女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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相手の態度や立場によって接し方を変えるべきじゃない

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 アランは、騎士団訓練学校入学後、初めて隣の席になったクラスメイトだった。

 窓際の席だった奴は、座学の授業中にもいつも空を見上げていて。
 隣のレオナルドを見習って、真面目に勉強しろと……いつも教官に叱られていた。

 よくいるタイプの、無気力お坊ちゃんだな。
 それが、俺が抱いたアランの印象。

 貴族の男児にありがちなパターン。
 特別優秀な訳でも、将来の夢や目標を持っている訳でもない息子は、とりあえず騎士団訓練学校に入れられる。

 女王と国の守人として、社会的地位の確立している騎士になれば、とりあえず世間体は保てるから。

 このアラン・カーティスとやらも、その類の男なんだろうと。だから、必要最低限の会話しかしなかった。それ以上関わる価値を、俺は奴に見出していなかったのだ。

 そんなアランとの関係が変わったのは、入学から一月程たったある日。
 俺の訓練着が盗まれ、馬小屋に捨てられていた時の事。

 いやらしい笑みを浮かべるクラスメイト達を見て、気付いた。連中の嫌がらせなのだと。
 成績優秀で名家の跡取りとして、教官からも目をかけられていた俺は、やっかみの対象になったのだ。

 傷ついたりはしなかった。が、残念に思った。

 訓練学校に入れば、国と女王陛下の為に身を捧ぐ覚悟を持った、志高い仲間に出会えると、期待していたから。

 こんなにもつまらない事をする輩が、将来ローラ様にお仕えするなんて……。

 そんな失望のため息を吐いた時だった。

 糞まみれの服を、アランが臆することなく拾い上げたのは。

 『午後から大雨で、その後晴れるから。外に干しときゃ、洗濯から乾燥まで済んじまうぜ?』

 戸惑う俺に構わず、手際よく服を物干しに掛けるアラン。
 驚く事に天候はその後、奴の言った通りになって。

 俺は驚きを隠しつつ、カラリと乾いた服を手に取って尋ねてみたのだ。



 『君は天気を読めるのか?』

 『だてに、いつも空ばっか眺めてねぇから』

 『……なぜ連中に加担しなかった? 君はいつも俺を引き合いに出され注意を受けて……面白くなかっただろう?』

 『だって、お前キレたら超怖そうじゃん。強いし成績いいし、将来絶対出世するだろ? そんな奴敵に回したくねえよ。それに……』

 『それに?』

 『俺、あんなつまらねぇ事する為に、ここに来たわけじゃねえから』

 『じゃあ君は、何の為に騎士になろうと?』

 『そんな事より、それさっさと着ろよ。次、体術の授業だぞ』

 『ああ、すまない。折角だが俺は、育ちが良い上に綺麗好きなんだ。馬糞にまみれた服を、水洗いしただけでは袖を通す気になれない。今日は学校のを借りる事にする。あ、よかったら君、これを着――』

 『いや着ねえよ! お前すごいな! 色んな意味ですごいな!』 



 あの時に、思ったんだ。
 こいつは信用できると。
 
 この男は正直だ。
 そして、他人を傷つける為に時間と労力を費やす事を、『つまらない』と言う。

 それは良識があり、かつ時間を費やす価値のある目的や目標を、しっかり持っているという証拠。


 それから俺達は、多くを語り合う友になった。

 相変わらず空ばかり見ている奴は、いつだって成績どん尻の劣等生で。『お前結局何の為に、ここに来たんだ』と何度突っ込んだ事か、覚えていられない程だったが……。

 難ありらしい俺の性格に、文句を言いつつも距離を置かずにいてくれる、貴重な友人になったのだ。
 
 俺が陛下をお慕いしていると打ち明けた時も。
 史上最年少で女王の護衛騎士に抜擢された時も。
 アランが狙ってた王宮の侍女が、俺に告白してきた時も。

 アランは変わらなかった。
 ずっとずっと、初めて会った時と変わらない態度で、俺に接してくれた。

 奴がそういう男だから、打ち明けたんだ。

 ここ一か月の間に起きた、全ての事を。


 「ちょ……待て、何から驚けばいいんだ……。陛下は男で、だからお前は辞任を決意して、濡れ衣かぶって? だけどそれは嘘で、陛下もお前を好きで、でも結ばれなくて、それには詳細不明な掟が関わってて、つーかお前達が兄妹かもしれなくて? あ~頭がごちゃごちゃする……」

 混乱した様子で頭を掻きむしりながら、栗色の瞳を泳がせるアラン。
 予想通りの反応。

 「ゆっくり飲み込んでくれ。お前の残念過ぎる理解力では、短時間で整理しきれない情報量だという事はわかっている」

 「いや、とりあえずお前がクソ相変わらずだって事は、即効で理解出来たけどな?」

 アランはそう言って、俺を睨みつけた。

 でも……なぜだろう。
 眉間に皺を寄せ切ったその顔は、決して好意的なものではないのに。

 ノースリーフに来て以来、どの瞬間よりもリラックスしている自分がいた。
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