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悲しくて笑っている人は大抵やけくそになってる
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「おかしかったですか? 私の言葉は」
目隠し用にと立てられたパーテーションの向こうで御髪を整える陛下に、お声を掛ける。
今夜宮中で開かれる晩餐会のお仕度をされているのだ。
普段は陛下がお着換えをされる時は、たとえ護衛騎士といえども部屋の外で待機しているが。
昼間にあんな事があったばかりだからと、いつ何時も目を離さないよう、団長に命じられた。もっとも、命令など無くとも、その覚悟ではいたが。
「……そうね、おかしかったわ」
少しの間を挟んでから静かに返ってきた、お言葉。
「私が完璧だなんて。本当に笑ってしまう」
ふふ、と、吐息交じりの笑い声が聞こえる。けれどそれは、面白おかしくて笑っているというよりは……
「悲しそうに、聞こえます。私には。陛下の笑い声が」
「おかしくて、悲しいのよ。私が、本当にあなたの言うような完璧な人間だったらよかったのにと、思うと」
「ご謙遜をおっしゃらないでください。陛下は間違い無く完璧なお方――」
「完璧な王なら、全ての人を幸せにできる筈だわ! けれど私は、出来ていない! それどころか、命を狙われる程に憎まれている!」
俺の言葉を、強い口調で遮ると同時に、仕切りの向こうからお姿を見せた陛下。
「いくら正しくあろうと努めても、完璧じゃない。どこかにほころびがある。自分でも気づかないうちに、私は誰かを傷つけ、誰かを不幸にして、不満をかってる。だから、あんな事になったの。でもあなたはこんな私を完璧だと言う。もう……笑うしかないでしょう?」
陛下は白い手を額に当て、傍にあるソファに座り込んだ。
広い部屋に、沈黙が横たわる。
「……何とか言ったらどうなの、レオナルド」
「……すいません、陛下があまりにもお美しくて、見惚れておりました」
「はい?」
うなだれたまま、俺の顔を見上げる陛下の眉間に皺が寄る。
「初めて拝見するドレスですが、夜の闇のようなネイビーが、陛下の白いお肌を引き立てて、とてもお似合いです。華やかさ重視のいつものドレスとはまた赴きが違って……このようにシックで大人びたドレスも着こなす事が出来るとは、さすがは陛下! 完璧です!」
「だから、私は完璧じゃないと……」
「私の申し上げる完璧とは、欠点が無い事ではありません。人間味溢れる欠点すら、魅力的に感じられるという意味です」
思った事を口にしたまでだったが、俺の答えが意外だったのか、陛下は少々驚かれた様子だった。
「恐れながら、私は陛下の短所をよく存じ上げております。私の父……先代の騎士団長が止めるのも聞かず、木登りをなさるお転婆な一面。お体の具合が悪い時、私がいくらお休み下さいと申し上げても、頑なに公務を続行される頑固な一面。ご自分の美貌を自覚されず、数多の男の心を捕らえては、恋の苦しみを与える、残酷な一面……」
「ちょっと待って、最後のは少々不本意です」
「本意であれ不本意であれ、それがあなたなのです。クソカスに花瓶の1つや2つ投げられた程度で、卑屈になってはいけません。誰がなんと言おうと、あなたは完璧な女王です。私が保証いたします」
「レオナルド……」
陛下は今にも泣きだしそうな顔で、俺の目をじっと見つめた。
ガラス玉のような瞳の中で、シャンデリアの灯りが屈折して、揺れている。
美しい、可愛い、愛おしい。
陛下に見つめられると、俺の中の導火線に火がつく。
ジリジリと燃えて燃えて……爆発したら、俺はきっと犯罪者になるのだ。
そう思って、いつも必死に炎を踏み消していた。
だが、もうその必要はないだろう。
だって、この方は――
「申し訳ありません、訂正させてください。ありました。魅力的に感じられない欠点が。一つだけ」
「……なに?」
「……性別です」
ため息を吐きながら、ちらりと見た陛下の胸元は、やはり絶望的にフラットだった。
目隠し用にと立てられたパーテーションの向こうで御髪を整える陛下に、お声を掛ける。
今夜宮中で開かれる晩餐会のお仕度をされているのだ。
普段は陛下がお着換えをされる時は、たとえ護衛騎士といえども部屋の外で待機しているが。
昼間にあんな事があったばかりだからと、いつ何時も目を離さないよう、団長に命じられた。もっとも、命令など無くとも、その覚悟ではいたが。
「……そうね、おかしかったわ」
少しの間を挟んでから静かに返ってきた、お言葉。
「私が完璧だなんて。本当に笑ってしまう」
ふふ、と、吐息交じりの笑い声が聞こえる。けれどそれは、面白おかしくて笑っているというよりは……
「悲しそうに、聞こえます。私には。陛下の笑い声が」
「おかしくて、悲しいのよ。私が、本当にあなたの言うような完璧な人間だったらよかったのにと、思うと」
「ご謙遜をおっしゃらないでください。陛下は間違い無く完璧なお方――」
「完璧な王なら、全ての人を幸せにできる筈だわ! けれど私は、出来ていない! それどころか、命を狙われる程に憎まれている!」
俺の言葉を、強い口調で遮ると同時に、仕切りの向こうからお姿を見せた陛下。
「いくら正しくあろうと努めても、完璧じゃない。どこかにほころびがある。自分でも気づかないうちに、私は誰かを傷つけ、誰かを不幸にして、不満をかってる。だから、あんな事になったの。でもあなたはこんな私を完璧だと言う。もう……笑うしかないでしょう?」
陛下は白い手を額に当て、傍にあるソファに座り込んだ。
広い部屋に、沈黙が横たわる。
「……何とか言ったらどうなの、レオナルド」
「……すいません、陛下があまりにもお美しくて、見惚れておりました」
「はい?」
うなだれたまま、俺の顔を見上げる陛下の眉間に皺が寄る。
「初めて拝見するドレスですが、夜の闇のようなネイビーが、陛下の白いお肌を引き立てて、とてもお似合いです。華やかさ重視のいつものドレスとはまた赴きが違って……このようにシックで大人びたドレスも着こなす事が出来るとは、さすがは陛下! 完璧です!」
「だから、私は完璧じゃないと……」
「私の申し上げる完璧とは、欠点が無い事ではありません。人間味溢れる欠点すら、魅力的に感じられるという意味です」
思った事を口にしたまでだったが、俺の答えが意外だったのか、陛下は少々驚かれた様子だった。
「恐れながら、私は陛下の短所をよく存じ上げております。私の父……先代の騎士団長が止めるのも聞かず、木登りをなさるお転婆な一面。お体の具合が悪い時、私がいくらお休み下さいと申し上げても、頑なに公務を続行される頑固な一面。ご自分の美貌を自覚されず、数多の男の心を捕らえては、恋の苦しみを与える、残酷な一面……」
「ちょっと待って、最後のは少々不本意です」
「本意であれ不本意であれ、それがあなたなのです。クソカスに花瓶の1つや2つ投げられた程度で、卑屈になってはいけません。誰がなんと言おうと、あなたは完璧な女王です。私が保証いたします」
「レオナルド……」
陛下は今にも泣きだしそうな顔で、俺の目をじっと見つめた。
ガラス玉のような瞳の中で、シャンデリアの灯りが屈折して、揺れている。
美しい、可愛い、愛おしい。
陛下に見つめられると、俺の中の導火線に火がつく。
ジリジリと燃えて燃えて……爆発したら、俺はきっと犯罪者になるのだ。
そう思って、いつも必死に炎を踏み消していた。
だが、もうその必要はないだろう。
だって、この方は――
「申し訳ありません、訂正させてください。ありました。魅力的に感じられない欠点が。一つだけ」
「……なに?」
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