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42:気分転換大事!

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 夏真っ盛りになってきた。ダンテが帰ってくるまで、あと一ヶ月もある。ダンテは、かなりギリギリだが、一応ドーラの誕生日の前には帰ってくる予定である。

 祥平は、朝の家事を手早く終わらせると、やっと道を完全に覚えたミミーナの家に向かった。今日は、ミミーナと市場で買い物をしてから、神殿に行く予定だ。

 つい2日前に様子を見に訪れたディータから、ドーラがちょっと荒れていると聞いた。なんでも、初級治癒魔法士の資格試験が近いのに、連日のように貴族から手紙が届いてきて、いまいち勉強に集中できない状態らしい。貴族からの手紙を読まずに捨てても、何度も何度も同じ貴族の家から手紙が届くので、ドーラの世話役のキリバからの助言もあり、キッパリお断りする手紙を書くようにしたのだとか。そのせいで、勉強時間が減って、試験前のドーラは、ここ最近、ずっとピリピリしているそうだ。

 ディータ経由で、キリバから、ドーラの気分転換に付き合ってやって欲しいと頼まれた。試験前だから、勉強は確かに大事だが、ちょっと気分転換させてやらないといけないくらいには、ドーラがピリピリカリカリしちゃってるみたいだ。

 祥平も、1人で悶々と悩むことが多くて、気分転換がしたかったので、ミミーナを誘って、息抜きパーティーをすることにした。ニーも今日は休みだと聞いているので、ニーとパラスも招待するつもりだ。ディータも誘ってあるし、ディータにキリバを誘うようお願いもした。ぱぁーっと美味しいものをいっぱい食べて、思いっきり気分転換したい。

 祥平は、ミミーナの家でミミーナと合流すると、市場に行き、大量の食材を買って、重い荷物を抱えて、神殿へと向かった。

 神殿に着くと、真っ先に台所へ向かい、重たい荷物を置かせてもらう。今日は、ガルバドーンという、かなりデカい魚を買ってきた。顔がどう見ても、満員電車に詰め込まれてる疲れたサラリーマンのおっさんにしか見えない。だが、味はかなり美味しいみたいで、高級魚になるらしい。確かに割と高かったが、折角だし、奮発して買ってみた。大鍋を借りて、酒蒸しにする予定である。他にも、色々な季節の野菜や果物を買ってきたので、賑やかなパーティーになりそうだ。

 台所にいた顔見知りの神官から、水を貰うと、祥平は、冷たい水を一気飲みしてから、だらだら流れる顔の汗を自作のハンカチで拭った。同じく顔の汗を拭いているミミーナが、にっこりと笑った。


「それじゃあ、ドーラちゃんを呼びに行きましょう。楽しいパーティーにしなきゃね」

「はい。ふっふっふ。ドーラちゃん。馬鹿デカい魚にビックリでしょうね」


 祥平は、ミミーナと一緒に、ドーラの部屋へと向かった。ドーラの部屋のドアをノックすれば、今日は長い髪をお団子にしているドーラが顔を出した。なんだか、前に会った時よりも、げっそりと疲れた顔をしている。


「おはよう。ドーラちゃん」

「あー。おはよう。ショーヘイ。ミミーナさん。ごめん。今日は、私、1日勉強するつもりだから」

「はっはっは。ドーラちゃん。今日は、ドーラちゃんは1日休みだー!」

「はぁー!? 試験まであと10日なんですけどー!?」

「あのね、ドーラちゃん。勉強はずっと毎日頑張ってたでしょ? 今更たかが1日休んだからって、別に問題無いから。ていうか、1日勉強休んだくらいで落ちる試験なら、最初から受からないし」

「…………でも、特に最近、勉強時間が減ってるし……」

「コツコツ積み重ねてきたものはしっかり身についてるから大丈夫! ドーラちゃんに今一番必要なのは、気分転換です! ということで、プチパーティーしよー」

「え、えぇーー。……本当にいいのかしら」

「いいんだよー。気分転換は大事だよ。勉強する日は勉強する。休む日は思いっきり休む。何事もメリハリが大事。今日は、ニー先生も休みでしょ。ニー先生達やキリバさん達も誘ってプチパーティーしようよ。珍しい魚も買ってあるし」

「うーーーー。分かったわ。そうね。今更焦っても仕方がないわね。ギリギリまで頑張るけど、今日は休むわ」

「そうこなくっちゃ。さっ。先に、ニー先生達を誘いに行こう。キリバさんはディータさんが誘ってくれてる筈だから」

「うん。ショーヘイ。ミミーナさん。ありがとう」

「お礼を言われることはしてないよ」

「うふふ。ドーラちゃん。いつも頑張ってるご褒美に、今日はいっぱい美味しいものを作って食べましょうね」

「うん!」


 ドーラが、やっと明るい笑みを見せた。医務室の隣のニーの部屋を3人で訪ねれば、ニーもパラスも居た。2人をプチパーティーに誘うと、笑って快諾してくれたので、早速皆で台所に移動する。ディータもキリバも、今日は普通に仕事の日なので、昼食の時間だけの参加になる。昼食の時間までに、料理を完成させなければならない。ここからは、ちょっと時間との勝負感がある。

 台所で、ガルバドーンを見たドーラのテンションが、ぎゅんと上がった。


「何この魚ーー! でっか! 顔がおじさんみたい!」

「なー。どう見ても疲れたおっさんの顔だよな。この国の食べ物ってさ、なんかおっさんの顔がついてる率高くない? アルモンとかさー」

「これ、どうするの?」

「鱗をとって、お腹を開いて、腸を出してから、刻んだお野菜と香草を詰めて、酒蒸しにするのよ」

「へぇー。私、やってみたい!」

「えぇえぇ。一緒にやりましょうね。鱗がちょっと硬くて大変だから、鱗だけは男性陣にお願いしましょうね」 

「ミミーナさん。俺の力でいけます?」

「うーん。ギリギリ?」

「ははっ。では、私が鱗をとろう。大昔に一度だけやったことがある」

「そうなんですか? パラス」

「あぁ。海辺の街に行く任務で、ちょっと暇な時間ができたから釣りをしたら、こいつが釣れてな。地元民に習って、酒蒸しにして、部下達と一緒に食べた。こいつは美味いぞ。それに、確か、今が旬の時期だ」

「おぉー! じゃあ、鱗はお祖父ちゃんに任せて。ドーラちゃん。とりあえず魚の腹に入れるものを刻んでおこう」

「はーい! わぁ。野菜もいっぱい。これ、見たことないわ」

「それはギジギジといって、香りがいいから、ちょっと癖のあるお魚やお肉と相性がとてもいいのよ」

「へぇー。洗って、普通に切ったらいいの?」

「そうね。まず、半分に切ってから、中の種を取って、それから刻むのよ。一緒にやりましょうね」

「うん」

「ショーヘイとニー先生は、これとこれとこれ、あとこれをみじん切りにしてくださいな」

「りょーかいでーす」

「えぇ。分かりました」


 5人で作業分担しつつ、わちゃわちゃとお喋りをしながら、ガルバドーンの酒蒸し以外の料理も作っていく。ちょうど、お昼時に、料理が全部完成した。甘いものは、祥平が昨日焼いておいたペッタと、ミミーナが作ってくれたドライフルーツ入りのケーキがある。

 ディータとキリバが台所にやって来たので、プチパーティーの始まりである。
 ガルバドーンは、鯛の旨味をギュギューっと凝縮したような、ものすっごく美味しい魚だった。腹に詰めた香草の香りが、しっかり魚の生臭さを消してくれていて、ひたすら旨味しか感じない。
 ガルバドーンを食べたドーラが、キラキラと目を輝かせた。


「おーいしーい! 何これ! すっごい美味しい! すっごい美味しい!」

「なー。ヤバいな。これ。めちゃくちゃ美味いー!」

「上手く出来てよかったわぁ。高級魚だから、私も二回しか料理したこと無かったの」

「うむ。美味い。ニー。あーん」

「パラス。人前では恥ずかしいので、あーんはしません。ふふっ。でも、本当に美味しい魚ですねぇ」

「珍しいものが食べられて嬉しいですなぁ。キリバ殿」

「そうですね。ディータ殿。本当に美味しいです。他のお料理も美味しいですねぇ」


 皆、美味しそうに、楽しそうに、沢山作った料理を食べてくれる。美味しいものを食べて、ドーラが本当に幸せそうに笑っているし、祥平も最近ちょっと落ち気味だった気分がかなり上がった。ここに、ダンテとピエリーがいてくれたら、もっと嬉しいのだが、贅沢は言うまい。ダンテとピエリーとは、帰ってきてから、また一緒に美味しいものを食べよう。

 プチパーティーがいい気分転換になったのか、それから10日後にあった初級治癒魔法士試験に、ドーラは見事に合格した。
 気分転換は大事!!

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