女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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技あり一本

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 華やかな式典に不似合いな、曇天。
 空の青を覆い隠す灰色の雲が見守る中――『薔薇の勲章授与式』が、始まった。

 異例とも言える、王宮外での出張授与。

 小さな町での大イベントを一目見ようと、町中の人々が会場である広場に集まっていた。
 皆、自分達の敬愛する領主が、女王直々に勲章を受け取る瞬間を、今か今かと待ちわびて。町全体が浮足立っているのが、よくわかる。

 しかし……彼らの期待に満ちた囁きが、戸惑いを含んだどよめきに変わるまでに、そう時間はかからなかった。

 無理も無い。

 目の前の特設ステージに現れたローラ女王陛下と、勲章受領者であるソレリ様が、うり二つでいらしたからだ。

 「ママー!すごいキレイなお姉さんが2人もいるよー!」

 「え!? 領主様って女だったの!?」

 「女王様とそっくりじゃないか! もしかして領主様は……」

 感想、驚嘆、憶測。
 それぞれがそれぞれに、思った事を口にする。

 「式典の最中です! どうか静粛にお願い致します! 受領者のスピーチが始まりますので!」

 そんな彼らを制しつつ、俺もステージ上へと視線を向けた。

 厳粛な式にふさわしい、黒レースの落ち着いた雰囲気のドレスで、中央に立たれるソレリ様。胸元には、陛下より授与された白薔薇の勲章が光る。

 そして、そんな彼女を優しい目で見守る、ローラ様。
 約一月ぶりに拝見するそのお姿に、胸が締め付けられるような切なさを覚える。

 「まず、このような身に余る栄誉を、親愛なる女王陛下から賜りました事、深く感謝申し上げます」

 陛下に向けて気品に満ちたお辞儀をしたソレリ様は、次に、集まった町民の方を真っ直ぐに見つめた。

 「そして……ノースリーフの皆さん。隠していてごめんなさい。私はこちらにおられる女王陛下の従妹にあたる、れっきとした王族なのです。生まれつき体が弱く、この地で静養をしていたのですが……私が身分を隠していたのは、お恥ずかしい程に幼稚な理由からです」

 やはり。
 ソレリ様はこの式典で、ご自分のお立場を明らかにされるつもりではと……予期はしていた。

 女王陛下がわざわざ足をお運び下さる以上、式典には代理人では無く、ソレリ様ご自身が出席しなくてはならない。そうなればその容姿から、ご自身の身分は、否応なしに町民達の知る所となるだろう。

 陛下も恐らくそれを承知の上で、御自らこの地へ赴いたのだ。
 だがそれは、意地悪い企てなどでは断じて無くて……

 「私は恐れていたのです。公僕であるべき王族が、なぜこんな所で怠けているのだと責められる事を。怠慢な領主だと、町の皆さんに嫌われてしまう事を……」

 固唾をのんで、愛する領主の告白に耳を傾ける町民達。

 「けれどそんな私に、陛下はおっしゃいました。
 何年もの間知恵を出し合い、実りの喜びを分かち合ったノースリーフの町民は、あなたの同志です。そんな彼らが、あなたが王族だと知った途端に手の平を返し、あなたを責めると思いますか? あなた方の絆は、その程度のものなのですか? と……」

 ゆっくりとお言葉を続けるソレリ様のお声が、震え始めた。

 「そのお言葉で、わかったのです。私に足りなかったのは、皆さんを信じる気持ちだと。それで、真実を告げようと決めました。
 ですが……私を責めたい方は、そうして頂いて構いません。私はこれから今まで以上に精進致します。このノースリーフの為に、皆さんが誇れる領主になれるよう、精一杯……!ですから、どうかこれからも、この未熟な領主と共に歩んで下さい!」

 美しい領主がそう言って頭を下げたその数秒後……静まり返った広場に、拍手の音が響いた。

 拍手を送ったのは、俺。 
 手の平が腫れあがるのではないかという位、強く、強く打つ。

 すると、それは次第に広場全体に広がって――。

 「誰が責めたりするものですか!」

 「あなたは、私達の自慢の領主様です!」

 「こちらこそ、これからもよろしくお願いします!」

 気が付けば、広場はソレリ様への賛辞と、割れんばかりの拍手喝采に包まれていた。

 『ありがとう』

 町民達の声援に飲み込まれ、お声を聞き取る事は出来なかったけれど……涙を流すソレリ様の口元が、そう動くのが見えた。

 そして、そんな領主にそっと寄り添う、ローラ様の笑顔も。


 麗しい、俺の女王陛下。

 あなたは、太陽のようなお方だ。

 城から遠く離れたこの地にまで、温かな光を届けて下さる。
 広大な領土と、多くの民を守りながらも、小さな影を決して見落とさない。

 従妹君の胸に刺さった小さな棘も、そっと抜いて差し上げる。時間や手間を、惜しむ事無く。

 だがあなた自身を苦しみは、誰が癒すのでしょう。

 痛みに耐えながら、孤独に戦い続ける。
 それが、女王の務めだと、あなたは考えていらっしゃるのかもしれない。しかし俺はそんな事、耐えられないのです。

 あなたの苦悩を消し去る事は、俺などには出来ないかもしれない。

 けれど、共に生きる事は出来る。
 あなたを待ち受ける痛みや苦しみを、共に受け止める事は出来るのです。

 だから、お傍にいさせて下さい。
 たとえ……実の兄妹であっても。


 うん。いい感じだ。
 陛下とお話できたら、こんな感じで申し上げてみよう。

 ソレリ様への拍手を続けながら、頭の中で原稿を書き進める。

 ああ、でもいざ陛下を目の前にしたら、頭が真っ白になってしまうかもしれないな。
 だって……

 ハンカチで目元を拭うソレリ様の背を、優しく撫でるローラ様。

 アイボリーベージュに、ゴールドの刺繍があしらわれたエンパイアラインのドレス。
 大きく開いた胸元の中央にそびえる、山・谷・山。そう、いわゆる谷間。

 さっきから意識の8割が、そこに持っていかれてしまって。

 「一体いくつ……パッドを入れられたのだろう……」

 思わず呟く。

 あの平らかな平原に山を作るには、相当な力技が必要だったろう。
 貧乳を底上げする為に、複数のパッドを詰め込み、下着で寄せて上げて。
 まさに、匠の技。

 もしかしたら、愛する俺に会えるかもしれないから……無茶をなさったのだろうか。
 今日の為に、コツコツお一人で練習したり、なさったのだろうか。

 だとしたら……なんという健気な……そのお姿を想像するだけで……。むふふ。

 そんな妄想を膨らませていると、愛の再告白原稿は、あっという間に頭から消えて行き……
 いざ陛下と対面できたとしても、スラスラと出てくるとは思えないのだった。
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