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7:美味しいものがいっぱい

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 街に戻る頃には、午後のお茶の時間が近くなっていた。今日はちょっと暑いので、汗をかいて、喉が渇いている。
 祥平は、隣を歩くダンテを見上げて、声をかけた。


「ダンテさん。冷たいものが飲める所を知りませんか?」

「あぁ。それなら、もう少し歩いた先に、美味しい喫茶店があるよ」

「やった! 行きましょう。喉からからです」

「今日はちょっと暑いもんねぇ。あ、あそこの看板は見えるかな。あの店なんだけど」

「看板……人が多くて見えないです」

「あと本当にちょっとだから、頑張って」

「はい。俺、故郷じゃ、どちらかと言えば背が高い方だったんですけど、此処じゃあドチビだなぁ」

「『神様からの贈り人』は小さい人や大きい人、色んな人がいるらしいよ」

「へぇー。ドーラちゃん以外とは、医務室の先生としか会ったことがないんですよね」

「まぁ、『神様からの贈り人』は、滅多にいないから」


 神殿の医務室にいる治癒魔法士の先生は、パッと見、完全にリザードマンである。体格がかなり大きく、見た目はちょっと迫力があるが、穏やかな気性の人で、とても優しい。医務室で働きながら、ドーラの先生もしてくれている。治癒魔法は、『神様からの贈り人』だけが使えるものではない。水魔法の適性があれば、治癒魔法も使えるようになるそうだ。ただ、『神様からの贈り人』は、保有する魔力が膨大だから、沢山の人を治療することができる。だから、『神様からの贈り人』の治癒魔法士は、とても歓迎されているそうだ。

 ダンテの案内で入った喫茶店は、落ち着いた雰囲気で、微かに煙草みたいな匂いがした。店内を見回せば、煙管のようなものを吸っている人がいる。この世界にも、煙草はあるっぽい。祥平は、酒も煙草も苦手だから、やらないが。

 ふわふわと煙草っぽい匂いがしているが、日本の煙草程不快な匂いではないので、まだ我慢できる。
 祥平は、ダンテと一緒にテーブル席に座ると、メニュー表をテーブルの上に広げた。一通り、目を通してから、ダンテに声をかけた。


「オススメってあります?」

「冷たいのがいいんだよね。アーレルのジュースはどうかな。ちょっと酸っぱいけど、その分サッパリするよ」

「じゃあ、それで」

「お腹に余裕があるなら、ペッタも試してみない?」

「ペッタ」

「えっと、卵とかナータの粉を使った焼き菓子だね。此処の店のは、特に美味しいんだ」

「食べます」

「うん。じゃあ、注文しよう」


 ダンテが、近くにいた店員に声をかけて、祥平の分まで注文してくれた。にこやかな笑顔の店員が、すぐにグラスに氷が入った淡い緑色のジュースと、クッキーみたいな薄い焼き菓子がのった皿を運んできてくれた。アーレルのジュースは、ライムっぽい香りがして、確かに少し酸っぱかったが、汗をかいてちょっと疲れた身体に染み渡る美味さだった。ペッタは、クッキーそのもので、サクサクの食感な上に程よい甘さで、これも美味しい。
 祥平は、ちびちびと冷たいアーレルのジュースを飲みながら、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。


「ダンテさんって、美味しいものの店に詳しいんですか?」

「詳しいとまではいかないけど、休みの日は大体食べ歩きをしてるかなぁ。堅苦しいのが苦手だから、気軽に入れる安くて美味しい店を探すのが好きなんだよ」

「へぇー」

「晩ご飯は、肉と魚、どっちが食べたい?」

「えーと。じゃあ、魚で」

「了解。今の時期だと、キーキキルが脂がのって美味しいかなぁ」

「キーキキル。初めて聞くやつです」

「実際に見てもらった方が早い気がするけど、そこそこデカい魚で、色んな香草と一緒に蒸し焼きにしたのが一番美味しいよ」

「へぇー。魚の蒸し焼き。馴染みが無いですねぇ」

「チーギャンっていう、なんていうんだろ。薄くて平べったいやつで巻いて食べても美味しいよ」

「また新しいのが出てきた。楽しみですねぇ」

「本当に美味しいから、期待しててよ。値段も手頃だしね。でも、酒の種類が多い店だから、酔っ払いも多いよ。そこは諦めて」

「酔っ払いは絡んでこなければ別に。流石に、匂いだけじゃ酔いませんし」

「あ、よかった。お気に入りの店だから、気に入ってもらえると嬉しいなぁ」

「ダンテさんは、好きに酒を飲んでくださいよ」

「じゃあ、そうさせてもらおうかな。休みの日くらいしか、中々飲めないし」

「酒、好きなんですか?」

「うん。酒と相性がいい料理を模索するのも好き」

「真性の食いしん坊さんですね」

「あははっ。まぁ、否定はできないかな。太り過ぎないように、いつも控えめに食べるようにはしてるけど」

「竜騎士さんも大変ですねぇ」

「まぁ。でも、ピエリーに乗って空を飛ぶのは楽しいから、特に苦でも無いかな」

「へぇー」


 ピエリーの話をしながら、のんびりジュースを飲み終えると、祥平は、ダンテと喫茶店を出た。美味しかったから、また来たいが、如何せん、看板以外は周りと一緒の白壁なので、外観の特徴らしき特徴がほぼ無い。またダンテに連れてきてもらおうと勝手に決めると、祥平は、少し早めの夕食を食べに、ダンテのオススメの店へと歩き出した。

 喫茶店から、体感で一時間くらい歩いた所に、魚料理が美味いという店があった。歩いて、いい感じに腹が減ってきたので、ちょうどいい。店内に入ると、まだ夕方になったばかりなのに、ぶわっと酒の匂いが漂っていた。そこそこ広い店内は、半分くらい席が埋まっている。祥平は、慣れた様子のダンテの後ろを歩いて、2人がけのテーブル席に座った。メニュー表を見ても、初めて見聞きする名前ばかりである。祥平は、とりあえずダンテのオススメのものを聞いて、それを頼んでみることにした。

 然程待たずに、料理とダンテが注文した酒が運ばれてきた。祥平は、アーレルのジュースがあったので、それを注文した。
 キーキキルの香草蒸し焼きは、ガチでデカかった。デッカい平皿に、どーんっと厚みのある魚がのっている。魚なのに、鳥のような羽がついている。以前、市場で見たやつだった。羽も食べるのかと思って、ダンテに聞いてみたら、羽は食べないらしい。羽を切り落とすと、旨味が逃げるそうで、基本的には、羽をつけたまま調理するそうだ。

 ふわふわといい匂いがしている。ナイフとフォークで魚の身を切り取り、トルティーヤみたいな感じの薄いパンっぽいものにのせ、香草ごと包んで、思い切って齧りついてみる。ふわっとパクチーに似た香りが鼻に抜け、ほこほこの魚の旨味が口の中に広がる。いい感じに脂がのっていて、確かにものすごく美味い。パクチーが苦手な人は駄目かもしれない料理だが、祥平はパクチーは好きなので平気だ。もっもっと食べていると、正面で同じように食べていたダンテが、小さく笑った。


「美味しそうに食べるね」

「ん。めちゃくちゃ美味いです」

「気に入ってもらってよかった。リリ貝も今が旬なんだけど、試してみるかい? 酒蒸しが美味しいよ。酒精は飛んでるから、多分大丈夫だと思うんだけど」

「是非とも! ダンテさんのオススメは全部美味いです」

「ははっ。そう言ってもらえると嬉しいかな。次に休みが合う日は、また一緒に外食しようか。中央広場の屋台には行ったことがあるかい?」

「無いですね」

「じゃあ、次は中央広場に行ってみようか。夜も屋台をやっていて、美味しいものが色々あるよ」


 穏やかに笑いながら、ダンテが美味しそうに酒を飲んだ。琥珀色をした酒は、見た目はブランデーっぽいが、味はどうだろう。祥平は下戸なので、試すことはできないが、若干気にはなる。美味しいものをいっぱい知っているダンテが好んで飲んでいるのなら、多分、今飲んでいる酒も美味しいのだろう。

 祥平は、自分が酒が飲めないことをちょっぴり残念に思いながら、美味しい料理をたらふく食べた。

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