草臥れオッサンの攻略方法

丸井まー(旧:まー)

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第一部

28:相談(リヒト)

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王宮薬師局のそれなりに大規模な人員整理が漸く落ち着き始めた。残業ばかりで伴侶と中々イチャイチャできていないリヒトは、久しぶりに定時で帰れると、いそいそと帰り支度をしていた。
そんなリヒトの肩を、ポンポンと誰かが軽く叩いた。
顔だけで振り返れば、いつにも増して草臥れた雰囲気のヒューブだった。


「……リヒト」

「どうしました?ヒューブ局長」

「頼む。酒に付き合ってくれ。ていうか、話を聞いてくれ」


リヒトはなんだか切実っぽい雰囲気のヒューブに目をぱちくりさせた。伴侶との久しぶりのイチャイチャは捨てがたいが、何やらヒューブも深刻そうである。仕事は色々落ち着いてき始めているので、私生活の方だろうか。内心伴侶に謝りながら、リヒトはこくんと頷いた。


「いいですよ。どこで飲みますか?」

「悪いな。俺の邸でいいか?」

「はい」


リヒトはヒューブに許可をもらってから、携帯通信具で伴侶に連絡し、ヒューブと共に王宮を出た。

ヒューブの邸に着くと、顔馴染みの執事に出迎えられ、美味しい夕食をヒューブと世間話をしながら楽しんだ。
夕食後にキツめの蒸留酒を飲みながら、ヒューブが言いにくそうに口を開いた。


「リヒト」

「はい」

「その、フィオナちゃんからプロポーズをされたんだ」

「おや。ついにですか。おめでとうございます」

「……返事は保留にしてもらってる」

「理由を伺っても?」

「その、だな……実は俺、勃起不全なんだよ……」

「先天的なものですか?」

「いや、後天的で多分間違いなく精神的なものが原因だ」

「いつからですか?」

「3度目の離婚の後。気づいたら朝勃ちもしなくなってた」

「飲酒量は?」

「離婚の後から増えて、局長になってから更に増えたな。……フィオナちゃんにはその事を伝えてあるんだ。というか、ポロッと言っちゃって」

「フィオナは何て言ってました?」

「『それは私が側にいられない理由になりますか?』って」

「要するに気にしないって言われたんですね」

「……まぁ……」


リヒトはこてんと首を傾げた。男にとっては勃起不全は、とてもデリケートかつ重大な問題である。目の前で渋い顔をしているヒューブも人知れず悩んできたのだろう。しかし、そこを気にしているということは、フィオナのことを全く女として意識していない訳ではないようだ。


「ヒューブ先輩」

「ん?」

「フィオナのこと好きですか?」

「……いつも一生懸命で、生命力に溢れた魅力的な女の子だとは思ってる、かな」

「フィオナを全く女として見ていなかったら、即答で断ってますよね」


リヒトの言葉に、ヒューブがキョトンとした顔をした。ヒューブが自分の口を手で押さえ、目を泳がせ始めた。


「……俺、フィオナちゃんが好きなのかな……」

「ヒューブ先輩の心はヒューブ先輩にしか分かりませんけど、少なくとも、フィオナからのプロポーズを即答で断らない程度には好意を持ってますよね」

「う、ま、まぁ……」

「ヒューブ先輩が引っ掛かってるのは、勃起不全のことだけですか?」

「あー……あと、面倒な貴族の付き合いをさせなきゃいけないのとか?俺、一応貴族だし」

「そこら辺はうちのばあ様が色々叩き込んでくれますよ。身分的な問題は、フィオナをサンガレア公爵家の養子にすれば何の問題もないですね。まぁ、あの子の事だから、大人しく貴族女性の生活をするとは思えませんけど。多分、仕事を続ける筈です」

「仕事を辞めないでくれるのは素直に助かるな。がっつりクビを切りまくったし、なによりフィオナちゃんは薬師として優秀な上に、まだまだ伸び代がある」

「細かいことは今は考えずに、単純にフィオナと一緒にいたいかを考えてみたらどうです?一緒のベッドで寝て、一緒にご飯を食べて、一緒に薬草園の手入れをしたり、のんびり余暇を過ごしたり。そういうのフィオナとしたくないですか?」

「……いやでも、フィオナちゃんなら、俺よりもっといい男の方がいいんじゃないか?」

「したいんですね?」

「あー……や、うーん……」

「ごちゃごちゃ考えるのはとりあえず後にしてください。ていうかですね、ヒューブ先輩」

「あ、はい」

「こういう話を俺にする時点で、もうヒューブ先輩の心は決まってるんですよ。きっと背中を押してもらいたいから、俺に話してるんですよ」

「マジか」

「今から背中を全力で蹴っ飛ばすことを言いますよ」

「あ、はい」

「フィオナは本当に心身共に逞しい子だから、ヒューブ先輩がどんだけ寄りかかっても大丈夫です。あの子は貴方の幸せの為なら、なんだってやりますよ。貴方はあの子が初めて恋をした相手ですしね。俺は貴方とフィオナなら共に幸せになれると思いますよ。自慢じゃないですが、うちの家系は本当に一途なんです。愛する相手ができたら、余所見なんて絶対にしませんよ」

「……うん」

「ヒューブ先輩。俺は貴方のことを先輩として尊敬していますし、上司としても敬愛しています。貴方にはいっぱい幸せになってほしいです。うちのフィオナはそこら辺の貴族令嬢とは全然違います。結構人嫌いだし、野生動物並に警戒心が強いし、野生児じみたところがありますけど、あの子は本当にとても優しい子です。フィオナの為じゃなく、貴方の為にフィオナの手をとってほしいです」

「……リヒト」

「はい」

「ありがとな」

「なんか偉そうなことを言っちゃいましたけど、俺、ちゃんと背中を押せてます?」

「もうバッチリ」

「それはよかったです」


ヒューブがふっと穏やかな笑みを浮かべた。


「俺、フィオナちゃん好きだわ」

「はい」

「あの子といると本当に楽しくて、穏やかな気持ちになる。……もっと一緒に過ごしたい」

「結婚に関する諸々は全面協力しますよ」

「ありがとな。あー……なんか吹っ切れたわ」

「それはなによりです」


リヒトはヒューブと顔を見合わせて笑った。
フィオナの初恋はどうやら実りそうである。

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