終わる前までだよ」
「言い出しておいてなんだが、そうやって人を甘やかすから相手がつけあがるのでは?」
「ははは……余計なこと言ってないでさっさと寝な」
「あぁ」
デイビッドはリードの太腿の上に頭をのせた。柔らかいが肉付きが薄い感じがするので、やはりもっと太らせたい。
デイビッドはくわぁっと欠伸をしてから、すやぁっと寝落ちた。
昼休憩が終わる少し前にリードに起こしてもらったデイビッドは、軽やかな足取りで自分の研究室に戻った。
膝枕をしてもらえたし、少し寝たら頭がスッキリした。午後から捗りそうである。
魔術陣完成を目指して、午後も集中して魔術陣を弄った。
定時に研究室を出ると、買い物をしてから家へと帰った。
家に帰り着くと、祖母のマリアンナが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり。デイビッド。今日の晩ご飯は豚肉と春キャベツの重ね蒸しよ」
「ただいま。ばあちゃん。俺それ好きー。あっ。そうそう。材料買ってきたから挽肉のパイの作り方教えてくれよ。明日の弁当にして、リードに食わせたいんだ。ばあちゃんの挽肉のパイは絶品だから!」
「あら。いいわよ。晩ご飯を食べたら一緒に作りましょう」
「うん。よろしく!」
「ふふっ。いいことを教えてあげるわ。男の心を掴むには、まずは胃袋を掴むのが一番いいのよ」
「なるほど! 明日は魚を買ってくるから、魚のパイ包み揚げも教えて欲しい!」
「ふふっ。いいわよ。リード君をうちに連れてきたらいいのに」
「んー。誘っても駄目なんだ。リードの家は大家族で、リードはいつも家事と育児に追われてるみたい」
「あら。それは大変ねぇ」
「再来月にはまた兄弟が増えるらしい。……絶対にリードが更に疲れる予感しかしない」
「おやまぁ。親御さんは?」
「父親は役所勤め。母親は専業主婦だけど、あまり家のことはしないみたいだ」
「そう……再来週はデイビッドの誕生日でしょう? その日にうちでお茶会をしない? 苺のパイとジャムクッキーを焼くわ」
「やった! 誘ってみる! そのためにもまずは明日の挽肉のパイを成功させねば!」
「ふふっ。とびきり美味しいパイを作りましょうね」
マリアンナが作る苺のパイは絶品で、デイビッドの好物の一つだ。
美味しい夕食を楽しんだ後、デイビッドはマリアンナに教えてもらいながら、一生懸命丁寧に挽肉のパイを作った。
リードが『美味しい』と笑ってくれたらすごく嬉しい。
デイビッドは後片付けまでしっかりしてから、温かいミルクを飲みつつ少しだけマリアンナとお喋りをして、自室に引き上げた。
リードのことが恋愛感情で好きだと自分の中で認められてすぐに、マリアンナにはそのことを言ってある。『男同士なんて気持ち悪い』と言われるかもしれないとドキドキしていたが、マリアンナは『人を好きになるってそれだけで素敵なことよ。あなたの気持ちを大事にしてあげなさい』と言って優しく笑ってくれた。
器が大きいマリアンナに心から感謝した。
布団の中で明日のリードの笑顔を想像して、くふっと笑い、すやぁっと寝落ちた。
研究中の新たな障壁魔術の魔術陣の完成まであと少しだ。この二日研究室に泊まっていたので、今日は祖母が待つ家に帰る予定である。
できるだけ祖母を一人にさせたくないので研究に熱中していても家に帰るように心がけているが、昨日一昨日はついつい熱中しすぎた。
朝食を買いに行こうと魔術協会の建物から出ると、どことなく疲れた顔をしたリードを見かけた。
デイビッドはリードに片想いをして早十年である。つい最近まで男に惚れるなんて自分はおかしいとずっと思っていたが、リードが色んな男から告白されていることを知り、漸く開き直ることができた。
デイビッドは朝からリードに会えたことが嬉しくて、うきうきとリードに声をかけた。
「おはよう! 好敵手よ! 朝日が眩しすぎるな!」
「あ、おはよう。デイビッド。もしかして、研究室に泊まってたの?」
「あぁ。徹夜で魔術陣を弄ってた」
「お疲れ。今から帰るの?」
「いや、朝飯を調達しに行くだけだ。今日は定時で帰る予定だがな。昼飯も買ってくるから、今日も一緒に食べようじゃないか!」
「え、やだ」
「なんでだぁ!」
「……今日の僕は口を開いたら愚痴しかでないから絶対に嫌だ」
「愚痴でもなんでもどんどこいっ! 溜め込むとよくないぞ!」
「はいはい。お気遣いどうも。徹夜したんなら、昼休憩の時はご飯食べて仮眠すれば? 目の下に隈があるよ。お祖母さんが心配するんじゃない?」
「むっ。しまった。二徹しなきゃよかった」
「二徹かよ。尚更仮眠しなよ」
「んー。でもリードと一緒に昼飯食いたいから一緒に食う。そんでちょっと寝る。昼休憩の時間になったら迎えに行くな!」
「いや、来なくていいから」
「じゃあ! 後でなー!」
デイビッドは軽やかな足取りでお気に入りのパン屋へ向かった。
お気に入りのパン屋で朝食と昼食を買い、近くの菓子屋でジャムクッキーを買う。
リードはジャムクッキーが好きだから、きっと喜ぶ筈だ。
昼食用のパンはリードの分も買った。リードは痩せている。いつも少ないサンドイッチしか食べていないようだから、少しでも食べさせて健康的に太らせたい。
リードとの昼食を楽しみに、デイビッドは研究室へ戻った。
昼休憩の時間まで集中して魔術陣を弄り、昼休憩を知らせる鐘が鳴ると、いそいそと事務室へ向かった。
事務室のカウンターの側にいた事務員に声をかけると、露骨に顔を顰めたリードがやって来た。
「今日は一緒に食べないって」
「オススメのパンとジャムクッキーを買ってきたんだ。特にパンはお前が食べないと誰も食べないぞ?」
「……食べ物を粗末にするのは嫌いだ。はぁ……しょうがない。弁当持ってくるから待ってて」
「あぁ!」
少しだけ待っていると、布に包まれた小さめの箱と水筒を持ったリードがやって来た。
二人で中庭に移動して、木の下に腰掛ける。
デイビッドはリードに売店で買った珈琲を手渡した。
「まだ熱々だぞ」
「あ、ありがとう」
「馴染みのパン屋のオススメパン! 黒胡椒がきいてる揚げた鶏肉と野菜と卵サラダが挟んであるんだ。俺の一番のお気に入り」
「……もらう。ありがとう。……あ、美味しい。ソースもちょっとピリッとしてていいね」
「だろ? こういう惣菜パンの種類が多い店なんだ。こっちの腸詰め肉をのせたパンもオススメ。腸詰め肉自体がめちゃくちゃ美味い上にふわふわのパンと相性抜群」
「もらう。……んっ! ほんとに美味しい」
今日はしかめっ面しか見ていなかったリードが、ふわっと笑った。
口の中のものを飲み込み、珈琲を一口飲んだリードはほぅと息を吐いた。
「珈琲も美味しい。家じゃ誰も飲まないから飲めないんだよね」
「親父さんも珈琲飲まないのか?」
「苦手らしいよ。お祖父ちゃん達も皆、紅茶派」
「へぇー。美味いのにな。ばあちゃんが淹れた珈琲は最高だぜ。飲みに来ないか?」
「魅力的だけどやめとく。そんな時間に余裕なんてないし」
「下に成人済みの弟がいただろう。休みの日に半日くらい家のことを任せてもいいんじゃないか?」
「んー。結婚が決まったからなぁ。恋人との時間も必要だろうし、中々ねー」
「その下の双子は? 来年あたり成人じゃなかったか? 確か」
「うん。今は図書館司書の資格試験と就職試験の勉強に集中させたいから無理だね」
「むぅ。お前が休める日がないじゃないか」
「まぁ、いつものことだから慣れてるし」
疲れた顔で笑うリードは、なんだか自分のために生きることを諦めているように見えた。
家族は大切だ。デイビッドだって、育ててくれた祖母のことをとても大切に思っている。
しかしである。今のリードは家族のために生きているようなものだ。少しくらい、自分のために生きてもいいんじゃないかと思う。
思ったことを言おうとしたら、ジャムクッキーを食べて珈琲を飲んだリードが嬉しそうに小さく笑った。
「なんかちょっと元気出た。ありがと。デイビッド」
「これくらいのこと別に構わんさ。さぁ! 愚痴るがいい!」
「それは嫌。食べ終わったなら寝たら? 昼休憩が終わる前に起こしてやるから」
「膝枕を所望する」
「調子に乗るな」
「木の根っこを枕にしろと?」
「……それは微妙だな。しょうがないなぁ。昼休憩が終わる前までだよ」
「言い出しておいてなんだが、そうやって人を甘やかすから相手がつけあがるのでは?」
「ははは……余計なこと言ってないでさっさと寝な」
「あぁ」
デイビッドはリードの太腿の上に頭をのせた。柔らかいが肉付きが薄い感じがするので、やはりもっと太らせたい。
デイビッドはくわぁっと欠伸をしてから、すやぁっと寝落ちた。
昼休憩が終わる少し前にリードに起こしてもらったデイビッドは、軽やかな足取りで自分の研究室に戻った。
膝枕をしてもらえたし、少し寝たら頭がスッキリした。午後から捗りそうである。
魔術陣完成を目指して、午後も集中して魔術陣を弄った。
定時に研究室を出ると、買い物をしてから家へと帰った。
家に帰り着くと、祖母のマリアンナが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり。デイビッド。今日の晩ご飯は豚肉と春キャベツの重ね蒸しよ」
「ただいま。ばあちゃん。俺それ好きー。あっ。そうそう。材料買ってきたから挽肉のパイの作り方教えてくれよ。明日の弁当にして、リードに食わせたいんだ。ばあちゃんの挽肉のパイは絶品だから!」
「あら。いいわよ。晩ご飯を食べたら一緒に作りましょう」
「うん。よろしく!」
「ふふっ。いいことを教えてあげるわ。男の心を掴むには、まずは胃袋を掴むのが一番いいのよ」
「なるほど! 明日は魚を買ってくるから、魚のパイ包み揚げも教えて欲しい!」
「ふふっ。いいわよ。リード君をうちに連れてきたらいいのに」
「んー。誘っても駄目なんだ。リードの家は大家族で、リードはいつも家事と育児に追われてるみたい」
「あら。それは大変ねぇ」
「再来月にはまた兄弟が増えるらしい。……絶対にリードが更に疲れる予感しかしない」
「おやまぁ。親御さんは?」
「父親は役所勤め。母親は専業主婦だけど、あまり家のことはしないみたいだ」
「そう……再来週はデイビッドの誕生日でしょう? その日にうちでお茶会をしない? 苺のパイとジャムクッキーを焼くわ」
「やった! 誘ってみる! そのためにもまずは明日の挽肉のパイを成功させねば!」
「ふふっ。とびきり美味しいパイを作りましょうね」
マリアンナが作る苺のパイは絶品で、デイビッドの好物の一つだ。
美味しい夕食を楽しんだ後、デイビッドはマリアンナに教えてもらいながら、一生懸命丁寧に挽肉のパイを作った。
リードが『美味しい』と笑ってくれたらすごく嬉しい。
デイビッドは後片付けまでしっかりしてから、温かいミルクを飲みつつ少しだけマリアンナとお喋りをして、自室に引き上げた。
リードのことが恋愛感情で好きだと自分の中で認められてすぐに、マリアンナにはそのことを言ってある。『男同士なんて気持ち悪い』と言われるかもしれないとドキドキしていたが、マリアンナは『人を好きになるってそれだけで素敵なことよ。あなたの気持ちを大事にしてあげなさい』と言って優しく笑ってくれた。
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