珍・桑田少年の品定め

泉出康一

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第9珍 『最強の助っ人』

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2045年8月5日、昼、とあるホテルのロビーにて…

植松が呼んだ助っ人のモカはロビーにいた『カラス』共を一掃した。

「急ぎだな。」

ホテルの前にて…

幸太郎と植松はモカの用意した車に乗り込んだ。
モカは二人が車に乗るのを確認した後、自身も運転座席の方へ乗り込もうとした。

「(逃がさない。)」

その様子を、ホテルの窓からバレットがライフルのスコープ越しに覗いていた。

「(タイヤ…いや、狙うはあの男…)」

バレットはモカに向けて発砲した。
次の瞬間、モカは懐から拳銃を取り出し、ノールックで背後上方を撃った。
すると、信じられない事に、バレットの放った弾丸はモカの放った弾丸に1ミリのズレもなく正面衝突し、相殺された。

「(偶然…いや、狙ったのか…⁈)」

モカは狙って撃っていた。
車に乗った際にバレットに気づいたのだ。窓ガラスに反射された、とても薄く米粒よりも小さなサイズのバレットの姿を見逃さなかったのだ。
そして今、バレットはそれに気づいた。それと同時に、バレットは恐怖した。

「(なんて奴だ…)」

弾丸に弾丸を当てる。それはモカの狙撃技術が並外れて高いだけではない。バレットが何処を狙っているか、それを見抜く必要があるからだ。つまり、モカは全てを読んでいたという事になる。バレットの考え全てを。
モカはバレットの方を向いた。
バレットはモカが伝えたい事を理解した。言葉は要らない。モカのその目が全てを物語っていたからだ。

〈いつでも殺せる。〉

モカは車に乗り込み、車を発進させた。

「(仕事柄、死への恐怖は無い。なのに何故だ…)手の震えが止まらない…」

モカの車の中にて…

「怪我の具合は。」
「俺は耳撃たれて、植松は腹を…」

モカは後部座席にいる植松をチラ見した。

「清潔な場所はあるか。」
「え…」
「俺が治療する。」

幸太郎の家にて…

幸太郎達がリビングに入ってきた。

「母さんはパートで、妹は遊びに行ってる。」

その時、モカは車から持ってきた大きなカバンを床に置いた。

「好都合だ。」

すると、モカはそのカバンから本格的な医療器具を取り出した。

「アンタ、医者なのか…?」
「あぁ。」

幸太郎は不審の目でモカを見ている。

「…ホントに?」
「医者の前に『闇』が付くがな。」
「(大丈夫かコイツ…)」

とある研究室にて…

反矢里本派の次期会長候補、ガズム・ナチオニナーが何者かと電話で話をしていた。

「そうか、逃げられたか。まぁ、人質でも取って誘き出せば良いまでの事。こっちか?」

ガズムは歩き始めた。

「怖いくらい順調だ。」

ガズムは台の上に拘束された男の横に立った。

「……あぁ。それはまた報告する。」

ガズムは電話を切ると同時に、台の上に拘束された男に話しかけた。

「いよいよだ。お前のその力、俺のものになる。怖いか?怖いよなぁ。お前だけの特別だったんだからな。」

台の上の男は何か言いたげだったが、口を塞がれている為、話せなかった。

「お前も運が無ぇなぁ。ゴールデンクラッカーさんよぉ。」

夕方、桑田家のリビングにて…

治療を終えた植松はソファの上で横になっている。また、幸太郎の左耳の処置も終わったようだ。

「アンタ、一体何者なんだ?」
「助っ人だ。」
「それは分かってるよ。知りたいのは素性の方。」
「元殺し屋だ。今は闇医者を営んでいる。」

モカは顎で植松を指した。

「そいつの父親には借りがあってな。」
「借りってどんな?」
「まぁ、色々だ。」
「へー…」
「この後はどうする。」
「え?」

何のことですかと言わんばかりに、幸太郎はキョトンとしている。

「お前は命を狙われているんだ。追手が来ない訳がない。」
「そ、そんな事言われても…俺、何していいか分からんし…」

幸太郎は植松の方を見た。

「その娘が起きるまで待つつもりか?」

幸太郎は考え込みすぎてフリーズしてしまっている。
モカは呆れた顔でため息をついた。

「俺ならまずここから離れる。そして家族に連絡し、何処かで落ち合い、共に身を隠す。人質を取られたら終わりだからな。」
「あ、そうか!」

幸太郎はスマホで母親,父親,妹に電話をかけた。
しかし、誰も電話には出なかった。

「ダメだ…くそッ!どいつもコイツも!ちゃんと電話に出てくれよ!まったくもう!」
「とにかく、ここから離れるぞ。」

矢里本珍三郎の屋敷にて…

ロビーには『カラス』共に銃口を向けられている幸太郎の父、桑田圭人が矢里本珍三郎と対峙していた。

「よくココが分かったな。」
「妻を…舞香を返せ!」
「それは無理な話だ。我々の計画に、あの女は必要不可欠。まぁ、目的が果たせれば、その時は返してやる。」
「計画…?何やねん、それ…」
「お前が知る必要はない。」

矢里本は右手を上げ、『カラス』共に合図を出した。

「殺せ。」

『カラス』共が発砲しようとしたその時、植松そっくりの金髪ロングの少女が圭人の元へ歩いてきた。
矢里本はそれを見て、発砲を取りやめさせた。

「何の真似だ。」
「殺すのは勿体無いですよ。」
「は?」
「人質にしましょう。その方が、桑田幸太郎の始末も楽です。何より床も汚れません。」
「あんなガキ一人、人質なんか取らなくても…」
「奴らは既に、最強の助っ人を用意しました。念には念を入れといた方がよろしいかと。」

矢里本はしばらく不満そうな顔をしていたが結論を出した。

「…地下に閉じ込めておけ。」
「はは。」

モカの車の中にて…

幸太郎は助手席で電話をかけている。

「くそぉ~!なんで出ないんだよ海佳~!こりゃ調教が必要やな…グッヒヒ…♡」
「(コイツきもいなぁ。)」

その時、海佳が電話に出た。

「お!海佳!出た出た出ましたよ!うちの妹ちゃんが!」
〈なに。今部活中なんだけど。〉

海佳は少し怒り気味だ。

「部活中に電話出るなんてサボってただろ。ってか部活って事は、今学校か?」
〈そうだけど?〉
「待ってろ!今迎えに行くからな!」
〈逃げます。〉
「逃げるな!」

電話は切れた。

「んがッ!アイツ切りやがった!」

幸太郎はスマホをポケットにしまった。

「運転手!早く学校へ!海佳逃げちゃうよ!」

モカはやれやれといった感じで黙ったまま車を加速させた。
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