大家族のお兄ちゃんは恋なんかしてる暇はない!

丸井まー(旧:まー)

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34:秋の終わり頃

 今日は双子の就職試験の日だ。
 リードは玄関先で二人と向き合った。


「忘れ物はない? 受験票はちゃんと持った?」

「「大丈夫!」」

「ん。じゃあ、これ着けていきな。全力を出せるようにいっぱい願掛けして作ったから」

「マフラー?」

「兄ちゃんが作ったの?」

「うん。デイビッドのお祖母さんから習ったんだ。あとこれもお守り。二人とも、ものすごーく頑張ってきたんだから、自信を持って」

「うん」

「やれるだけやってくるよ」

「めちゃくちゃ応援してるから」


 リードは二人まとめて抱きしめた。ぎゅっと少し強めに抱きしめてから、身体を離し、にっこり笑った。


「いってらっしゃい」

「「いってきまーーす!」」


 マフラーを巻いた二人が元気よく駆け出していった。
 二人の背中が見えなくなると家の中に戻り、ふぅと小さく息を吐いた。
 家のことや下の子達の世話で勉強する時間を減らしてしまった。そんな中で、双子は必死で頑張っていた。
 二人がちゃんといつも通り全力を出せるように祈りつつ、リードはパンッと自分の頬を叩いて、自分がやるべきことをやり始めた。

 試験結果は一週間後に郵送で送られてくる。
 就職試験から一週間後の早朝。リードが郵便受けを見に行くと、双子宛の手紙があった。
 慌てて双子がいる居間に行き、シェンリーのおむつ替えをしていたマーカーとミアの着替えを手伝っていたダービーに手紙を渡した。
 マーカーが手を洗ってくると、その場で封を開けて、満面の笑顔で中に入っていた手紙をばーんと見せてきた。

 どちらの紙にも『採用』の文字が書かれてある。
 リードは嬉しくて、二人をまとめて抱きしめた。


「頑張った! ほんっとーに! 頑張った!!」

「あはは! やったー! 採用ーー!!」

「勉強地獄からの脱却ーー!!」

「今夜はお祝いしよう! 奮発して鶏の丸焼き作っちゃう!!」

「「やったーー!!」」

「なになにー? どうしたの? お兄ちゃん達」

「フローラ! 今夜はデザートにモブリット君から習った葡萄のチーズケーキ作って! マーカーとダービーが採用された!」

「きゃー! やったーー!! ちょー気合入れて作るわ!! お祝いしなきゃ!」

「今日、学校の先生に採用の報告したら、卒業式まで学校は行かないから」

「行ってもやることねぇし。そろそろ兄ちゃんが忙しくなる時期だろ? 家のこととかしとくわ。ていうか、おばあちゃんに改めて家事を叩き込んでもらっとく」

「それがいいかな? 一年で独立するなら家事はしっかり身につけておかないと苦労するから」

「ちびっ子達の送り迎えもするぞー。ダービー」

「おー。マーカー。兄ちゃんの仕事の修羅場まであと半月もねぇしな。兄ちゃんは今のうちに少しでもゆっくりしといて」

「ありがとう。二人とも。甘えさせてもらってもいい?」

「「もちろん!!」」


 約二週間後から年末の仕事納めまで事務は修羅場になる。年明けすぐに全体予算会議があるし、なにより年明けすぐの給料日の時に、給料から税金が天引きされたり、扶養手当その他諸々が一括で支給されたりするので、魔術協会で働くおよそ四百人分の細かな計算をミスなくやり、諸々の手続きも完璧にしなければいけない。
 慣れてはいるが、毎年忙しさとプレッシャーで胃が痛くなる時期だ。

 双子の申し出は素直にありがたい。去年は保育所に二人を迎えに行き、家に帰って二人を置いてからまた職場に戻って仕事をしていた。
 二人が三人の送り迎えをしてくれるのなら、正直かなり助かる。

 騒ぎを聞いてやって来たマグダラにも嬉しい報告をして、夕食のご馳走を打ち合わせしてから、それぞれやることをやり始めた。
 リードはバタバタと洗濯物を干しながら、マリアンナとデイビッドに改めてお礼をせねば! と密かに燃え始めた。
 二人には普段からお世話になっているし、なにより、マフラー作りにとても協力してもらった。
 何がなんでもお礼がしたい。洗濯物を手早く干しながら、何をやればお礼になるのか、悶々と考え始めた。




ーーーーーー
 昼休憩の時間。今日も美味しい弁当をご馳走になり、デイビッドに促されてデイビッドの太腿に頭を乗せて寝転がった。


「もうそろそろ事務の修羅場だろ? 今のうちに寝とけー」

「うん。ありがとう。双子がね、図書館に無事に採用されたんだ」

「おぉ! やったな!! おめでとう! なんかお祝いパーティーとかやりたいな!」

「ありがとう。それで、君とマリアンナさんにすごくお世話になったから、何かお礼がしたいんだけど、これ! っていうのが思いつかなくて……なんかない? 僕にできることでして欲しいこと」

「んーー。じゃあ、来年の楽しみってことで、なんか考えとく。修羅場中はそれどころじゃないだろ」

「そうなんだよねー。新年迎えて仕事始めから約一か月までは修羅場だなぁ。まぁ、毎年のことだから慣れてはいるけど」

「年越し前後の休みの時に会えたら嬉しい」

「……あ」

「ん?」

「連絡用の魔導具って値段は高い?」

「いや? 俺、自作できるから別に」

「もしよかったら僕にくれないかな? 会えそうな時は連絡する」

「いいぞー! めちゃくちゃ気合入れて作るわ!! 用事がなくても連絡してくれていいから! 小半時は喋れるし!」

「あ、うん。基本は連絡時で」

「えー。寝る前に『おやすみ』とかしようぜー」

「……若干したい気がしないでもないけど、僕寝るの遅いし」

「俺はそもそも寝ない日が割とある」

「寝ろよ。僕ばっかり寝かせてないでちゃんと寝ろよ」

「研究がノリノリの時だけだしー。寝ないとばあちゃんに叱られるから基本は寝てますぅー」

「ならいいけど」

「双子君のお祝いパーティーをいっそ俺ん家でするか。お前の両親がいたら、なんか微妙な空気になりそうな気がする。手放しでパーッと祝って騒げないっつーか、なんかそんな予感」

「あーー。まぁ、面倒くさいかなぁ。母さんが仕事の日を狙えばいいだけだけどね」

「意外と喫茶店続いてるな」

「んー。元々可愛い美人だって街で評判だったから、なんか喫茶店の客が増えて、ちやほやされまくってるらしくて。客寄せになるからって給料上がったらしいし、毎日父さんと昼間に会えるし。なにより年越し前後の休みに旅行に行きたいらしくてねー。『今回の年越しは二人きりで王都で楽しもうか!』とか昨日父さんが言ってた」

「相変わらず子どもは置いてけぼりか」

「慣れてるし。おじいちゃん達も王都で年越しするんだって。双子が採用されたし、シェンリーも少し大きくなってきたからって」

「それなら、年越しパーティーを合同でしないか?」

「年越しパーティー?」

「そう! いつもはばあちゃんと二人きりだからさ! たまには賑やかな年越しもありかなって今思った!」

「ちびっ子達がいるから賑やかどころじゃないけど本当に大丈夫?」

「んー。一応ばあちゃんに聞いてみる。『勿論いいわよー!』って言ってくれそうな気がするけどな」

「ふふっ。デイビッドとマリアンナさんがいてくれたら、すごく楽しそう。……もれなくちびっ子達が興奮して寝ないだろうけど、年越しの日くらいいいよね」

「眠くなったら寝るだろ。多分。美味しい珈琲を用意しとかないとな」

「あ、それはすごく嬉しいなぁ。双子とフローラが珈琲をすごく気に入ったみたいだから、間違いなく喜ぶよ」

「他にもパーティー用のメニューをばあちゃんと考えとくな!」

「ありがとう。僕も例年通り鶏の丸焼き作らなきゃ」

「おっ。いいな! ご馳走! って感じ。鶏の丸焼きは作らないんだよなー。毎年二人で色んな料理を作って遊ぶから、鶏の丸焼きまで作ると食べきれないんだよ」

「なるほど? 食欲旺盛すぎる子がいっぱいいるから思う存分作っちゃっても大丈夫な気がする」

「よっしゃ! めったに作れないやつとか作っちゃうか! こう……大皿どーん! みたいなやつとか!」

「あはは! すごく楽しそう。マリアンナさんも一緒に年越しパーティーしてくれることになったら、双子達にはこっそり伝えておくよ。祖父母や両親には内緒。しれっと楽しいパーティーをしたいから」

「うん。今からすっげぇワクワクしてる」

「ははっ! 気が早いなぁ。うん。午後も頑張れそう。そろそろ昼休憩終わるよね?」

「だな。結局お喋りしてて寝なかったな。明日は寝かーす!」

「うん。また明日ね」


 リードは小さく笑って起き上がった。
 修羅場と修羅場の間の連休中の楽しみができた。
 なんだかものすごーく頑張れそうな気がする。連休中にモブリットを家にお招きしてもいいかもしれない。フローラが喜ぶだろう。
 モブリットに連休の予定を聞いておこうと決めると、デイビッドと別れて事務室へと急いだ。

 もうすぐ本格的な冬になる。
 秋の終わりと冬の足音を感じる日のことだった。
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