厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

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68:帰りの道中

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 護衛指名してきた金持ちを無事に王都へ送り届けると、報酬を貰ってから、ゴンドロフはデーリと一緒に王都の街中をぶらつき始めた。
 王都には何度も来ているが、いつ来ても人が多くて賑やかだ。
 アキム達に何か土産を買ってやりたい。デーリもナクールに土産を買うそうなので、2人で何かいいものがないか、探し始めた。


「食べたらなくなる食い物と後に残るもの、どっちにしようかなぁ。ゴンドロフはどうする?」

「んーー。あんま荷物増やすと帰りに時間かかるよなぁ」

「そうなんだよねぇ。途中の町でジャムもまた買いたいし、小さくて軽めのやつがいいかな?」

「だな。ジャムは俺も買う。小さくて軽めのやつ……装飾品とか?」

「あ、いいね。ダーリンとお揃いのピアスとか買っちゃおうかな。懐が温かいから、ちょっといいやつ」

「装飾品……アイナは髪飾りでもいいな。リリンに装飾品はまだ早いからちっこいぬいぐるみにするとして……アキムには……俺もピアスにするかぁ? あいつ穴開いてねぇけど」

「どうせならお揃いのにしたら? ゴンドロフももう一個穴開けたらいいじゃない」

「それもそうだな。んじゃ、装飾品店に行くか。あと雑貨屋。リリンのぬいぐるみ買いてぇ」

「いいよー。僕もリリンちゃんになんか買おっかなぁ。……子供用の毛布とかどう? 子供用ならそんなに嵩張らないだろうし、何枚あっても困るものじゃないよね? 多分」

「おー。喜ぶと思うぜ。ちなみにリリンの今のお気に入りは猫だ」

「可愛い猫の毛布を買うわ。あ、あそこがよさ気じゃない? あの店」

「入るか」

「うん」


 ちょっとお高めな雰囲気の装飾品店に入ると、ゴンドロフはまずアイナへの土産を探し始めた。が、どれも同じに見える。どれがアイナに似合うのかも分からないので、ゴンドロフは真剣な顔でピアスを選んでいるデーリに助けを求めた。


「デーリ。やべぇ。どれも一緒に見える」

「マジかよ。やべぇな。お前」

「一緒に選んでくれ」

「しょうがないなぁ。ちょっと待ってろよ。先にダーリンと自分用のを選ぶから」

「おぅ」


 お揃いのピアスを選んだデーリの協力の元、ゴンドロフは華やかな薔薇の硝子細工がついた髪飾りを選んだ。デーリ曰く、『アイナちゃんならこの髪飾りの華やかさに負けてないし、むしろめちゃくちゃ似合うから』らしい。アキムとお揃いのピアスも一緒に選んでもらった。シンプルな銀の玉がついたピアスである。曰く、『お前も着けるなら華美なやつは似合わないし、とことんシンプルなやつの方が2人とも似合う』らしい。
 ゴンドロフは会計をすると、今度はリリンの土産を買いに、雑貨屋へと向かった。

 王都を出て一か月ちょい。アキム達が気に入っていたジャムを生産している町に着いた。あと20日もあれば、拠点にしている街に着く。早く帰り着きたいと思う自分がいて、ゴンドロフは改めて不思議に思って首を傾げた。


「どうした? ゴンドロフ。首なんか傾げて」

「いや。早く帰りてぇなぁと思ったのが、今更なんか不思議で」

「家族に会いたいからじゃないの?」

「……なんかストンときた。そうか。俺の中でも、アキム達はもう家族なのか」

「そうそう。帰り着く頃には秋の豊穣祭でしょ。今年は花を贈ったら?」

「アキムにか?」

「アキムだけでもいいし、あれって家族にも贈るものだから、アイナちゃんとリリンちゃんに贈ってもいいんじゃない?」

「それもそうか。花……ちょっと苦い思い出しかねぇんだよなぁ」

「あーー。あれ? 10歳の時のやつ?」

「あと、18の時のやつ」

「あぁ。あったな。そういや。今回は皆笑って喜んでくれるよ」

「んーー。だよな。よし。帰ったら秋の豊穣祭前に花屋に行くか」

「そうしなー。僕もダーリンに花を贈らなきゃ。今年はなんの花にするかなー」

「花にもなんか意味とかあんのか?」

「んー。薔薇は愛とかなんかそんな感じの意味があったような? よく分かんないね!」

「本屋で花の本でも買ってみるか……」

「あ、買ったら僕にも読ませてよ。どうせなら、こう……愛を込めまくった花を贈りたいしさ」

「いいぞー。あ、この店だったよな。ジャム買ったの」

「記憶に間違いがなければね。今回はなんのジャムを買おうかなぁ」

「前回と同じにするか、別のにするか悩ましいとこだな」

「ねー」


 ゴンドロフはジャムを売っている店に入ると、陳列してあるジャムを真剣に眺め始めた。どうせ買うなら、アキムやアイナ達が喜んでくれるものがいい。
 ゴンドロフは悩みに悩んで、ザクロのジャムと栗のジャム、木苺のジャムを買った。ザクロと栗のジャムは珍しいし、試食させてもらったら美味かったので、きっと喜んでくれる筈である。

 ゴンドロフは宿の部屋に入ると、先に宿屋の一階にある共用風呂に行き、デーリが交代で風呂に行っている間に、ベッドに腰掛け、窓の外を見た。
 もうすっかり秋になっている。リリンは1歳半を過ぎた頃だろう。たった三か月だが、きっと大きくなって、言葉も増えていると思う。

 アキムは今どうしているだろうか。帰ってもセックスなしが地味にキツい。帰ったらアキムとセックスしまくりたいが、あと20日くらいは恋人ごっこをするので、おあずけである。
 護衛の仕事に出る前に、アキムと二回デートをしたが、ドキドキしたり、ときめいたりといったことはなかった。ただ、アキムが隣にいることが自然だと思った。
 デーリが言うとおり、ゴンドロフがアキムに対して抱いている胸の奥の温かい感情は、恋ではなく愛なのだろう。燃えるような激しい愛ではなく、熾火のような静かで温かい愛。
 ゴンドロフはなんとなくストンと納得して、ごろっとベッドに寝転がった。

 ドキドキもときめきもないから戸惑っていたが、無理に求める必要はない。アキムのことを愛しているのなら、それはそれでいいのだと思う。なんか今更感あるし。

 ゴンドロフは風呂上がりのデーリが戻ってくると、財布を持って一階の食堂へと向かった。
 軽めの酒を飲みながら、ゴンドロフは口を開いた。


「デーリ」

「んー?」

「俺、アキムを愛してるっぽいわ」

「おっ。やっと自覚した?」

「おぅ。なんか、自分の中でストンときた」

「よかったよかった。あとはアキムの答え次第かな?」

「んー。かもな。恋人ごっこ、どうすっかな。続けてみるか、早めに切り上げちまうか」

「それもアキム次第じゃない?」

「まぁなー。俺としてはめちゃくちゃセックスしてぇし、恋人になっても今と変わらねぇ気がする」

「まぁ、熟年夫婦感ありまくりだしね。いいんじゃないか? 恋人の形だって人それぞれなんだから、お前らはお前らなりの恋人やればさ」

「そうだな。ふむ。とりあえず帰ったら改めて愛の告白からか?」

「まぁ、区切りをつけるなら告白しといたら? そんで、恋人になると。結婚は考えてるのか?」

「いや、今の段階では全然。でもよ、爺になっても多分一緒にいる気がする。なんとなく」

「ある程度歳食ったら結婚するのもありだと思うぜ。財産とか残してやれるし。恋人じゃ遺産相続とかできなかっただろ? 確か」

「あぁ。それがあるか。んーー。結婚も考えてみるかぁ。歳の差があるし、残してやれるもんは残してやりてぇ」

「10歳差はちょっとデカいもんな」

「まぁな。アイナやリリンがいるし、リリンも大きくなったら結婚して子供ができるだろうから、俺が死んでも寂しくはねぇと思うけど。でも、ちっとくらいはなんか残してやりてぇなぁ」

「アキムは寂しいと思うよ。ゴンドロフが死んだら。金とかもだけどさ、思い出をいっぱい残してやりなよ。それがきっとアキムにとって一番の宝物になるだろうからさ」

「そんなもんか。アキムといっぱい思い出作りするかな。アイナとリリンも一緒に。家族だし」

「ふふっ。お前に大事な家族ができて、僕は嬉しいね。お前の家族に乾杯」

「乾杯。お前は今から増やしていくだろ? 大事な家族」

「うん。子育てでなんか困ったら泣きつくからよろしく! 相棒!」

「任せとけー。相棒」


 ゴンドロフはデーリと乾杯してから、くっと酒を飲み干した。
 早く家に帰りたい。ゴンドロフの大事な家族の笑顔が見たい。
 ゴンドロフはそんな自分がちょっと気恥ずかしくて、でもどこかぽかぽかと胸の奥が温かい感じがした。

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