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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』
第62障『先生』
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昼、ポヤウェスト城下町、広場にて…
「「「オロオロ…オロオロ…」」」
ナツカ,パエーザ,ナドゥーラの3人は、エッチャとエナバラが急に消えた事に動揺し、オロオロしていた。
「おい、どうすんダよ!もう10分以上も戻って来ねぇぞ!」
「うろたえるな、ナツカ・チハーヤ。奴らは必ず戻ってくる。」
「(さっきまでオロオロ言ってたくせによぉ…)」
すると、ナドゥーラはパエーザに尋ねた。
「どうしてそう思うの?」
「連れ去られたのはエッチャ1人。奴は障王の末裔でも何でもない。つまり、連れ去るメリットが無いからだ。私の考えだと、エッチャを連れ去ったのは偶然だ。あの時、エナバラはタレントを使った。そして、そのタレントは、エナバラと一緒に私達の中からランダムで1人転送されるというタレントだろう。でなければ、エッチャを連れ去る理由がわからん。」
それを聞いたナツカはパエーザに尋ねた。
「人質とかは?障王と交換ダぁ~、みたいな。」
「それなら、さっきの時点でお前を連れ去っていただろ。」
「あ、そうか。」
その時、ナドゥーラがパエーザに話しかけた。
「でも、ココにじっとしていても仕方がないわ。カメッセッセさんを加勢しに行った方がいいんじゃない?」
「いや、それよりも今は国民の避難が先。城下町にいる人を急いで城に…」
次の瞬間、ナツカ達の頭上から直径5m、高さ10m程の寸胴鍋が落下してきた。
「んダぁぁぁあ⁈」
ナツカ達は飛び退いてそれを回避した。
「ななな何ダ⁈」
鍋は何かを煮込んでいるようで、蓋がカタカタ動いている。しかし、鍋の中身は見えない。
「ペナルティや。」
その時、ナツカ達は背後にエナバラがいる事に気がつき、構えた。
「まぁまぁ、今は休戦や~。ペナルティ見ようぜぇ~ぇえ~⤴︎」
エナバラはその巨大な鍋に触れた。
すると次の瞬間、鍋の側面が透明になり、中の状態が見えた。
「「「ッ⁈」」」
ナツカ達はその鍋の中を見て驚愕した。
鍋の中に入っていたのは沸騰した大量の水。そして、もがき苦しむ姿のエッチャ。
「エッチャ!!!」
ナツカは鍋を剣で叩いた。しかし、鍋はビクともしない。
「ッッッ!!!?!?!??!!!」
エッチャは鍋の底に足を拘束されており、逃げられない。
「ほぉ~!肌赤なってきたなぁ~!ハゲやから茹でタコみたいやわぁ~ぁあ~⤴︎」
エッチャは沸騰した湯の中。当然、全身は酷い火傷を負う。その姿を、エナバラは嘲笑っていた。
「テメェェェェ!!!」
ナツカはエナバラに斬りかかった。
しかし、エナバラはそれを軽くあしらい、ナツカの全身を軽く斬りつけた。
「ぐあッ!!!」
ナツカは倒れた。
「このペナルティは10分。まぁ、大人しく見ときぃ~。」
エナバラはパエーザとナドゥーラの方を向いた。
「アンタらもなぁ~ぁあ~⤴︎」
パエーザ達は動く事ができない。明らかに、エナバラに気圧されているのだ。
巨大寸胴鍋の中にて…
「(痛い痛い痛い痛いッ‼︎全身が熱いッ‼︎皮膚が焼けるッ‼︎目が溶けるッ‼︎)」
10分間、沸騰した湯の中に人間を入れたら、どうなるのか。
エッチャはPSIを身に纏い、ダメージを緩和していた。しかし、この苦痛に耐えられるはずもない。
「(苦しいッ……死ぬッ………)」
エッチャの意識が遠のく。
「(死にたく…ない………)」
エッチャは薄れゆく意識の中、とある人物の言葉を思い出していた。
「(先生………)」
今から約6年前(エッチャ13歳)、チハーヤ城下町にて…
「おい、聞いたか?またエッチャが悪事を働いたらしいぞ。」
「あの不良め…」
「ロット修道士は一体何をなさっているのか…」
エッチャは捨て子であった。親に捨てられ、幼い頃から修道院で育ったエッチャ。そんな彼がグレて不良になるのは、不自然な事ではなかった。そして誰も、エッチャの生い立ちを責める事などできない。咎められるのはいつも、エッチャを保護した修道僧、エルシャ・ロット修道士であった。
6年前、エッチャが育った修道院にて…
テーブルを挟んでエッチャの前には、ロット修道士が椅子に座っていた。
「何やねん、いきなり呼び出しやがって…」
「エッチャ君。そこに座りなさい。」
エッチャは渋々、椅子に座った。
「…」
ロット修道士は黙り込んでいる。
次の瞬間、エッチャはテーブルを叩き、立ち上がった。
「早よ話せや!うっとぉーしぃねん!」
その時、ロット修道士はテーブルの上に大金を置いた。
エッチャはそれを見て、驚嘆した。
「この修道院、そして、私の全財産です。今からこのお金は全て、貴方のものとなります。」
エッチャは怪訝な顔をした。
「どういうつもりやねん…」
「私の後を継ぎ、子供達の世話を頼みます。」
すると、エッチャは声を荒げた。
「はぁ⁈何でやねん⁈訳わからん!」
「この修道院は貴方に任せます。まだ子供である貴方に任せるのも、酷な話ですが…」
静かに話を続けるロット修道士に対し、エッチャはさらに声を荒げた。
「何で俺がやらなアカンねん!絶対やらんからな!」
「エッチャ君。貴方にならできます。私は信じているのです。」
「そんなん知らんわ!2度と俺に話しかけて来んな!」
エッチャは部屋を出ようとした。
するとその時、ロット修道士はエッチャに言った。
「私は知っています。貴方が、本当は誰よりも優しい心の持ち主だと。しかしそれ故、自分にも甘い。貴方の生い立ちがどのようなものであれ、自分を甘やかし、辛い現実から逃げようとしてはいけません。」
エッチャは部屋のドアノブに手をかけ、止まって話を聞いている。
「辛い時こそ、一歩踏みとどまれる人間になりなさい。そうすれば、きっと、辛かった現実にも希望が見えてくるでしょう。」
「…知らんわ。」
エッチャは部屋を出た。
その数ヶ月後、チハーヤの病院にて…
ロット修道士はベッドの上で横になっている。
ロット修道士は肺がんを患っていたのだ。そして、もう長くない。
その時、ロット修道士の元へ、エッチャがやってきた。
「来てくれたんですね。」
「お前が呼んでんやろ。」
ロット修道士はエッチャの顔を見るなり、真剣な表情をした。
「話があります。」
「言っとくけど、俺、修道院継ぐ気なんか無いから…」
その時、ロット修道士はエッチャの話を遮り、話し始めた。
「本当に辛い時は逃げても良いんです。」
「は…?」
「しかし、やりもしないで諦めてはいけません。やった上で、本当に辛いと思ったのなら諦めて下さい。」
ロット修道士は話を続けた。
「ですが、エッチャ君。貴方にはやはり、そんな時こそ、一歩踏みとどまれる人間であって欲しい。」
すると、エッチャが反論した。
「言ってる事めちゃくちゃやな。頑張って欲しいんか欲しくないんかどっちやねん。」
エッチャのその言葉を聞いたロット修道士は少し微笑んだ。
「そうですね。紛らわしい言い方をしてごめんなさい。」
すると、ロット修道士は言った。
「ちょっとだけ頑張って下さい。」
「は?」
その時、ロットは人差し指を立てた。
「一歩です。ニ歩も三歩も踏みとどまる必要はありません。辛い時こそ、一歩だけ、踏みとどまってみて下さい。そうすればきっと、何かが見えてくるはず…」
すると、ロット修道士はエッチャの手を握った。
「強く…そして、幸せになりなさい。」
それがロット修道士の最後の言葉であった。
ロット修道士の死後、エッチャは様々な事に気づいた。エッチャが悪事を働いた時、代わりにロット修道士が謝罪をしていた事を。今までどれだけロット修道士に守られていたかを。恩人に、礼を言えなかった事を。
それから1年後、エッチャはロット修道士の後を継いだ。後を継いだエッチャの生活はとても忙しかった。修道院の維持費や子供達の養育費などを一人で稼がなくてはならなかったからだ。しかし、エッチャは決して逃げ出さなかった。ロット修道士からの教えである『辛い時こそ、一歩踏みとどまれる人間になれ』を貫いたのだ。
エッチャが剣術を磨き、ナツカ達の旅に同行する事となったのも、修道院の子供達の養育費を稼ぐ為。ロット修道士が残してくれたものを守る為である。
現在、ポヤウェスト城下町、広場にて…
「ななな…⁈何やコレはぁ~ぁあ~あああ~~~⁈」
エナバラは驚嘆している。いや、ナツカやパエーザ達も。
その理由はエッチャだ。
「(『球丸』で気泡を…!)」
なんと、鍋の中のエッチャは『球丸』で気泡を集め、その中に留まっていたのだ。
巨大寸胴鍋の中にて…
「(一歩踏みとどまるッ…!先生ッ!今がその時やんなッ!!!)」
熱湯内に入れられたエッチャの全身は、酷い火傷を負っていた。しかし、エッチャの策により、窒息死は免れたのだ。
次の瞬間、どうやらペナルティ開始から10分経過したらしく、エナバラの巨大寸胴鍋は消滅した。
「カハ…ッ‼︎………ッ‼︎…ハァ……ッ‼︎」
エッチャはうまく息ができていない。にも関わらず、エッチャは剣を構え、立ち上がった。
「(そんな馬鹿な⁈私の『血塗られた調理実習(ハイプリエステス)』のペナルティを喰らって生きているなんて…⁈)」
その時、エッチャはエナバラに斬りかかった。
「えッ…ぢァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!」
エナバラは完全に不意を突かれている。
次の瞬間、エッチャはエナバラの腹部を斬り裂いた。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!!!!」
エナバラの体は上半身と下半身に分けられ、地面に倒れた。
「えっちゃ……ザマァ…みろ…………」
エッチャは地面に倒れた。
「エッチャぁぁぁあ!!!」
ナツカはエッチャの元へ駆け寄った。
それと同時に、パエーザとナドゥーラは上半身だけになったエナバラを取り押さえた。
「おい!エッチャ!しっかりしろ!おい!」
ナツカはエッチャの肩をさすった。
するとその時、パエーザはエッチャの全身の火傷を見て、ナツカに言った。
「…ナツカ・チハーヤ。その火傷では…もう…」
「うるせぇぇえ!!!エッチャが死ぬ訳ねぇダろ!!!今すぐ病院に連れて行けば…」
その時、エッチャが弱々しく呟いた。
「ナツ…カ……修道院の…子供達を……頼…む………」
ナツカにエッチャの事情など知らない。それ故、修道院やそこの子供達の事など、わからない。しかしこの時、ナツカはコレがエッチャの最後の頼みである事を理解した。
「エッチャ…」
その時、ナツカの目から涙がこぼれ落ちた。
その涙はエッチャの頬に落ちた。
「えっ……ちゃ…………泣く…な……っ……て……………」
エッチャ・ロット。19歳。死亡。
???にて…
真っ白な空間に、エッチャとロット修道士が向かい合って立っていた。
「先生…ごめん…俺、子供達の事、守られへんかった…」
「良いんですよ。貴方はよく頑張りました。ゆっくり、お休みなさい。」
エッチャとロット修道士は同じ方向へと歩き始めた。
「先生。」
「はい。何ですか、エッチャ君。」
「えっちゃ、俺…幸せやったで…!」
「「「オロオロ…オロオロ…」」」
ナツカ,パエーザ,ナドゥーラの3人は、エッチャとエナバラが急に消えた事に動揺し、オロオロしていた。
「おい、どうすんダよ!もう10分以上も戻って来ねぇぞ!」
「うろたえるな、ナツカ・チハーヤ。奴らは必ず戻ってくる。」
「(さっきまでオロオロ言ってたくせによぉ…)」
すると、ナドゥーラはパエーザに尋ねた。
「どうしてそう思うの?」
「連れ去られたのはエッチャ1人。奴は障王の末裔でも何でもない。つまり、連れ去るメリットが無いからだ。私の考えだと、エッチャを連れ去ったのは偶然だ。あの時、エナバラはタレントを使った。そして、そのタレントは、エナバラと一緒に私達の中からランダムで1人転送されるというタレントだろう。でなければ、エッチャを連れ去る理由がわからん。」
それを聞いたナツカはパエーザに尋ねた。
「人質とかは?障王と交換ダぁ~、みたいな。」
「それなら、さっきの時点でお前を連れ去っていただろ。」
「あ、そうか。」
その時、ナドゥーラがパエーザに話しかけた。
「でも、ココにじっとしていても仕方がないわ。カメッセッセさんを加勢しに行った方がいいんじゃない?」
「いや、それよりも今は国民の避難が先。城下町にいる人を急いで城に…」
次の瞬間、ナツカ達の頭上から直径5m、高さ10m程の寸胴鍋が落下してきた。
「んダぁぁぁあ⁈」
ナツカ達は飛び退いてそれを回避した。
「ななな何ダ⁈」
鍋は何かを煮込んでいるようで、蓋がカタカタ動いている。しかし、鍋の中身は見えない。
「ペナルティや。」
その時、ナツカ達は背後にエナバラがいる事に気がつき、構えた。
「まぁまぁ、今は休戦や~。ペナルティ見ようぜぇ~ぇえ~⤴︎」
エナバラはその巨大な鍋に触れた。
すると次の瞬間、鍋の側面が透明になり、中の状態が見えた。
「「「ッ⁈」」」
ナツカ達はその鍋の中を見て驚愕した。
鍋の中に入っていたのは沸騰した大量の水。そして、もがき苦しむ姿のエッチャ。
「エッチャ!!!」
ナツカは鍋を剣で叩いた。しかし、鍋はビクともしない。
「ッッッ!!!?!?!??!!!」
エッチャは鍋の底に足を拘束されており、逃げられない。
「ほぉ~!肌赤なってきたなぁ~!ハゲやから茹でタコみたいやわぁ~ぁあ~⤴︎」
エッチャは沸騰した湯の中。当然、全身は酷い火傷を負う。その姿を、エナバラは嘲笑っていた。
「テメェェェェ!!!」
ナツカはエナバラに斬りかかった。
しかし、エナバラはそれを軽くあしらい、ナツカの全身を軽く斬りつけた。
「ぐあッ!!!」
ナツカは倒れた。
「このペナルティは10分。まぁ、大人しく見ときぃ~。」
エナバラはパエーザとナドゥーラの方を向いた。
「アンタらもなぁ~ぁあ~⤴︎」
パエーザ達は動く事ができない。明らかに、エナバラに気圧されているのだ。
巨大寸胴鍋の中にて…
「(痛い痛い痛い痛いッ‼︎全身が熱いッ‼︎皮膚が焼けるッ‼︎目が溶けるッ‼︎)」
10分間、沸騰した湯の中に人間を入れたら、どうなるのか。
エッチャはPSIを身に纏い、ダメージを緩和していた。しかし、この苦痛に耐えられるはずもない。
「(苦しいッ……死ぬッ………)」
エッチャの意識が遠のく。
「(死にたく…ない………)」
エッチャは薄れゆく意識の中、とある人物の言葉を思い出していた。
「(先生………)」
今から約6年前(エッチャ13歳)、チハーヤ城下町にて…
「おい、聞いたか?またエッチャが悪事を働いたらしいぞ。」
「あの不良め…」
「ロット修道士は一体何をなさっているのか…」
エッチャは捨て子であった。親に捨てられ、幼い頃から修道院で育ったエッチャ。そんな彼がグレて不良になるのは、不自然な事ではなかった。そして誰も、エッチャの生い立ちを責める事などできない。咎められるのはいつも、エッチャを保護した修道僧、エルシャ・ロット修道士であった。
6年前、エッチャが育った修道院にて…
テーブルを挟んでエッチャの前には、ロット修道士が椅子に座っていた。
「何やねん、いきなり呼び出しやがって…」
「エッチャ君。そこに座りなさい。」
エッチャは渋々、椅子に座った。
「…」
ロット修道士は黙り込んでいる。
次の瞬間、エッチャはテーブルを叩き、立ち上がった。
「早よ話せや!うっとぉーしぃねん!」
その時、ロット修道士はテーブルの上に大金を置いた。
エッチャはそれを見て、驚嘆した。
「この修道院、そして、私の全財産です。今からこのお金は全て、貴方のものとなります。」
エッチャは怪訝な顔をした。
「どういうつもりやねん…」
「私の後を継ぎ、子供達の世話を頼みます。」
すると、エッチャは声を荒げた。
「はぁ⁈何でやねん⁈訳わからん!」
「この修道院は貴方に任せます。まだ子供である貴方に任せるのも、酷な話ですが…」
静かに話を続けるロット修道士に対し、エッチャはさらに声を荒げた。
「何で俺がやらなアカンねん!絶対やらんからな!」
「エッチャ君。貴方にならできます。私は信じているのです。」
「そんなん知らんわ!2度と俺に話しかけて来んな!」
エッチャは部屋を出ようとした。
するとその時、ロット修道士はエッチャに言った。
「私は知っています。貴方が、本当は誰よりも優しい心の持ち主だと。しかしそれ故、自分にも甘い。貴方の生い立ちがどのようなものであれ、自分を甘やかし、辛い現実から逃げようとしてはいけません。」
エッチャは部屋のドアノブに手をかけ、止まって話を聞いている。
「辛い時こそ、一歩踏みとどまれる人間になりなさい。そうすれば、きっと、辛かった現実にも希望が見えてくるでしょう。」
「…知らんわ。」
エッチャは部屋を出た。
その数ヶ月後、チハーヤの病院にて…
ロット修道士はベッドの上で横になっている。
ロット修道士は肺がんを患っていたのだ。そして、もう長くない。
その時、ロット修道士の元へ、エッチャがやってきた。
「来てくれたんですね。」
「お前が呼んでんやろ。」
ロット修道士はエッチャの顔を見るなり、真剣な表情をした。
「話があります。」
「言っとくけど、俺、修道院継ぐ気なんか無いから…」
その時、ロット修道士はエッチャの話を遮り、話し始めた。
「本当に辛い時は逃げても良いんです。」
「は…?」
「しかし、やりもしないで諦めてはいけません。やった上で、本当に辛いと思ったのなら諦めて下さい。」
ロット修道士は話を続けた。
「ですが、エッチャ君。貴方にはやはり、そんな時こそ、一歩踏みとどまれる人間であって欲しい。」
すると、エッチャが反論した。
「言ってる事めちゃくちゃやな。頑張って欲しいんか欲しくないんかどっちやねん。」
エッチャのその言葉を聞いたロット修道士は少し微笑んだ。
「そうですね。紛らわしい言い方をしてごめんなさい。」
すると、ロット修道士は言った。
「ちょっとだけ頑張って下さい。」
「は?」
その時、ロットは人差し指を立てた。
「一歩です。ニ歩も三歩も踏みとどまる必要はありません。辛い時こそ、一歩だけ、踏みとどまってみて下さい。そうすればきっと、何かが見えてくるはず…」
すると、ロット修道士はエッチャの手を握った。
「強く…そして、幸せになりなさい。」
それがロット修道士の最後の言葉であった。
ロット修道士の死後、エッチャは様々な事に気づいた。エッチャが悪事を働いた時、代わりにロット修道士が謝罪をしていた事を。今までどれだけロット修道士に守られていたかを。恩人に、礼を言えなかった事を。
それから1年後、エッチャはロット修道士の後を継いだ。後を継いだエッチャの生活はとても忙しかった。修道院の維持費や子供達の養育費などを一人で稼がなくてはならなかったからだ。しかし、エッチャは決して逃げ出さなかった。ロット修道士からの教えである『辛い時こそ、一歩踏みとどまれる人間になれ』を貫いたのだ。
エッチャが剣術を磨き、ナツカ達の旅に同行する事となったのも、修道院の子供達の養育費を稼ぐ為。ロット修道士が残してくれたものを守る為である。
現在、ポヤウェスト城下町、広場にて…
「ななな…⁈何やコレはぁ~ぁあ~あああ~~~⁈」
エナバラは驚嘆している。いや、ナツカやパエーザ達も。
その理由はエッチャだ。
「(『球丸』で気泡を…!)」
なんと、鍋の中のエッチャは『球丸』で気泡を集め、その中に留まっていたのだ。
巨大寸胴鍋の中にて…
「(一歩踏みとどまるッ…!先生ッ!今がその時やんなッ!!!)」
熱湯内に入れられたエッチャの全身は、酷い火傷を負っていた。しかし、エッチャの策により、窒息死は免れたのだ。
次の瞬間、どうやらペナルティ開始から10分経過したらしく、エナバラの巨大寸胴鍋は消滅した。
「カハ…ッ‼︎………ッ‼︎…ハァ……ッ‼︎」
エッチャはうまく息ができていない。にも関わらず、エッチャは剣を構え、立ち上がった。
「(そんな馬鹿な⁈私の『血塗られた調理実習(ハイプリエステス)』のペナルティを喰らって生きているなんて…⁈)」
その時、エッチャはエナバラに斬りかかった。
「えッ…ぢァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!」
エナバラは完全に不意を突かれている。
次の瞬間、エッチャはエナバラの腹部を斬り裂いた。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!!!!」
エナバラの体は上半身と下半身に分けられ、地面に倒れた。
「えっちゃ……ザマァ…みろ…………」
エッチャは地面に倒れた。
「エッチャぁぁぁあ!!!」
ナツカはエッチャの元へ駆け寄った。
それと同時に、パエーザとナドゥーラは上半身だけになったエナバラを取り押さえた。
「おい!エッチャ!しっかりしろ!おい!」
ナツカはエッチャの肩をさすった。
するとその時、パエーザはエッチャの全身の火傷を見て、ナツカに言った。
「…ナツカ・チハーヤ。その火傷では…もう…」
「うるせぇぇえ!!!エッチャが死ぬ訳ねぇダろ!!!今すぐ病院に連れて行けば…」
その時、エッチャが弱々しく呟いた。
「ナツ…カ……修道院の…子供達を……頼…む………」
ナツカにエッチャの事情など知らない。それ故、修道院やそこの子供達の事など、わからない。しかしこの時、ナツカはコレがエッチャの最後の頼みである事を理解した。
「エッチャ…」
その時、ナツカの目から涙がこぼれ落ちた。
その涙はエッチャの頬に落ちた。
「えっ……ちゃ…………泣く…な……っ……て……………」
エッチャ・ロット。19歳。死亡。
???にて…
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「先生…ごめん…俺、子供達の事、守られへんかった…」
「良いんですよ。貴方はよく頑張りました。ゆっくり、お休みなさい。」
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「はい。何ですか、エッチャ君。」
「えっちゃ、俺…幸せやったで…!」
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