前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ

文字の大きさ
28 / 51

28【エドワルド視点】

しおりを挟む
【エドワルド視点】

 今日から王立学園での生活が始まる。
 今まで会ったことのない貴族の子息や令嬢、または富裕層の平民や成績優秀者の平民なんかとも関わることが増える。
 正直、初めて会った時の反応が面倒くさい。

 ついさっきも、よそ見をしていた生徒にぶつかられて謝罪されたと思えば、顔を見るなり謝罪もそこそこに逃げていってしまった。
 何度か会っている者たちは、俺がアルと仲がいいのを知っているし、慣れたのか普通に挨拶されて終わるが、初対面の者からはヒソヒソクスクスと周りがうるさい。
 まぁ、数年前の状態に戻ったようなものだ。

「エド!   久しぶり。制服、よく似合ってるよ」

「アガルト様、お久しぶりです。アガルト様もよくお似合いですよ」

「いやー、それにしてもまいったね。制服、僕たちのサイズはないから仕上がりまで時間がかかるって言われていたけど、お互い間に合ってよかったね」

「そうですね」

 なんて、お互いの苦労話をしながら入学式を行うホールへ向かう。

 周りから、「嘘でしょ、あれがアガルト様なの?」「容姿はあまり良くないと噂では聞いていたけど、想像以上だわ」「あれなら、王妃になりたいなんて思わないわ」なんて、令嬢たちがやかましい。

 チラリとそちらを見やれば、「やだー睨まれたわ」「あぁ、怖い怖い」なんて言っている。王族や公爵家に対してそのような態度はどうなんだ、と思いはしたが、近くにいた高位貴族からやめておいたほうがいい、陛下から目をかけられている二人だぞって注意されていて真っ青な顔になっていた。
 しばらくすれば、落ち着くだろうか。

「そういえば、ミリーがエドに会えなくて寂しそうにしていたよ。今度、学校が休みの時でいいから城に来てよ」

「えっと、それはどうしてでしょうか」

「単純にエドに会いたいんでしょ」

「……もう、あの時のことを気にかけていただかなくても大丈夫なんですが」

「別に六年前の事をずっと引きずっているわけじゃないよ。本当にエドに会えないのが寂しいんだよ」

「はぁ……そうですか」

 六年前からミリアリア様のアルや俺への態度が変わって、なんだか落ち着かない。
 自分の兄の友人にあんなに親しげにしてくるものだろうか。しかも、婚約者でもないのにやたらと近い気がしている。

 一瞬、チラと俺に好意があるのか?   と、本当に一瞬だけ思ったこともあったが、そんな考えはすぐさま消し飛ぶ。
 いや、だってあのミリアリア様だぞ。絶世の美少女として有名なあのミリアリア様が、わざわざ俺を好きになるはずがない。
 きっと、昔助けたことを未だに恩に感じているのだろう。
 実際、他の貴族の子息たちからは、アガルト様と仲がいいからミリアリア様からも親しげにしてもらっているだけだ、勘違いしないほうがいい、というようなことを遠回しに言われたし、昔助けたことがあるからって、いつまでもそれを理由にミリアリア様に付きまとわないほうがいいぞ、なんて言われもした。
 まぁ、つきまとってはいないんだが。

 実は、両親からは「可愛い子が親しくしてくれたからといって、自分の分は弁えないといけないよ」と、暗にミリアリア様を好きになっても振られるだけだぞみたいなことを言われた。

 いや、俺だってきちんと弁えてるさ。

「まぁ、時間があえば城に伺わせていただきます」

「うん、絶対だよ。僕がミリーに怒られちゃうからね」

 おどけて笑うアルを見て、本当にミリアリア様には感謝しかない。自信無さげだった男の子は、たまに容姿を気にすることはあっても、今ではいつも明るく穏やかに笑っている。
 まぁ、アリサ嬢のおかげでもあるのか。

 ごくごく一部の貴族たちの間では、アルと宰相の娘のアリサ嬢が学園卒業後に婚約するのではないかという認識だ。

 なんでも、ミリアリア様がアリサ嬢とアルの間を取り持ったらしい。アルから詳しく聞いたことはないが、ある日ミリアリア様からお茶に誘われて行ったところ、アリサ嬢がいた。邪魔しては悪いと離れようとしたら、ミリアリア様に強引に席に座らされ、あれよあれよと色んな話をしたらしい。

 それから、時々三人でお茶をしていたある日のこと。ミリアリア様が、急に今日は先生がくるのを忘れていた、せっかくアリサ嬢に来てもらって悪いからお兄様がお相手して差し上げて、後はお二人でどうぞ~と席をあとにしたらしい。
 その頃にはすっかり意気投合していた二人は、その後は時々文通などをして仲良くなったと聞いている。

 そんなことから、周りの者たちはもう、これはそういうことなのでは?   と、両陛下も元々息子のことを好意的に思っていてくれた子がいたなんて!   逃してなるものか、と宰相に内々で縁談の話を持っていったと噂だ。

 この国は学校を卒業するまで正式に婚約しないとはいえ、それでは王妃教育が間に合わないということもあり、伯爵家以上の令嬢には幼い頃から王妃教育の基礎的な部分を教わることになっている。
 アリサ嬢も伯爵家だったこともあり問題はないが、本来ならもう少し家格が上の令嬢が婚約者に選ばれることが多い。
 噂を聞いた家格の上のものから色々難癖をつけられるのではないかとも心配されたが、今回はむしろ公爵、侯爵家の令嬢からはそれとなく感謝されているみたいとアルが言っていた。

「たまたま見ちゃったんだけどね、アリサ嬢が家格が上の令嬢たちに囲まれていて、大変だと思って近づいたら……『どんなに優秀で性格が良くても、私達はやっぱりアガルト様の容姿はちょっと……って、思っていたところだったの。学園の卒業が決まったら誰が婚約者に選ばれてしまうのかと恐々としていたわ。だからアリサ嬢、あなたには感謝しかないの。私達全力で応援いたしますからね』って、言われてた」との事らしい。

 正直、それをアリサ嬢に言うのもどうなんだ?   と、思いもするが、アリサ嬢がいじめられてるんじゃなくて良かったよ。と言っていたから、それ以上は聞かないことにした。
 だからもはや、アリサ嬢がアルの婚約者になるのはほぼほぼ内定しているようなものだ。

「そうそう、エドっていい仲の女の子っていたりするの?」

 思わず転びそうになる。

「いや、いるはずないだろっ」

 しまった。慌てて辺りを確認する。誰もいないことを確認して改めて答える。

「はあ、アルとは違って俺にそんな子がいるはずないだろ」

「んー、でもこの前、隣の領地のリンダ嬢とお茶をしなければいけないって憂鬱そうに言ってたよね」

「あれは両親が俺の見た目を心配して、今から顔に慣れてもらえば、卒業する頃には大丈夫になるかもなんて言ってセッティングしただけだ」

「そうなんだ。で、どうだったの?」

 ったく、自分はアリサ嬢と上手くいっているからって余裕そうにしやがって。

「どうも何も、いつも通り。顔は見ないし、話しかけても首を縦にふるか横にふるかしかしないし、まともにやり取りなんて出来ないさ。途中から俺も馬鹿らしくなって、一切話しかけなかったのは少し悪いと思わなくもないが」

「ふーん……でも、ミリーとはちゃんと話すだろ」

「それはアルの妹だからな」

「僕の妹、可愛いと思うよね?」

「え?   あぁ、思うけど」

「うんうん、そっかそっか。エドは面食いなんだね」

「いや、それを言うならアルもだろ!   アリサ嬢を狙っていた子息たちも多かったんだぞ」

「ハハハ、彼らも残念だね。アリサ嬢は、目が大きくて、体のでかい男が好みなんだって。あ、でもエドは言葉が乱暴だから苦手だってさ」

 いや、知らねえよ。アルとは親友だが、流石に王族に対してそんな事は言えない。

「アリサ嬢と順調そうで何よりです」

「『学園で沢山の令嬢がいるから心配です。これを私だと思って持っていてください』って、これもらったんだ」

 胸ポケットから大事そうに万年筆を見せつけてくる。
 はいはい、ご馳走様。ほんの数年前まで、僕たち将来結婚できるかなぁ……跡継ぎだって、必要なのに。って、心配してたやつとは大違いだ。

 まぁ、それに関しては俺もどうしたものかと思っている。両親は俺が結婚して、俺の血を引いた孫に会いたいんだろうが、正直それは難しいと思っている。
 一番の可能性は、親族から養子をとるのが現実的だな。
 そんな事を考えていたから、アルがなにか言っていたが聞き逃した。

「ミリーはエドがいいんだってさ」

「ん?   なにか言ったか?」

「ううん、きっとエドが考えているようなことにはならないと思うよ。とびきり素敵な女の子がエドの事を好きって言ってくれるかもしれないだろって」

「どんな世界線だよ」

 そんな風に、ふざけ合っていたら入学式が行われるホールについた。

「アガルト殿下、立派な入学生代表挨拶を期待していますよ」

 ニヤリと笑う。

「僕の姿を見て、いったい何人が倒れるか賭けるかい?」

 そんな冗談が言えるなら緊張はしていないのだろう。
 さぁ、学園生活が始まる。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

不憫な貴方を幸せにします

紅子
恋愛
絶世の美女と男からチヤホヤされるけど、全然嬉しくない。だって、私の好みは正反対なんだもん!ああ、前世なんて思い出さなければよかった。美醜逆転したこの世界で私のタイプは超醜男。競争率0のはずなのに、周りはみんな違う意味で敵ばっかり。もう!私にかまわないで!!! 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

私だけ価値観の違う世界~婚約破棄され、罰として醜男だと有名な辺境伯と結婚させられたけれど何も問題ないです~

キョウキョウ
恋愛
どうやら私は、周りの令嬢たちと容姿の好みが違っているみたい。 友人とのお茶会で発覚したけれど、あまり気にしなかった。 人と好みが違っていても、私には既に婚約相手が居るから。 その人と、どうやって一緒に生きて行くのかを考えるべきだと思っていた。 そんな私は、卒業パーティーで婚約者である王子から婚約破棄を言い渡された。 婚約を破棄する理由は、とある令嬢を私がイジメたという告発があったから。 もちろん、イジメなんてしていない。だけど、婚約相手は私の話など聞かなかった。 婚約を破棄された私は、醜男として有名な辺境伯と強制的に結婚させられることになった。 すぐに辺境へ送られてしまう。友人と離ればなれになるのは寂しいけれど、王子の命令には逆らえない。 新たにパートナーとなる人と会ってみたら、その男性は胸が高鳴るほど素敵でいい人だった。 人とは違う好みの私に、バッチリ合う相手だった。 これから私は、辺境伯と幸せな結婚生活を送ろうと思います。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...