障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第120障『悪意なき悪』

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【4月1日、18:56、フリージア王国、城下町、教会跡にて…】

天井が崩れ落ち、廃墟と化した教会跡地。腰骨を折られた土狛江、左足を噛み千切られた裏日戸、そんな二人の治療をする陣野が居た。

「これからどうするんだ?」
「そうだな…」

土狛江は自身と裏日戸の傷の具合を見た。

「すぐにでも秋の助太刀に行きたいけど、こんな状態じゃ足手纏いになるのは目に見えてる。」

土狛江は陣野に話しかけた。

「陣野さん。悪いけど氷室くんを探して、連れてきてくれませんか?」
「あぁ、それは良いが…キミらは大丈夫か?」
「平気です。タレントがありますから。」

土狛江は手の平の上で土を操り、そう言った。それを見て、陣野は頷く。

「わかった。」

陣野はその場から走り去った。陣野が氷室を探しに行って数分後、裏日戸は呟いた。

「悪いな…土狛江…」
「え…?」
「足引っ張ってばっかで…」

いつになく弱気な裏日戸に少し戸惑った土狛江。しかし、そんな弱気な姿の裏日戸が何処となくおかしく思え、土狛江は笑みをこぼした。それを見て、裏日戸は尋ねる。

「な、なに笑ってんだよ…」
「なんか可愛いなぁって思ってさ。」
「はぁ⁈」
「ギャップ萌えってやつ?ww」

裏日戸は顔を赤くして土狛江を睨みつけた。

「てめぇ、後でぶん殴ってやるからな…!」
「念の為、殴るのは完全に火が沈んでからにしてね。俺死んじゃうから。」

その時、氷室を探しに行った陣野が戻ってきた。しかし、氷室の姿はどこにもない。

「あれ?陣野さん。氷室くんは?」
「……」

陣野は返事をせず、こちらに歩いてきた。裏日戸はそんな陣野に苛立つ。

「おい、おっさん。居たのか居なかったのかぐらい言えや。」
「……」

しかし、陣野は返事をしない。

「陣野さん…?」

土狛江が陣野の異変に気づいた次の瞬間、陣野は両手で裏日戸の首を絞め始めた。

「かふッ…‼︎」

裏日戸は陣野の腕を振り払おうとするが力が強く、振り払えない。日も沈み、タレントの使えない裏日戸はその手を振り払う術を失った。
その時、土狛江は陣野にタックルし、裏日戸から離した。

「くッ…‼︎」

土狛江は土を操作・凝固させ、砕けた腰骨を繋ぎ止めている。それにより、土狛江は起立と歩行が可能になった。しかし、当然激痛は避けられない。

「あ、あれ…土狛江?裏日戸?」

突き飛ばされた陣野の様子が元に戻った。そして、何があったのかとキョロキョロと辺りを見渡す。その様子を見て、土狛江は陣野が何者かに操作されていた事に気づいた。

「陣野さん!俺たちから離れた後、一体何があったんですか⁈」

それを聞かれ、陣野は危機感を覚え、早口で話し始めた。

「そ、そうだ!白鳥組だ!まずいぞ!奴ら、この町の人間……」

その時、辺りに鐘の音が響いた。

「……」

すると、陣野は再び自我を失い、土狛江たちに襲いかかってきた。

「(間違いない。陣野さんは操作されている。おそらくはオート操作。さっきの鐘の音が再操作のトリガーになってるんだ。)」

土狛江は現状を把握し、少ないヒントから敵の操作能力の詳細を見抜いた。

「(再操作があるとすれば、今ココで陣野さんの操作を解いても無駄。また鐘の音が響けば…)」

その時、土狛江はとある事に気がついた。

「(あの鐘の音…一体どこから…)」

そう。土狛江が聞いたあの鐘の音。確かに聞こえた。ハッキリと。しかし、あまりにもハッキリ過ぎだ。それはまるで、イヤホンでもしているかのように、頭の中に響いたのだ。
次の瞬間、土狛江は意識を失った。

【19:20、フリージア王国、城下町、とある酒場にて…】

気を失った土狛江,裏日戸,陣野の三人はそれぞれ別々の鉄の柱に縛り付けられていた。そして、そんな彼らの前には大勢のフリージア市民たち。その中心にいるアフロ頭の黒服の男。一善の部下、前田だ。

「起きろ。」

前田はそう発言しながら、手に持っていた小さな鐘を鳴らした。

「「「ッ……⁈」」」

すると、三人はまるで叩き起こされたように目を覚ました。

「こ、ココは…」

土狛江たちは辺りを見渡し、状況を把握する。

「(捕まった、のか…?)」

土狛江は意識を失う前の事を思い出す。

「(ダメだ…全くわからない…)」

土狛江ですら、どのようにして自分が捕まったのかが理解できなかった。ただ、自分を捕らえたのは今目の前にいる前田で、その背後の大勢のフリージア市民は、彼が操作している事。そして、これから尋問が始まる事も。

「はいはーい、どうもっす。俺、まえ…って陣さん居るし、名前は言わない方が良いか。」

前田は陣野の『青面石化談話ノーグッドパーティ』を警戒し、自己紹介を避けた。また、陣野の事も『陣さん』とあだ名をつけ、呼んだ。

「寝起きで悪いんすけど、ちょい聞きたい事あるんすよ。」

前田の口調は軽く、悪意というものをこれっぽっちも感じさせない。土狛江たちはそれが逆に恐ろしかった。今から明らかに非人道的な事が行われるというのに。前田にとってはそれがまるで、日常的な事であるかのように。

「メンツを見るに、桜田は陣さんに協力依頼して、ココまで俺らを追ってきたって感じっすよね。」

前田の読みは当たっている。馬鹿だと思っていたが、並の思考はできるようだ。
ちなみに、陣野の『青面石化談話ノーグッドパーティ』は陣野の近くに居る者の名前を呼んだ者を石化するタレント。この場に居ない桜田の名を呼んだとしても問題は無い。

「でーも変なんすよねぇ。あの四大財閥当主が学生に投資しますぅ?ナイナイww俺だったら絶対そんな事しませんてww」

その時、前田はテーブルの上にあったリンゴを手に取って椅子から立ち上がる。

「けど実際、アンタはそうしちゃってくれちゃってる訳で…そうする理由があってくれちゃってる訳じゃん?」

前田は陣野の前に立った。

「何?理由それ?」
「ッ……」

陣野は冷や汗をかきながら、前田から目線を逸らし、黙秘する。

「黙られんの一番困るんすよねぇ。」

前田は陣野の頭にリンゴを乗せ、『それを落とすな』と目で命令する。

「俺の見立てだと…」

前田は再び椅子に座る。そして、こう言った。

「障坂ガイが生きてるんじゃないかなぁって。」

それを聞いた裏日戸と陣野はギクリとした。その反応を誤魔化す為、土狛江はすぐさま前田に質問をした。

「陽道は何処だ。」

そんな土狛江を見た前田は笑顔でこう言った。

「馬鹿と居ると疲れるっすよねぇ。分かるっすよ、俺には。」
「は…?」

前田の唐突な褒め言葉に困惑する土狛江。しかし、その発言の意図に土狛江はすぐさま気がついた。

「(気づかれた…)」

前田は裏日戸と陣野の反応を見逃さなかった。そして、土狛江のフォローも。そう。前田は確信したのだ。ガイが生きていると。

「俺にも一善って馬鹿な上司が居たんすよぉ。ほんっと馬鹿でボケなすのキチガイ。あんな人の下に就く俺の気持ちも考えて欲しいっすよ。ま、でも俺、一応白鳥組の優秀枠で通ってるんで!石川の奴が居なけりゃ、俺がNo.2取れてたっすから!」

前田の言う事全て本当かどうか定かでは無い。だが、それら全てがまるで自身を試しているかのような、土狛江はそんな気がしてならなかった。

「てか、多いな。」

その時、前田は土狛江たちを見て、ふとそう口にした。そして、前田は土狛江を指差した。

「三人も要らねーわ。」

次の瞬間、洗脳されたフリージア市民の一人が猟銃を発砲した。

「出る杭は打たれるってやつね。」

弾丸は土狛江の脳天を撃ち抜いた。

「………」

土狛江は床に倒れ、死んだ。

「土狛…江……」

裏日戸は唐突の出来事で状況が理解できない。

「なんてことを……」

陣野は土狛江の死を理解し、同時に前田の残忍さに気がついた。
その時、陣野は頭の上に乗せられたリンゴを股の上に落としてしまった。瞬間、洗脳されたフリージア市民の一人がそのリンゴに向けて矢を放った。

「きぐぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?!?!!」

矢はリンゴを貫通し、陣野の股間に突き刺さった。前田はそれを見て震えた。

「うっわ…痛そう…」

前田は自身の股間を抑え、不憫そうに陣野を眺める。自身が仕向けたにも関わらず。

「俺思うんすよ。どうせ死ぬなら、痛い思いせずに死んだ方が良いって。そう思いません?だったら素直に言っちゃいましょうよ!」

前田が手を上げたその時、彼の背後のフリージア市民たちは猟銃や弓矢を構えた。

「障坂ガイは何処っすか?」
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