好きだからセックスはしたくない

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
8 / 25

8:楽しい準備

しおりを挟む
 フィガロは、ポロポロと涙を零していた。ずずっと鼻をすすりあげると、安全圏に避難していたガイナがクックッと楽しそうに笑った。


「めちゃくちゃ目に染みる」

「玉ねぎだからな」

「何でこんなに染みるの」

「玉ねぎだからだなぁ」

「答えになってない」

「ははっ」


 フィガロは、玉ねぎを微塵切りにしている最中である。涙で視界がじんわりと滲み、まだ刻み始めたばかりだが、あまりにも目に染みるので早くも心が折れそうだ。ガイナがすっとフィガロのすぐ隣に立ったので、フィガロは包丁をまな板の上に置いた。


「交代して」

「おう。手と目を洗ってこいよ。ちったぁマシになる」

「うん」


 フィガロは流しでざっと水で手を洗い、風呂場の脱衣場にある洗面台に移動して石鹸で手を洗った。ボタボタと涙が零れてくる目を水で流し洗いすると、漸く涙が止まった。ガイナと色違いのお揃いで買ったヒヨコ柄のエプロンの裾で顔と手を拭い、台所へと戻る。
 今日の昼食はハンバーグである。

 今日は休日だ。ガイナも仕事が休みだから、ラウト達一家と一緒に食事をする。以前、カレーパーティーをしたのが楽しかったので、ガイナもフィガロも休みの日には、ラウト達とどちらかの家で一緒に食事をするようになった。前回はラウト達の家だったので、今度はフィガロ達の家で食べる。ニーズがハンバーグが好きらしいので、朝からガイナと2人でハンバーグ作りを始めた。今日はアンジェリーナも祖父のシュルツと一緒にやって来る。アンジェリーナは休日はいつも喫茶店の手伝いをしているが、たまには遊びたいということでやって来るそうだ。

 フィガロが台所に戻ると、玉ねぎを刻み終えたガイナが玉ねぎを炒め始めていた。
 下手くそな鼻歌を上機嫌に歌いながら、ガイナが楽しそうにフライパンの中の玉ねぎを木べらで掻き回した。


「フィガロ。サラダ用のトマトを洗ってくれ。あ、確かチーズがあったな。バジルもあるからカプレーゼにするか」

「レタスは?」

「レタスは皆が来る少し前でいい。あんま早く洗っちまうと、食べる時にへにゃってなるからな」

「分かった」

「よし。玉ねぎはこんなもんだろ。冷ましてる間にポタージュスープを作るか。南瓜取ってくれ。あと玉ねぎとニンジンも」

「うん」

「南瓜は固いから俺が切る。フィガロは玉ねぎとニンジンを頼む」

「……また出たな。玉ねぎ」

「玉ねぎ好きだろ?」

「食べるのはね。切るのは好きじゃない。目に染みる。何で父さんは平気なんだよ」

「ははっ。まぁ、そのうち慣れる」


 ガイナが楽しそうに笑いながら、炒めた玉ねぎの微塵切りをフライパンから大皿に移した。フィガロは、再びものすごく目に染みる玉ねぎという名の強敵と戦い、今度はなんとか勝利した。ニンジンも細かい賽の目に切って、ガイナと交代する。ガイナが南瓜を小さめに切り、鍋に切った野菜を全部入れて軽く炒め、少なめの水と固形のコンソメスープの素、ローリエを1枚入れて煮始める。野菜が全て煮えたらローリエを取り出し、魔導ミキサーに鍋の中のスープごと野菜を入れ、スイッチを入れてがーっと液状にしていく。どろどろの状態になった南瓜達を再び鍋に戻し、牛乳を入れて少し煮て、塩コショウで味を整えたら南瓜のポタージュスープの完成である。
 カプレーゼ用のトマトとバジルを洗い、トマトを適当な厚さに切ってから、トマト、チーズ、バジルの順番で白い大きな皿に並べ、たらーっとオリーブ油をかける。カプレーゼも完成した。
 デザートは、昨夜にガイナがプリンを作っていたので、残るはメインのハンバーグのみである。

 フィガロは、金属製のボウルに入れた挽き肉と向き合った。挽き肉に冷ました玉ねぎ、卵、パン粉、牛乳、塩、胡椒、ナツメグ、バターを入れ、むにゅっむにゅっと挽き肉をかき混ぜていく。にゅるにゅると手に纏わりつく肉の感触が地味に楽しい。肉が白っぽくなるまで根気よく混ぜたら、小判型に成形していく。
 ガイナと2人でぺったんぺったんと丸めたハンバーグの空気抜きをして、中央を少し窪ませたら、後は焼くだけである。
 フィガロとガイナは肉の脂まみれの手を洗ってから、フライパンに油を敷いて熱し始めた。

 ガイナがハンバーグを焼いてくれるので、その間にソースの準備をする。使うものはウスターソースとケチャップ、牛乳である。フィガロは分量通りに大さじを使って計った。じゅうじゅうと肉が焼ける音がして、既に美味しそうな匂いがしている。ハンバーグの両面に焼き色がついたら、ガイナが赤ワインを適当にフライパンに入れ、フライパンに蓋をした。ハンバーグを蒸し焼きしている間にレタスを洗い、予め作っておいたゆで卵の殻を剥いて、半分に切る。

 ハンバーグが焼き上がったら、ハンバーグをフライパンから取り出し、残っている赤ワインと肉汁にフィガロが計量したソース類を入れて、ハンバーグのソースを作る。いい感じにソースが煮詰まったら、ハンバーグも完成である。

 フィガロはガイナと一緒に精一杯お洒落っぽく盛り付けをし、いそいそと居間のテーブルに料理を盛り付けた皿を運んだ。
 いつもはガイナと2人で静かな家が、ニーズやアンジェリーナ達が来ると途端に賑やかになる。フィガロは静かな方が好きだが、最近は2人と過ごすのがちょっと楽しくなってきた。……ちょっとだけだけど。

 バーバラの街に来てから、ガイナがよく笑うようになった。中央の街にいた時も笑っていたけれど、ラウト達と仲良くなってから、本当に楽しそうな時が多い。ガイナが楽しそうに笑っていると、フィガロは嬉しい。大勢で賑やか時は、ガイナは本当に楽しそうだから、フィガロもなんだか楽しくなる。

 玄関の呼び鈴が鳴ったので、エプロンを外したガイナと一緒に玄関へと移動した。
 玄関のドアを開けると、ラウト達が立っていた。フィガロの名前を呼ぶ声が聞こえたので、玄関のドアから外を覗くと、アンジェリーナ達もこちらへ向かって歩いてきていた。

 楽しい時間の始まりである。
 フィガロはご機嫌な笑みを浮かべているガイナを見上げて、小さく笑った。
 夏の風がやんわりとフィガロの頬を撫でた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。

ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。 高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。 そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。 文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

どこにでもあるBL小説の悪役になったけど、BLする気なかったのにBLになった。

了承
BL
どこにでもある内容のビー小説に入った20歳フリーターがいつのまにかBLしてしまった短編です。

処理中です...