神様を盗んだ男

鎌仲佐奈太郎

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神様を盗んだ男

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 とある神社に、頭や顔をなでればどんな願いも叶えてくれる、『叶え神』という石像があり、毎日のように数多くの参拝者が訪れ、顔や頭をなでられていた。
 そのため、『叶え神』の顔と頭は、ツルツルになっていた。

 ところがある日、『叶え神』が何者かに盗まれてしまった。

 捜査した若い刑事は、境内の隠しカメラから、容疑者を特定した。
 「間違いない、あの男だ。」

 若い刑事は、容疑者の男を確定し、「家宅捜索だ」と、男のアパートに乗り込んだ。

 男の部屋に『叶え神』は、確かにあった。若い刑事は、男を逮捕して署まで連行した。『叶え神』の方は、白い布に包まれて、神社に返された。

 容疑者の男は、大学生位の年代だった。 
 男は、若い刑事の取り調べを受けた。
 若い刑事は、この男は大人しそうに見えて、さぞかし強欲な奴だろうと、推測した。
 「君、何で神社から『叶え神』を盗んだりしたんだい?」
 若い刑事の質問に男は、
 「『欲』が欲しかったんです。」
 その答えに刑事は驚いて、
 「『ヨク』って、食欲や物欲とかのあの『ヨク』?」
 「はい。僕は、『欲』を持っている若い人達が、羨ましくてしょうがなかったんです。」
 若い刑事は、更に驚いた。
 「夢や欲望を持って、一生懸命に生きている人達を見ると、『どうして、僕にはそれがないんだろう』って思えてきて…」
 若い刑事は、今時珍しい人だ。こんなにまだ若いのに…。と思い、驚くどころか、むしろ同情してしまった。
  
 若い刑事は、相棒の年配刑事と相談して、男を不起訴処分にして釈放した。
  
 釈放された男は、帰り道の途中で、1枚の宝くじをひろった。
 「宝くじじゃないか。番号を覚えていれば別だけど、誰が買ったかわからないだろうな。どうせハズレだろうし。」

 男は、その宝くじを持って、銀行に換金しに行った。

 その時、男の願いは叶えられた。
 
 銀行の窓口に行き、銀行員にその宝くじを渡すと、銀行員は目の色を変えて、
 「おめでとうございます。一等賞の10億円でございます。」
 と、男に耳打ちした。
  
 「じゅ…、10億!?」 
 男は、心の中で思い切り叫んだ。
 男は、自分が拾った宝くじが、10億円の一等賞だとは知らなかった。

 男は、「10億円なんて、元の持ち主の所に返すなんてもったいない!」 
 と思い、その10億を自分のものとして、翌日、印鑑と運転免許証を持って、換金の手続きをした。

 男の欲望の炎が、メラメラと燃え出した。
 「俺は、今までいっぱいガマンしてきた甲斐があったぜ…。」
 男は、自分がまるで天下でも取ったかのように、街中をズンズン歩いていた。
 「俺は長男たから、いつも『お兄ちゃんなんだからガマンしなさい』って親から言われてきたからな。欲しいものも、やりたい事もみんなガマン。運転免許を取るのがやっとだったもんな」
 男は、笑いながら歩いて行った。

 男は当てた金で、まず、高級スポーツカーを買った。それから、マンションを購入し、メンズエステにも行った。

 当然、男はモテるようになった。 
 男は大学を辞め、スポーツカーを乗り回し、女遊びに耽るようになった。夜は、女とラブラブな毎日をすごした。

 男は、もっと金が欲しくなり、競馬やら、パチンコやらギャンブルに走るようになった。
 
 そのため、宝くじで当てた金がほとんど無くなってしまった。

 それでも、男は車の維持費やら、女とのデート代やらで、どうしてもまとまった金が欲しくなった。

 それで、男は目的のためなら手段を選ばない理由で、コンビニ強盗をした。

 当然、男は逮捕されてしまった。

 しかも、逮捕したのは、『叶え神』を盗んだ時と同じ刑事だった。

 「やれやれ、『欲』を持つのも良し悪しだな…。君が『叶え神』を盗んだりしたから、きっと罰があたったんだよ。だから、悪い意味の『欲』が出てきたんだ。」






 
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