前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ

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 そんな、あまい雰囲気に酔いしれていたけど、何か忘れていることに気がついた。

「はっ!   そういえば、私、あの男を森に拘束したまま置いてきてしまいました」

 ど、どうしましょう。あいつが悪いことには変わりないけど、拘束をして逃げられない状態で魔物の森に置いてくるなんて……もし、死んでたりしたら私が殺したようなものじゃない?
 今までの幸せ絶頂から、さあーっと一気に青ざめる。私、人殺しになっちゃう。

「あれなら一応、公爵家の騎士に回収してくるように言っておきました」

「見つかりましたか?   ご無事でしたか?」

「……生きてはいましたよ」

 エドワルド様が少し間を置いてから答えるから、魔物たちに食べられてしまったかと思ったけど、良かった。私、人殺しになってなかった。安堵しているそばで、エドワルド様がぼそっと、うん、一応、あれは生きてる。って、言ったことには私はまったく気づかなかった。

「あれが生きていて良かったですか?」

 ほんの少し不機嫌そうに聞くエドワルド様に、もしかしてこれって嫉妬かしらと嬉しくなる。
 それにしても、先程から“あれ”とか、“回収”とかの言葉にエドワルド様の怒りを感じる。

「良かったと言われれば、そうですね。私、人殺しになってしまったかと心配になりまして……そのせいで、罪に問われてエドワルド様との婚約がなくなるかもしれないと不安になりました。人命よりも婚約を心配するなんて……幻滅しましたか?」

「そんなことはありません。仮にあれが死んでいたとしても、拘束したことは正当防衛ですし、ミリアリア様に魔寄せ液を浴びせたせいで置き去りにされたのなら、あれの自業自得でミリアリア様が罪に問われることはなかったと思いますよ」

「そう……かしら」

 それなら、全女性の為に女の敵のあいつは魔物に食われてくれてたほうが安心だったかも。なんてひどいことを思ってしまった。

「結局重い処罰が下されると思いますよ。ブルー公爵家にも陛下は黙っていないと思います。もちろん、我が家も黙っていません」

「ありがとうございます。安心いたしました」

 そうよね。王族を攫って、ましてや殺そうとしたなんて重罪よね。極刑、よくて流刑地送りかしら。女性の方たちはこれで安心できるわね。
 
 そよそよと心地よい風が吹く。ドレスの裾が揺れたことで思い出した。

「そうだわ。シシリー夫人にお礼を言わないといけませんわね」

「母にですか?」

「ええ、こちらのドレスをお借りしたんです。それにしても驚きました、私とシシリー夫人ってサイズが一緒なんですね。サイズがピッタリです」

 この家でドレスを着ているのはシシリー夫人だけ。当然、これはシシリー夫人のドレスだと思ってニコニコと伝えれば、あー、それはー、となんとも歯切れの悪いお返事のあとに、それはミリアリア様用のドレスですから、と教えてくれた。
 私用のドレスがなぜあるのかしら?

「その……使用人たちが『ミリアリア様がいつ嫁いでこられても良いように今から準備をいたします』と言って聞かず、結婚はまだまだ先だというのに、部屋に置く家具の準備やドレスに靴と、既に色々と準備をしておりましたので」

 なるほどー。だから私好みのドレスだし、サイズもピッタリだったのね。

「申し訳ありません。使用人たちに悪気はないのですが、怖いですよね……」

「いいえ!   そんなことありません。私はこんなに歓迎されているのだと嬉しく思います」

 ホッとした表情を浮かべるエドワルド様。確かに好きでも何でもない人からそこまで勝手に準備されていたら怖いけど、私達は相思相愛!   いつお嫁に来てもいいんだと嬉しく思う。
 なんなら、今すぐにでもお嫁に来たい。学生結婚とかダメかしら?

「今日はこのあとどうされますか?   アリサ嬢やミリアリア様の侍女にはミリアリア様が無事だと連絡を頼みましたが、すぐに学園の寮に戻られますか?   私としては念の為に今日はこのまま我が家に泊まっていっていただければと思います。もちろん、変な意味ではありません!」

「ふふっ。もちろん、分かってますわ。そう、ですね。思っていた以上にちょっと疲れてしまったみたい。お言葉に甘えて、今日はこちらで休ませてください」

 ラッキー。きっとこれ、お父様達も知ってるのよね。つまり、親公認のお泊りだわ。でも、そんなウキウキを悟られたくなくて、少し可愛い振りして言ってみた。

「それは大変だ!   すぐにお部屋の支度をするように言ってきます」

 エドワルド様は慌ててそう言うと、すごい勢いで行ってしまった。ええー、疲れたみたいなんて可愛らしく言わなければ良かった。もうちょっと、二人で話したかったのに……
 でも、こうやって私の事を考えてくれるエドワルド様を私はまた好きになった。



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