大家族のお兄ちゃんは恋なんかしてる暇はない!

丸井まー(旧:まー)

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35:好きにしてもいい!!

 年内の修羅場が一応終わった。
 深夜遅くまでの残業続きだったが、年内にやらなくてはいけないことは無事に終わらせることができた。

 リードはいつもの時間に目覚めると、ちょこっとだけぼーっとしてから動き始めた。
 今日から年越しの日前後合わせて十連休である。他の事務の者達は一回目の修羅場明けの今日は寝て過ごす者がほとんどらしいが、一日寝るなんて贅沢なことやっている余裕なんてない。

 今日から祖父母も両親も王都へ旅行に行く。下の子達の世話はそれなりに大変だが、家に呼びたい人を気兼ねなく呼べるし、逆にいない方が気楽でいいかも、と思うようにした。

 リードが一回目の洗濯を仕掛けていると、半目のダービーがやって来た。今日の朝食当番はダービーだ。


「おはよ……兄ちゃん、寝てなくていいの? ていうか、昨日いつ帰ってきたの?」

「おはよう。日付が変わるギリギリくらいには帰ってたよ」

「今日くらい寝てなよ。家のこととシェンリーのことは僕らでなんとかするし」

「毎年のことだから慣れてるよ。おじいちゃん達を見送ったら、手分けして買い溜め祭りしないとだしね」

「無理してる感じがしたらデイビッドさんを召喚してやるからなー」

「それはやめろー」


 デイビッドに今の顔を見られたら、間違いなく強制的に寝かされる。修羅場で睡眠不足だし、疲労がかなり溜まっていて、目の下にはくっきり隈ができてしまっている。


「目の下の隈ってパパッと消せないかな」

「無理なんじゃない? 寝たら?」

「寝ないって。僕は発想を変えた」

「なんの?」

「無責任クソ野郎共がいなかったらさ、好き放題やってもいいんじゃない? 具体的に言うと、呼びたい人を家に呼んだりとかさ」

「デイビッドさんに来てもらおう」

「なんで?」

「兄ちゃんを寝かせてもらってー、僕らは珈琲を淹れてもらうー。珈琲美味しかったからまた飲みたいし」

「それは年越しパーティーで飲めるじゃない」

「兄ちゃんのピアスって連絡用の魔導具なんだろ? 本で見たことがある。それでデイビッドさんを呼び出そう」

「いやいやいや。デイビッドも買い溜め祭りやってる筈だからね?」

「むぅ。じゃあ、新年迎えたら来てもらおう。新年迎えて三日目にはモブリットさんが来るんでしょ? パーティーしよう。パーティー。新年おめでとうパーティー。なんなら年越しの日からぶっ通しで連日パーティー」

「デイビッドはともかく、マリアンナさんに悪いよ。流石に」

「いいじゃん。ダメ元で聞いてみてよ」

「えぇー」

「大人達は皆好き勝手にしてるんだから、僕達だって好き勝手していいんでしょ」

「……年に一度のことだし、まぁいっか。おじいちゃん達を見送ったらデイビッドに連絡してみる」

「よろしくー。ご飯作ってくる。喋ってたらちゃんと目が覚めた」

「包丁で手を切らないようにね」

「うん」


 台所へ向かったダービーを別れて居間に行けば、フローラがシェンリーを抱っこしていた。


「あ、おはよう。お兄ちゃん」

「おはよう。少しは寝れた?」

「はっはっは。ついさっきシェンリーが寝たとこ」

「朝ご飯まで寝てきなよ」

「そういうお兄ちゃんこそ寝てきてよ。顔ヤバいわよ。デイビッドさんを呼び出してやるわ」

「フローラまでデイビッドを呼び出そうとするのはやめてー。絶対に寝かされるじゃないか」

「だって目の下真っ黒だもん。顔色も悪いし」

「毎年のことだから慣れてるよ。これ言うの何回目?」

「買い溜め祭りを午後のお茶までにある程度済ませて、皆で昼寝しましょうよ。流石に疲れが溜まってるもの」

「あ、いいね。そうしよう。買い溜め祭りは双子と手分けして行ってくるよ。ごめんだけどフローラはちびっ子達をお願い」

「はぁい。任されたー」


 市場や普通の店は年越しの日の二日前から閉まり、次に開くのは新年を迎えて四日目からだ。連休中に必要な食料をメインに買い溜めをしないといけない。
 掃除をしつつ、洗濯物を干しつつ、ちびっ子達を起こして着替えさせ、朝食が出来上がったら、皆で食べた。

 朝食後に祖父母と両親が出かけると、リードは下の子達に向かってニッと笑った。


「こっちはこっちで思いっきり楽しんじゃおう!」

「「さーんせーい!」」

「年越しパーティーの準備をしなきゃ! それに新年おめでとうパーティーも! お兄ちゃん! モブリットさんが来る日は髪の毛よろしく!!」

「いいよー。じゃあ、マーカー。ダービー。さくっと買い溜め祭りを終わらせよう。必要なものをだーっと書き出すから」

「はーい」

「お兄ちゃん! モブリットさんに食べてもらうお菓子の材料もよろしく!」

「もっちろん! はっはっは! いつもは節約節約また節約の日々だけど、今年の年越しは散財してやるぞー!」

「兄ちゃん。大丈夫なの?」

「大丈夫。父さんが馬車馬の如く働いてるから、ちょっと余裕ができたんだ。今回の旅行は母さんの稼ぎだけで行ったしね」

「ふぅん。二人ともなんか変なものでも食べたのかな?」

「さぁ? ぶっちゃけ興味ないね。こっちに害がなければどうでもいいよ」

「「それは確かに」」

「さて。ちびっ子達は居間で遊んでてー。僕達は買い溜め祭りしてくるよー」

「うん」

「ミアもいくー」

「人がものすごーくいっぱいで、むぎゅーって潰されちゃうから駄目ー。危ないからね!」

「ミア。一緒におままごとしとこ」

「するー! アンナおねえちゃんが『おかあさん』!」

「いいよ。おいで」

「ありがと。アンナ。今日の晩ご飯はアンナが好きな鶏と豆の煮込みだよ」

「やった。ありがとう。お兄ちゃん」


 だーっと大急ぎで必要なものを書き出し、マーカーとダービーにメモ紙と財布を渡して、それぞれ買い出しに出かける。
 少し前にデイビッドから貰った温かい毛糸の帽子とマフラーを着け、歩きながら連絡用の魔導具を起動させるとすぐにデイビッドの声が聞こえた。


『おっ。初起動! おはよう。リード』

「おはよう。デイビッド。ダービーからの提案なんだけど、もしマリアンナさんさえよければ、年越しの日から三日目まで連日パーティーしない? パーティーって言っても、いつもよりちょっと豪華なご飯食べたりとかするだけなんだけど。三日目にはモブリット君も来るから、多分お菓子パーティーになると思う。あ、一応客室はあるから! 掃除もしてるし! マリアンナさんはそこに泊まってもらう感じで! 無理にとは言わないけど、よかったら少し考えてくれると嬉しいです」

『俺は是非とも! ばあちゃんに聞いてくる! ばあーちゃーん! あ、後でこっちから連絡する!』

「うん。お願い。とことん楽しい連休にしようかと思って」

『ははっ! めちゃくちゃいいことだな! 俺もリードと一緒に過ごしたいし。多分ばあちゃんも喜ぶと思うぜ』

「そうだと嬉しいな。いっぱいお世話になってるから、少しでも楽しいパーティーをして喜んでもらいたいなって」

『その気持ちが一番嬉しいし、ばあちゃんも喜ぶよ。それじゃ! また後で! あ、ちゃんと寝てたか?』

「……毎年のことで慣れてるから……」

『こっちの買い溜め祭りが終わったら絶対にリードん家に行くわ。ばあちゃん連れて』

「はいっ!?」

『覚悟しとけー! 絶対にがっつり寝かす!! じゃあな!』

「ちょっ、デイビッド!? デイビッド!? ……切れちゃった。えぇ……本気かな……本気だよな……とりあえず買い物終わらせよ。後でなんとか対策を考えなきゃ」


 今の顔をデイビッドとマリアンナに見られたら即座にベッドに連行される自信がある。
 デイビッドに連絡するのは早まったかもしれない。買い溜め祭りが終わってから連絡すればよかった。
 後悔しても遅いので、リードはできるだけ早く買い物を終わらせるべく、小走りであっちこっちの店をまわり、大荷物を抱えて家へと帰った。

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