大家族のお兄ちゃんは恋なんかしてる暇はない!

丸井まー(旧:まー)

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24:怒涛の一か月の最中

 リードは肩を優しく揺さぶられて、はっと目が覚めた。
 目を開ければ、デイビッドがどこか優しい顔で見下ろしていた。
 枕にしていたデイビッドの太腿から頭を離して起き上がり、小さく欠伸をした。


「明日は半日休みの日だろ?」

「うん。午後から出勤。ダメ元で事務長に相談してみてよかったよ。あと三週間乗り切ればシェンリーを保育所に預けられるから、今が頑張り時かな。あ、今日もお昼ご飯ありがとう。ほんとにすごく美味しかった」

「よかった。まだ親は帰ってきてないのか?」

「まだだね。帰ってこなくてもいいけど。ごちゃごちゃ煩いだけで何もしないし。いない方がストレス溜まんない」

「ふむん。よし! 次の休みはリードの家に行く!」

「え?」

「洗濯は年頃のお嬢さんがいるからちょっとどうかと思うが、炊事と掃除なら任せておけ!」

「駄目だよ。そんなことさせられない」

「俺がしたいんだよ。なんだ。あれだ。半分下心だから安心しろ」

「下心」

「リードとちょっとでも一緒にいたい」

「…………その、じゃあ、買い出しと炊事手伝って。デイビッドのご飯ほんとに美味しいから、下の子達にも食べさせてやりたいなぁってずっと思ってて」

「任せとけ! 気合入れて作る! すげぇ楽しみにしとく!」

「あ、うん。ありがとう。……君って僕に甘すぎない?」

「そうか? 好きな相手が困ってたら手助けするだろ。普通。『好敵手』と書いて『とも』と呼ぶし、恋愛的な意味でも好きだし」

「そ、そう。……君と恋なんてしてる余裕、あと数年はないよ?」

「十年片想いしてたんだから、あと数年くらい余裕だな。俺は諦めが悪いと定評がある男!」

「物好きだなぁ。あ、そろそろ昼休憩終わるね。今日もありがとう」

「うん。明日は一緒に食えないから明後日な。三日後の休みは朝からお邪魔する」

「うん。ありがとう。じゃあ、またね」

「うん。ちゃんとしっかり食えよ」

「うん。頑張る?」


 デイビッドと別れて、急ぎ足で事務室に向かう。
 シェンリーの世話と家事を上の兄弟でローテーションを組んでやり始めて一週間ちょっと経つ。あと三週間なんとかすれば、昼間はシェンリーも保育所に預けられる。
 理解して配慮してくれている職場の人達に感謝しつつ、定時になるまで真剣に働いた。

 定時になり急いで帰り支度をして、デイビーとミアを迎えに行く。二人ともまだ少し不安定で、特にミアは家ではリードから離れようとしない。リードがトイレに行くのも嫌がるくらいだ。
 改めて、小さな子達がいる所でハルーアと話すんじゃなかったと後悔するが、後悔してもどうしようもない。

 抱きしめて、生まれてきてくれて嬉しいと何度も伝えた。デイビーやミアだけじゃなくて、アンナにも。今年の秋で七歳になるアンナは大人しい性格で、下の子達の面倒をよく見てくれている。
 よく分かっていないちびっ子二人よりもアンナが心配で、どうやってフォローしたものかと頭を悩ませている。

 デイビーとミアを連れて買い物に行き、家に帰り着くとシェンリーの泣き声で迎えられた。今日の午後のシェンリー担当はマーカーだ。
 買い物袋を台所へ置いて、脱衣場の洗面台で手を洗って居間へ行けば、マーカーが慣れない手つきでおむつを替えていた。


「あ、兄ちゃん。おかえりー。デイビーとミアも」

「ただいま。シェンリーは大丈夫だった?」

「はっはっは! ずっと泣いてた。やっと寝たー! と思ったらまたすぐに泣き出すんだもん。こっちが泣きたくなるわー」

「あー。うん。気持ちは分かるかな。紅茶を淹れるから一息つきな。今日の晩ご飯担当はハルトだったよね。僕は洗濯物担当だから、手早く終わらせて一緒にシェンリーの世話をするよ」

「よろしくー。おばあちゃん早く帰ってこないかな。ジャムクッキー食べたい」

「多分だけど、またおじいちゃんに遠出させられてるんじゃないの?」

「魔導列車なんて滅びればいいのに。気軽に遠方に行けるとかさー。こっちからすればちょー迷惑」

「ははは。マーカー。魔導列車があろうがなかろうが、おじいちゃん達も無責任クソ夫婦も自由人だから期待なんてしちゃ駄目だよ」

「それもそうか」

「紅茶を淹れてくるよ」

「ありがとー」

「ミアは台所はまだ危ないからここにいてね」

「やだっ!」

「すぐに戻るよ。一緒に洗濯物畳んでくれないかな?」

「んぅーー。うん」

「ありがとう。ミア。デイビーもお願いしていい?」

「うん。お兄ちゃん。のど乾いたー」

「皆で紅茶飲もうか」

「うん!」


 リードは急いで台所へ行き、ミアが泣き出す前にと、お湯を沸かして紅茶を淹れた。
 居間に戻れば、すぐにミアがくっついてくる。
 シェンリーが寝てくれたようなので、ちょっと一息つける。水を足して温めにした紅茶をデイビーとミアに飲ませ、自分も熱い紅茶を飲んだ。
 まだまだ夏の盛りなので暑い。気づけば誕生日をとっくに過ぎており、リードは二十三歳になった。
 またかき氷が食べたいなぁとぼんやり思いながら、熱々の紅茶を飲んで、服の袖で流れる汗を拭った。

 デイビーとミアに手伝わせて洗濯物を畳むと、マーカーを手伝ってシェンリーの世話をする。
 まだ首がすわらないシェンリーを恐る恐る縦抱きで抱っこしているマーカーにちょっとハラハラするが、お互いに慣れた方がいいのでちょっとだけ抱っこのアドバイスをしてやった。

 汚れたおむつを回収して魔導洗濯機でまとめて洗う。よく晴れているから、夜通し干しておいても問題ないだろう。
 くっついてくるミアの相手をしながら、洗濯を仕掛け、居間に戻って、ミルクを飲ませているマーカーを手伝う。

 学校から帰ってから部屋と風呂、トイレ掃除をしてくれていたフローラが来た。
 フローラに頼まれて、げっぷの仕方のコツを教えた。もれなくまた吐いたが。
 フローラを着替えに行かせている間にマーカーがまたミルクを作りに行き、その間、泣いているシェンリーを抱っこしつつ、足にくっついて泣き出したミアをあやす。

 今度はフローラがミルクをあげるところを見守りつつ、ミアを抱っこしてあやす。
 そうこうしているとハルトが帰ってきた。


「おかえり。ハルト」

「ただいまー。悪いけど今日の晩ご飯、手抜きでいい? 野菜と腸詰め肉のスープ」

「十分じゃない」

「おにくがいい! おにくがいいーー!!」

「ミア。ちゃんとお肉も入ってるから」

「お兄ちゃん。お腹すいたー!」

「デイビー。すぐにハルトが作ってくれるから、もうちょっと待とうね」

「お兄ちゃーん。シェンリーがまた吐いたー。なんで吐くのかなぁ!?」

「あーー。げっぷが下手くそなんだよねぇ。多分」

「フローラ。すぐにミルク作ってくる。今度は僕が飲ませるわ」

「よろしくー。マーカー兄ちゃん。……ん? あ、うんちしたっぽい。おむつ替えとくわ」

「おにいちゃん。おしっこー」

「はいはーい。トイレに行こうね」

「でるー」

「ちょっと我慢! ちょっと我慢!」


 バタバタとミアをトイレに連れて行った。ギリギリ間に合って何よりである。

 家事も育児も兄弟で分担してやるようになったが、それでも大変な毎日だ。
 理解のある職場じゃなかったら絶対にクビになってそうな気がする。

 ハルトが作ってくれたほぼ野菜のスープを食べつつ、ぐずるミアを宥めながら食べさせる。


「やさいやだーー!!」

「ハルトが作ってくれたから美味しいよ。ほら。あーん」

「ミア。おにいちゃんとねんねする」

「いいよー。一緒にねんねするから食べようね。はい。あーん」

「あーん」


 少し前までミアはアンナと寝ていたのだが、帰ってきてからほぼ毎晩『おにいちゃんとねんねする!』と言って、リードとデイビーと一緒に寝ている。
 アンナもまだちょっと不安定なので、フローラが一緒に寝てフォローしてくれている。

 皆それぞれ必死に毎日を過ごしている。祖父母や両親は脳天気に旅行を楽しんでいるんだろうなと思うとイラッとするので、考えないようにしている。
 順番に風呂に入り、先にデイビーとミアを寝かしつけてから、ダービーと一緒に明日のパンの仕込みをする。

 毎日くたくたに疲れるが、前ほど精神的にキツくはない。上の子達が一緒に一生懸命頑張ってくれているからだと思う。
 このままなんとかシェンリーが保育所で預かってもらえるようになるまで乗り切りたい。

 今夜はダービーがシェンリーの世話をしてくれる。
 リードはいつもより狭いベッドに寝転がってから、夏物の布団を蹴り飛ばしている二人に布団かけてやり、すぐにすとんと寝落ちた。
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