薬屋さんと一緒の美味しい異世界旅

丸井まー(旧:まー)

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27:乳搾りと出来たてチーズ

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 今日はミロロックという生き物を飼っている家に乳搾りの仕事をしに行く。昨日、またガランチョの家で働いていたら、『親戚の家が人手が欲しいらしいから、なんなら行ってきてくれよ』と言われたからだ。

 ミネーキと一緒に教えてもらった村の端っこの方にある家に行けば、広い柵の中の草原みたいな所に、馬鹿でかいピンクと黄色の派手なマーブル模様の水牛みたいな生き物がいた。顔はなんか兎っぽくて、妙に可愛らしい。が、デカい。牛を生で見たことがないのだが、多分牛よりもデカい。頭がミネーキの頭よりもちょっと高い位置にあるくらいデカい。

 みゅー、とやたら可愛らしい鳴き声を上げているミロロックなる生き物のデカさに亮介がビビっていると、家の中から髭もじゃのおっさんが出てきた。


「おっ! ミネーキの旦那じゃねぇか。乳搾りの手伝いってなぁ、旦那達かい?」

「そうだよぃ。こっちは弟子のリョー」

「あ、えっと、リョー……」

「ほんと助かるぜ! 今が乳搾りの最盛期でな。とにかく人手が足りねぇんだわ。2人で1日3バレロでどうだい?」

「いいよぃ。そんなにもらっていいのかい?」

「おう! まぁやってみりゃあ分かるが、結構キツいからな。昼飯は俺んとこで食えよ。出来たてのチーズを食わせてやんよ」

「おー! いいねぇ。張り切って仕事するよーい」

「んじゃ、乳搾りのやり方を教えるわ。ミロロックは基本的に大人しいけど、目を合わせると突進してくるから気をつけてくれよ」

「あいよぉ」


 目が合うと突進してくるってヤバくないか。亮介は内心ビビリまくりながら、のほほんとしているミネーキと一緒に髭もじゃのおっさんの案内で敷地内に入った。

 金属製のデッカくて重い容器を運び、草を食んでいるミロロックに横から静かに近づく。ミロロックの乳牛みたいな乳の下に容器を置いて、ミネーキが容器と一緒に運んできてくれた小さな椅子に座って、習った通りに乳を搾り始める。
 乳搾りは前の村でもやったことがある。優しく乳を搾り出すように手を動かせば、びゅーーっと淡く黄色がかった白い乳が飛び出て、容器へと入っていく。近くで別のミロロックの乳を搾っているミネーキが話しかけてきた。


「ミロロックの乳は栄養価が高くてねぇ。リハナサで粥にしてもうんまいよぉ。ちと貰って帰って、今夜は乳粥にするかねぃ」

「乳粥って食べたことないなぁ。楽しみー」

「リリナタの花の蜜をちっと入れると甘くてうんまいよぉ。リリナタの花の蜜も栄養価が高いからねぇ。疲れてる時にはいいんだよぃ」

「へぇー。ていうか、めちゃくちゃ乳が出るんだけど。このまま搾ってていいの?」

「大丈夫だよぃ。一頭でこの容器いっぱいになるくらいには出るらしいからねぇ」

「ミロロックめちゃくちゃ数がいるんだけど」

「今日中に最低でも半分は搾らねぇとねぇ。乳は毎日出るから、明後日までは通うかねぇ。明々後日は休みにするよぃ。ちょうどその日に陶器の容器が出来上がる筈だから、この村を出立する準備とちっと骨休めをしようねぃ」

「うん。この村、人が温かくて割と好きだなぁ。一部例外を除いて」

「あー。ダナーンかい? あの子もしつこいもんだねぇ。よほどリョーを気に入ったのかねぇ」

「ちんぽもげろ。ミネーキさん、あのしつこい野郎のちんぽもげる薬とかない?」

「ないねぇ。諦めなぁ」

「こればっかりは諦めたくない! 俺の尻の危機だもん!!」

「まぁ、1人にならなけりゃあ、大丈夫さね」

「俺、ミネーキさんにくっついとく」

「そうしなぁ」


 冒険者のヤリチンっぽいダナーンはまだ村にいて、遭遇する度に口説かれているもとい『ヤラないか』と言外に言われている。しつこくて心底ウザったい。
 亮介はウザいダナーンのことを忘れるために、せっせと乳を搾った。

 乳がたっぷり入った金属製のデカい容器は亮介の力じゃ運べないのでミネーキに任せ、空っぽの容器をひぃひぃ言いながらなんとか運び、別のミロロックの乳を搾る。二頭目の乳を搾り始め、半分くらい搾った頃には動かし続けている手がだるくなってくるが、黙々と手を動かし続ける。
 1日で3バレロの美味しい仕事である。頑張るっきゃない。

 亮介は髭もじゃのおっさんが呼びに来るまで、ひたすら乳を搾り続けた。

 髭もじゃのおっさんの家に入ると、ふわふわとなにやらいい匂いがした。奥さんが妊娠中らしく、お腹が大きい状態でお盆を持ってきたので、慌てて亮介はお盆を受け取り、色んな料理の皿で重いお盆をなんとかテーブルに運んだ。


「ごめんよぉ。助かるわ。この通りお腹が重くてねぇ。まだ台所にあるのよ。手伝ってくれるかしら?」

「うん。奥さんは座っててよ」

「あっはっは! 大丈夫よ! ちっとは動かないとね! 心配してくれてありがと。坊や。優しい子だねぇ」


 同い年くらいの奥さんに『坊や』と呼ばれたのは若干複雑だが、亮介はこちらの世界の人から見たら10代にしか見えないそうなので、諦めるしかない。
 ミネーキにも手伝ってもらって、奥さんが用意してくれた料理を全てテーブルに運んだ。まだ10歳にもならないくらいの女の子と5歳くらいの男の子もいる。髭もじゃだから分かりにくいが、もしかしたらおっさんも意外と若いのかもしれない。老夫婦もやって来たら、昼食である。

 ナンみたいな薄いパンにちょっと炙ってあるチーズがのっている。食べてみれば、とても濃厚なモッツァレラチーズみたいで、めちゃくちゃ美味しい。ものすごく濃厚なのに、後味はくどくない。いくらでも食べられそうな気がする程美味しい。
 ガランチョの肉と野菜がゴロゴロのミロロックの乳の汁物は、優しい味わいがして、これもすごく美味しい。


「うんまいー」

「うんうん。ほんとにうんまいねぇ。出来たてのチーズなんて滅多に食べられないよぉ。熟成してあるのもいいけど、出来たては格段にうんまいねぇ」

「がははっ! 気に入ったんならよかったぜ! 母ちゃんは村一番の料理上手だからよ! 腹いっぱい食ってくれ!」

「やだわぁ! もう! アンタったら! お義母さんの料理にはまだまだ勝てないわよ!」


 照れたようにバシーンッとおっさんの肩を叩いている奥さんは、それはもう嬉しそうだ。夫婦仲がよくて何よりである。
 みょーんと伸びるチーズをもむもむ食べながら、亮介は生温かい目でイチャイチャしている夫婦を眺めた。

 出来たてチーズなどで満腹になると、午後からの仕事である。ミネーキが夕食用に乳を分けて欲しいとお願いすると、おっさんが快く頷いてくれた。初めての乳粥のためにも、午後もひたすら頑張る。

 重い金属製の容器をなんとか運んで、ミロロックの乳の下に置き、びゅー、びゅー、と乳を容器に搾り出す。ミネーキの手の動きを真似してやってみれば、午前中よりもちょっとだけ早く搾れるようになった。
 日が暮れる前までひたすら乳を搾り、明日も来ることを告げ、乳を分けてもらってから、茜色に染まる道を歩いて宿屋へと戻った。

 宿屋に着いた頃には、風呂屋がギリギリ閉まる時間帯だったので、今日の風呂は諦める。蒸し風呂にもだいぶ慣れてきた。今日は部屋でハンニャラの葉で作った器でお湯を沸かして身体を拭くことになった。

 宿屋の者から鍋などを借りて、夕食作りである。亮介はちょっとワクワクしながら、手早く乳粥を作るミネーキの手元をじっと見つめた。

 初めて食べる乳粥は、優しい甘さで存外美味しい。初めて食べるものだが、なんだかほっとする味である。
 亮介は夢中ではふはふと一杯目を食べきると、ほぅと小さく息を吐いた。


「うんまいー。お代わりちょうだい」

「あいよぉ。新鮮な乳で作ると格別にうんまいねぇ。たんと食べなぁ」

「うん。ミネーキさん、今日の昼に食べた汁物って作れる? 明日の晩飯はあれがいいなぁ」

「多分作れるよーい。じゃあ、明日も乳を貰って帰ろうかねぃ。一緒に作るよーい」

「うん。覚える」


 明日の楽しみができた。明日も乳搾りを頑張る。この村にいられるのはあとほんの数日だ。最後まで村への滞在を楽しみたい。

 亮介はミネーキと一緒にもりもり乳粥を食べると、後片付けをして、借りたものを返してから、部屋へと戻った。

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