悪役令嬢らしく嫌がらせをしているのですが、王太子殿下にリカバリーされてる件

さーちゃん

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第3章 魔法学院入学、“ゲーム”が始まりました

上手くいかない~ウィアナ視点~

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「何でよ!!何でみんな、あたしに靡かないのよ!!!」

 おかしい。何で好感度があがらないの?あれだけユフィリアに。なのに、なんでエルフィンたちはあたしを助けてくれないの?なんであたしを責めるの?
 この学院に入って三ヶ月。の幕が上がったはずだったのに。イライラしながら、あたし──ウィアナは、これまでのことを思い起こした。

■■■■■■■■■■

 理不尽な謹慎処分から一週間、やっとあたしは解放された。
 
 よおし!これでみんなに会いにいけるわ!
 丁度いいタイミングで交流会の日だし、(さっすがヒロインのあたし!)エルフィンたちと仲良くなれるチャンスだもの。絶対に全部フラグを回収してやるわ。そしてゆくゆくは逆ハーエンドよ!!
 

 そう思って楽しみにしてたのに。
 交流会は散々だった。予想外だったのは、先輩としてルティウスもいたこと。ルティウスは、エルフィンたちより年下なんだから、あたしと同じ学年になるわね!って思ってたのに。シナリオ以上に仲良くなれるチャンスよ!って思ってたのに。
 他の新入生の話であたしは、エルフィンと一緒に見学出来ないかもしれないことを知った。どうやらエルフィンは生徒会役員だから、あちこち指示して回らなきゃならないんだって。なんで?そこは私と回るからって他の奴に役割を押し付ければいいじゃない!!
 オリエンテーションで一緒に見学したくて、デュオやクーシェにも声をかけたのに。なんで嫌そうな顔をするの?
 デュオには、『あなたに構っている暇はないんです』って冷たく追い払われたし!クーシェには、『持ち回りの仕事があるから、忙しいんだ。声かけてこないで』って相手もしてくれない。
 なんで?あたしはヒロインなのよ?そこは『キミの相手なら喜んで』って笑顔を向けてくれるとこでしょ!?

 何より気にくわなかったのは、『悪役令嬢ユフィリア』の存在よ。あの女、よりによってエルフィンとず~~っとベタベタしてたのよ!?あたしへの当て付けのつもり!?エルフィンも、無理して嬉しそうな演技してあげなくてもいいのに。その女を増長させるだけじゃない。なによ、あの女、困ったような顔しちゃって。あたしは騙されないからね!!ルティウスもルティウスよ。なんでユフィリアと仲良さげにしてるの?………あ!やっぱり、無理矢理側にいさせられてるのね!オリエンテーションイベントでは、ルティウスのやつはないから、我慢しないと。可哀想なルティウス。あなたも救ってあげるからね!そう意気込んでいたんだけど。

「ちょっと!!何であたしがこんなもの書かなきゃいけないのよ!!」
「黙って書きなさい。君にはきっちりと反省してもらわなければならない」
「はあ!?」
「全く………今年は一人、と聞いていたから気を付けていたら、案の定だ……………」

 あたしを生徒指導室まで引っ張ってきた教師が、頭を抱えながらなんかぶつぶつ呟いてる。誰のことかしら。

 あたしは今、生徒指導室で反省文なんてものを書かされている。なんで、そんなことをさせられているのかというと、話は一時間程前に遡る───

 あたしは他の新入生たちと一緒にエルフィンたちの余興を観ることになった。もしかしたら、エルフィンが声をかけてくれるかもしれない。だから大人しく観てあげることにした。ルティウス、エルフィン、あの女──ユフィリアの三人でやっていた。
 ルティウスは水の玉をたくさん作って空中に浮かせてたし、エルフィンはそれらを次々凍らせて、一気に砕いてたわ。凍った水の玉が砕けてキラキラしてて、キレイだった。で、ユフィリアが何したかというと。あの女、エルフィンが砕いた水の玉を光の玉で包んだだけだった。
 はっ。ショボい術しか使えないのね?あれくらいならあたしなら楽勝で出来るに決まっているわ。馬鹿じゃないの?さも難しいことしてます、みたいな顔しちゃって。
 それに比べて、さっすがたち!ユフィリアに実力の違いを見せつけて、大したことさせないなんて、凄いわ!だからあたし、とっとと退場させようとあの女を睨んでやったのに───エルフィンが側に寄り添ってたのよ!!彼は手を添わせて、ユフィリアに微笑んでた。まるで。ありえない。そのポジションは、あたしがエルフィンにしてもらうはずのものなのに!!(エルフィンがシナリオにないことをするなんて、やっぱりあの女、エルフィンたちに何かしたのね!!)
 
 エルフィンたちの見せ物が終わった後、エルフィンに声をかけてあげたのに。(ユフィリアに張り付かれてるせいで、あたしに声をかけられないのなら、あたしから声をかければいいじゃない!あたしって天才ね!)なのにエルフィンったら、あたしのことを凍えるような瞳でみるのよ!?なんで周りのみんなも、白い目であたしをみてるのよ!!
 ユフィリアにも文句を言ってやろうと思ったら、担任が何処からかやって来て、あたしに暴力を振るったの!『痛いっ!何するのよ!?あたしは──』そう言いかけたところで、強引に引き摺っていかれたの。酷いじゃない!あたしはヒロインなのに!!

───そして今この状況なのだけど。

 結局、“何でこんなことをしたのか”と“これから振る舞うべき所作”とかを文章にして提出しなさいと言われた。今目の前にいる担任に。
 納得いかない。何でこのあたしがこんな目に合わないといかないのよっ!
 
「提出できたら、ダンスパーティーに出席するのは許可してやるから、頑張りなさい」

 担任のその言葉に、あたしはぱあっと顔を輝かせた。

「ホントっ!?ここから出してくれるの!?行っていいの!?」
「ああ。本当はもっと厳しい罰にすべきでは、という意見もあったのに、殿下が『処罰は出来るだけ軽いものを』と仰るから………(何やらお考えがあるのだろうな………)」

 それを聞いて、あたしはにんまりした。ほら、やっぱり!あたしは“特別”なのよ。エルフィンも陰ではあたしのこと、気遣ってくれてるのね!シナリオとは違うところがあるけど、みんな演技して冷たいフリしてただけなのね!ダンスパーティーでみんなと踊って、ユフィリアなんて追い出してやるわ!!

■■■■■■■■■■

そして、ダンスパーティーの時刻になった。頑張った甲斐あって、許可が下りたからね!(「これだけ時間をかけてもこんなことしか書けないのか」とか言われたけど、ちゃんと言われた通りにやってあげたんだから、素直に誉めればいいのに)──まぁその代わりか、担任に、しつこいくらいに『パーティー中は殿下には近づかないように』とか、『自分からはダンスに誘わない』とか言われた。
 言われなくたって行かないわよ。っていうか行けないわよ!エルフィン、会場にはいるけど、全然側に寄る暇ないんだもの!ユフィリアはずっと側にいるのに………!!どうにも、このダンスパーティーはエルフィンたち生徒会主催らしく、その運営に忙しいのか、ダンスをしている余裕などない、とのことだった。会場を見回してみたけど、シナリオ通りなら攻略対象者たちはみんないたはずなのに、見掛けるのはエルフィンとルティウスだけ。あとオマケにユフィリア。シグルド、デュオ、クーシェは一度も見てない。
 反省文を書かされている間、担任に社交界のマナーを説明された。あたしはヒロインなんだから、そんなの必要ないのに。ちゃんと覚えないと、ダンスパーティーに参加させないって脅すから、仕方無しに覚えた。

一つ・貴族階級において、高位の貴族から声をかけられなければ、話しかけてはならない。
一つ・許可されていないのに馴れ馴れしく名前を呼ばない。
一つ・ダンスなど誘いをかけるのは男性から
一つ・女性から声をかけるのはふしだらな行為だとみなされるため、声をかけられるまで待つこと。(「特に君はな」って言われたわ。なんなのよ)

 めんっどくっさ!!こんなのちまちま守らないと“貴族”ってやってられないの?ゲームではこんなのなかったのに!!
 でも我慢よウィアナ!待っていれば。逆ハールートでは、攻略キャラ全員からダンスに誘ってもらえるんだから。エルフィンたちも、このためにオリエンテーションであたしと一緒にいないようにしてたんだわ。うん、きっとそうよ!!
 待ってる間、ゲームにも出てこないモブに声をかけられたわ。はっ。あんたらみたいな平凡顔なんて及びじゃないのよ!!だから「モブが近寄ってくるんじゃないわよ!あたしに声をかけていいのは攻略キャラのみんなだけよ!!」って言ってやった。そうしたら、誰もこなくなった。去り際、「顔だけはいいのに、性格は最悪だな」なんて捨て台詞を吐いて言ったけど。ふんっ。そんな負け犬の遠吠えをするなら、最初から来なければいいのに。そんな奴らよりも、エルフィンたちよ!!早くみんな、あたしのところに来てくれないかなぁ~♪

 そう思ってたのに。『ダンスパーティーも終わりかな』と近くのカップルが言っているのを聞いて、あたしはおかしい、と思った。待てども待てどもみんなは来てくれない。なんで?あたしだって、今頃はダンスを踊り終えて、みんなと楽しく話をしているはずなのに。ゲームではそうだったのに!!ねぇ、なんで!?
 そう思っていたら、周りの生徒が会場の角に移動してくるのに気付いた。なんと、エルフィンがダンスホールに出てきたの。あたしを誘いに来てくれたのね!と浮き立ったあたしの心は途端、すぐに急降下することになった。エルフィンはよりによって、ユフィリアを伴っていたのよ……!!やめてよ!!なんで、アンタがそこにいるのよ!?そこは本来あたしがいるべき場所なのに………!!
 そんなあたしの思いも空しく、二人は踊り始めた。周りの人たちは口々に『さすが似合いのお二人だ』だとか、『私もユフィリア様のように婚約者に愛されるような方になりたいわ』だとか囁いていたけど、あたしは怒りと悲しみでどうにかなりそうだった。きっと、ユフィリアが嫌がるエルフィンにダンスを強要したに違いないわ!!
 し・か・も…………っ!あの女、エルフィンに人前でキスさせたのよ!?おぞましいったらなかったわ!!
 
 だから、二人が離れた時(エルフィンはなんだかルティウスに怒られてるみたいだった。きっと、ユフィリアの言いなりになったことを注意してるのね、さすがルティウス!)、チャンスだと思ったのよ。確かイベントでは、ウィアナがユフィリアに謝ってぶつかってしまい、ウィアナはちゃんと謝罪した。なのに、あの性悪女はウィアナに嫉妬して、嫌がらせをするのよ。そして、わざとじゃない、なんて見苦しい言い訳するユフィリアのことを、エルフィンたちは嫌悪の眼差しを向けながら、ウィアナを庇うの。このシナリオなら、あたしのことをみんな守ってくれるわ!

 結果は酷いものだった。あたしの居場所を盗っていい思いしたんだから、あたしに返しなさいよ!!という思いのまま、あたしはあの女にぶつかった。そしたらあの女、どうしたと思う?『きゃっ!
』なぁんて言って、!?何よ、痛がるフリしてエルフィンに抱っこされて………!!どうせ、それも演技でしょう?なのにあたし、悪者扱いされたのよ!?
 だから、あたし、必死に説明したの。「余所見をしていたらぶつかってしまった」って。ゲームでは、これでみんなウィアナに同情的になって、助けてくれる。
 なのに、みんなずっと険しい顔であたしを睨んで、「悪意を持ってぶつからなければ、あんな風に転ぶわけない」って取り合ってくれなかった。だからカッとなって、「わざと転んだんじゃないの」って言ってやった。そうしたら、一ヶ月の停学って言われたわ。何でよ!?あたし、間違ったことなんか言ってないじゃない!!
 納得がいかなくて、食い下がっていたら、デュオがきて「退学になりたくなかったら、一月大人しくしていろ」って言ってきたの。
 あたし、ぴーんと来たわ!ほらみなさい、やっぱり助けに来てくれたのね!一週間前のあの態度は、この時のための布石だったってことでしょう?分かってるわ、デュオ。大人しくしててあげる。
 だから、早く助けに来てね?

 結果的にいって、デュオどころか誰も助けに来てくれなかった。初めの頃はいつ来てくれるの?明日かな?それとも、明後日かな?なんて楽しみに待っていたのに。なんでデュオは来てくれないの?あたしは絶望感でいっぱいだった。
 停学中は、懲罰室なんてところにずっと閉じ込められてた。停学中でもきちんと勉強しろって、山のような課題を出されたわ。
 なんで!?あたしは“特別な存在”なのに!!こんな扱いしていいと思っているの!?どんなにあたしの正統性を訴えても、どんなに無実を叫んでも、誰も話を聞いてくれない。それどころか、「言い訳は見苦しいぞ」なんて、説教してくる。こいつらも、きっとユフィリアに言いくるめられてあたしに意地悪してくるんだわ。
 あんな性悪女になんかに負けてたまるもんですか。こんなところから早く出て、ユフィリアを断罪してやる!!あたしは改めてそう決意した。
 
■■■■■■■■■■

そうして一ヶ月。やっと解放され、あたしはこれからどうすべきか考えた。これからユフィリアは、あたしを執拗に嫌がらせをしてくるに違いないわ。だから、それを利用させてもらわなきゃ。精々、束の間の優越感に浸っているといいわ。このあたしが、アンタの悪巧みなんて、ぜぇ~んぶ叩き潰してあげる。

そうして、ユフィリアの嫌がらせに立ち向かう日々が始まったのだけど。私が回収しようとしたイベントフラグは全て駄目になった。何故だか、攻略キャラのみんなが、ユフィリアを庇うのよ。なんで!?なんでみんな、その女の肩を持つの?そこは私を守るところでしよう!?

 エルフィンルートでは、成績のことでユフィリアに酷いことを言われた。だから、あたしあの女に言ってやった。「漸く化けの皮が剥がれたわね、この悪役令嬢!!」って。周りの人たちも、あたしを信じてくれて、ユフィリアに非難の眼差しを向けていた。そうよ、これよ!やっぱりヒロインには自然と味方がつくものよ。シナリオ通りだと、ここでエルフィンが助けてくれる。
 なのに、現れたエルフィンは私を助けるどころか、ユフィリアの言葉を肯定し始めた。その中でも衝撃を受けたのは、エルフィンが、ユフィリアはハルディオン公爵令嬢じゃなくて、フェルヴィティール公爵令嬢だって言ったこと。それ、!?なんでその女なのよ!?仕舞いには、あたしの成績が最下位だっていうの。酷い。あたしはエルフィンの次に賢いはずでしょ?

 ルティウスルートでは、ユフィリアに食堂から出ていけって言われたわ。だから、心底恐ろしいという風を装ったのに。周りの人たちは胡散臭げだった。なんで?
 そこにルティウスが来てくれた。でもルティウスは、ユフィリアのいいなりになって、あたしを連れ出そうとした。(シナリオ通り!)だからあたし、アレンジを加えて言ってやろうとしたの。「ちょっと!!ルティウスはあんたのものじゃないのよ!!それを生まれを蔑んで痛め付けるなんて許せない!!ルティウスもこんな奴の命令なんて───」そこまで言ったところで、何故かルティウスに激怒された。訳が分からないままに、ウェイターに連れ出された。待ちなさいよ!ここはルティウスでしょう?なんでモブなのよ!!どんなに訴えても、もう中には入れてもらえなかった。この日、あたしお昼ご飯を食べ損ねて、辛かった。

 シグルドルートでは、ユフィリアに水をかけられる嫌がらせをされる。なんと、お誂え向きに、あの女がそれを準備してるのを見つけたの!!嬉しくて、思わず笑ったわ。でも、態度に出すのはダメね、素知らぬフリをしないと。そう思って歩いてたら、シグルドもやって来たわ。(まさに願ったり叶ったりね!)何故か後ろにクーシェもいたけど。まぁ、気にしない気にしない。
結果、何とも言えない気分だったわ。夢中でシグルドに光の珠を飛ばしてたユフィリアも我に返って、何とも言えない顔をしていたわね。まあ、嫌がらせをしようとして、シグルドに邪魔され、ついついそっちに夢中になったってところでしょうね。このままだと、なんだか悔しいから、一応あれこれ言ってみたんだけど、周囲の生徒から糾弾されて、退散するしかなかった。今さらだけど、シグルドって脳筋だったっけ?

 デュオルートでは、補習授業のイベント。でも、あたし、教える側じゃなくて、補習を受ける側なのよね。上手くアレンジするしかないか。ユフィリアに、意地悪された~ってデュオに訴えてやる。そうでなくても、みんなを洗脳して弄ぶなんて、許さないんだから…………!!これまでの怒りや憎しみを込めて睨んでいた時だった。突然、あの女が苦しみ出した。はあ?なに?今度は病気のフリ?暫くして、ユフィリアは演技をやめた───あれ?ホントに顔色が悪いわね。演技じゃないの?デュオに寄り添われているのは腹が立ったけど、具合が悪いのは嘘じゃなかったらしい。あたしたちに教えている間も、顔色は真っ青だった。
 だからか、あたしが何か言う度に反論してくるのはみんなデュオだった。なんなのよ。調子狂うわね。簡単に壊れないでよ?ここはあたしが愛されるゲームの世界なんだから!アンタには“悪役令嬢”をやりきってもらわないと。

 その他にも、いろいろ嫌がらせされたんだけど、全部攻略キャラのみんながユフィリアを助けちゃうの。そして、あたしを責めるの。酷いよ、みんな。あたしが何したの?みんなをユフィリアの魔の手から救おうとしてるのに─────この石、ホントに効果出てんのかしら。そう思っていつも持ち歩くようになったそのを見た。は“お守り”だって言ってたけど……………心なしか、色がさらに澱んできたわね。それにもらった時よりも、なんだか─────?
 あたしは、これをくれた男との出会いを思い出してみた─────

 周囲の人たちの冷たい視線が鬱陶しくて、こっそり街へ行った時だった。別にホームシックになったんじゃない。“今世の親らしい人”たちのいる区画じゃなくて、別の場所を気晴らしに歩こうと思っただけだし。喉が渇いて、近くの喫茶店に入ったその時に、声をかけられたの。

「キミ、あの学院の生徒だろう?長期休暇以外だと、許可がない限りは出ることは出来ないはずだけど………」
「何よアンタ。どうしようがあたしの勝手でしょう?あたしは“特別な存在”なんだから!」

 胡散臭いのは分かった。だって、いかにも怪しげだもの。フードを目深に被って、顔もよく分からないし。

「ふふっ。そうだよね、別に悪さをしようってわけじゃないんだ。少しくらい、羽目を外したっていいと思わないかい?」
「さっきからなんなの?無関係な奴が知った風なこと言わないで!!」
「ああ、ごめんね?でも、無関係ではないよ?ほら──」

 そう言って、そいつはコートの中を少しだけ開いた。(それでも顔は見えなかった。用心深いっていうの?)そこには、学院の制服が見えた。

「!アンタ………学院の生徒?」
「うん、キミと同じ新入生。だから、キミの気持ちはよく分かるよ。生徒会のメンバーや風紀委員に目の敵にされてるだろう?」
「ち、違うわよ!みんな、誤解してるだけ!あの女のせいで──っ!!」
「そう?むしろ彼女、そいつらに執着されて可哀想じゃない?」
「え?」
「だってそうだろう?何処へ行くにも彼女には、彼らの誰かが張り付いている。あのままじゃ彼女、息苦しくなって参ってしまうよ………」

 そのフードの男──声からして、間違いないわ──は、辛そうな声であたしに言ってきた。なにこいつ。あんなのがいいの?そんなあたしの視線を感じたのか、そいつは気分を悪くするでもなく、はにかんだ。(顔は見えなくても、口元は見えたからね)

「あはは。やっぱり分かる?───好きなんだよ、彼女のこと」
「アンタ、大丈夫なの?あの女、あれでもエルフィン様の婚約者よ?(あたしはぜぇ~ったい認めないけど)」
「分かってる。それでも、俺は

 顔は見えないから表情は分からないはずなのに、あたしにはそいつが獰猛な笑みをしているように感じた。ぞくっと身震いしたわ、恐怖の方向で。
 ただ、あたしに再び話しかけてきたとき、さっき感じた雰囲気が嘘のように消えたから、あたしは気のせいだったと思うことにした。

「だからさ、俺、キミの力になれると思うんだよね。キミは彼らが欲しい、そして俺は彼らが執着してる彼女が欲しい。利害の一致じゃないか?」
「………そうよね、その通りだわ!」
「俺は立場上、自由に動けなくてね。キミがあいつらの目を引いてくれるなら、助かる」
「うん、任せて!あたしは“特別な存在”だもの!みんなきっと振り向いてくれるわ!!」
「契約成立だな。信頼の証にこれをあげるよ」

 そう言ってフードの男は、あたしの目の前に変な色のいしころを置いた。なんか、妙に黒いわね、この石。

「………何よ、このガラクタ」
「ガラクタは酷いなぁ。それ、キミにとっての幸運を呼ぶお守りだよ?」
「はあ?これが?」
「キミは彼らと接触していくつもりなんだろ?その時、これを握ってみて。力が湧いてきて、よ」
「ふぅん。魔道具みたいなもの?」
「そう思ってくれていいよ。何せ、俺が作ったものだからね」
「アンタが?ホントに大丈夫でしょうね?」
「大丈夫だ。俺は
「……………気休め程度に思っててあげるわ。アンタこそ、きっちりあの女を落としなさいよね」
「ああ。彼女は必ず手に入れる」

 そう誓いあって、あたしとそいつは別れた。

 だから、そいつがあたしが去った後に何を呟いたかなんて、知る由もなかった。

※※※※※※※※※※

「精々、頑張って踊ってくれよ?お馬鹿さん。俺が

 そう言ってフードの男はうっそりと嗤った。ウィアナがエルフィンたちを落とせるなど欠片も信じてはいない。あれらは、ユフィリアの真の価値を知るからこそ、側で護っているのだろうから。

「あの世で悔しがるがいい、カイセルギウス。

 そしてその男は、そこにいた痕跡など残さずに───まるで、初めからそこにいなかったかのように、忽然と消えた。



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