キツい蒸留酒と甘い果実酒で乾杯

丸井まー(旧:まー)

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13:なんだか新婚さんっぽい

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ウーゴは台所で食器を濯ぐセオと並んで洗い終わって濯いだ食器を拭いていた。
夕食はセオが作ってくれた。持ってきた食料の中に冷凍した肉団子があったので、肉団子のトマトパスタと野菜ゴロゴロのコンソメスープ、温野菜サラダ、残っていた手作りパンでガーリックトーストを作ってくれた。どれも最高に美味しかった。セオはウーゴの為に大量のパスタを湯がいてくれたのだが、量が多過ぎて見た目がなんだかキモいと大笑いしていた。
セオが食器を洗い、水で濯いだものをウーゴに手渡して、ウーゴが布巾で拭いていく。なんだか恋人や夫婦の共同作業っぽくてウキウキしてしまう。台所がそんなに広くないから、セオのすぐ隣を陣取れるのも気分がいい。ウーゴは背が高い方なので、セオを見下ろす形になる。チラッと横を見下ろせば、セオの泣き黒子が目に入る。なんだろう。なんだか凄くいい。内心むふふっ……と浮かれていると、セオが最後に濯いだコップを渡してきたので、布巾片手に受けとる。セオが洗い桶を片付けている横でコップの水気をキレイに拭き取り、食器置きの上に伏せて置いた。完全に乾燥してから食器棚に片付けるそうだ。


「よし。終わり。ありがと、ウーゴ」

「ううん。ご飯作ってもらったし。めちゃめちゃ美味しかった」

「ははっ。それはよかった。焼いてたパンは食べきったし、明日の朝は米でいい?」

「うん。いつも朝は米なんだよ、うち。皆すっごい食べるし」

「マジかー」

「軍人の方の父はまぁ人よりちょっと多いかな?くらいなんだけど、魔術師の方の父と妹は俺くらい食べるよー」

「うわぁ。毎食作るの大変そう」

「はははっ。まぁ慣れてるし。それに非売品の便利魔導製品がゴロゴロあるからねー」

「へぇ。どんなの?」

「んっとねー、米が20分で炊ける上に米を入れたら自動で洗ってくれる業務用サイズの炊飯器とかー、業務用サイズの野菜みじん切り器とかー、キャベツセットしたら自動で千切りにして更に洗ってもくれる『千切り君』とか?あと卵を割って入れるだけで自動でオムレツにしてくれる『オムレツ君3号機』とか。他にもまぁ色々あるよ」

「なにそれすごい」

「全部魔術師の方の父が作ったんだよね。料理を筆頭に家事が苦手だからさ。まぁ、俺と妹もだけど。軍人の方の父が殆んど1人でやってるから、少しでも負担を減らそうってことで趣味と実益を兼ねて研究開発してるんだよね」

「はぁー。魔術師すっごい」

「そうかな?セオみたいに美味しいご飯作れる方がよっぽど凄いと思うけど。俺達、便利な魔導製品使っても、すんごい微妙な代物にしかならないし。壊滅的に味付けとかのセンスがないんだよね。残念ながら」

「そんなに微妙なの?」

「うん。不味くて食えないってわけじゃないんだよ。でも美味しくもないんだよ……」

「うわぁ」

「軍人の方の父は料理上手いし、祖父達も料理上手でさ。普段美味しいもの食べてるから、自分達で作るとね……なんというか、地味にツラいんだよね。特に軍人さんの修羅場期間は軍人の方の父がいなくて、毎年3ヶ月くらい食生活が悲惨」

「あー……領軍の人達って年末年始の前後2、3ヵ月はめちゃめちゃ忙しいんだっけ?」

「そうそう。俺達掃除も苦手だから家の中ちょー荒れるんだよね。掃除やっても何故か逆に散らかるし」

「いや、なんで?」

「わかんない」

「えぇ……」

「本当に何でこんなに家事ができないんだろうね……洗濯物畳むのもあんま得意じゃないし。あ、でも魔導洗濯機の修理とか改造はできるよ?」

「普通逆だよ」

「あ、うん。だよね」

「……もしかして今も家荒れてるの?」

「うん。軍人の方の父が帰ってきたら溜め息吐くレベルで荒れてるね」

「うわぁ……年越し、どうしてたの?」

「年末年始の休みの時はいつも祖父の家に行くんだ。子供の頃からずっとそうしてる。まともな美味しいご飯食べれるし」

「へぇー。あ、そうだ。お酒飲む?」

「飲むー」

「グラス出してよ。食器棚の3段目にあるから」

「うん」

「果実酒でしょ?炭酸水と氷とお湯あるよ。どれか使う?」

「んー。セオは?」

「僕はロックだから氷かな」

「じゃあ俺も氷で」

「そ。じゃあ氷出すよ」


ウーゴは食器棚を開け、グラスを2つ取り出した。セオが魔導冷蔵庫を開けて冷凍室から氷のちょっとした塊を取り出し、金属製のボールに氷を入れてシンクに置いて、戸棚の引き出しから取り出したアイスピックで氷を砕き始める。ガツガツと氷が砕ける音がする。夏場に全自動魔導かき氷機でかき氷を自宅で作ることはあるが、アイスピックで氷を砕いたことはないし、砕くところを見たこともない。家族でたまに酒を飲むこともあるが、基本的にストレートや炭酸水で割ることが殆んどで、ロックで酒を飲むことがない。ロックは店などで飲む時だけじゃないだろうか。


「やろうか?力いるんじゃない?」

「ん?いいよ。慣れてるから」


そう言いながらセオはアイスピックを使い、あっという間に手頃な大きさに氷を砕いてしまった。なんだか凄い。


「……セオって凄いね。まるで魔法の手みたい」

「ん?ふふっ。なにそれ。魔法なんてお伽噺じゃない。こんなの誰にでもできるよ」


セオが可笑しそうに笑った。ウーゴは素直にそう思ったのだが、よくよく考えれば、まるで子供みたいな事を言った気がする。ちょっと恥ずかしい。
セオがウーゴからグラスを受け取って、氷をグラスに放り込んだ。


「ウーゴ。ウーゴのお酒持っておいで」

「うん」


ウーゴは居間に行って、馬鹿デカいリュックの所に置いていた昨夜開けた木苺の酒を手に取った。リュックの中には他にも杏の酒と林檎の酒、柚子の酒が入っている。全部飲みきれる自信はないが、足りなくなるよりマシかな?と思い、貰ってきた。全部祖父が作ったものだ。
木苺の酒を片手に台所に戻ると、セオが蒸留酒をグラスに注いでいた。瓶のラベルは見たことがあるものだ。祖父が好きでよく飲んでいるものと同じだ。


「それ、うちの祖父も好きなやつだ」

「ん?そうなんだ。値段も手頃で美味しいんだよね、これ」

「へぇー」

「はい。瓶貸して」

「うん」

「あ、僕はグラス運ぶから、ウーゴは氷と瓶持ってきてよ」

「分かった」


各々の酒を注いだグラスを持って居間へと向かうセオの後ろを酒瓶2本と氷の入ったボールを持って歩く。
テーブルの上に持ってきたものを置いて、テーブル越しに向かい合って置いてある椅子に座る。
セオがキツい蒸留酒が入ったグラスを片手で持ち上げた。ウーゴも甘い香りがする木苺の酒が入ったグラスを両手で握った。


「乾杯する?」

「うん」

「じゃあ、美味しいお酒に乾杯」

「ははっ。乾杯」


カチンとグラスをぶつけ合うと、酒の中の氷がカランと小さく涼しげな音を立てた。穏やかな笑みを浮かべたセオがグラスの蒸留酒を一息で飲み干すのを見ながら、ウーゴもチビりと木苺の酒を口に含んだ。ふわっと鼻に木苺の甘酸っぱい香りが抜ける。
ふぅ、とセオが満足そうな吐息を吐き、自分で蒸留酒をまたグラスになみなみと注いだ。


「セオって、お酒強いよね」

「そうかな?」

「うん。俺、あんま量飲めないから羨ましい」

「ははっ。いいじゃない。飲める範囲で楽しめば」

「んー。でもなぁ。甘いのしか飲めないし、ちょっと格好悪くない?」

「そう?好みは人各々でしょ」

「んー……セオさ、なんか凄い美味しそうに飲むから、俺もおんなじの飲みたいなって。まぁ飲めないんだけど」

「はははっ。なにそれ」


セオが可笑しそうに笑った。
なんだかセオの笑う顔と笑い声が嬉しくて、ウーゴもふふっと微笑んだ。


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