17 / 70
17:ドーラのお願い
しおりを挟む
冬本番になった。雪は降らないが、めちゃくちゃ寒い日が続いている。
今日は、祥平は休みの日だ。ダンテは仕事である。ダンテを見送り、朝の家事を終わらせると、祥平は、肩掛け鞄に財布と家の鍵を入れて、ダンテに買ってもらった分厚いコートを着て、家を出た。
街で暮らし始めて、そろそろ半年が近い。白い街にもだいぶ慣れてきて、神殿ならば、1人でも迷わず行けるようになっている。『ヤバい。迷ったか?』と思ったら、躊躇なく、そこら辺にいる人に道を聞いている。祥平が見るからに『神様からの贈り人』だからか、皆、親切に道を教えてくれる。たまに、拝まれるが、気にしないことにしている。
丘を上り、神殿に到着すると、真っ直ぐにドーラの部屋に向かった。今日は一際寒いから、自分の部屋で二度寝していそうな気がする。
ドーラの部屋のドアをノックすると、ドアがすぐに開き、ちゃんと普通に服を着たドーラが顔を出して、ガシッと祥平の腕を掴んだ。
「ショーヘイ! 待ってたのよ!」
「おはよう。ドーラちゃん。なんかあった?」
「おはよう! とりあえず、今すぐ医務室に行くわよ!」
「あ、うん」
祥平は、何事だろうと首を傾げながら、ドーラに引っ張られるようにして、医務室に向かった。医務室の隣には、医務室の主みたいな存在である『神様からの贈り人』のニーの部屋がある。本当はもっとすごーく長い名前があるのだが、発音が難しく、皆、『ニー先生』と呼んでいる。とても穏やかな気性をした、見た目は完全にリザードマンなベテラン治癒魔法士だ。
ドーラが、ニーの部屋のドアをノックすると、すぐにドアが開いて、ニーが顔を出した。ニーは、とても体格がいい。この世界の人達よりも、更に頭一つ分くらい背が高い。錆色の鱗がキレイだと思う。まんま爬虫類な目は、見慣れたら、なんか可愛い。ちなみに、ニーは雄である。
ニーが、祥平とドーラを見て、二シャアと微笑んだ。口元から鋭い牙が見えているが、あまり怖くはない。
「ドーラ。ショーヘイ。いらっしゃい。中へどうぞ。朝のうちにペッタを焼いたので、一緒に食べましょう」
「やった! ありがとうございます。ニー先生」
「ありがたく、ご馳走になります」
「いえいえ。ショーヘイには、ちょっと相談にのってもらいたいのです」
「相談? 俺でよければ、話を聞きますよ」
「ありがとうございます。お茶を飲みながら話しましょうか」
ニーが部屋に入れてくれた。ニーの部屋は、壁際一面が本棚で、特大のベッドの他には、衣装箪笥と、小さなテーブルと椅子があった。部屋の隅に魔導ポットが置いてあり、ニーがすぐに、カカット茶を淹れてくれた。
カカット茶を一口飲んだニーが、なにやら言いにくそうに、口を開いた。
「その、実は、つい最近、恋人ができまして」
「おぉ! おめでとうございます!」
「ありがとうございます。年甲斐もなく恥ずかしいのですが、その、とても熱烈に口説かれてしまって、つい絆されてしまったというか、なんというか……私は、この通り、こちらの世界の人とは、姿が大きく異なりますから、恋人になったはいいものの、どうしたものかと……」
「えー。普通にお相手の方とイチャイチャラブラブを楽しめばいいんじゃないですか?」
「そ、そうですね。……実は、次の次の休みの日に、お屋敷に来ないかと誘われたのです。相手は、隠居をしていますが、貴族の方で、『是非とも着てほしい』と服まで贈ってくださったのです」
「へぇー。すげー。ぽんと服を贈るなんて、流石、貴族ですね」
「いきなり2人きりで過ごすのは、どうしても緊張してしまうので、ドーラについてきて欲しいとお願いをしたのです」
「おや」
「それでね、ショーヘイ。ニー先生は、恋人から贈ってもらった服があるけど、私は何を着ていったらいいのか、サッパリなのよ。貴族のお屋敷に、いつもの格好で行くのは流石にマズい気がするし、私も緊張するから、ショーヘイも一緒に来て」
「マジか。えー。まぁ、いいけど。俺も貴族のお屋敷に着ていける服なんて持ってないなぁ。ダンテさんにお願いしてみる? ミミーナさん曰く、かなり高位の貴族の出らしいから。なんなら、当日もついてきてもらおう。俺達、貴族の礼儀作法なんて知らないし」
「それだわ!! ダンテさんを頼ろう!」
「ダンテさん、明後日が休みの予定だから、その日に服を買いに連れて行ってもらおうか」
「うん! あ、ついでに、ニー先生に服の着方を教えてもらえないかしら?」
「服の着方?」
「はい。恥ずかしいのですが、医務室の制服以外だと、寝間着しか着たことが無いものですから、服の着方が分からなくて、困っているのです」
「なるほど。じゃあ、今日にでも、ダンテさんにおねだりしてみますね」
「お願いしますね。ショーヘイ」
「ありがとう! ショーヘイ! ほんっと! 助かるー!!」
「いえいえ。ダンテさんなら、多分なんとかしてくれるんじゃないかなぁ」
祥平は、のほほんと笑って、ニー手作りのペッタというクッキーみたいなお菓子を頬張った。素直に美味しい。是非とも、作り方のコツを教えてもらいたいくらいである。
話が終わる頃には、昼食の支度の時間になったので、ニーも一緒に、ニーの部屋を出て、台所へと向かった。今日も持参してきたメモ帳にしている本を見ながら、習ったばかりの料理をドーラと一緒に作る。
メモ帳にしている本を眺めて、ドーラが拗ねたように唇を尖らせた。
「ショーヘイ。そろそろ、こっちの文字で書いてよ。日本語は、私、読めないわ」
「いやぁ。ミミーナさんに習いながら、いつも走り書きでメモしてるから、どうしても日本語の方が楽なんだよねぇ」
「これがショーヘイの故郷の文字ですか。何種類も文字があるように見えるのですが」
「そうですよー。あ、ドーラちゃん。そろそろ魚をひっくり返そう」
「うん。ガンダナもそろそろかしら」
「そろそろ大丈夫かな」
「『ポテサラもどき』、すごい好きー。美味しいもの!」
「そりゃ、よかった」
祥平は、ドーラ達と一緒に作った昼食を食べ、午後から、ドーラと一緒に、神殿内にある図書室に行って、夕方近くまで、神殿で過ごした。
家に帰って、夕方の家事を済ませ、夕食を作り終えたタイミングで、ダンテが帰ってきた。玄関で出迎えると、ぴゅんっと素早く、ピエリーが飛びついてきたので、ピエリーを撫でまくってから、肩に乗せる。
ダンテと一緒に夕食を食べながら、祥平は、早速事情を話して、おねだりをしてみた。
ダンテは、おっとりと笑って、快諾してくれた。
「じゃあ、明後日の休みに、ショーヘイとドーラちゃんの服を買いに行こうか。注文して作るには時間が足りないから、どうしても既製品になるけど」
「お願いしまーす。……俺の給料で足りますかね?」
「全然足りないね。私が出すから大丈夫。ちゃんとした服は、一着くらい持っていた方がいいしね」
「えー。分割払いとか……」
「いつも頑張ってくれているご褒美ってことで。ちなみに、どこの貴族かは聞いてるかい?」
「えーと、確か、リーハイント? とか言ってたような?」
「え」
「ん?」
「その、ニー先生のお相手の名前は?」
「パラスさんって言うらしいです」
「えぇ……」
「知り合いですか?」
「知り合いというか、私の祖父だね」
「そふ。……祖父!? ダンテさんのお祖父ちゃん!?」
「そっかー。お祖父様がニー先生の恋人かぁ。……まぁ、お祖母様が亡くなって、もう20年近いし。いいんじゃないかなぁ」
「ちなみに、ミミーナさんから、高位の貴族の出らしいってのは聞いてるんですけど、リーハイント? ってお家は、どれくらいのお家なんですか?」
「公爵家だね」
「こうしゃくけ」
「四代前の当主が王弟で、ついでに、お祖母様が当時の国王陛下の妹だったんだよねぇ」
「え、マジ? ヤバくない? そんなヤバい家に行くんですか!? 俺達!!」
「お祖父様は離れに住んでるから、他の家の者とは会わないと思うよ。お祖父様も竜騎士だったからね。お祖父様の飛竜の子供がピエリーなんだよ。お祖父様は、かなり気さくな人だし、礼儀作法に煩い方じゃないから、普通に行っても大丈夫だよ。私も一緒だしね」
「俺、ダンテさんにずっとくっついてます。ドーラちゃんと一緒に」
「はははっ。本当に大丈夫だから。まぁ、美味しいものでも食べに行く感覚で行けばいいと思うよ」
「むーりーでーすー! こっちは根っからのド庶民なんで!」
「大丈夫大丈夫。あ、休みは調整しておくね」
「あ、はい。お願いします」
ダンテは、いつも通りおっとりのほほんと笑っているが、祥平は微妙に胃が痛くなってきた。
当日は、本気でずっとダンテにくっついて過ごす。祥平は、勝手にそう決めた。
今日は、祥平は休みの日だ。ダンテは仕事である。ダンテを見送り、朝の家事を終わらせると、祥平は、肩掛け鞄に財布と家の鍵を入れて、ダンテに買ってもらった分厚いコートを着て、家を出た。
街で暮らし始めて、そろそろ半年が近い。白い街にもだいぶ慣れてきて、神殿ならば、1人でも迷わず行けるようになっている。『ヤバい。迷ったか?』と思ったら、躊躇なく、そこら辺にいる人に道を聞いている。祥平が見るからに『神様からの贈り人』だからか、皆、親切に道を教えてくれる。たまに、拝まれるが、気にしないことにしている。
丘を上り、神殿に到着すると、真っ直ぐにドーラの部屋に向かった。今日は一際寒いから、自分の部屋で二度寝していそうな気がする。
ドーラの部屋のドアをノックすると、ドアがすぐに開き、ちゃんと普通に服を着たドーラが顔を出して、ガシッと祥平の腕を掴んだ。
「ショーヘイ! 待ってたのよ!」
「おはよう。ドーラちゃん。なんかあった?」
「おはよう! とりあえず、今すぐ医務室に行くわよ!」
「あ、うん」
祥平は、何事だろうと首を傾げながら、ドーラに引っ張られるようにして、医務室に向かった。医務室の隣には、医務室の主みたいな存在である『神様からの贈り人』のニーの部屋がある。本当はもっとすごーく長い名前があるのだが、発音が難しく、皆、『ニー先生』と呼んでいる。とても穏やかな気性をした、見た目は完全にリザードマンなベテラン治癒魔法士だ。
ドーラが、ニーの部屋のドアをノックすると、すぐにドアが開いて、ニーが顔を出した。ニーは、とても体格がいい。この世界の人達よりも、更に頭一つ分くらい背が高い。錆色の鱗がキレイだと思う。まんま爬虫類な目は、見慣れたら、なんか可愛い。ちなみに、ニーは雄である。
ニーが、祥平とドーラを見て、二シャアと微笑んだ。口元から鋭い牙が見えているが、あまり怖くはない。
「ドーラ。ショーヘイ。いらっしゃい。中へどうぞ。朝のうちにペッタを焼いたので、一緒に食べましょう」
「やった! ありがとうございます。ニー先生」
「ありがたく、ご馳走になります」
「いえいえ。ショーヘイには、ちょっと相談にのってもらいたいのです」
「相談? 俺でよければ、話を聞きますよ」
「ありがとうございます。お茶を飲みながら話しましょうか」
ニーが部屋に入れてくれた。ニーの部屋は、壁際一面が本棚で、特大のベッドの他には、衣装箪笥と、小さなテーブルと椅子があった。部屋の隅に魔導ポットが置いてあり、ニーがすぐに、カカット茶を淹れてくれた。
カカット茶を一口飲んだニーが、なにやら言いにくそうに、口を開いた。
「その、実は、つい最近、恋人ができまして」
「おぉ! おめでとうございます!」
「ありがとうございます。年甲斐もなく恥ずかしいのですが、その、とても熱烈に口説かれてしまって、つい絆されてしまったというか、なんというか……私は、この通り、こちらの世界の人とは、姿が大きく異なりますから、恋人になったはいいものの、どうしたものかと……」
「えー。普通にお相手の方とイチャイチャラブラブを楽しめばいいんじゃないですか?」
「そ、そうですね。……実は、次の次の休みの日に、お屋敷に来ないかと誘われたのです。相手は、隠居をしていますが、貴族の方で、『是非とも着てほしい』と服まで贈ってくださったのです」
「へぇー。すげー。ぽんと服を贈るなんて、流石、貴族ですね」
「いきなり2人きりで過ごすのは、どうしても緊張してしまうので、ドーラについてきて欲しいとお願いをしたのです」
「おや」
「それでね、ショーヘイ。ニー先生は、恋人から贈ってもらった服があるけど、私は何を着ていったらいいのか、サッパリなのよ。貴族のお屋敷に、いつもの格好で行くのは流石にマズい気がするし、私も緊張するから、ショーヘイも一緒に来て」
「マジか。えー。まぁ、いいけど。俺も貴族のお屋敷に着ていける服なんて持ってないなぁ。ダンテさんにお願いしてみる? ミミーナさん曰く、かなり高位の貴族の出らしいから。なんなら、当日もついてきてもらおう。俺達、貴族の礼儀作法なんて知らないし」
「それだわ!! ダンテさんを頼ろう!」
「ダンテさん、明後日が休みの予定だから、その日に服を買いに連れて行ってもらおうか」
「うん! あ、ついでに、ニー先生に服の着方を教えてもらえないかしら?」
「服の着方?」
「はい。恥ずかしいのですが、医務室の制服以外だと、寝間着しか着たことが無いものですから、服の着方が分からなくて、困っているのです」
「なるほど。じゃあ、今日にでも、ダンテさんにおねだりしてみますね」
「お願いしますね。ショーヘイ」
「ありがとう! ショーヘイ! ほんっと! 助かるー!!」
「いえいえ。ダンテさんなら、多分なんとかしてくれるんじゃないかなぁ」
祥平は、のほほんと笑って、ニー手作りのペッタというクッキーみたいなお菓子を頬張った。素直に美味しい。是非とも、作り方のコツを教えてもらいたいくらいである。
話が終わる頃には、昼食の支度の時間になったので、ニーも一緒に、ニーの部屋を出て、台所へと向かった。今日も持参してきたメモ帳にしている本を見ながら、習ったばかりの料理をドーラと一緒に作る。
メモ帳にしている本を眺めて、ドーラが拗ねたように唇を尖らせた。
「ショーヘイ。そろそろ、こっちの文字で書いてよ。日本語は、私、読めないわ」
「いやぁ。ミミーナさんに習いながら、いつも走り書きでメモしてるから、どうしても日本語の方が楽なんだよねぇ」
「これがショーヘイの故郷の文字ですか。何種類も文字があるように見えるのですが」
「そうですよー。あ、ドーラちゃん。そろそろ魚をひっくり返そう」
「うん。ガンダナもそろそろかしら」
「そろそろ大丈夫かな」
「『ポテサラもどき』、すごい好きー。美味しいもの!」
「そりゃ、よかった」
祥平は、ドーラ達と一緒に作った昼食を食べ、午後から、ドーラと一緒に、神殿内にある図書室に行って、夕方近くまで、神殿で過ごした。
家に帰って、夕方の家事を済ませ、夕食を作り終えたタイミングで、ダンテが帰ってきた。玄関で出迎えると、ぴゅんっと素早く、ピエリーが飛びついてきたので、ピエリーを撫でまくってから、肩に乗せる。
ダンテと一緒に夕食を食べながら、祥平は、早速事情を話して、おねだりをしてみた。
ダンテは、おっとりと笑って、快諾してくれた。
「じゃあ、明後日の休みに、ショーヘイとドーラちゃんの服を買いに行こうか。注文して作るには時間が足りないから、どうしても既製品になるけど」
「お願いしまーす。……俺の給料で足りますかね?」
「全然足りないね。私が出すから大丈夫。ちゃんとした服は、一着くらい持っていた方がいいしね」
「えー。分割払いとか……」
「いつも頑張ってくれているご褒美ってことで。ちなみに、どこの貴族かは聞いてるかい?」
「えーと、確か、リーハイント? とか言ってたような?」
「え」
「ん?」
「その、ニー先生のお相手の名前は?」
「パラスさんって言うらしいです」
「えぇ……」
「知り合いですか?」
「知り合いというか、私の祖父だね」
「そふ。……祖父!? ダンテさんのお祖父ちゃん!?」
「そっかー。お祖父様がニー先生の恋人かぁ。……まぁ、お祖母様が亡くなって、もう20年近いし。いいんじゃないかなぁ」
「ちなみに、ミミーナさんから、高位の貴族の出らしいってのは聞いてるんですけど、リーハイント? ってお家は、どれくらいのお家なんですか?」
「公爵家だね」
「こうしゃくけ」
「四代前の当主が王弟で、ついでに、お祖母様が当時の国王陛下の妹だったんだよねぇ」
「え、マジ? ヤバくない? そんなヤバい家に行くんですか!? 俺達!!」
「お祖父様は離れに住んでるから、他の家の者とは会わないと思うよ。お祖父様も竜騎士だったからね。お祖父様の飛竜の子供がピエリーなんだよ。お祖父様は、かなり気さくな人だし、礼儀作法に煩い方じゃないから、普通に行っても大丈夫だよ。私も一緒だしね」
「俺、ダンテさんにずっとくっついてます。ドーラちゃんと一緒に」
「はははっ。本当に大丈夫だから。まぁ、美味しいものでも食べに行く感覚で行けばいいと思うよ」
「むーりーでーすー! こっちは根っからのド庶民なんで!」
「大丈夫大丈夫。あ、休みは調整しておくね」
「あ、はい。お願いします」
ダンテは、いつも通りおっとりのほほんと笑っているが、祥平は微妙に胃が痛くなってきた。
当日は、本気でずっとダンテにくっついて過ごす。祥平は、勝手にそう決めた。
応援ありがとうございます!
95
お気に入りに追加
655
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる