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6:普段の生活
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ミゲルは職場でムートの机に持ってきていた弁当を広げた。行楽用の3段お重の1段に2人分の昼食を詰めている。いずれ子供が大きくなったらピクニックに行こうと早々と買っておいたものだ。税務課のすぐ横にある給湯室で熱いお茶も淹れてきている。ムートに軽い木でできている取り皿と箸を渡し、2人揃って食べ始めた。ムートと一緒に暮らすようになってから、毎日このスタイルで昼食を取っている。職場には安い食堂もあるが、自分達で弁当を作った方がより安い。なんなら常備菜と前夜のおかずの余りとおにぎりを突っ込むだけでいいのだ。実際、今日の弁当のメイルは昨夜ムートが作った鶏肉のピカタである。別にミゲルは昨夜と今日の昼が同じおかずでも気にしない。ムートも特に気にしていない。
午前中にきた少し面倒くさい仕事の案件について話しながら食べていると、部下の1人が微妙な顔で近づいてきた。
「課長。副課長」
「なに?カーター君」
「皆を代表して聞きます」
「うん」
「何で毎日課長の机で弁当広げて一緒に食ってるんですか?」
「いやだって夫婦だし」
「それですよぉ!なんかもう急すぎませんっ!?」
「えー。別に僕達付き合ってまーすとか、宣言したりしないじゃない。流石に結婚したとは言ったけどー」
「そうですけどぉ!」
ミゲルとムートが結婚届けを提出したその日の就業時間の終わりに、職場の者達へはムートが結婚報告をした。結婚届けを提出した直後にムートは更に上の上司にも報告している。税務課課長の名字が急に変わると混乱するところも出てくるし、書類に押すムートの印鑑等も変更する必要が出てくるので、ムートが課長を辞めて別の課に異動するまでは、仕事はムートは以前の姓で行うことになった。上司には子供をつくることも言っており、3年後に人事課に異動することが早くも決まった。
皆を代表して来たというカーターはかなり優秀な人物で人望も厚いので、ムートは彼を後任にするつもりである。まだ本人には言っていないが。
「つーか、何でそんなデカい弁当2人でつついてるんですか。分けたらいいでしょ」
「こっちの方が作るのも楽だし、洗うのも楽じゃない。どうせ一緒に食べるんだし」
「所帯染みすぎでしょ。独り身の俺には目に毒なんですよ。羨ましい」
「なんだ。独り者の僻みか」
「くぅ……羨ましい。イチャイチャしてぇ!」
カーターは独身である。結構最近長く付き合っていた彼氏と別れたらしい。カーターも男専門で、それなりに長く働いている。ミゲルはムートとカーターの会話を聞きながら、おにぎりを頬張り、もぐもぐ食べている。今日はムートが弁当を作った。夕食を作る方が翌朝に弁当も作るのだ。ムートのおにぎりは少し塩が薄い。それでも十分美味しいし、なんとなく優しい味がする。
「どういう経緯で結婚することになったか聞いてこいって色んな奴に言われたんですけど」
「はぁー?皆好きだねぇ」
「いやぁ、だって。税務課の課長と副課長の結婚ですよ?それもかなり寝耳に水っていうか、急でしたし」
「まぁね」
「課長って結構モテるんですよ?課長を持ってかれてギリギリしてる奴がそこそこいるんですよ」
「ん?そうなの?」
「顔がいいし、大人の男って感じだし、税務課の課長だし、長く勤めてるからお金持ってるし」
「後半2つはすごく微妙な理由なんだけど」
「まぁ、人間なんてそんなものです。結婚を視野に入れたら、地位や金があるかって割と重要でしょう?特に若い奴らにとっては」
「無駄に生々しくて嫌だよ」
「はははっ。で、どうなんですか?」
「えー。別に普通に付き合って普通に結婚しただけだよ。お互い子供も欲しいって感じだったし」
「へぇー。なんで隠してたんですか?」
「別にわざわざ隠してはいないよ。言わなかっただけ」
「えー。なんかこう、ドラマチックな何かとか」
「あるわけないでしょ。そんなの」
「なんだー。まぁ、課長と副課長は仕事の付き合い長いですしね」
「そうそう」
「分かりました。興味津々でうずうずしてる連中にはそう言っときますよ。飯の最中にお邪魔してすいませんでした」
「いいよー」
カーターが軽く頭を下げて、自分の机の方に歩いていった。ミゲルは2人が話している間に食べ終わり、今は温くなったお茶を飲んでいる。
「やれやれ」
「まぁ、予想できていた事態ですね」
「そうだねぇ」
「実際、もう何度か絡まれてますしね。僕」
「え?そうなの?」
「はい。貴方、本当に地味にモテるんですよ。カーター君が言ってた通り、特に若い連中からすると結婚相手としてはかなりいい物件ですし」
「えぇー。なんかやだー」
「ま、仕方がないですよ。役所中で噂になってるらしいですけど、そのうち皆飽きるでしょう」
「そうだね」
ムートがのんびり弁当を食べるのを眺めながら、ミゲルはゆったりお茶を飲んだ。
ーーーーーー
就業時間が終わり、ミゲルはムートと共に職場を出た。2人とも余程の繁忙期以外は残業をしない主義である。今日も就業時間が終わるとさっさと職場を出てきた。
職場以外では仕事の話をしないと最初に決めている。お互い相手のことを知らないことの方が多いので、いつも通勤の時は子供の頃の話や食べ物に関する話等をしている。
家に帰り着くと、2階の自室で部屋着に着替えてから、居間に下りる。居間に置いてある小さな黒板を見てから、ミゲルは台所へと移動した。黒板はチョークで真ん中を仕切り、右側には1週間分の3食のメニュー、左側には1週間の家事担当が書かれている。今日はミゲルは炊事と風呂掃除と仕事用のシャツのアイロンかけ担当で、ムートは洗濯と風呂以外の掃除担当である。ムートは着替えるなり、パタパタと庭に干してある洗濯物を取り込みに行った。
それを横目に見ながら台所へ行き、今夜のおかずと明日の昼食のメニューに必要な材料を魔導冷蔵庫から取り出す。ムートはあっさりしたものが好きだ。ミゲルはそんなに食事のメニューにはこだわらない方なので、できるだけムートに合わせている。今夜のおかずは鶏肉と卵を酢と醤油と酒で煮る。1度作ったらムートが気に入ったのだ。さっぱりしているし、美味しくて米が進むと言って、毎週1週間分のメニューを2人で考えるときに毎回ねだられる。
ムートはとても素直にねだってくる。甘え上手というやつかもしれない。ムート程ミゲルは素直じゃない。ムートと暮らすようになり、もしや自分は可愛げがないのではないかと、ぼんやり考えるようになった。別に今更なので、そこまで気にしてはいないが。
夕食を2人で食べて炊事当番が食器を片付けている間に、そうじゃない方が風呂の準備をする。片付けが終わった後に2人で風呂に入る。風呂掃除当番のミゲルが風呂掃除を終えて居間に行くと、ムートがミゲルの分のお茶も淹れてくれていた。少し温くなり飲みやすいお茶を飲み、ミゲルはシャツにアイロンをかけた。今日の当番の家事を終えたムートはゆったりソファーに座って本を読んでいる。2人とも酒はそんなに飲まない。好きではあるが、晩酌する程ではない。煙草も吸わない。ムートは甘いものが好きなので、居間に自分で買ったキャラメルとチョコレートを大きな瓶に入れて常備している。ミゲルは甘いものは食べるが、わりとどうでもいい。たまにムートがくれるので、その時は貰って一緒に食べるくらいだ。
そこそこの時間になると、部屋に引き上げる。今日は別々に寝る日だ。ミゲルは自分のベッドに1人で潜り込み、大きく欠伸をした。
そろそろムートと暮らし始めて1ヶ月近く経とうとしている。今のところは、それなりに上手くいっている。お互い、相手のことを知ろうとはしているが、別に必要以上には干渉したりはしない。適度な距離感があり、結構気楽である。
ミゲルはもぞもぞと寝返りをうち、完全に眠る体勢になった。ミゲルは仰向けよりも横を向いて寝たい派である。それも右を向きたい派だ。寝ている間に寝返りをうっているのだろうが、寝る時と起きた時はいつも右を向いている。朝に日が当たる窓際に枕を置いていたので、外に干した時ほどではないがふわふわになっている枕に頬をつけて、ミゲルは穏やかな眠りについた。
翌朝。ミゲルは目覚まし時計が鳴る前にいつも通り起き、念のためにセットしておいた目覚まし時計のスイッチを切った。
寝間着から部屋着に着替え、枕に巻いていた大判のタオルと脱いだ寝間着を片手に1階の風呂場に行き、顔を洗って髭を整えてから、洗濯物を全て魔導洗濯機に突っ込んで洗剤を入れてスイッチを押した。魔導洗濯機は家庭用で1番大きなものを買ったので、2人だと洗濯が1度で済む。
台所へ向かっていると、ムートが欠伸をしながら寝間着のまま廊下を歩いてきた。挨拶をして、ミゲルは弁当を、ムートは朝食を作る。各々作り終えると、2人で朝食を食べ、片付けをムートに任せてミゲルは洗濯物を庭に干した。今日は朝から雲1つない快晴である。洗濯物もよく乾くだろう。洗濯物を干し終えて居間に戻ると、ムートが寝間着のまま新聞を読んでいた。ミゲルは洗濯籠を風呂場に戻してから、自室で仕事の制服に着替える。着替えて通勤用の鞄を持って居間に下りると、テーブルの上に新聞が置いてあるので、壁掛け時計で時間を確認してから、のんびり新聞を読み始める。ムートは必ず家を出る20分前に制服に着替え始める。ミゲルはやることが終わったらすぐに着替えて、家を出る時間までゆっくりする派である。
制服に着替えたムートが2階から下りてくると、ミゲルは読み終えた新聞を畳んでからテーブルに置き、ソファーから立ち上がった。
家の玄関の鍵をかけてから、のんびりムートと話しながら職場へ向かう。
ミゲルの家から職場まで、のんびり歩いても15分くらいである。途中には保育所もある。職場とは反対方向にある小学校へも15分くらいで着くし、子育てをするには最高の立地なのだ。子供にもし何かあっても、保育所まで職場から徒歩10分、小学校までなら徒歩30分、走ればもっと短い時間で駆けつけることができる。我ながら頑張った。理想の土地を探すのに何年もかけ、やっと見つけた土地をかなりの額で買い取った。ぶっちゃけ家を建てる金も合わせたら、ミゲルの貯金が半分に減ったくらいである。それでも子供貯金や養育費は余裕があるくらいだし、老後の生活の為の貯金も多少はある。80年程、仕事の付き合い以外では殆んど外食もせず、ひたすら節約に励み、毎月増えていく貯金だけを楽しみに生きてきたのだ。ミゲルはものすごく頑張った。子供をつくっても仕事を辞めるつもりはないし、肉体年齢60歳が一応定年退職になるので、それまでは働く気満々である。長生き手続きはもうやめている。これからは普通に毎年少しずつ歳をとっていく。
老後は子供達を頼らず、身体が不自由になってきたら老人施設に入るつもりだ。別に老後の面倒をみてもらいたいから子供をつくるわけではない。余程突発的なことがない限り、子供の養育費は余裕があるくらい既にあるので、今後は自分の老後の為の貯金を頑張る予定である。痴呆になったり寝たきりになったりでもしない限り、老人施設に入るにはそれなりに金がかかる。何年そこにいるかも分からないのだ。子供の負担にはなりたくないので、余裕のある額を貯めておきたい。
ミゲルの節約生活はまだまだ暫く続きそうである。
午前中にきた少し面倒くさい仕事の案件について話しながら食べていると、部下の1人が微妙な顔で近づいてきた。
「課長。副課長」
「なに?カーター君」
「皆を代表して聞きます」
「うん」
「何で毎日課長の机で弁当広げて一緒に食ってるんですか?」
「いやだって夫婦だし」
「それですよぉ!なんかもう急すぎませんっ!?」
「えー。別に僕達付き合ってまーすとか、宣言したりしないじゃない。流石に結婚したとは言ったけどー」
「そうですけどぉ!」
ミゲルとムートが結婚届けを提出したその日の就業時間の終わりに、職場の者達へはムートが結婚報告をした。結婚届けを提出した直後にムートは更に上の上司にも報告している。税務課課長の名字が急に変わると混乱するところも出てくるし、書類に押すムートの印鑑等も変更する必要が出てくるので、ムートが課長を辞めて別の課に異動するまでは、仕事はムートは以前の姓で行うことになった。上司には子供をつくることも言っており、3年後に人事課に異動することが早くも決まった。
皆を代表して来たというカーターはかなり優秀な人物で人望も厚いので、ムートは彼を後任にするつもりである。まだ本人には言っていないが。
「つーか、何でそんなデカい弁当2人でつついてるんですか。分けたらいいでしょ」
「こっちの方が作るのも楽だし、洗うのも楽じゃない。どうせ一緒に食べるんだし」
「所帯染みすぎでしょ。独り身の俺には目に毒なんですよ。羨ましい」
「なんだ。独り者の僻みか」
「くぅ……羨ましい。イチャイチャしてぇ!」
カーターは独身である。結構最近長く付き合っていた彼氏と別れたらしい。カーターも男専門で、それなりに長く働いている。ミゲルはムートとカーターの会話を聞きながら、おにぎりを頬張り、もぐもぐ食べている。今日はムートが弁当を作った。夕食を作る方が翌朝に弁当も作るのだ。ムートのおにぎりは少し塩が薄い。それでも十分美味しいし、なんとなく優しい味がする。
「どういう経緯で結婚することになったか聞いてこいって色んな奴に言われたんですけど」
「はぁー?皆好きだねぇ」
「いやぁ、だって。税務課の課長と副課長の結婚ですよ?それもかなり寝耳に水っていうか、急でしたし」
「まぁね」
「課長って結構モテるんですよ?課長を持ってかれてギリギリしてる奴がそこそこいるんですよ」
「ん?そうなの?」
「顔がいいし、大人の男って感じだし、税務課の課長だし、長く勤めてるからお金持ってるし」
「後半2つはすごく微妙な理由なんだけど」
「まぁ、人間なんてそんなものです。結婚を視野に入れたら、地位や金があるかって割と重要でしょう?特に若い奴らにとっては」
「無駄に生々しくて嫌だよ」
「はははっ。で、どうなんですか?」
「えー。別に普通に付き合って普通に結婚しただけだよ。お互い子供も欲しいって感じだったし」
「へぇー。なんで隠してたんですか?」
「別にわざわざ隠してはいないよ。言わなかっただけ」
「えー。なんかこう、ドラマチックな何かとか」
「あるわけないでしょ。そんなの」
「なんだー。まぁ、課長と副課長は仕事の付き合い長いですしね」
「そうそう」
「分かりました。興味津々でうずうずしてる連中にはそう言っときますよ。飯の最中にお邪魔してすいませんでした」
「いいよー」
カーターが軽く頭を下げて、自分の机の方に歩いていった。ミゲルは2人が話している間に食べ終わり、今は温くなったお茶を飲んでいる。
「やれやれ」
「まぁ、予想できていた事態ですね」
「そうだねぇ」
「実際、もう何度か絡まれてますしね。僕」
「え?そうなの?」
「はい。貴方、本当に地味にモテるんですよ。カーター君が言ってた通り、特に若い連中からすると結婚相手としてはかなりいい物件ですし」
「えぇー。なんかやだー」
「ま、仕方がないですよ。役所中で噂になってるらしいですけど、そのうち皆飽きるでしょう」
「そうだね」
ムートがのんびり弁当を食べるのを眺めながら、ミゲルはゆったりお茶を飲んだ。
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就業時間が終わり、ミゲルはムートと共に職場を出た。2人とも余程の繁忙期以外は残業をしない主義である。今日も就業時間が終わるとさっさと職場を出てきた。
職場以外では仕事の話をしないと最初に決めている。お互い相手のことを知らないことの方が多いので、いつも通勤の時は子供の頃の話や食べ物に関する話等をしている。
家に帰り着くと、2階の自室で部屋着に着替えてから、居間に下りる。居間に置いてある小さな黒板を見てから、ミゲルは台所へと移動した。黒板はチョークで真ん中を仕切り、右側には1週間分の3食のメニュー、左側には1週間の家事担当が書かれている。今日はミゲルは炊事と風呂掃除と仕事用のシャツのアイロンかけ担当で、ムートは洗濯と風呂以外の掃除担当である。ムートは着替えるなり、パタパタと庭に干してある洗濯物を取り込みに行った。
それを横目に見ながら台所へ行き、今夜のおかずと明日の昼食のメニューに必要な材料を魔導冷蔵庫から取り出す。ムートはあっさりしたものが好きだ。ミゲルはそんなに食事のメニューにはこだわらない方なので、できるだけムートに合わせている。今夜のおかずは鶏肉と卵を酢と醤油と酒で煮る。1度作ったらムートが気に入ったのだ。さっぱりしているし、美味しくて米が進むと言って、毎週1週間分のメニューを2人で考えるときに毎回ねだられる。
ムートはとても素直にねだってくる。甘え上手というやつかもしれない。ムート程ミゲルは素直じゃない。ムートと暮らすようになり、もしや自分は可愛げがないのではないかと、ぼんやり考えるようになった。別に今更なので、そこまで気にしてはいないが。
夕食を2人で食べて炊事当番が食器を片付けている間に、そうじゃない方が風呂の準備をする。片付けが終わった後に2人で風呂に入る。風呂掃除当番のミゲルが風呂掃除を終えて居間に行くと、ムートがミゲルの分のお茶も淹れてくれていた。少し温くなり飲みやすいお茶を飲み、ミゲルはシャツにアイロンをかけた。今日の当番の家事を終えたムートはゆったりソファーに座って本を読んでいる。2人とも酒はそんなに飲まない。好きではあるが、晩酌する程ではない。煙草も吸わない。ムートは甘いものが好きなので、居間に自分で買ったキャラメルとチョコレートを大きな瓶に入れて常備している。ミゲルは甘いものは食べるが、わりとどうでもいい。たまにムートがくれるので、その時は貰って一緒に食べるくらいだ。
そこそこの時間になると、部屋に引き上げる。今日は別々に寝る日だ。ミゲルは自分のベッドに1人で潜り込み、大きく欠伸をした。
そろそろムートと暮らし始めて1ヶ月近く経とうとしている。今のところは、それなりに上手くいっている。お互い、相手のことを知ろうとはしているが、別に必要以上には干渉したりはしない。適度な距離感があり、結構気楽である。
ミゲルはもぞもぞと寝返りをうち、完全に眠る体勢になった。ミゲルは仰向けよりも横を向いて寝たい派である。それも右を向きたい派だ。寝ている間に寝返りをうっているのだろうが、寝る時と起きた時はいつも右を向いている。朝に日が当たる窓際に枕を置いていたので、外に干した時ほどではないがふわふわになっている枕に頬をつけて、ミゲルは穏やかな眠りについた。
翌朝。ミゲルは目覚まし時計が鳴る前にいつも通り起き、念のためにセットしておいた目覚まし時計のスイッチを切った。
寝間着から部屋着に着替え、枕に巻いていた大判のタオルと脱いだ寝間着を片手に1階の風呂場に行き、顔を洗って髭を整えてから、洗濯物を全て魔導洗濯機に突っ込んで洗剤を入れてスイッチを押した。魔導洗濯機は家庭用で1番大きなものを買ったので、2人だと洗濯が1度で済む。
台所へ向かっていると、ムートが欠伸をしながら寝間着のまま廊下を歩いてきた。挨拶をして、ミゲルは弁当を、ムートは朝食を作る。各々作り終えると、2人で朝食を食べ、片付けをムートに任せてミゲルは洗濯物を庭に干した。今日は朝から雲1つない快晴である。洗濯物もよく乾くだろう。洗濯物を干し終えて居間に戻ると、ムートが寝間着のまま新聞を読んでいた。ミゲルは洗濯籠を風呂場に戻してから、自室で仕事の制服に着替える。着替えて通勤用の鞄を持って居間に下りると、テーブルの上に新聞が置いてあるので、壁掛け時計で時間を確認してから、のんびり新聞を読み始める。ムートは必ず家を出る20分前に制服に着替え始める。ミゲルはやることが終わったらすぐに着替えて、家を出る時間までゆっくりする派である。
制服に着替えたムートが2階から下りてくると、ミゲルは読み終えた新聞を畳んでからテーブルに置き、ソファーから立ち上がった。
家の玄関の鍵をかけてから、のんびりムートと話しながら職場へ向かう。
ミゲルの家から職場まで、のんびり歩いても15分くらいである。途中には保育所もある。職場とは反対方向にある小学校へも15分くらいで着くし、子育てをするには最高の立地なのだ。子供にもし何かあっても、保育所まで職場から徒歩10分、小学校までなら徒歩30分、走ればもっと短い時間で駆けつけることができる。我ながら頑張った。理想の土地を探すのに何年もかけ、やっと見つけた土地をかなりの額で買い取った。ぶっちゃけ家を建てる金も合わせたら、ミゲルの貯金が半分に減ったくらいである。それでも子供貯金や養育費は余裕があるくらいだし、老後の生活の為の貯金も多少はある。80年程、仕事の付き合い以外では殆んど外食もせず、ひたすら節約に励み、毎月増えていく貯金だけを楽しみに生きてきたのだ。ミゲルはものすごく頑張った。子供をつくっても仕事を辞めるつもりはないし、肉体年齢60歳が一応定年退職になるので、それまでは働く気満々である。長生き手続きはもうやめている。これからは普通に毎年少しずつ歳をとっていく。
老後は子供達を頼らず、身体が不自由になってきたら老人施設に入るつもりだ。別に老後の面倒をみてもらいたいから子供をつくるわけではない。余程突発的なことがない限り、子供の養育費は余裕があるくらい既にあるので、今後は自分の老後の為の貯金を頑張る予定である。痴呆になったり寝たきりになったりでもしない限り、老人施設に入るにはそれなりに金がかかる。何年そこにいるかも分からないのだ。子供の負担にはなりたくないので、余裕のある額を貯めておきたい。
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