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22:帰宅
旅行から帰って二日目の夕方。明日から仕事に復帰する予定なので、自宅に帰る。
正直に言えば、家に帰るが怖い。ハルーアの顔を見たくない。身体を売れと、見ず知らずの男に抱かれろと平気で言うハルーアに対して、胸の奥からふつふつと怒りが込み上げてきてしまう。
リードは今すぐにまた逃げ出したい思いを誤魔化すために、ぎゅっとデイビッドの手を握った。
デイビッドは家まで送ってくれている。何かあった時にリードの自宅の場所を知っていた方が安心だからと言ってくれた。
デイビッドは本当にリードに甘い。だから、ついつい縋りついてしまう。
情けない自分が恥ずかしくて、デイビッドに甘えてしまう自分が弱くて嫌いだ。
家の玄関に立つと、家の中からシェンリーの泣き声が聞こえてきた。
震える息を吐くと、デイビッドがぎゅっとリードの手を握り、リードの額にキスをした。
「大丈夫だ。俺も一緒」
「……うん」
本当に自分は弱くなった。デイビッドがいてくれることに、すごく安心している。
リードは深呼吸をして頭を切り替えた。
これからいつもの日常に戻る。自分勝手な両親達のためではない。可愛い下の子達のためだ。
思い切って家の玄関のドアを開けると、バタバタッと足音が聞こえてきて、デイビーとミアが居間の方から走ってきた。
目が合った瞬間、二人とも泣きだして飛びついてきた。
「おにいちゃん! おにぃぃちゃぁぁぁぁん!」
「ご、ごめん。デイビー。ミア。怖い思いさせちゃったね。ごめんね、ほんと、ごめんっ!」
ギャン泣きしている二人をまとめて抱きしめていると、二人の上のアンナがぎゅっと自分の服を掴んで立っていた。
「アンナ。おいで」
「うっ……うぇっ、うぇっ、おにいちゃんっ! おにいちゃん!!」
アンナも泣きだし、リードは三人まとめて抱きしめ、何度も謝った。
家の奥からシェンリーを抱っこしたフローラと双子もやって来た。
フローラが半べそかきながら、意地を張るようにふんっと笑った。
「そのまま愛の逃避行してくればよかったのに」
「そんなことしないよ」
「……知ってる。だってお兄ちゃんだもん」
「フローラ。ごめんね。マーカーとダービーもごめん」
「兄ちゃんが謝ることじゃねぇし。……僕達も兄ちゃんに甘えすぎてたせいだし」
「アンナから全部聞いてる。母さんが兄ちゃんに言ったこと。……少しは顔色がマシになってよかった」
「ハルトは?」
「まだ仕事。父さん達が昨日から旅行に行ってて、昨日はハルト兄ちゃんが急遽仕事を休んでシェンリーの世話してたから」
「……は? 旅行? まだ産後二か月経たないのに?」
「母さんが『こんな空気の悪い所いたくないわ!』とか言い出してー」
「そんで父さんが『じゃあ、旅行に行くか!』とか言い出してー」
「ほんとに旅行に行ったのよ」
「……ガチものの馬鹿なの?」
「「馬鹿なんだよ」」
「それよりお兄ちゃん。そっちの男前は誰? 恋人?」
「あーー。デイビッド。すごく助けてもらったんだ」
「どうも。デイビッド・ヒュードラーだ。今は友達以上恋人未満? そのうち恋人になる予定」
「ふぅん。晩ご飯は? 二人とも食べたの?」
「まだだよ。フローラ。すぐに作るよ」
「うん。デイビッドさんも食べていったら? おじいちゃん達もまだ帰ってきてないし」
「えっ!? まだ帰ってきてないの!?」
「そうだよ」
「まぁ、慣れてるけどね」
「マーカーとダービーは大事な時期なのに! ……そんな時に家出みたいなことして、ほんとにごめん」
「兄ちゃんが限界なのは見てて分かってたし、謝らないでよ」
「そうそう。いつ倒れるかってハラハラしてたし。デイビッドさんが無理矢理にでも休ませてくれたっぽくて逆に安心」
「顔色がかなりマシになってるものね」
「「ねー」」
「あ、うん。……心配かけてごめん」
「ほーら。ちびっ子達ー。そろそろ泣き止めー。兄ちゃんが困るだろー」
「兄ちゃんのご飯が食べたい人は泣きやんでとりあえず居間で大人しくしてろー」
「アンナ。デイビー。ミア。ほら、行くよ」
双子とフローラに言われて、渋々感満載でしがみついていた三人が泣きながら離れていった。
後でもっとしっかり抱きしめてやらないと。怖い思いをさせてしまったから。
デイビッドを見上げて、リードは口を開いた。
「よかったら晩ご飯食べていってよ。僕の兄弟を紹介するよ」
「うん。よろしく。晩飯は一緒に作る。その方が楽しい」
「うん。ありがとう」
とりあえず急いで荷物を自室に置きに行き、手を洗ってデイビッドと一緒に台所へ向かった。
魔導冷蔵庫の中身を見てメニューを決めると、早速作り始める。
双子がやって来て、手伝いをし始めた。二人とも疲れた顔をしている。この一週間、とても大変だったのだろう。申し訳なくて、胸の奥がじくじくと痛む。
「二人ともちゃんと寝れてた?」
「んー。ハルト兄ちゃんと三人交代でシェンリーの世話してた。母さんは家にいてもなんもしねぇし」
「昨日はハルト兄ちゃんが休んだから、今日は僕が学校休んだ」
「……大事な受験前の学生に学校休ませるとかっ……ほんっと!! あり得ない!! あんの無責任ババア!!」
「いつものことじゃん。期待するだけ無駄無駄。あ、僕は三男のマーカー」
「僕は四男のダービー。マーカーとは双子」
「よろしく。二人とも疲れた顔してる。晩飯は俺達が作るから、温かいミルクでも飲んで一息ついとけよ。さっきの女の子にもミルクを渡してきてくれ」
「赤ちゃん抱っこしてたのは長女のフローラだよ」
「赤ちゃんは末っ子のシェンリー」
「あーと、うちの兄弟は、上から僕を除いて、ハルト、マーカー、ダービー、フローラ、アンナ、デイビー、ミア、シェンリーの合計八人。あ、僕を入れたら合計九人」
「よし。名前は覚えた」
「へぇ。すげぇ」
「一発で覚えられんの?」
「こう見えて、中等学校の時はリードといつも首位争いしてたんだよ」
「ん? 兄ちゃん、そんなに勉強できてたの?」
「あーー。中等学校の頃の話だから」
「ほら。温かいミルク。……シェンリーちゃんの泣き声がやんだな。寝たかな? 今のうちに休んでおけよ。皆」
「ありがと。デイビッドさん」
「フローラ達に渡してくる」
「ご飯できたら声かけるから」
「うん。兄ちゃん」
「ん?」
「「おかえり」」
「……ただいま」
双子が泣きそうな顔で笑った。リードも多分不細工な笑い顔だったと思う。
デイビッドと一緒にシチューを作りながら、なんだか本当に泣きそうになった。
察したのか、デイビッドがまた額にキスをした。
不思議と安心して、涙は出てこなかった。
夕食が出来上がったタイミングでハルトが帰ってきた。
疲れた顔をしているハルトがリードを見るなり、ほっとしたような表情を浮かべた。
「よかった。ちゃんと休めたんだ。顔色がかなりマシになってる」
「うん。ごめんな。一週間も」
「いいよ。兄ちゃんが倒れる方が大変だし。デイビッドさん。ありがとうございました」
「いや。疲れてるだろ? 晩飯を食おうぜ」
「兄ちゃん。帰ってきて早々晩ご飯作ったのかよ」
「あ、うん。まぁ。……父さん達がいないから堂々とお土産渡せるな。晩ご飯のデザートにしよう。美味しい木苺のジャムクッキーを買ってきてあるんだ。本当は一人一人にこっそり渡そうかと思ってた」
「ははっ。お土産なんて生まれて初めてかも」
ハルトが嬉しそうに笑った。
デイビッドも一緒に賑やかに夕食を食べると、後片付けを一緒にしてから、リードは玄関先で家に帰るデイビッドを見送った。
デイビッドがリードの手を握り、鼻先にキスをした。
「明日からお前の分の弁当もまとめて作るから中庭集合な。そんで仮眠もさせる」
「いっぱい休ませてもらったから大丈夫だよ」
「絶対に太らせるし、絶対に寝かす」
「…………うん。デイビッド」
「ん?」
「ありがとう」
「お礼はちゅーでいいぞ!」
「ん」
ちょっと背伸びをしてデイビッドの唇にキスをすると、デイビッドが嬉しそうに笑った。
暗い道を帰っていくデイビッドを見送り、パァンと自分の頬を叩いて気合を入れる。
頭を完全に切り替えねば。祖父母も両親もいないのなら、自分がしっかりしないといけない。
デイビッドのお陰でがっつり休めて、気力体力が戻っている気がする。保育所が預かってくれるのは生後三か月以降だ。あと一か月ちょっとをなんとか乗り切らなきゃいけない。
リードは家の中に入ると、シェンリーの泣き声が聞こえる居間へと急いだ。
正直に言えば、家に帰るが怖い。ハルーアの顔を見たくない。身体を売れと、見ず知らずの男に抱かれろと平気で言うハルーアに対して、胸の奥からふつふつと怒りが込み上げてきてしまう。
リードは今すぐにまた逃げ出したい思いを誤魔化すために、ぎゅっとデイビッドの手を握った。
デイビッドは家まで送ってくれている。何かあった時にリードの自宅の場所を知っていた方が安心だからと言ってくれた。
デイビッドは本当にリードに甘い。だから、ついつい縋りついてしまう。
情けない自分が恥ずかしくて、デイビッドに甘えてしまう自分が弱くて嫌いだ。
家の玄関に立つと、家の中からシェンリーの泣き声が聞こえてきた。
震える息を吐くと、デイビッドがぎゅっとリードの手を握り、リードの額にキスをした。
「大丈夫だ。俺も一緒」
「……うん」
本当に自分は弱くなった。デイビッドがいてくれることに、すごく安心している。
リードは深呼吸をして頭を切り替えた。
これからいつもの日常に戻る。自分勝手な両親達のためではない。可愛い下の子達のためだ。
思い切って家の玄関のドアを開けると、バタバタッと足音が聞こえてきて、デイビーとミアが居間の方から走ってきた。
目が合った瞬間、二人とも泣きだして飛びついてきた。
「おにいちゃん! おにぃぃちゃぁぁぁぁん!」
「ご、ごめん。デイビー。ミア。怖い思いさせちゃったね。ごめんね、ほんと、ごめんっ!」
ギャン泣きしている二人をまとめて抱きしめていると、二人の上のアンナがぎゅっと自分の服を掴んで立っていた。
「アンナ。おいで」
「うっ……うぇっ、うぇっ、おにいちゃんっ! おにいちゃん!!」
アンナも泣きだし、リードは三人まとめて抱きしめ、何度も謝った。
家の奥からシェンリーを抱っこしたフローラと双子もやって来た。
フローラが半べそかきながら、意地を張るようにふんっと笑った。
「そのまま愛の逃避行してくればよかったのに」
「そんなことしないよ」
「……知ってる。だってお兄ちゃんだもん」
「フローラ。ごめんね。マーカーとダービーもごめん」
「兄ちゃんが謝ることじゃねぇし。……僕達も兄ちゃんに甘えすぎてたせいだし」
「アンナから全部聞いてる。母さんが兄ちゃんに言ったこと。……少しは顔色がマシになってよかった」
「ハルトは?」
「まだ仕事。父さん達が昨日から旅行に行ってて、昨日はハルト兄ちゃんが急遽仕事を休んでシェンリーの世話してたから」
「……は? 旅行? まだ産後二か月経たないのに?」
「母さんが『こんな空気の悪い所いたくないわ!』とか言い出してー」
「そんで父さんが『じゃあ、旅行に行くか!』とか言い出してー」
「ほんとに旅行に行ったのよ」
「……ガチものの馬鹿なの?」
「「馬鹿なんだよ」」
「それよりお兄ちゃん。そっちの男前は誰? 恋人?」
「あーー。デイビッド。すごく助けてもらったんだ」
「どうも。デイビッド・ヒュードラーだ。今は友達以上恋人未満? そのうち恋人になる予定」
「ふぅん。晩ご飯は? 二人とも食べたの?」
「まだだよ。フローラ。すぐに作るよ」
「うん。デイビッドさんも食べていったら? おじいちゃん達もまだ帰ってきてないし」
「えっ!? まだ帰ってきてないの!?」
「そうだよ」
「まぁ、慣れてるけどね」
「マーカーとダービーは大事な時期なのに! ……そんな時に家出みたいなことして、ほんとにごめん」
「兄ちゃんが限界なのは見てて分かってたし、謝らないでよ」
「そうそう。いつ倒れるかってハラハラしてたし。デイビッドさんが無理矢理にでも休ませてくれたっぽくて逆に安心」
「顔色がかなりマシになってるものね」
「「ねー」」
「あ、うん。……心配かけてごめん」
「ほーら。ちびっ子達ー。そろそろ泣き止めー。兄ちゃんが困るだろー」
「兄ちゃんのご飯が食べたい人は泣きやんでとりあえず居間で大人しくしてろー」
「アンナ。デイビー。ミア。ほら、行くよ」
双子とフローラに言われて、渋々感満載でしがみついていた三人が泣きながら離れていった。
後でもっとしっかり抱きしめてやらないと。怖い思いをさせてしまったから。
デイビッドを見上げて、リードは口を開いた。
「よかったら晩ご飯食べていってよ。僕の兄弟を紹介するよ」
「うん。よろしく。晩飯は一緒に作る。その方が楽しい」
「うん。ありがとう」
とりあえず急いで荷物を自室に置きに行き、手を洗ってデイビッドと一緒に台所へ向かった。
魔導冷蔵庫の中身を見てメニューを決めると、早速作り始める。
双子がやって来て、手伝いをし始めた。二人とも疲れた顔をしている。この一週間、とても大変だったのだろう。申し訳なくて、胸の奥がじくじくと痛む。
「二人ともちゃんと寝れてた?」
「んー。ハルト兄ちゃんと三人交代でシェンリーの世話してた。母さんは家にいてもなんもしねぇし」
「昨日はハルト兄ちゃんが休んだから、今日は僕が学校休んだ」
「……大事な受験前の学生に学校休ませるとかっ……ほんっと!! あり得ない!! あんの無責任ババア!!」
「いつものことじゃん。期待するだけ無駄無駄。あ、僕は三男のマーカー」
「僕は四男のダービー。マーカーとは双子」
「よろしく。二人とも疲れた顔してる。晩飯は俺達が作るから、温かいミルクでも飲んで一息ついとけよ。さっきの女の子にもミルクを渡してきてくれ」
「赤ちゃん抱っこしてたのは長女のフローラだよ」
「赤ちゃんは末っ子のシェンリー」
「あーと、うちの兄弟は、上から僕を除いて、ハルト、マーカー、ダービー、フローラ、アンナ、デイビー、ミア、シェンリーの合計八人。あ、僕を入れたら合計九人」
「よし。名前は覚えた」
「へぇ。すげぇ」
「一発で覚えられんの?」
「こう見えて、中等学校の時はリードといつも首位争いしてたんだよ」
「ん? 兄ちゃん、そんなに勉強できてたの?」
「あーー。中等学校の頃の話だから」
「ほら。温かいミルク。……シェンリーちゃんの泣き声がやんだな。寝たかな? 今のうちに休んでおけよ。皆」
「ありがと。デイビッドさん」
「フローラ達に渡してくる」
「ご飯できたら声かけるから」
「うん。兄ちゃん」
「ん?」
「「おかえり」」
「……ただいま」
双子が泣きそうな顔で笑った。リードも多分不細工な笑い顔だったと思う。
デイビッドと一緒にシチューを作りながら、なんだか本当に泣きそうになった。
察したのか、デイビッドがまた額にキスをした。
不思議と安心して、涙は出てこなかった。
夕食が出来上がったタイミングでハルトが帰ってきた。
疲れた顔をしているハルトがリードを見るなり、ほっとしたような表情を浮かべた。
「よかった。ちゃんと休めたんだ。顔色がかなりマシになってる」
「うん。ごめんな。一週間も」
「いいよ。兄ちゃんが倒れる方が大変だし。デイビッドさん。ありがとうございました」
「いや。疲れてるだろ? 晩飯を食おうぜ」
「兄ちゃん。帰ってきて早々晩ご飯作ったのかよ」
「あ、うん。まぁ。……父さん達がいないから堂々とお土産渡せるな。晩ご飯のデザートにしよう。美味しい木苺のジャムクッキーを買ってきてあるんだ。本当は一人一人にこっそり渡そうかと思ってた」
「ははっ。お土産なんて生まれて初めてかも」
ハルトが嬉しそうに笑った。
デイビッドも一緒に賑やかに夕食を食べると、後片付けを一緒にしてから、リードは玄関先で家に帰るデイビッドを見送った。
デイビッドがリードの手を握り、鼻先にキスをした。
「明日からお前の分の弁当もまとめて作るから中庭集合な。そんで仮眠もさせる」
「いっぱい休ませてもらったから大丈夫だよ」
「絶対に太らせるし、絶対に寝かす」
「…………うん。デイビッド」
「ん?」
「ありがとう」
「お礼はちゅーでいいぞ!」
「ん」
ちょっと背伸びをしてデイビッドの唇にキスをすると、デイビッドが嬉しそうに笑った。
暗い道を帰っていくデイビッドを見送り、パァンと自分の頬を叩いて気合を入れる。
頭を完全に切り替えねば。祖父母も両親もいないのなら、自分がしっかりしないといけない。
デイビッドのお陰でがっつり休めて、気力体力が戻っている気がする。保育所が預かってくれるのは生後三か月以降だ。あと一か月ちょっとをなんとか乗り切らなきゃいけない。
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