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第一部
26:キレた薬師局長(リヒト)
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会議室から出て、ヒューブと並んで歩いていたリヒトは、いつもとは違うヒューブの雰囲気に思わず笑みを浮かべた。
「リヒト」
「はい」
「もうやってられん。コネで入った連中で使えない奴はクビにする。今後一切コネは使わせない」
「それがいいですね」
リヒトとヒューブは先程まで陛下も同席する王宮の全体会議に出席していた。そこで、王宮薬師局は無駄金使いの役立たずだと、ボロカスに言われた。主に医務局長と財務局長に。医務局長は何故かヒューブのことを敵視している。
コネで無理矢理入れさせられた局員は使えない者が多いのは事実なので、下手に反論ができないのが、ずっとリヒトは歯痒かった。
ヒューブが局長になってから、全体会議ではいつもボロカスに言われ、そのくせ上位貴族の身内を無理矢理採用させられたりしていた。そのお陰で王宮薬師局に所属する薬師のレベルが下がり、研究も製薬も、外部の研究所の方が優れているという状態にまでなっている。
『どう責任をとるつもりだ!』と罵ってくる医務局長に、ヒューブがついにキレた。
『使えない者を全てクビにしますよ。いるだけで足を引っ張る者も多いものですから。医務局長の甥っ子さんとかね。王宮薬師局として機能できる必要最低限を残す形で、人員整理をいたします。今後一切、コネによる採用はいたしません。たとえ、王族の方であろうとも平等に試験を受けていただき、それ相応の実力がなければ採用はいたしません。よろしいですか?陛下』
そう言って、陛下を真っ直ぐに見たヒューブは凛としていて、久しぶりに手放しで格好よかった。フィオナが見ていたら、鼻血を出して喜んでいたことだろう。
陛下は穏やかに笑って、頷いた。
身分や地位を嵩にきて、王宮薬師局に身内を押し付けていた連中の顔は見物だった。
ヒューブ本人やヒューブの実家の貴族としての家格は高くない。故に、ヒューブは薬師局長という地位にあっても、自分達上級貴族の言いなりであるべきという考えの連中が少なからずいた。
会議中にチラッと身内でもあるシグルド陛下を見れば、何か企んでいるような顔をしていた。多分、いい機会だから、王宮の人員整理でもする気なのだろう。最近、どうにも一部の上級貴族の有り様が目に余っている。陛下自らテコ入れをしてくれると、ヒューブが必要以上に恨みをかわなくてすむのでありがたい。
普段の草臥れたような雰囲気が無くなり、颯爽と歩きながら、いくつも指示を出してくるヒューブが頼もしくて、リヒトはメモをとりながら、笑みを浮かべた。元々、ヒューブは薬師として優秀なだけでなく、とても頭がキレるし、よく人を見ている人なのだ。だから、前任の薬師局長は自分の後釜をヒューブにした。
「リヒト」
「はい」
「暫くはめちゃくちゃ忙しくなるぞ」
「はい。ふふっ」
「ん?」
「いえ。やっと楽しく仕事ができる環境に戻るなぁと思いまして」
「あー……悪かった。俺が薬師局長になってから散々だもんな」
「前任の薬師局長が退任された時、王宮の機関全体が世代交代した感じだったでしょう?それまでは実力主義だったのに、どこでも金や権力に物を言わせるコネが横行し始めました。陛下もそろそろテコ入れをお考えだったようですから、遠慮なくやっちゃいましょう」
「そうだな」
「疲れたらフィオナの膝で寝てください」
「んー……ん!?」
「誰から聞いたかは言いませんけど、いつの間にか、そういう仲になられたそうで」
「いや!?違うぞ!?違うからなっ!?」
「フィオナはいい子ですよ。まだ若いけど、薬師としてそれなりに優秀です。若いが故にまだまだ伸び代がありますし。警戒心が強くて中々人に懐きませんけど、1度懐いたら、相手をとことん大切にしますし」
「いやまぁ……確かにフィオナちゃんはいい子だけどさ」
「おまけに心身ともに頑丈でタフですから、局長が寄りかかっても大丈夫ですよ」
「えーと……リヒトー?」
「身内の可愛い恋を応援してやりたいんですよねー。俺」
「……フィオナちゃん、やっぱそっちの意味で俺のこと好きなの?」
「気づいてて、流されてたのでは?」
「……まぁ……ぶっちゃけ。歳が離れすぎてるし、フィオナちゃんなら、もっとずっといい男じゃないと釣り合わないだろ」
「いっそ人嫌いの気があるフィオナが選んだのは貴方ですよ」
「あー……話を戻すぞ。薬師局の人員整理の為の資料はどれくらいで用意できる?」
「もうできてます。いつでも使えない奴らをクビにできるように、仕事の合間にチマチマ作ってました」
「流石、リヒト。頼りになるな」
「ついでに、不正なんかも全部証拠を集めてまとめてます。実行犯は勿論、その実家のものも含めて」
「国軍と合同でやった方がいい案件か?」
「んー。ですね。マー君に話を通しておきます」
「マーシャル将軍には全部終わったら謝礼と挨拶に行くと伝えておいてくれよ」
「分かりました」
「リヒト」
「はい」
「全部終わったら、旨い酒でも飲みに行こうぜ。俺達の新たな門出を祝おう」
「ふふっ。楽しみにしときます。『アリアナ亭』がいいです。あそこ、珍しいお酒も色々置いてますから」
「おー。いいな」
「人気のお店だから、予約しときますね」
「頼んだ。俺の副局長は本当に優秀で助かるよ」
「貴方に新人の頃から可愛がってもらってる後輩ですからね。ヒューブ先輩」
「ははっ。お前にそう呼ばれんの、すげぇ久しぶりだな」
「ふふっ」
リヒトは上機嫌に笑った。ヒューブが、リヒトの頼もしくて格好いい先輩だった頃と同じ顔をしている。
ヒューブは元々は、自分に見合った自信を持っており、新たな楽しい研究に貪欲で、普段は快活な面倒見がいい男なのである。
ヒューブが以前と同じ様に生き生きと働く姿を見たくて、密かに用意しておいた諸々を使う時がきた。
局長専用の部屋に入ると、リヒトは笑みを浮かべたまま無言で防音結界を張り、厳重に保管していた大量の資料をヒューブに渡し、資料を手に話し合いを始めた。
楽しい人員整理の時間の始まりである。
「リヒト」
「はい」
「もうやってられん。コネで入った連中で使えない奴はクビにする。今後一切コネは使わせない」
「それがいいですね」
リヒトとヒューブは先程まで陛下も同席する王宮の全体会議に出席していた。そこで、王宮薬師局は無駄金使いの役立たずだと、ボロカスに言われた。主に医務局長と財務局長に。医務局長は何故かヒューブのことを敵視している。
コネで無理矢理入れさせられた局員は使えない者が多いのは事実なので、下手に反論ができないのが、ずっとリヒトは歯痒かった。
ヒューブが局長になってから、全体会議ではいつもボロカスに言われ、そのくせ上位貴族の身内を無理矢理採用させられたりしていた。そのお陰で王宮薬師局に所属する薬師のレベルが下がり、研究も製薬も、外部の研究所の方が優れているという状態にまでなっている。
『どう責任をとるつもりだ!』と罵ってくる医務局長に、ヒューブがついにキレた。
『使えない者を全てクビにしますよ。いるだけで足を引っ張る者も多いものですから。医務局長の甥っ子さんとかね。王宮薬師局として機能できる必要最低限を残す形で、人員整理をいたします。今後一切、コネによる採用はいたしません。たとえ、王族の方であろうとも平等に試験を受けていただき、それ相応の実力がなければ採用はいたしません。よろしいですか?陛下』
そう言って、陛下を真っ直ぐに見たヒューブは凛としていて、久しぶりに手放しで格好よかった。フィオナが見ていたら、鼻血を出して喜んでいたことだろう。
陛下は穏やかに笑って、頷いた。
身分や地位を嵩にきて、王宮薬師局に身内を押し付けていた連中の顔は見物だった。
ヒューブ本人やヒューブの実家の貴族としての家格は高くない。故に、ヒューブは薬師局長という地位にあっても、自分達上級貴族の言いなりであるべきという考えの連中が少なからずいた。
会議中にチラッと身内でもあるシグルド陛下を見れば、何か企んでいるような顔をしていた。多分、いい機会だから、王宮の人員整理でもする気なのだろう。最近、どうにも一部の上級貴族の有り様が目に余っている。陛下自らテコ入れをしてくれると、ヒューブが必要以上に恨みをかわなくてすむのでありがたい。
普段の草臥れたような雰囲気が無くなり、颯爽と歩きながら、いくつも指示を出してくるヒューブが頼もしくて、リヒトはメモをとりながら、笑みを浮かべた。元々、ヒューブは薬師として優秀なだけでなく、とても頭がキレるし、よく人を見ている人なのだ。だから、前任の薬師局長は自分の後釜をヒューブにした。
「リヒト」
「はい」
「暫くはめちゃくちゃ忙しくなるぞ」
「はい。ふふっ」
「ん?」
「いえ。やっと楽しく仕事ができる環境に戻るなぁと思いまして」
「あー……悪かった。俺が薬師局長になってから散々だもんな」
「前任の薬師局長が退任された時、王宮の機関全体が世代交代した感じだったでしょう?それまでは実力主義だったのに、どこでも金や権力に物を言わせるコネが横行し始めました。陛下もそろそろテコ入れをお考えだったようですから、遠慮なくやっちゃいましょう」
「そうだな」
「疲れたらフィオナの膝で寝てください」
「んー……ん!?」
「誰から聞いたかは言いませんけど、いつの間にか、そういう仲になられたそうで」
「いや!?違うぞ!?違うからなっ!?」
「フィオナはいい子ですよ。まだ若いけど、薬師としてそれなりに優秀です。若いが故にまだまだ伸び代がありますし。警戒心が強くて中々人に懐きませんけど、1度懐いたら、相手をとことん大切にしますし」
「いやまぁ……確かにフィオナちゃんはいい子だけどさ」
「おまけに心身ともに頑丈でタフですから、局長が寄りかかっても大丈夫ですよ」
「えーと……リヒトー?」
「身内の可愛い恋を応援してやりたいんですよねー。俺」
「……フィオナちゃん、やっぱそっちの意味で俺のこと好きなの?」
「気づいてて、流されてたのでは?」
「……まぁ……ぶっちゃけ。歳が離れすぎてるし、フィオナちゃんなら、もっとずっといい男じゃないと釣り合わないだろ」
「いっそ人嫌いの気があるフィオナが選んだのは貴方ですよ」
「あー……話を戻すぞ。薬師局の人員整理の為の資料はどれくらいで用意できる?」
「もうできてます。いつでも使えない奴らをクビにできるように、仕事の合間にチマチマ作ってました」
「流石、リヒト。頼りになるな」
「ついでに、不正なんかも全部証拠を集めてまとめてます。実行犯は勿論、その実家のものも含めて」
「国軍と合同でやった方がいい案件か?」
「んー。ですね。マー君に話を通しておきます」
「マーシャル将軍には全部終わったら謝礼と挨拶に行くと伝えておいてくれよ」
「分かりました」
「リヒト」
「はい」
「全部終わったら、旨い酒でも飲みに行こうぜ。俺達の新たな門出を祝おう」
「ふふっ。楽しみにしときます。『アリアナ亭』がいいです。あそこ、珍しいお酒も色々置いてますから」
「おー。いいな」
「人気のお店だから、予約しときますね」
「頼んだ。俺の副局長は本当に優秀で助かるよ」
「貴方に新人の頃から可愛がってもらってる後輩ですからね。ヒューブ先輩」
「ははっ。お前にそう呼ばれんの、すげぇ久しぶりだな」
「ふふっ」
リヒトは上機嫌に笑った。ヒューブが、リヒトの頼もしくて格好いい先輩だった頃と同じ顔をしている。
ヒューブは元々は、自分に見合った自信を持っており、新たな楽しい研究に貪欲で、普段は快活な面倒見がいい男なのである。
ヒューブが以前と同じ様に生き生きと働く姿を見たくて、密かに用意しておいた諸々を使う時がきた。
局長専用の部屋に入ると、リヒトは笑みを浮かべたまま無言で防音結界を張り、厳重に保管していた大量の資料をヒューブに渡し、資料を手に話し合いを始めた。
楽しい人員整理の時間の始まりである。
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