障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第142障『ナンバーワン+オンリーワン=最強』

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【4月2日、20:00、永久氷地、神殿付近にて…】

満身創痍のヤブ助と秀頼。ヤブ助は猫化しており、全身酷い火傷。秀頼は左腕切断と両目が潰れていた。その前には見知らぬ小ぶりな青年が立っていた。

「誰ダ……⁈」

魔物化の影響により、両目が再生した秀頼が目を開ける。先程までカフと戦っていた。しかし、今、目の前にいるのは体型も年齢も性別も違う人間がいる。

「お初にお目に、おかかります!俺、インフォイーターです!」

コードネーム:インフォイーター
身長161cm。コスパ最強・超高性能な消化器官を有し、食べた物の栄養を100%吸収する事ができる。その為、排便をしない。また、人間を食べれば、その人の筋力や知識など全ての生体特徴を我が物にする事もできる。

「さっきまでのカフさんは俺です。俺がカフさんに成りきってました。いや、成りきったというよりはマジ物です。食べましたから、カフさん。マジ物のカフでした。ありがとうございます。」

彼、インフォイーターはホールド達と同じく、カフの弟子だった。基本的な体術などは全て師であるカフから学び、教わった。しかし、彼は戦いがあまり得意ではなかった。周囲に比べて遥かに劣る戦闘技術。それを克服する為、彼は師であるカフを喰らった。しかし、仕事以外で同族を殺す事は『Zoo』にとってNG。知られれば即、処分される。故に、自身は死んだ身となり、カフに成り変わったのだ。

「ところで、何でカフさんが『Zoo』を引退したか知ってます?」

インフォイーターは秀頼とヤブ助に、唐突に質問した。

「殺し屋の仕事を受けなくなって、俺たち新人の育成役になった理由。なぁ?知ってます?わかります?」

秀頼は何も答えない。一方のヤブ助は怪我でそれどころではなかった。
インフォイーターは痺れを切らし、話を始めた。

「あの人はただ強いだけなんです。強いだけじゃ『Zoo』は務まらない。お前らも見てきたはずです。『Zoo』の殺し屋独特の特技を。」

確かに、『Zoo』の殺し屋は皆、それぞれ固有の武器があった。それはタレントと呼んでも大差無いクオリティの特殊能力。

「けど、あの人にはそれがなかったです。俺らみたいな、『生まれ持っての特別』があの人にはなかったんです。だから『Zoo』としては半人前だった。例え、あの人が世界一強くてもです。」

インフォイーターはヤブ助達の方へと歩き始めた。

「『Zoo』は個性重視。ナンバーワンよりオンリーワン。」

ゆっくりと歩み寄るインフォイーターに警戒を強める秀頼。ヤブ助も全身の痛みを堪え、立ち上がる。二人とも、警戒を緩める事なく、インフォイーターを凝視していた。
しかし、それこそ致命的なミスだった。

「そんなに見つめて大丈夫です?」

瞬間、二人の視界が大きく揺らいだ。

「「ッ…‼︎」」

倡歩しょうほ。独特な歩行により相手の瞳孔を揺さぶり、眩暈を起こす歩行術。そう。見た目は変われど、彼がカフの技と身体能力を有する事に変わりはない。

「ナンバーワンをゲットしたオンリーワン。これどーゆー事かわかります?」

インフォイーターは秀頼の首を掴んだ。

「最強って事です。」

秀頼は魔物化の影響により、全身に分厚い骨の装甲を纏っている。それ故、秀頼の首を握り折る事は出来ない。

「ナッ……⁈」

そんな考察は一瞬にして無駄と化した。
なんと、インフォイーターは握力のみで秀頼の首の装甲にヒビを入れた。そして、そのヒビは段々と広がっていく。

「こう見えて俺、筋肉質なんです。いっぱい食べるんで。」

食べた物の栄養を100%吸収できるインフォイーター。彼の筋肉は見た目よりも遥かに高密度。そして、極め付けは他にあった。

「ッ‼︎」

瞬間、秀頼はインフォイーターの右腕をへし折った。

「(回復が早いな…)」

倡歩しょうほのスタン攻撃から立ち直った秀頼。次の瞬間、秀頼はインフォイーターの懐に飛び込み、腹に拳を打ち出した。

「フガァァアッ‼︎」

秀頼の渾身の突き。しかし、その拳が届く前に、秀頼は後方へと大きく飛ばされた。

「ッ…⁈」

爆発だ。またしても、インフォイーターを中心として威力大の爆発が発生したのだ。

「言ったですよ!俺よく食べるって!」

大きく吹き飛ばされる秀頼に向かってそう言い放つインフォイーター。彼の体の所々は異様な形に膨れ上がっていた。
そう。インフォイーターは爆弾を食していたのだ。食べた物を100%吸収できる体。そして、分解された爆弾の成分を体内で再び配合する事で、爆発を発生させているのだ。また、その衝撃に耐える為のナニカも。

「クッ…‼︎」

吹き飛ばされた秀頼は受け身を取り、インフォイーターの方を向く。すると、インフォイーターは既にヤブ助の首を握っていた。

「ヤブ助ッ‼︎」

ヤブ助はまだスタンから回復出来ていない。秀頼はすぐさまヤブ助を助けに行こうと走り出す。

「止まれ。」

瞬間、秀頼の脚が止まる。

「動くんじゃねぇ。」

秀頼はその覚えのある声と顔を見て恐怖した。

「陽道ッ……⁈」

ヤブ助の首を掴んでいるのは陽道、いや、陽道の顔面と声を模したインフォイーターだ。おそらく、この動向の期間、陽道の生態情報を食していたのだ。

「そこで見てな。」
「ッ………」

インフォイーターは知っていた。秀頼は陽道には逆らえないと。

「(先ずは一匹…)」

インフォイーターにとっての脅威はヤブ助。猫化は、人間を猫のサイズにまで圧縮している訳ではなく、完全に猫へと変化させている。つまり、インフォイーターが今まで食べ溜めてきた武器や筋力が使用できなくなってしまうのだ。

「(コイツさえ殺せばあとは楽に…)」

インフォイーターはヤブ助の首を捻じ切ろうとした。その瞬間、彼はふと思った。

〈食べた方が良い。〉

そう。殺すよりもヤブ助を食べて栄養にした方が彼にとっては都合が良かったのだ。

「がぷッ♡」

瞬間、インフォイーターはヤブ助の腹に噛みついた。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

猫化しているヤブ助の腹にインフォイーターの歯が減り込む。肋骨を砕き、胃や肝臓を喰い千切られ、血が溢れ出す。

「ヤブ助ッ…‼︎」

ヤブ助の名を呟くように呼ぶ秀頼。彼女はろくに声を上げることも、ましてや動くことすらできない。頭ではわかっている。アレは陽道では無いと。しかし、わかっていながら彼女は動く事ができなかった。

「まっずwwまっずww」

血を啜り、時折、腸が噛み切れないのか、腹から引き摺り出しては手を使って千切って飲み込んでいた。

「は…ガ……あ".………」

ヤブ助は痛みで白目を剥いている。このままではヤブ助が痛みでショック死してしまう。

「ん…?」

その時、インフォイーターの脚に秀頼がしがみついてきた。

「何の真似だ。」

陽道の声で秀頼にそう言い放つ。しかし、秀頼は酷く怯えた様子で涙を流しながら、こう言った。

「ヤメ…て……下サ……ィ……ッ……」

ヤブ助を、愛する弟子を助けなければという想いが彼女を突き動かした。しかし、トラウマという名の壁は大きく、コレが今、彼女に出来る精一杯の抵抗だ。

「嫌だね。」

陽道の声でそう告げ、インフォイーターは再びヤブ助の腹を貪り始めた。

「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぐあ"ぁあ…ぁあ…ぁ………」

ヤブ助の意識が遠のく。秀頼は、ただ小さくなっていくヤブ助の断末魔を聞く事しかできなかった。
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