魔法の森で待っていて

Dry_Socket

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第一章・魔法の世界 底辺の二人

10.トゥリオの話

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 セレストがいつもより少し具の多いスープと、そこまで固くないパンの朝食を燭台が煌々と灯る食堂でかきこんでいると、外からの扉が開いて、のっそりと大男が入ってきた。
 下男のトゥリオである。

 トゥリオの魔法の力はあまり強くない方で、どちらかと言えば肉体労働が多めである。
 国内の北の地域で生まれ育ったが、安定した仕事を求めてあちらこちらを旅してこの町に流れ着いた。
 様々な仕事を転々としているため、できることは多いが本人としてはあまり頭や魔法を使う仕事は苦手だ。
 雌牛と麦亭の仕事は、給金はべらぼうに安いが、そんなトゥリオには合っていた。
 
 トゥリオも普段は食材を運び込んだり、客の荷物を運んだりして朝食の時間はもっと遅い。
 今朝は女将さんに暁暗にたたき起こされ、寝ぼけた頭になんだかよくわからない長い話を聞かされ、挙句に魔法を使ってみろと言われた。
 
 セレストが先に食堂で朝飯を食っていると女将さんが言っていた。
 昨夜、お客さんに第三王子とやらの噂を根掘り葉掘り訊いていて、女将さんに雷落とされて夕食を抜かれていたが…
 元気そうだな。
 朝食とも言えない貧しい飯をもりもりと食べるセレストを見て、トゥリオは哀れにも可笑しくなっていかつい口元を緩めた。
 
 「おはよう、トゥリオ!
 何があったのか知ってる?
 おばさんの魔法がレベルアップしてんだけど」

 「ああ…」
 トゥリオはいつものように口の中で何かモゴモゴと言うと、台所に入っていき朝食を受け取って戻ってきてセレストの正面に座って食べ始めた。
 セレストが応答を待ってじーっと見つめていると、トゥリオは居心地悪そうに身じろぎしてぼそりと話し始める。

 「…今朝というか昨日の夜半に、王都からの使いが来たらしい。
 とある貴人がこの町にくるため、急遽この町全体の警護のために魔力を底上げすると。
 ただ、役所とこの町の住民に限るということだ。
 まあ、旅人や交易人にはどんな奴がいるか判らないからな」

 「へえ!
 あ、それで、トゥリオが町内の掃除に駆り出されるんだ」
 セレストは驚いてスプーンを置いて身を乗り出す。

 トゥリオは頷いて、ふと思いついて聞いた。
 「セレストは?女将さんから魔法を使ってみろと言われなかったのか?」
 「言われた。
 でも駄目だったよ」
 乗り出していた姿勢を戻し、スプーンを持ちなおしてセレストはニコッと笑う。

 強い子だ。
 傷ついてないはずがないのに。
 トゥリオは内心舌を巻く。

 「え、それで、とある貴人て誰?」
 興味津々と言ったようにセレストは訊いてくる。

 トゥリオは首を傾げて見せる。
 「女将さんもそこまでは知らないようだった」
 「なんだぁ~詰めが甘いんだよねえおばさんって」
 セレストが大仰に嘆いたときダダダッと階段を降りる音がして、扉がばんっと開き血相を変えたベルナールが食堂に飛び込んできた。

 「え、ベルナールさん…」
 二人は驚いて腰を宙に浮かせる。
 ベルナールは二人の姿を認めると、口をパクパクさせながら手近な椅子にドスンと腰かけた。

 「なに?どしたの?」
 セレストが聞きながら水の入ったコップを差し出す。
 「部屋に何か?」
 虫でも出たかとトゥリオが立ち上がりかけると、ベルナールは「いや、違うんだ」と言って水を一気に飲み干してはあーっと大きく息をついた。

 「今、仲間から通信が来たんだ。
 ガレスコが大変なことになるって」
 「えっ?!」
 セレストとトゥリオは顔を見合わせた。
 とある貴人の話かな??

 「セレスト!トゥリオ!
 いつまで食べてんだい!
 さっさと働きな…って、どうしたんですかベルナールさん」
 女将が台所からおたまを振り回しながら入ってきて、椅子にへたっているベルナールを見て驚いて尋ねる。

 「女将さんも、落ち着いて聞いてくれよ。
 第三王子が…魔力がないリュシアン王子が、ガレスコの町に、そして灰の森に来るんだと!」

 
 
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