好きだからセックスはしたくない

丸井まー(旧:まー)

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12:ガイナの夏休み初日

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 ガイナは洗濯したシーツを干し、空を見上げた。雲一つない快晴である。洗濯物がよく乾くだろうが、今日も暑くなりそうだ。

 今日から一週間、ガイナは夏休みである。フィガロも喫茶店のアルバイトを休むことにした。久しぶりに2人で何日も一緒に過ごせる。やりたいことが沢山がある。フィガロが疲れない程度にやろう。楽しい一週間になりそうな期待に、胸がワクワクする。

 空になった洗濯籠を両手で持ち上げると、ニーズの声がした。狭い庭先にニーズとラウトがいた。ラウトを見た瞬間、ドキッと小さく心臓が跳ねる。ガイナはそんな自分を誤魔化すように、2人に挨拶をした。


「おはようさん。先生。ニーズ坊」

「おはようございます。ガイナさん」

「おはよー。おじちゃん」

「今から保育所か?」

「えぇ」

「もう日射しが強いから気をつけろよ」

「はい。ガイナさんは今日から夏休みですよね」

「おうよ。優雅に過ごすわ」

「ははっ。いいですねぇ」


 表面上は以前と同じだ。同じな筈である。ガイナは手を振るニーズに笑って手を振り返しながら、保育所へと向かう2人を見送った。

 バーでのデートの日、ラウトとキスをしてしまった。夢中で数え切れないくらいキスをして、2人で絡みあった。セックスはしていない。本当にキスだけだった。息が荒くなる程キスをして、舌をいやらしく絡め合わせた。お互いに下腹部に硬いものが擦れ合い、はっと冷静になって、慌てて身体を離した。少しの間気まずい空気が流れたが、なんとか酒を飲んで流した。
 数日経った今でも、ラウトとの酒の味がするキスが忘れられない。顔を会わせるのに少々気まずさを感じるが、それ以上にもっとラウトと会って話したくて仕方がない。できれば、また触れ合いたいとさえ思っている。マズイな、と思う。完全にラウトに恋をしてしまった。キスをした時、ラウトは全然嫌そうな雰囲気ではなかった。翌朝からは以前と変わらない態度な気がする。脈があるのか、ないのか、判断に困る。

 ガイナは洗濯籠を脱衣場の定位置に戻し、洗面台の鏡を見た。顎髭が生えた厳ついおっさんが映っている。今更自分の顔をどうこうできる訳がないのだが、もう少しマシな見た目だったら良かったのにと思ってしまう。ガイナは顎髭をぞりぞりと指先で撫でた。

 もし、仮に奇跡が起きて、ラウトと恋人になれたとする。手を繋いでデートをしたり、キスをしたり、2人でいっぱい話をしたい。でも、セックスだけはしたくない。ガイナの恥ずかしい股間を見られたくない。幻滅されるか、笑われるかがオチだ。ラウトは優しいから馬鹿にしたりはしないと思う。しかし、ガイナはラウトが好きだからこそ、情けなくて恥ずかしいところを見せたくない。本音を言えば、セックスがしたい。セックスなんて、もう何年もしていない。ラウトに触れて、触れられたい。でも、どうしても股間を見られるのに抵抗がある。

 別れた元旦那バーナードはガイナの股間を見ても笑わなかったが、それでも一度だけ酷いことを言った。ガイナもバーナードを抱いてみたいと言ったら、『その大きさじゃ満足させられないでしょ』と。その一言でガイナはバーナードを抱くことを諦めた。

 好きだから、ラウトとはセックスはしたくない。傷つきたくない。薄々気づいていたが、自分は結構臆病者だったらしい。ガイナは小さく溜め息を吐いた。
 ここ数日、ずっと浮かれていたが、先のことを考えると、少しだけ憂鬱になってしまう。ラウトが好きだ。しかし、セックスは絶対にしたくない。セックスを一切しない恋人関係なんて、続けるのはかなり難しい気がする。
 ラウトに告白をして、いっそのこと引導を渡してもらった方がいいのだろうか。

 少しだけ思考が後ろ向きになっていることに気づいたガイナは、パァンと強く両手で自分の頬を打った。夏休み初日にこんなことでどうする。フィガロと一日中ずっと一緒に過ごせるのだ。自分のことではなく、まずはフィガロのことを考えねば。ガイナは頭を切り替えて、朝食を作ってくれているフィガロの元へ向かった。

 朝食を食べ、一緒に片付けたら、2人でお出かけである。今日はフィガロの服と靴を買いに行く。育ち盛りなフィガロは去年と比べると大分背が伸びた。食が細いので痩せているが、少しずつ身体が成長して、丈夫になりつつある。熱を出す頻度も少なくなっている。バーバラの街はフィガロに合っているみたいだ。アンジェリーナという仲がいい友達もできて、ニーズという可愛い弟分もできた。フィガロが笑うことがかなり増えて、本当に嬉しい変化である。

 麦わら帽子を被ったフィガロとのんびり大通りに向かい、服屋に入った。ガイナはお洒落とは縁がない。しかし、フィガロにはお洒落を楽しんでもらいたい。本人はガイナと同じくお洒落に大して興味がないが、小学校の子供達の間でも流行り廃りは当然ある。フィガロが『ダサい』と評されるのは親として面白くない。店員に時折アドバイスをもらいながら、フィガロと2人で服を選んだ。ガイナもついでに新しいシャツやパンツを買った。ガイナの服は、フィガロが一生懸命悩んで選んでくれた。試着をしてみたら、結構似合っている気がして、ガイナは笑顔でフィガロの頭を撫でてお礼を言った。

 靴屋に行って靴を買い、大通りにある定食屋で昼食を楽しんでから、荷物を抱えて、街の図書館に立ち寄った。フィガロは小学校の図書室はよく利用しているが、街の図書館にはまだ行ったことがなかった。図書館に入ると、フィガロが静かに目をキラキラと輝かせた。読みたい本を選ぶ前に、受付カウンターで貸出カードを作ってもらう。フィガロは司書から手渡された貸出カードを大事そうに両手で受け取った。

 2人でぐるっと館内を一通り見て回り、児童書コーナーでゆっくりと借りたい本を選んだ。フィガロが静かにはしゃいでいて、本当に楽しそうだ。こんなに喜ぶのなら、もっと早くに連れてくればよかった。フィガロは時間をかけて、三冊の本を選んだ。
 図書館から出て、普段より明らかに上機嫌なフィガロの頭を撫でる。


「貸出期間はニ週間だろ?まぁ、それまでに読み終わっちまうだろうけど。読み終わったら、また来ようぜ」

「ん!」

「鞄重くねぇか?」

「平気」

「よし。おやつ食って帰るか」

「パフェ食いたい。こないだアンジーがシュルツじいちゃんと一緒に食ったって言ってた」

「お。いいな。パフェなんて久しく食ってねぇ。半分こすっか」

「ん」

「アンジーから店の名前とか聞いてるか?」

「『ハンナ』っていう喫茶店だったと思う」

「……あぁ。場所は知ってるわ。詰所に行く途中の道にある。こっからちょっと距離があるな。歩けるか?」

「歩く」

「よし。疲れたら言えよ。まだ夏休み初日だしよ。最初から飛ばしてもしょうがねぇ」

「ん」


 ガイナがフィガロの頭をガシガシ撫でると、フィガロが頬を弛めた。2人で並んで歩いて、目的の喫茶店へと向かう。フィガロがポツポツと夏休み中の話をしてくれる。アンジェリーナと一緒に宿題をやったり、喫茶店の手伝いをするのが楽しいらしい。そうだろうな、とは思っていたが、本人の口から『楽しい』という言葉を聞くと嬉しくなる。今度、アンジェリーナの祖父フレディから珈琲の淹れ方を習うそうだ。楽しみにしているのが丸分かりで、ガイナまでワクワクと胸が踊る。夏休み中に珈琲を淹れる道具と珈琲豆を買おう。きっとフィガロが美味しい珈琲を淹れてくれる。今から楽しみで仕方がない。

 ガイナは愛息子と過ごす夏休み初日を思いっきり満喫した。


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