厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

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46:甘い一日

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 アキムは朝の日課を終えると、急いでシャワーを浴びて台所へ向かった。ゴンドロフは朝からめちゃくちゃ食べるし、アイナも結構食べる方だ。大人の分とは別にリリンの離乳食も作らなくてはいけない。リリンの離乳食は、育児本を参考にしながら作っている。
 今日は一日甘味作りをする予定なので、朝食はちゃちゃっと済ませたい。
 アキムは手早く朝食を作り始めた。

 途中からリリンをおんぶしたアイナも加わり、ゴンドロフの朝の日課が終わる頃に朝食が出来上がった。リリンがまとまった睡眠をとるようになってきたので、アイナも寝れるようになり、顔色がかなりよくなっている。

 朝から全身で『美味しい!』とガツガツ食べるゴンドロフに満足しながら、アキムは手早く食べ終えて、離乳食を食べさせているアイナと交代した。ゴンドロフは早食いだが食べる量が多いのでアキムよりも時間がかかる。アイナは食べるのが遅めな方なので、アキムがささっと食べてアイナと交代するのが、一番後片付けまでの時間がかからない。

 リリンのおむつを替えてから、おんぶ紐でおんぶして、3人で手分けして朝食の後片付けや洗濯、掃除をやってしまう。リリンをおんぶ紐でおんぶして何かをするのにはすっかり慣れている。
 アキムはリリンが気に入っている鼻歌を歌いながら、手早く朝食の後片付けをした。

 やるべき家事が終わったので、甘味祭りの始まりである。デーリ達へのお礼としてケーキなどを作るのだが、作るものの種類が多い上に、魔導オーブンは一台しかなく、また冷やすのに時間がかかるので、今日一日かけて作って、明日の午前中にナクールの店に改めてお礼を言いがてら持っていく予定だ。

 まずは時間がかからないジャムクッキーからということで、アキムは張り切って腕捲りをして、材料を量り始めた。

 タルト生地を混ぜて寝かせている最中のゴンドロフが、魔導オーブンの前でしゃがんでいる。デッカいおっさんがちんまりとしているとなんか面白い。


「すげー。ちょっと膨らんできた。めちゃくちゃ甘い匂いするー。うまそー。食いてぇなー」

「食べるのは焼き上がって完全に冷めてからっすよー。今回はあと3回焼くんでー。うちの分もちゃんとありますよー」

「よっしゃ! そういや、お前らジャムは作らねぇのか?」

「私は作れるわよ。林檎のジャムだけだけど」

「俺はジャムクッキーしか作れねぇっす」

「林檎のジャムもいいな。今が旬だし、俺も手伝うから作らねぇか? ジャムクッキーもいいし、パンとかクラッカーにつけて食いてぇ」

「いいわよー。明日の帰りに市場で林檎と砂糖を買いましょ。林檎のジャムは簡単だから、すぐにできるわ」

「あ、焼けた。ゴンちゃーん。ちょっとどいてー」

「おー。おっ。すげぇ美味そう」

「いい感じに焼けたっすー。よいしょっと。よし! 次のを焼くっす!」

「味見してぇ」

「だーめ。全部出来上がった後に豪華なお茶会するんでしょー」

「くっ……焼き立てクッキー……めちゃくちゃ食いてぇ。でも豪華なお茶会してぇしなぁ。むぅ。我慢する」

「そうしてくださーい。アイナ。クッキー焼き終わったら林檎のケーキ焼けよ」

「えぇ。林檎のケーキはもう後は焼くだけよー。チーズケーキは仕込み済みで今魔導冷蔵庫の中でお休み中」

「すげぇな。アイナ」

「そうでもないわよー。慣れかしら?」

「一番の不安要素は俺の卵のタルトだな。料理本通りに作れば大丈夫かとは思うが」

「ゴンちゃんなら大丈夫よー。やること丁寧だし、几帳面だしー。卵のタルト楽しみー」

「あ、そういやよ。作ったケーキ全部持っていったら流石に2人じゃ食いきれねぇだろうから、切り分けて二切れずつ持っていった方がよくないか? ジャムクッキーは日保ちすっから紙袋に入れていけばいいだろうが」

「あ、言われてみればそっすね。まるっとホールのケーキを三つとジャムクッキーは逆に迷惑かもー」

「切り分けて蓋付きの底が深いお皿に入れて持っていきましょうよ。確か、まだあったわよね?」

「捨てた覚えねぇから、まだある筈?」

「よーし! ゴンちゃん! お皿探し手伝って!」

「いいぞー。食器棚の高い所から見ていくわ。アイナは下の方頼む」

「はぁい」


 二度目のクッキーが焼き上がったので、アキムは焼き立てクッキーを平皿に移し、三度目のクッキーを焼き始めた。
 ゴンドロフが蓋付きの底が深い皿を無事に発見してくれたので、焼いている間に手早く洗う。
 昼食は、大人は簡単なサンドイッチで軽く済ませて、午後のお茶の時間までには全て完成した。

 ケーキは全部六等分に切り分け、デーリ達へ持っていく分を蓋付きの深皿に入れて魔導冷蔵庫に入れておく。
 アキム達は試食も兼ねて、今から豪華な午後のお茶会である。リリンに何もないと可哀想なので、南瓜の蒸しパンを作ってやった。

 アキムはいつもより丁寧に紅茶を淹れると、早速卵のタルトから食べ始めた。濃厚な卵の旨味と柔らかい甘さがサクサクのタルト生地と絶妙に合っていて素直に美味しい。前々から思っていたが、ゴンドロフは本当に器用である。


「うんまー。ゴンちゃん、大成功じゃないっすかー。ちょー美味いっすー」

「ほんとー。ちょーおいしーい。幸せー」

「うめー。意外と簡単だったし、割とありだな。これ。……ふぅ。紅茶とも合うなー。次は林檎のケーキ……ん! 間違いない! うっめー。流石アイナ」

「ふふーっ。ありがと。ゴンちゃん。うまくできてよかったわー」

「ジャムクッキーもうまー。李と木苺じゃ、やっぱちょっと風味が変わるな。色んな種類のジャムで作って食べ比べしたら楽しそうじゃね?」

「ゴンちゃん天才! いいっすねー。ちょー楽しそー!」

「ほんとー! ゴンちゃんがお仕事再開するまでに、保存食扱う店に行ってみない? 他にも目新しい面白いものがあるかも!」

「採用! 明日は午前中にちょっとデーリさん達のとこに行くだけだしー、午後から買い物どうっすか?」

「俺は構わねぇぞ。保存食扱う店なら知ってる。いつも干し肉とか買う店でいいなら連れて行くぞ」

「やったー! お願いしまっすー!」

「わーい! 明日が楽しみー!」

「瓶詰めのもんも色々売ってた筈だ。なんか面白いもんがあるかもな」

「私、干し肉も食べてみたいわ。どうやって食べるのが美味しいの?」

「前に食わせてもらった野菜と雑穀と一緒に煮たやつが、ほんとにちょー美味かったっすー」

「干し肉はそのままでも食えるが、慣れてねぇと硬くて食いにくいだろうから、アキムに食わせたやつみたいなのが無難か?」

「すっごい! 食べたい! です!」

「俺も食いたーいっす」

「んじゃ、干し肉も買って晩飯に作るか」

「やったー!」

「うぇーい! たーのしみー!」

「庭で作るのはちと寒いな。アイナとリリンが風邪を引くといけねぇ。台所で作るか」

「お庭でご飯は春になってからねー。楽しみにしとくわ!」

「ふぃー。食ったー。甘味祭りばんざい。結構楽しくて俺的にはちょーありー」

「ねー。意外と食べ切れちゃったわね」

「なー。気づいたらなくなってたわ。今夜の晩飯なんだ?」

「えー。ゴンちゃんとアイナ、なんか食べたいものあるっすか?」

「あー? 肉? あっ! 卵のタルトが載ってた料理本のよぉ、別の頁に載ってた挽肉を魔導オーブンで焼くやつ食ってみてぇ。なんかゆで卵とか野菜とか入れて型に入れて焼くらしいんだけどよぉ」

「あら! いいわね! ケーキ型使えばよくない? 一緒に作ってみましょうよ! お兄ちゃん、挽肉あったわよね?」

「あるよー。んじゃ、メインはそれでー。洗濯物取り込んで畳んだら、また台所っすねー」

「今日は一日の殆どを台所で過ごしてんなぁ。割と新鮮」

「ねー。こういう日も楽しいわ」

「ははー。んじゃ! 楽しい夕方の家事をしますかねー」

「はぁい」

「おー」


 アキムは使ったケーキ皿などを重ねながら、楽しそうに笑っているゴンドロフやアイナを見て、なんだか嬉しくて、胸の奥がぽかぽかして、小さく笑った。

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