大家族のお兄ちゃんは恋なんかしてる暇はない!

丸井まー(旧:まー)

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5:祖父母が帰ってきた!

 リードがデイビーとミアを連れて家に帰りつくと、玄関のところまでふわふわと美味しそうな匂いが漂っていた。
 二人を連れたまま台所を覗けば、祖母のマグダラが鍋をかき混ぜていた。


「おばあちゃん、おかえり」

「あら。おかえり。リード。デイビー。ミア。ただいま」

「おばあちゃんだー!」

「おかえりー!」

「うふふ。ただいま。二人ともいい子にしてた?」

「「してた!!」」

「すぐに手を洗ってくるよ」

「えぇ。今夜は鶏肉とお野菜ごろごろのシチューよ。お昼前に帰ってきたから、デザートにジャムクッキーを焼いてあるわ」

「やった。ありがとう。おばあちゃん」

「クッキーだー!」

「クッキー! クッキー! たべるー!」

「クッキーはデザートよ」

「やぁだぁ! いま! いまたべるー!」

「ミア。おばあちゃんの美味しいご飯は食べなくていいのかな?」

「いっぱいたべるー! おにく! いっぱい!」

「じゃあ、今は我慢ね。晩ご飯ができるまで、デイビーと遊んでな」

「えーー! やだーー! ミア、おままごとしかしねぇもん!」

「付き合ってやってよ。デイビー」

「つまんねぇからやだー!」

「じゃあ、二人で積み木遊びは?」

「それならしてやってもいいよ」

「やだー! おままごとがいいー!」

「うーん。おままごとしながら積み木すればいいんじゃないかな!」

「「はぁい」」


 二人を居間に連れていき、遊ぶスペースで遊ばせ始めると、急いで鞄を部屋に置き、階下の脱衣場にある洗面台で手を洗った。
 何気なく鏡を見れば、疲れた顔をした男が映っている。リードは見なかったことにして、台所へ急いだ。
 旅行の話を聞きながら明日の弁当用のパンを仕込んでいると、マグダラが嬉しそうに笑って口を開いた。


「そうそう。ハルトが結婚するんですって? 嬉しいわぁ。早く曽孫の顔が見たいわねぇ」

「ちょっと気が早いよ。おばあちゃん」

「あなたは結婚相手はいないの?」

「そんな余裕ないよ」

「恋人くらいいたっていいじゃない」

「恋人をつくる時間もお金も心の余裕もないねー」

「あら。暫くは旅行に行く予定がないし、ご飯は私が作るから、リードは恋人をつくりなさいよ」

「えー? ご飯の支度以外でもやることは山積みだしなぁ」

「若いんだから恋もしなきゃ! 家のことはなんとかなるわよ!」

「そうかなぁ。あ、双子は今は勉強に集中させてね。今年の秋に試験があるんだから」

「分かってるわよ。私もまだまだ元気いっぱいですもの! 次の旅行のための体力作りも兼ねて、オースティンと一緒に家のことをしっかりするわよ!」

「あはは。おじいちゃんも巻き込むんだ」

「そりゃあ、勿論! 何事も一人より二人でした方が楽しいでしょう?」

「それはそうかも」

「さて! シチューができたわ! サラダもできたし、雑穀粥も完成! 今日の雑穀粥は鶏肉をたっぷり入れたから美味しいわよー」

「ありがとう。居間に運ぶよ」

「お願いね。私は紅茶を淹れるわ」


 居間に夕食を運び、家族全員がやって来たら夕食の時間の始まりである。マグダラが作ってくれたシチューは具がごろごろですごく美味しい。毎日、これだけ具沢山なシチューが食べられたら嬉しいのだが、ハルトの結婚に向けて少しでも節約しないと厳しいので、明日からはまた節約メニューになる。

 大好物のマグダラのジャムクッキーもすごく美味しかった。
 デイビーとミアが『もっと食べたい』とぐずるので、一枚だけ食べて、残りは二人に分けた。
 マグダラのジャムクッキーを満足するまで食べたのはいつが最後だろうか。多分、物心つくかつかないかくらいの頃だと思う。

 順番に風呂に入っている間に、後片付けと明日の弁当の下拵えをしていると、マグダラが楽しそうに話しかけてきた。


「旅行先でね、とっても美味しい料理があったの。レシピが載ってる本を見つけたから買ってきたわ! 必要な香草も買ってきてるし、明日早速作るわね!」

「あ、うん。ありがとう。おばあちゃん」

「ふふっ。色んな料理を作ってみなきゃ!」


 とても楽しそうにしているマグダラに、『節約したいから今はやめて』とは言えなかった。
 食費が嵩まないように祈るしかないが、多分食費が増えると思う。
 リードを育ててくれたのは祖父母だ。たくさん大変な思いをしながら歳を取ったマグダラには、少しでも好きなことをして欲しいという思いもある。
 リードは思わず出そうになった溜め息を飲み込んで、祖父オースティンに呼ばれて風呂へ向かうマグダラの背中を見送った。

 リードがいつもよりぬるく少ないお湯に浸かって風呂から出ると、居間でオースティンとドームが酒を飲んでいた。
 オースティンもドームも酒好きだ。オースティンのことは好きだが、酒好きの酒豪だからオースティンが家にいると酒代がかなりかかる。外に飲みに行かれるよりマシだが、それでもちょっと頭が痛くなるくらい家計に響く。
 今はハルトの結婚のために少しでも節約したい時だから尚更酒は控えて欲しいのだが、酒に関しては譲らない人なので、『お酒は控えてね』と言っても無駄なのは分かっている。
 リードは気づかれないように小さく溜め息を吐くと、居間の隅っこで縫い物を始めた。


「リード。お前も飲まないか?」

「僕はいいよ。ミアのスカートを仕上げちゃいたいから」

「なんだ。また女がやることばかりやっているのか。スカートなんぞ買えばいいだろう。男なら酒くらい飲め!」

「あははー。まぁ、あれだよ。趣味みたいなものだから」

「裁縫なんて女の趣味だろう」

「職人さんは男の人が多いらしいよ。おじいちゃん」

「それはそうだがな! たまには付き合え! せっかく酒が飲める歳になったのにいつも付き合わんだろう! 俺は孫と酒が飲みたい!」

「んー。新年の祝いの時に付き合うよ。それとハルトの結婚式の時」

「おぉ! ハルトが結婚なんて早いもんだなあ。いやぁ、めでたい! リード! お前は結婚する相手はいないのか!?」

「いないよ。おじいちゃん。そんな余裕ないしね」

「情けないぞ! 俺がお前の歳の頃には、もうマグダラと結婚してたぞ!」

「あははー。何十年も仲良しでいいね」

「まぁな! マグダラほどいい女はこの世に存在しないからな! 俺だけの女神様だ!」

「熱々だねぇ」

「ふふん。羨ましいだろう? お前も早く結婚しろ! 結婚はいいぞー!」

「あははー。まぁ、そのうちね」


 酔ったオースティンとドームに、如何に結婚がいいものかを力説された。
 オースティンはともかく、ドームに言われても説得力がない。自分の子どものことを親やリードにほぼ丸投げしているくせに。ドームのような種をまくだけのクソ男にはなりたくないなぁと思いながら、リードは縫い物をしつつ、適当に相槌を打ちながら二人の話を聞き流した。

 リードが住んでいる家は二階建てでそれなりに大きい方だが、家族が多いので部屋数が足りない。二人か三人で一部屋を使っている。
 酔っ払い二人の相手に疲れて二段ベッドの下に寝転がると、無意識なのか、デイビーがすぐにくっついてきた。
 上の段では、ハルトが寝ている。ハルトが家を出たら、デイビーを一人で寝かせて、リードは上の段で一人で寝るのもいいかもしれない。

 毎日デイビーと一緒に寝ているので、オナニーができない。トイレを長々と占拠するわけにもいかないし、風呂でするのも微妙だ。
 そもそも、噂に聞くエロ本なんて見たことも読んだこともない。当然溜まるのだが、オナニーをする時間も場所も余裕もないから、溜まりすぎた時に夢精する結果になっている。

 いつも一番早く起きるので証拠隠滅できるのだが、気持ちいいらしいオナニーをしてみたいし、一人でゆっくり寝てみたい。
 リードは小さく溜め息を吐いて、ふと思った。
 ここ最近、溜め息ばかり吐いている。よくないなぁと思いつつも、また溜め息が出た。

 一日でいい。ゆっくり寝て、好きなものをお腹いっぱい食べて、ゴロゴロ昼寝したりして、オナニーをしてみたい。
 そんな余裕、とてもじゃないけどないんだけど。
 リードはまた小さく溜め息を吐いて目を閉じた。

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