竜騎士さん家の家政夫さん

丸井まー(旧:まー)

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75:愛し愛される家族がいる幸せ

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 冬華祭の7日前。
 今日は、ドーラの結婚式だ。ドーラは、20歳になり、無事に上級治癒魔法士の資格試験に合格して、神殿の医務室で、治癒魔法士として本格的に働き始めたばかりである。ドーラの結婚相手は、同じく神殿の医務室で働く治癒魔法士で、柔和な顔立ちをした、穏やかで優しい男だ。1年間、恋人として過ごし、ドーラが無事に上級治癒魔法士になれたので、結婚するということになった。

 ダンテと結婚して4年。何度か、ちょっとした喧嘩はしたけれど、2人と一匹で、仲良く穏やかに暮らせている。ダンテが任務で不在の時は、祥平は、医務室の受付で働いている。受付の仕事は、それなりに忙しいが、寂しさが紛れるので、かなり助かっている。

 祥平は、ピエリーを肩に乗せて、ダンテと一緒に、大広間の近くの個室に向かった。部屋のドアをノックすれば、すぐに部屋のドアが開いた。ドーラの結婚相手のリーガルが、穏やかな笑みで中に入れてくれた。リーガルの鮮やかな青色の髪と同じ色のアオザイもどきを着たドーラは、本当にキレイだった。化粧もして、長い髪を結い上げたドーラは、すっかり大人の女性になっている。
 祥平は、なんだか感極まって、じわぁっと涙が滲んできた。ハンカチで目を押さえていると、ドーラがすぐ近くにやって来て、呆れた顔をした。


「もう! 泣くのは早いわよ! ショーヘイ!」

「だってぇ。ドーラちゃん。本当にキレイだよ。うっ、うっ、あんなにお転婆だったのに、大人になったねぇ……」

「うわ、本気で泣き出した。ダンテさん。どうにかしてよ」

「まぁまぁ。ショーヘイは嬉しいだけだから。本当にキレイだよ。ドーラちゃん。ちょっと早いけど、ご結婚おめでとう。家族が増えるね」

「ありがとう! そのうち、甥っ子姪っ子の顔を見せるから、楽しみにしてて!」

「うぇぇぇぇ……ドーラちゃーん! 誰よりも幸せになるんだよーー!」

「落ち着きなさいよ。ショーヘイ。家族が増えるだけでしょ。別に、どっか遠くに嫁ぐ訳でないし」

「…………それもそうか」

「あ、泣きやんだ」

「リーガル君!」

「はい」

「ドーラちゃんをよろしく! ドーラちゃんは俺達の妹だから、君も今日から俺達の弟ってことで!」

「はい。よろしくお願いしますね」

「ショーヘイ。ちょっと顔を洗った方がいいかも。鼻水がね」

「うげっ。ちょっと顔を洗ってきます。あ、ドーラちゃん。多分、そろそろお祖父ちゃん達とミミーナさんが顔見に来るだろうから」

「分かったわ」

「結婚式で泣いちゃったらどうしよ……」

「もう泣いたじゃない」

「間違いなくキリバさんは泣くから、まぁいいか。俺だけじゃないし」

「ショーヘイ」

「んー?」

「あのね、私、ショーヘイが来るまで、ずっと寂しかったの。キリバさんもニー先生達も、皆、優しかったわ。でも、ずっと、ずっと、寂しくて、この世界にいるのが怖くて堪らなかった」

「…………」

「ショーヘイのお陰なのよ。この世界を好きになれたの。『選択の日』に治癒魔法士になるって決めたのは、本当は、なんとなくだったの。この世界でやりたいことなんか無くて、とりあえず選んでみたってだけ。でも、ショーヘイが、いつだって一生懸命応援してくれて、『ドーラちゃんなら優しい治癒魔法士になれるよ』って言ってくれて。だから、本気で治癒魔法士になりたいって思えたの。ショーヘイ。大好きよ。これからも、側で見守っていて」

「ドーラちゃん……」

「まぁ、弟が増えるけど、ショーヘイの妹の座は私だけのものだし? 末っ子なんだから、これから先もずーーーーっと! 甘やかしてよね!」

「……ははっ。ドーラちゃん。俺もドーラちゃんが本当に大好きだよ。なんせ、可愛い妹だからね。……ドーラちゃんのお陰で、俺はこの世界で前を向いて歩けるようになった。ずっと欲しかった『温かい家族』がいっぱいできた。ドーラちゃん。これからもよろしくね。一緒に笑って生きていこう。俺達、『家族』だから」


 祥平は、やんわりとドーラを抱き締めた。ドーラが小さく鼻を啜って、囁いた。


「大好きよ。お兄ちゃん」

「俺もだよ。ドーラちゃん」


 祥平は、また涙がこみ上げてきて、ぐっと奥歯を噛み締めて、涙を堪えた。

 祥平は、ダンテと2人で部屋を出て、トイレに寄って顔を洗った。大広間に向かいながら、ダンテが、祥平の手を優しく握った。ダンテを見上げれば、ダンテがおっとりと笑った。


「ドーラちゃんは、誰よりも幸せになれるから大丈夫。なんたって、ショーヘイの妹だもの」

「……ははっ。そうですね」

「家族がどんどん増えるね」

「はい。すごく嬉しいです」

「ショーヘイ。愛してるよ。心から。ずっと一緒に生きて、老後は、太っちょとハゲと美人なピエリーと3人でのんびり暮らそうね」

「ははっ! 太っちょとハゲは確定ですか。……ダンテさん。俺も貴方を愛してます。今なら、胸張って叫べますよ」

「叫ばれるのは、嬉しいけど恥ずかしいなぁ」

「ダンテさんを好きになれたお陰で、大事な人がいっぱい増えました。俺は、特別なことなんか無いけど、すごく、すごく、幸せです」

「私も、すごく幸せ」

「これからも、俺と幸せであり続ける努力をしてくれませんか?」

「勿論。ショーヘイが嫌だって言っても、絶対にするよ」

「ははっ! 嫌だなんて言いませんよ。……一緒に、幸せに歳をとっていきましょうか」

「うん。私が太っちょになっても引かないでね」

「太っちょのダンテさんも可愛いから問題無いですね。『可愛い』の権化だし」

「あははっ。またそれ言ってる」


 祥平は、ダンテと顔を見合わせて、へらっと笑った。
 ドーラの結婚式では、また感極まって、ガチ泣きしてしまった。えぐえぐ泣く祥平の肩を、ダンテがずっと抱いていてくれた。

 ドーラがいてくれたから、異世界に来ちゃっても、絶望せずに済んだ。ダンテがいてくれたから、この世界を好きになれた。ミミーナやパラス、ニー達がいてくれたから、ずっと心に絡みついていた足枷を取っ払って、心から人を愛する勇気が出た。

 祥平は、血の繋がりなんて無いけど、大事な大事な家族ができた。

 大いに盛り上がったパーティーの後。昨年、家政婦を引退したミミーナも一緒に、3人と一匹で、のんびり茜色に染まる丘を下りる。


「素敵な結婚式でしたわねぇ。ショーヘイがあんまり泣くから、私もつられて泣いちゃったわ」

「いやー。お恥ずかしい。だって、感極まっちゃったんですもん」

「ははっ! ドーラちゃんは妹だからしょうがないね。初めて会った時は、まだ幼さが残る女の子だったのに、あっという間に大人の女性になっちゃったね」

「本当に。とてもキレイになって。嬉しい限りですわ」

「うぅ……思い出したら、また泣いちゃいそう」

「あらあら。まぁまぁ。泣くのは、帰ってからにしてちょうだいな。つられて泣いちゃうじゃない」

「ずずっ……がんばります……」

「ははっ! 帰ったら胸を貸すよ。ショーヘイ」

「ちょー借ります」

「ふふっ。いくつになっても仲良しねぇ。素敵なことだわ。……ショーヘイもドーラちゃんも、本当に『神様からの贈り人』なのね。貴方達が笑っているとね、周りまで自然と笑顔になっちゃうの。それって、貴方達が、いつだって懸命に生きて、笑ってくれているからよ。私達は、笑顔と幸せのお裾分けを貰ってるようなものね」

「……俺達だけの力じゃないです。ダンテさんがいて、ミミーナさんがいて、ドーラちゃんがいて、お祖父ちゃん達がいて……沢山の人に支えられて、今までずっと生きて、笑ってこられました。ミミーナさんは、俺のお師匠様ですしね!」

「ふふっ! そうね。そういう風に考えてくれる貴方だから、手助けしたくなるのよ」

「ありがとうございます。ミミーナさん」

「こっちこそ、沢山の素敵な出会いをありがとう。これからも、よろしくね」

「はいっ!」


 ミミーナを家に送り届けると、祥平は、ダンテと手を繋いで、のんびり家に帰った。
 玄関のドアから中に入ると、祥平は正面からダンテに抱きついた。ダンテが、ぎゅっと強く抱きしめてくれる。


「ダンテさん。俺、間違いなく世界で一番幸せな男です」

「私もだよ。ショーヘイ。愛してる。ずっと、ずっと、一緒に笑っていよう。私とショーヘイとピエリーと、それから、沢山の家族と一緒に」

「……はい。俺、ダンテさんを愛せて、愛してもらえて、本当に、本当に幸せです」


 祥平は、ダンテの温もりに包まれながら、ちょこっとだけ、温かい涙を流した。

 落ち着くと、ダンテの胸に顔をぐりぐり擦りつけてから、祥平はダンテを見上げて、ニッと笑った。


「晩飯、作りましょうか」

「うん」

「ぴるるるるっ!」


 祥平は着替えると、ピエリーを頭に乗せ、穏やかに笑うダンテと一緒に、台所で美味しい夕食を作り始めた。



(おしまい)

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