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36:問答無用じゃー!

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 パラスとリアリーが一緒に暮らし始めて10日が過ぎた。ダンテの様子がなんだか少し変になって、7日になる。

 ダンテは、朝起きたらすぐにシャワーを浴びるし、帰ってきた時もすぐに風呂に入る。休みの日は、昼間にもシャワーを浴びていた。どんだけ洗っているのか、石鹸の減りが微妙に早くなっているし、なんとなく、いつもより祥平との距離が離れてる気がする。目が合うことが減った気もするし、寝る時もなんか微妙に挙動不審になっている。意味が分からない。本当に一体何なのだ。特に何かした覚えも無いので、この状況が不思議でならない。

 もう少し様子見しようかとも思ったが、祥平はそんなに気が長い方じゃない。ダンテにサクッと理由を吐かせた方が、祥平的にはスッキリする。祥平が、もし、気づかないうちに何かしてしまったのなら、改善しなくてはいけない。明日は、祥平もダンテも休みの日である。ダンテに最近変な理由を吐かせるには、好都合だ。祥平は、今夜、ダンテに理由を吐かせると決意した。

 今日も帰ってきたら、ダンテはそそくさと風呂に入りに行った。微かにぎゅるるる……と腹の虫が鳴いていたのに。以前だったら、絶対に先に食事をしていた筈である。ダンテは、基本的にいつでも腹ぺこさんの真性食いしん坊だ。本当に、一体急にどうしたというのだ。

 祥平は、ピエリーの腹に顔をすりすりしてから、夕食を居間のテーブルに運んだ。

 夜。ダンテとパラスが酒を飲んでいる横で、祥平はのんびりラーリオ茶を飲みながら、自作のレシピ本を、真新しい白いノートみたいな本に、こちらの文字で書き写していた。主にレシピを書いているメモ帳にしている本は、つい最近、二冊目に突入した。覚えることが、まだまだ多い。

 ダンテとパラスの穏やかな世間話をなんとなく聴きながら、黙々と書き写していると、ダンテに声をかけられた。


「ショーヘイ。そろそろお終いにしよう。根を詰めると疲れるよ」

「そうですね。寝ますか。2人とも、お酒はもういいんですか?」

「うん」

「あぁ。明日は朝から神殿に行く予定だからな。ニーが休みだから」

「なるほど。じゃあ、朝の家事は俺がしとくんで、お祖父ちゃんは早くニー先生の所に行ってくださいよ。ニー先生が喜ぶんで」

「ふふっ。では、そうさせてもらおう」


 パラスがご機嫌に笑って、椅子から立ち上がった。ダンテも穏やかな顔で立ち上がったので、祥平は、手早く片付けて、空になったマグカップも持って、台所に寄ってから、自室にメモ帳にしている本等を置いた。ちなみに、酒を飲む時は、後片付けは自分ですることになっている。特に話し合ったりとかしていないが、ダンテもパラスも、家で飲む時は、自分でグラスを洗っている。

 トントンと軽やかな足取りで階段を上り、ダンテの部屋に向かう。今夜は問答無用で吐かせる。目が合わないのも、なんとなく距離が離れたのも、なんか面白くない。
 祥平は、ダンテの部屋に入ると、ベッドに上がって、夏物の薄いブランケットを被って寝る体勢になっているダンテの腹のあたりに跨り、そのままダンテの腹に腰を下ろした。


「ショッ、ショーヘイ!?」

「ダンテさーん。最近、なんか変ですよ」

「うぇっ!? そ、そんなことはないよ?」


 ダンテが祥平を見上げながら、挙動不審に目を泳がせた。まだ明かりはつけたままなので、ダンテの日焼けした目尻のあたりがじんわり赤く染まったのが分かる。
 祥平はにっこり笑って、手を伸ばしてダンテの頬を両手で掴んで固定し、ちょっと屈んで、無理矢理ダンテと目を合わせた。


「とっとと理由を吐く」

「……い、いやぁ? 別に私は普段通り……」

「じゃないですから。目が合わねぇし、なんかいつもより離れてるし、すぐ風呂に行くし。速やかに理由を吐いてください」

「…………そ、それは、ちょっと……?」

「いいから吐く! 問答無用じゃー! 吐かないなら、いっそのこと、ちゅーしてやる!! 俺にもダメージくるけどね!」

「それは流石に駄目だろう!?」

「じゃあ、さっさと理由を吐いてください。俺がなんかしちゃったんなら、改善しますし」

「で、でも……」

「5、数えるうちに吐かないと、本当にちゅーします。いーち、にー、さー……」

「ショッ、ショーヘイの足で抜きましたっ!! ごめんなさいっ!!」

「…………は?」


 予想外の答えに、祥平は、ぽかんと間抜けに口を開けた。頬を掴んでいるダンテの顔がどんどん熱くなって、ダンテの顔が真っ赤になり、挙動不審に目を泳がせまくっている。


「その、あの、トイレで起きたら、ショーヘイの寝間着の裾が思いっきり捲れてて、何故か分かんないけど、勃っちゃって、ピエリーを思い浮かべて萎えさせようとしたけど無理で、結局ショーヘイの足で抜きました! ごめんなさい!」

「えぇーー。マジか。この足で抜けるんですか? ダンテさん」

「わぁ!? ちょっ、捲らないで! 足見せないで!」


 祥平がダンテの顔から手を離し、寝間着の裾を思いっきり捲って足を出すと、ダンテがあわあわし始めた。あまりにもダンテがあわあわして、顔を真っ赤にさせているので、なんか、エロ漫画の隣のえっちなお姉さんしてる気分になってきた。
 祥平は、寝間着の裾を戻すと、髭が生えた自分の顎を擦った。


「不思議なことに、『やだー。キモーい。ありえなーい』って感じはしないですね」

「きもい?」

「気持ちが悪いの略です。んーー? なんだろ。別にズリネタにされても、特に不快ではないですね。よく俺の足で抜けたなぁと不思議には思いますけど」

「ずりねた?」

「オナニー、自慰の時のネタのことです。ダンテさん。普段のズリネタって何なんですか?」

「………その、特に無くて、いつも単に擦って出してるだけ……そもそも、その、自慰は、殆どしない……」

「マジっすか。えー! 俺がダンテさんの歳の頃は、3日に一回はやってましたよー! ダンテさんは聖人なんですか」

「普通に俗人です……」

「風呂に入って、洗いまくってた理由は?」

「……寝起きのショーヘイが、『汗臭い』って……」

「あぁ。ダンテさん、筋肉質だからか、汗っかきですよね。基本、汗臭いです。任務後の服とか訓練着とか、目に染みる汗臭さ」

「ぐはっ……」

「でも、別に嫌いじゃないですよ? ダンテさんの汗の匂い。くっせーとは思うけど。ダンテさん。ダンテさん」

「……はい」

「ダンテさんって俺のこと好きなんですか? 性的な意味で」

「それは無いっ! ……と思う……多分……」

「ふーん? まぁ、俺としては、ダンテさんが汗臭いのは嫌いじゃないし、前の距離感が一番心地いいから、ズリネタにしたいなら、別にズリネタにしてもらっても全然大丈夫ですよ。おっさんの足で抜けるもんなら抜いてみろー。ということで、理由を聞いてスッキリしたので俺は寝ます」

「え、えぇ……私は、これはどうすれば……?」

「寝ればいいんじゃないですか? 明日は一緒に神殿に行きましょうよ。ドーラちゃんに会いに」

「あ、はい」


 祥平は、理由を聞いてスッキリしたので、ダンテの腹からどいた。ダンテが被っているブランケットの中にもぞもぞと入り込んで、ダンテにくっつく。汗混じりの体臭と慣れたダンテの体温が、妙に落ち着く。祥平は、そのまま、すやぁと寝落ちた。

 翌朝。祥平は、いつものようにピエリーに起こしてもらうと、ダンテの寝顔をなんとなく眺めた。ダンテは髭を脱毛したから、朝でも口周りや顎がつるりとしている。

 なんとなく、ダンテの頬を指先でつんつん突くと、祥平は静かにベッドから下りた。

 ダンテが、ショーヘイの足をズリネタにしたからといって、不思議と、気持ち悪いとは思わない。おっさんのしょぼい足で抜くなんて猛者かよ、とは思うが。
 最近変だった理由を聞けてスッキリしたし、そのうち、ダンテも普段通りに戻るだろう。多分。

 祥平は、ピエリーを頭の上に乗せたまま、階下の自室に着替えを取りに行き、シャワーを浴びに、風呂場に向かった。

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