大家族のお兄ちゃんは恋なんかしてる暇はない!

丸井まー(旧:まー)

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29:ちょっとずつの変化?

 季節はすっかり秋本番になり、双子達の図書館司書資格試験が終わって少し経つ。そろそろ結果が郵送で送られてくる頃だ。
 図書館司書資格が取れていないと、図書館の就職試験は受けられない。
 家のことや下の子達の世話で双子の勉強時間が減ってハラハラしていたのだが、双子は『やれるだけやったから大丈夫!』とのほほんと構えている。

 郵便が届く朝早くに家の郵便受けを確認するのが日課になって十日ほど経ったある日。
 郵便受けに双子宛の郵便が届いていた。
 慌ててシェンリーの世話をしていた双子に渡すと、その場で封を開けて中を見た双子が満面の笑みで抱きついてきた。


「司書資格合格ーー!!」

「やったーーーー!!」

「ほんとに!? や、やったー! 頑張ったね! ほんっとに頑張ったね!!」

「ふふん。これで就職試験に受かれば完璧!!」

「まぁ、今の成績じゃ落ちる気しないけどね。僕達、こう見えて常に成績上位だし?」

「二人とも頑張り屋だから、きっと大丈夫。働き始めたら一年でなんとかお金を貯めな。家を出て、自分達のために笑って生きてよ」

「兄ちゃんは?」

「兄ちゃんはどうするのさ」

「父さんが身体が保つまではバーで働くらしいし、シェンリーが初等学校に入学するまでは家にいるよ」

「えーー! もっと早くに家を出てもいいじゃん!」

「デイビッドさんと同棲しちゃえよ!」

「下の子達が心配だし、あと六年だけだから。デイビッドも待ってくれるって」

「むぅ。それならいいけど」

「むぅ。デイビッドさんなら確かに待ってくれそうな気がするけど」

「就職試験は来月の頭だよね。分担を少し変えようか」

「それは駄目ー」

「おばあちゃんがいてくれるけど、おばあちゃんも歳だし、ハルト兄ちゃんがいない分、僕達も一緒に頑張るしー」

「いやでも……」

「試験のことは大丈夫! 勉強は学校でやりまくってるし!」

「小休憩とか昼休憩の時間も模擬試験とかしまくってるし!」

「いや、休憩の時間は休憩しなよ。ちゃんと休むことも大事だよ」

「それ、兄ちゃんにだけは言われたくない」

「兄ちゃん、デイビッドさんが無理矢理休ませないと休まないじゃない」

「うっ……そ、そうだけど……」

「改めて、デイビッドさんに感謝ー」

「ほんとー。就職試験の結果が出たら卒業式まで学校行かなくてもいいし、僕達が働き始めるまでの間は僕達が家のことをメインでやるからさ。兄ちゃんはデートしたりしなよ」

「あ、それいいな。うん。兄ちゃん! 僕達の就職試験が終わったらデイビッドさんとデートだ!」

「……デートって何するか知らないし」

「えー? 一緒に買い物したりとか?」

「んー。なんか美味しいもの食べたりとか? 僕達もよく分かんないね! デートなんてしたことねぇわ!」

「二人とも。そのうち恋をして、デートを楽しんだりしなよ」

「うん。可愛い彼女ができたら紹介するわ!」

「可愛い彼氏かもしれないけどね! 僕達、男と女どっちが好きなのかな?」

「さぁ? 初恋もまだだから分かんない。兄ちゃんは?」

「え? さ、さぁ? ……僕も初恋なんてまだだし」

「マーカー。兄ちゃんにはデイビッドさんがいいって」

「それもそうだな。ダービー。デイビッドさんくらいどっしり構えてくれてる人のほうが安心」


 わちゃわちゃ喋っていると、シェンリーが泣き出した。
 時計を見れば、朝食の時間が迫っている。嬉しくて長々と話しすぎた。
 リードは慌てて台所に行き、大急ぎで朝食と弁当を作り上げた。




ーーーーーー
 今夜はリードがシェンリーの世話をする番だ。
 少しずつまとまって寝てくれるようになってきたが、たまに夜泣きするので、夜泣きした時はあやしていたら気づけば朝、という日もある。

 今夜は夜泣きの日みたいで、泣いているシェンリーを抱っこして居間をぐるぐる歩いていると、ドームが帰ってきた。
 疲れた顔で居間にやって来たドームが、泣いているシェンリーを見て、ぼそっと呟いた。


「赤ちゃんって手がかかるんだな」

「何もできないからね。自分で自分のことをできるようになるまでは、ちゃんと世話をして、危ないことをしないように見ておかないと生きていけない」

「……そうか」

「さっさと風呂に入って寝たら? 昼間の仕事に差し支えるでしょ」

「うん。……リードは寝ないのか」

「シェンリーが寝たら寝るよ」

「……そうか」


 なんとも言えない顔をして、ドームが居間から出ていった。
 本当に今更すぎるのだが、漸く自分の子どもに関心を持ったらしい。遅すぎるんだよ無責任クソ野郎と思うが、ドームが少しでも変わろうとしているようなので、よい変化だと思っておく。
 シェンリーが漸く泣きやんで寝たので、二階へ移動し、赤ちゃん用のベッドにシェンリーを寝かせてから、デイビーとミアが寝ているベッドに静かに寝転がった。
 
 翌朝。今日は洗濯当番なので一回目の洗濯を仕掛けていると、寝癖で髪がぼさぼさのフローラがやって来た。
 いつも気合でなんとか起きているようで、半分目が閉じている。今日の朝食当番はフローラだ。


「おはよ……お兄ちゃん……」

「おはよう。キツいなら僕が朝ご飯作ろうか?」

「それは駄目。顔洗ったら目が覚める……筈……料理はちゃんとできるようになっておかないと……あと二年で成人だし。どこで出会いが待ってるか分からないもん」

「それは確かに。フローラは美人さんだしねぇ」

「顔だけしか見ないようなクソ男とは結婚しないから安心して」

「うん。ちゃんとまともな男と結婚してよ。大変なことも半分こで協力できるような男じゃないと認めないからね」

「うん。……ていうか、お兄ちゃんがいい感じの人を紹介してくれたらよくない? 職場の人とか」

「あ、その手があるね。まぁ、成人してからかな。それまでに家事育児もできて性格もいい人を見つけておくよ」

「よろしくー。はぁ。さっぱりした。朝ご飯作ってくるわー」

「よろしくー」


 フローラが台所へ向かったので、シェンリーを寝かせている居間へ移動した。
 シェンリーがまだ寝てくれている間に、散らかり放題な居間を少しでも片付ける。
 一回目の洗濯が終わり、二回目の洗濯を仕掛けてから洗濯物を庭に干す。

 シェンリーの様子をちょこちょこ見ながらちびっ子達を起こして着替えさせ、三回目の洗濯を仕掛けて、二回目の洗濯物を干し終えた頃に朝食ができたと呼ばれた。

 今朝も元気いっぱいぐずっているミアを宥めながら食べさせていると、どこかぼんやりとこちらを見ていたドームが、不機嫌な空気を発しているハルーアに声をかけた。


「ハルーアちゃん。昼間にちょっと働いてみない?」

「はぁ!? なんで私が働かなきゃいけないのよ!」

「いや、職場の近くの喫茶店が店員募集してて。ハルーアちゃんがそこで働いてくれたら、毎日昼休憩の時に会いに行けるなって思ってさ。家にいても暇だろ? 暇潰しにどう? ハルーアちゃんはすっごく可愛いから、きっと人気者になるよ」

「えぇ……んーー。じゃあ、試しにちょっとだけ働いてみるわ。大変だったらすぐに辞めるけど」

「昼休憩の時にハルーアちゃんに毎日会えたら、めちゃくちゃ嬉しいな! 僕!」

「私もよ。バーで働いてるせいで二人で過ごせる時間が激減してるもの」

「ハルーアちゃんも働いてくれたら、その分の金で二人で旅行に行けるかもだ!」

「まぁ! それなら働くわ! 二人で旅行に行きましょうよ。次は宝石が有名な街に行きたいわ」

「いいとも! 一緒に頑張ろうな!」

「えぇ!」


 リードはきょとんと手を取り合うドームとハルーアを見た。
 ドームは一体どういうつもりなのだろうか。ドームがバーで働き始めてからずっと不機嫌オーラを出しっぱなしのハルーアが日中いないのなら、こちらとしても気楽でいいのだが、本当にどういうつもりなのだろう。

 まぁ、こっちに迷惑がかからなければ別にいいやと思い、リードはミアに朝食を食べさせた。
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