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長男は大切に育てられるから猫舌になるという次男にとっては複雑な一説
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心地よい、波の音。
自分が大海原に浮かんで、揺られているような感覚。
この音色に抱かれながら、眠り、起きる。
そんな毎日を過ごすようになって、どれくらいの月日が経ったろうか。
「れおちゃん、これ、あげる」
早朝にも関わらず、ノックもせずに我が家に入って来たのは、隣の家の一人息子。
「おはよう、ベン。これは……この前、君のお父さん達と漁に出た時に釣った魚かな? お母さんが干物にしてくれると言ってた……ああ、潮の良い香りがする。どうもありがとう」
飲みかけのスープを机に置いて、彼が差し出した皿を受け取ると、ベンは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、いわれた。べん、おりこう~」
「ああ。お使い上手のおりこうさんだ。あ、よかったらスープを飲んで行くかい? 朝はもう大分冷え込むから……温かいものを飲んで、体の中から暖を取った方が良い」
『スープ』というワードを出した途端、曇る、あどけない顔。
「すーぷ、あちち、きらい」
「ああ……君は猫舌だったね。大丈夫、君の為に冷ましておいたんだよ。たっぷり野菜のミネストローネだ。栄養いっぱいだよ。特にトマトはね、美容にも健康にも良いと言われていて……」
脳裏に、金髪をたなびかせたあの方の後ろ姿が浮かぶ。
「れおちゃん、かなしいかお」
急に黙り込んだ俺に、首を傾げるベン。
「ああ、すまない。ちょっと……トマトが嫌いな友人の事を思い出してしまって」
「すききらい、だめ、ままおこる」
「そう、そうだな。ベンも大きくなりたかったら、好き嫌い言わずに、何でも食べなきゃいけないぞ」
既に君は、年齢的には成長期とは言えないから……これ以上大きくなるかはわからないけれど。
俺の胸元程度の背丈である彼を見つめながら、内心そんな風に思ってしまった。
彼は今年で18歳になるらしいが……。
一般的な同年男性と比べ、小柄な体。
感情がダイレクトに表情に現れる程の、無垢な心。
そして、単語を羅列させているだけの、拙い会話。
体格も精神も、実年齢よりもずっと幼い印象を受ける。
彼が身に付けている帽子やマフラー、手袋といった防寒具は、おそらく全て子供用のものだろうし。
ベンの母親は妊娠初期も漁の為に海に潜っていたらしく……それが悪影響をもたらしたのでは無いかと嘆いていたが……。
「ただいまー……あら、ベン、いらっしゃい」
隣家のご婦人の悲し気な表情を思い出していた時、市場に出ていた同居人が帰宅した。
「おかえり。朝市はどうだった?」
「脂ののった良いサーモンが買えたわ」
羽織っていた高価そうなケープコートをダイニングチェアーの背もたれにかけ、嬉々とした様子でバスケットをテーブルに置く彼女。
「マリネにムニエルに……近頃ぐっと寒くなってきたし、クリーム煮にしてもいいわね。出来たらお裾分けに行くわね、ベン」
「べん、いらない、すーぷ、くりーむ、あちちこわい。さよなら」
ベンは固い表情のままで首を左右に振り、逃げるようにして我が家を後にした。
「あ、そっか。ベンは熱いもの苦手なんだっけ。この村の冬は本当に冷え込むって聞くから……あったかいもの、食べられるようになるといいのにね」
開け放しにされたドアを静かに閉めてから、左右の手の平をこすり合わせ、息を吐きかける彼女。
「市場も寒かっただろう? 早く暖炉のそばへ。スープも飲むか? ほらこの前、内陸から野菜売りが来た時にたくさん買っただろう? そのクズ野菜を全部いれて作ってみたんだ。今温め直すから……」
肩を震わせる彼女を気遣い、俺はミネストローネの入った鍋に手をかけたが……
彼女はそんな俺の動きを妨げるかのように、背後から抱き付いて来て――。
「暖炉より、スープより……こっちの方が早くあったまるわ」
「はは、確かに……」
背中から伝わってくる。
海辺の潮風にさらされた、体の冷感。
そして……男にとっての興奮剤とも言える、柔らかな肉感。
「……わざと当てているんだろう、クリスティーナ」
「あら、やっと気づいた?」
元気いっぱいになりそうな股の間の相棒を制しながら、首だけで彼女の方を振り返ると――
ご近所の人々に『美人妻』と評判の彼女は、小悪魔のような微笑みを浮かべた。
自分が大海原に浮かんで、揺られているような感覚。
この音色に抱かれながら、眠り、起きる。
そんな毎日を過ごすようになって、どれくらいの月日が経ったろうか。
「れおちゃん、これ、あげる」
早朝にも関わらず、ノックもせずに我が家に入って来たのは、隣の家の一人息子。
「おはよう、ベン。これは……この前、君のお父さん達と漁に出た時に釣った魚かな? お母さんが干物にしてくれると言ってた……ああ、潮の良い香りがする。どうもありがとう」
飲みかけのスープを机に置いて、彼が差し出した皿を受け取ると、ベンは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、いわれた。べん、おりこう~」
「ああ。お使い上手のおりこうさんだ。あ、よかったらスープを飲んで行くかい? 朝はもう大分冷え込むから……温かいものを飲んで、体の中から暖を取った方が良い」
『スープ』というワードを出した途端、曇る、あどけない顔。
「すーぷ、あちち、きらい」
「ああ……君は猫舌だったね。大丈夫、君の為に冷ましておいたんだよ。たっぷり野菜のミネストローネだ。栄養いっぱいだよ。特にトマトはね、美容にも健康にも良いと言われていて……」
脳裏に、金髪をたなびかせたあの方の後ろ姿が浮かぶ。
「れおちゃん、かなしいかお」
急に黙り込んだ俺に、首を傾げるベン。
「ああ、すまない。ちょっと……トマトが嫌いな友人の事を思い出してしまって」
「すききらい、だめ、ままおこる」
「そう、そうだな。ベンも大きくなりたかったら、好き嫌い言わずに、何でも食べなきゃいけないぞ」
既に君は、年齢的には成長期とは言えないから……これ以上大きくなるかはわからないけれど。
俺の胸元程度の背丈である彼を見つめながら、内心そんな風に思ってしまった。
彼は今年で18歳になるらしいが……。
一般的な同年男性と比べ、小柄な体。
感情がダイレクトに表情に現れる程の、無垢な心。
そして、単語を羅列させているだけの、拙い会話。
体格も精神も、実年齢よりもずっと幼い印象を受ける。
彼が身に付けている帽子やマフラー、手袋といった防寒具は、おそらく全て子供用のものだろうし。
ベンの母親は妊娠初期も漁の為に海に潜っていたらしく……それが悪影響をもたらしたのでは無いかと嘆いていたが……。
「ただいまー……あら、ベン、いらっしゃい」
隣家のご婦人の悲し気な表情を思い出していた時、市場に出ていた同居人が帰宅した。
「おかえり。朝市はどうだった?」
「脂ののった良いサーモンが買えたわ」
羽織っていた高価そうなケープコートをダイニングチェアーの背もたれにかけ、嬉々とした様子でバスケットをテーブルに置く彼女。
「マリネにムニエルに……近頃ぐっと寒くなってきたし、クリーム煮にしてもいいわね。出来たらお裾分けに行くわね、ベン」
「べん、いらない、すーぷ、くりーむ、あちちこわい。さよなら」
ベンは固い表情のままで首を左右に振り、逃げるようにして我が家を後にした。
「あ、そっか。ベンは熱いもの苦手なんだっけ。この村の冬は本当に冷え込むって聞くから……あったかいもの、食べられるようになるといいのにね」
開け放しにされたドアを静かに閉めてから、左右の手の平をこすり合わせ、息を吐きかける彼女。
「市場も寒かっただろう? 早く暖炉のそばへ。スープも飲むか? ほらこの前、内陸から野菜売りが来た時にたくさん買っただろう? そのクズ野菜を全部いれて作ってみたんだ。今温め直すから……」
肩を震わせる彼女を気遣い、俺はミネストローネの入った鍋に手をかけたが……
彼女はそんな俺の動きを妨げるかのように、背後から抱き付いて来て――。
「暖炉より、スープより……こっちの方が早くあったまるわ」
「はは、確かに……」
背中から伝わってくる。
海辺の潮風にさらされた、体の冷感。
そして……男にとっての興奮剤とも言える、柔らかな肉感。
「……わざと当てているんだろう、クリスティーナ」
「あら、やっと気づいた?」
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ご近所の人々に『美人妻』と評判の彼女は、小悪魔のような微笑みを浮かべた。
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