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第五章 これまでの決着をつけます
エピローグ
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あれから三年の月日が経った。その間も様々なことがあった。
あの騒動後、シグルド、クーシェ、ラディ先輩が卒業を迎え、シグルドは間もなくルヴィカと結婚した。私に対する二人の忠誠心の篤さは相変わらずだ。
シグルドには次期近衛騎士団長の話が打診された。当初、本人は「自分はあくまでユフィリア様の専属護衛としての立場でありたい」と言って辞退したのだけど、エドガー様より「エルフィン殿下の側近でもあるのだから、私の跡に役目を継ぎなさい」と説得され、渋々承諾した。幼馴染みである以前にエルフィンは次期国王だ。彼を守ることがひいては私を守ることになる、とも言われたとか。それで了承するあたり、シグルドらしかった。
ルヴィカは正式に私の侍女として抜擢され、王城における身の回りの世話を一任されるように日々努力を重ねている。
クーシェ──クレイシェスは、卒業後精霊界へと戻った。かつて着いていた転生の管理を再び任されるようになったとか。ミラも一緒だ。精霊には結婚というものは無いから、二柱でのんびりと過ごすのだろう。マクスウェルやフォルティガも自分達の役目に戻り、忙しくしているようだ。みんな暇を見つけては会いにくるので、界を隔ててもそこまで寂しさは感じない。
デュオことセルデュオレクトは、シグルド同様、ラディ先輩の卒業を待って結婚した。前世の彼──琉生だった頃は生涯独身を通したと言っていたから、今世では身を落ち着けてくれたようで何よりだった。
ラディ先輩──ラディは、次期クレイシス侯爵夫人として、現夫人から貴族としての礼儀作法などを学んでいくのだとか。苦労も多いだろうけど、その分幸せな家庭を築いていけるでしょう。彼女の両親も、式では涙を流して喜んでいた。
ヴァイス様もデュオに早めに魔術師団長の役職を譲ろうとしているようだ。単に楽隠居したいだけでは?というデュオの意見はスルーされているとか。とっとと跡を継がせたいヴァイス様と、まだ父親に現役で頑張って欲しいと跡を継ぐのを先伸ばしにしたいデュオとの攻防はしばらく続きそうだ。
ルティウスは学院卒業後、同じく卒業後に母国パルヴァンへ帰国するクルシェット殿下に合わせてパルヴァンに一年程留学しに行った。護衛としてソールとシルディオ兄様が同行した。経験を積んでエルフィンを支えられるようになって、私の不安を減らしたいとのこと。あの騒動を経て、あの子も何か思うところがあったのでしょう………でもシスコンは相変わらずなのよね。
留学から帰ってきたルティウスの側には何故だかリュミィさんの姿が。あれ?どうして隣に彼女が?そう思ったのは私だけではなかったらしく、エルフィンが尋ねていた。そうしたら、驚愕の事実が判明したわ。
話によると、二人は恋人同士になったのだとか。……………え!?いつの間に!?何がどうなってそうなったの!?というか、留学中に何があったの!?
「姉上たちの挙式を待って、結婚しようと思います」そう語った時の満面の笑みだったルティウスに対し、リュミィさんがぐったりしていたのが凄い気になった。決して嫌だからではなく、たんなる疲れからだそうだけど………本当に何があったの、二人とも。
ちなみにクルシェット殿下は両国の友好の証として、ルティウスらとは別口でストランディスタ王国から留学していた貴族令嬢と婚約した。政略結婚であり、恋愛結婚でもあるので、不都合はないとか。
私とエルフィンは、学院卒業から二年後、婚姻の儀を経て結婚式を挙げることとなった。何故卒業後すぐではなかったのかというと、前述したルティウスの留学も関係している。やっぱり、晴れの舞台はみんなに祝福して欲しい。私たち二人の意見が一致したのと、招待客の選別やら、式場の設営内容とやら、国民への布告やら。まあ、次期国王である現王太子の結婚なのだから、「結婚します」で済むはずはない。周辺各国への通知もあるし、婚姻への準備が短時間で終わるはずもなく、あれこれやっている内にそれだけの時間が経ったともいう。
そして────────────────────
「ユフィ、準備はいいか」
「はい、エルフィン」
控え室に迎えにやって来たエルフィンと連れ立ち、式を行う教会の礼拝堂へ向かう。礼服に身を包んだエルフィンは凛々しさが際立ち、私は今日この人と結婚するんだ──これからもこの人と歩んで行くんだ、そんな喜びが溢れ、幸せな気持ちに満たされていた。
エルフィンもエルフィンで、私のウェディングドレス姿を見た瞬間、硬直していた。そのすぐあとに口元を手で隠し、顔を逸らせ、「くそ………っ、可愛すぎる………!!夜までが長い………っ!」と呟いていた。最後の台詞に身の危険を感じたけど、結婚するということは、まぁ……そういうことをするわけで。…………………………私、明日大丈夫かしら。
式はつつがなく進んだ。互いに誓いの言葉を交わし、指輪の交換を行う。その指輪は互いが込めた守りの術が刻まれている。
「ユフィ………この世界で何よりもお前を愛している。私とこの先も共に歩んでくれるか?」
「貴方に出会えたからこそ、今私はここにいることができました。私も貴方を──エルフィンを愛しています。何があっても、貴方と共にあることが私の一番の望みです」
「ああ………もう決して手離さないから、覚悟しろよ……?」
「はい………!」
そして私たちは誓いの口づけを交わした。それは今までしてきた口付けの何倍も甘く感じた。
その後、王都へ凱旋パレードを行った。国民からも祝福の嵐だったことが何よりも嬉しかった。ここに住む人々をエルフィンやみんなと共に守っていくんだ、そう改めて心に刻んだ日だった。
夜は……………これまで耐えに耐えていたらしいエルフィンのたがが外れました、とだけ言っておきます。………うん。次の日一日起き上がれなかったわ………。エルフィンがしきりに謝っていたけど、彼自身は疲れの色の欠片も無かったのがなんだか悔しかった。もしかして竜の血筋ってぜ────ううん、考えるのはやめよう。
その後は王太子妃としての公務の傍ら、精霊としての責務も果たしている。そして、公務が休みの日は夫婦水入らずで過ごしている。
ただ、その内子供が出来そうな気はする。何でかは聞かないで欲しい。
※※※※※※※※※※
五歳で前世の記憶を取り戻してから十年余り。最初は攻略対象のみんなが幸せになってくれればいいと、悪役令嬢として断罪されようと思って行動してきた。
単純に“乙女ゲーム”の世界だと思っていた考えは間違っていると気付いた。みんなちゃんと自分の意思を持っていて、当たり前に生きているんだと分かった。
私は断罪されるべき人間なのに、と思いながらも私を気遣い守ろうとしてくれるみんなに嬉しさと同時に申し訳なさがあった。
エルフィンも、私とじゃなくてヒロインと結ばれて欲しいと思っていたのが、だんだんそう思うたびに胸が痛むことに気づかない振りをしていた。
まさかエルフィンたちが私が立てた破滅フラグのための嫌がらせを全て叩きおろうと全力投球してくるとは思いもしなかった。
前世は異世界の日本人だと思っていたのが、実は精霊で、疲弊した魂を癒すために異世界へ転生していたんだという事実が判明して驚いた。
“乙女ゲーム”のヒロインだと思っていたウィアナが、性格が壊滅的で、ゲーム通りにするわけにはいかないと思うようになった。その中で彼女が前世では私を冷遇して死に追いやった望結だと気付いてからは、なおのことだった。
魔王として転生したケルニオとの交戦の最中、エルフィンへの恋心を自覚した。エルフィンの方はずっと私だけを想っていてくれたことに驚いたのと同時に、嬉しさが込み上げた。
それからケルニオに連れ去られるも、エルフィンやそれまで陰ながら手助けをしてくれていたリュミィさん、クルシェット殿下の助力もあって、すぐに助け出された。
ウィアナへの断罪を経て、ケルニオからエルフィンに決闘が申し込まれた。その最中、魔王側の事情も明らかになり、実はウィアナの実母・マリーナさんは、死後に卑劣にも侯爵位の男に辱しめられていたと判明した。
その人間も罰せられ、ケルニオたちも罪に処せられた。
転生した彼らが今度こそ穏やかにに生きてくれることを願った。
それからエルフィンと結婚し、王族としての日常を送るようになった。もちろん、楽しいことばかりではなく、時には辛い決断を迫られることもあるだろう。でも、私たちは共に力を合わせて乗り越えていけると信じている。
いろいろあったこれまでの人生は辛いこともあったけど、みんなとの強い絆と共に乗り越えてきた日々は私の何よりの宝物だ。
たとえ精霊界に戻る日が来るのだとしても、私はこの幸せに満ちた日々を忘れないだろう。
だからこの幸せが出来るだけ永く、そしてこの世界に生きる人々にも同じように幸せな日々が訪れることを願います。
悪役令嬢として生まれたと知った日から断罪される時がいつか来ると思っていたけど、王太子殿下にリカバリーされて私は今、幸せに暮らしています!
あの騒動後、シグルド、クーシェ、ラディ先輩が卒業を迎え、シグルドは間もなくルヴィカと結婚した。私に対する二人の忠誠心の篤さは相変わらずだ。
シグルドには次期近衛騎士団長の話が打診された。当初、本人は「自分はあくまでユフィリア様の専属護衛としての立場でありたい」と言って辞退したのだけど、エドガー様より「エルフィン殿下の側近でもあるのだから、私の跡に役目を継ぎなさい」と説得され、渋々承諾した。幼馴染みである以前にエルフィンは次期国王だ。彼を守ることがひいては私を守ることになる、とも言われたとか。それで了承するあたり、シグルドらしかった。
ルヴィカは正式に私の侍女として抜擢され、王城における身の回りの世話を一任されるように日々努力を重ねている。
クーシェ──クレイシェスは、卒業後精霊界へと戻った。かつて着いていた転生の管理を再び任されるようになったとか。ミラも一緒だ。精霊には結婚というものは無いから、二柱でのんびりと過ごすのだろう。マクスウェルやフォルティガも自分達の役目に戻り、忙しくしているようだ。みんな暇を見つけては会いにくるので、界を隔ててもそこまで寂しさは感じない。
デュオことセルデュオレクトは、シグルド同様、ラディ先輩の卒業を待って結婚した。前世の彼──琉生だった頃は生涯独身を通したと言っていたから、今世では身を落ち着けてくれたようで何よりだった。
ラディ先輩──ラディは、次期クレイシス侯爵夫人として、現夫人から貴族としての礼儀作法などを学んでいくのだとか。苦労も多いだろうけど、その分幸せな家庭を築いていけるでしょう。彼女の両親も、式では涙を流して喜んでいた。
ヴァイス様もデュオに早めに魔術師団長の役職を譲ろうとしているようだ。単に楽隠居したいだけでは?というデュオの意見はスルーされているとか。とっとと跡を継がせたいヴァイス様と、まだ父親に現役で頑張って欲しいと跡を継ぐのを先伸ばしにしたいデュオとの攻防はしばらく続きそうだ。
ルティウスは学院卒業後、同じく卒業後に母国パルヴァンへ帰国するクルシェット殿下に合わせてパルヴァンに一年程留学しに行った。護衛としてソールとシルディオ兄様が同行した。経験を積んでエルフィンを支えられるようになって、私の不安を減らしたいとのこと。あの騒動を経て、あの子も何か思うところがあったのでしょう………でもシスコンは相変わらずなのよね。
留学から帰ってきたルティウスの側には何故だかリュミィさんの姿が。あれ?どうして隣に彼女が?そう思ったのは私だけではなかったらしく、エルフィンが尋ねていた。そうしたら、驚愕の事実が判明したわ。
話によると、二人は恋人同士になったのだとか。……………え!?いつの間に!?何がどうなってそうなったの!?というか、留学中に何があったの!?
「姉上たちの挙式を待って、結婚しようと思います」そう語った時の満面の笑みだったルティウスに対し、リュミィさんがぐったりしていたのが凄い気になった。決して嫌だからではなく、たんなる疲れからだそうだけど………本当に何があったの、二人とも。
ちなみにクルシェット殿下は両国の友好の証として、ルティウスらとは別口でストランディスタ王国から留学していた貴族令嬢と婚約した。政略結婚であり、恋愛結婚でもあるので、不都合はないとか。
私とエルフィンは、学院卒業から二年後、婚姻の儀を経て結婚式を挙げることとなった。何故卒業後すぐではなかったのかというと、前述したルティウスの留学も関係している。やっぱり、晴れの舞台はみんなに祝福して欲しい。私たち二人の意見が一致したのと、招待客の選別やら、式場の設営内容とやら、国民への布告やら。まあ、次期国王である現王太子の結婚なのだから、「結婚します」で済むはずはない。周辺各国への通知もあるし、婚姻への準備が短時間で終わるはずもなく、あれこれやっている内にそれだけの時間が経ったともいう。
そして────────────────────
「ユフィ、準備はいいか」
「はい、エルフィン」
控え室に迎えにやって来たエルフィンと連れ立ち、式を行う教会の礼拝堂へ向かう。礼服に身を包んだエルフィンは凛々しさが際立ち、私は今日この人と結婚するんだ──これからもこの人と歩んで行くんだ、そんな喜びが溢れ、幸せな気持ちに満たされていた。
エルフィンもエルフィンで、私のウェディングドレス姿を見た瞬間、硬直していた。そのすぐあとに口元を手で隠し、顔を逸らせ、「くそ………っ、可愛すぎる………!!夜までが長い………っ!」と呟いていた。最後の台詞に身の危険を感じたけど、結婚するということは、まぁ……そういうことをするわけで。…………………………私、明日大丈夫かしら。
式はつつがなく進んだ。互いに誓いの言葉を交わし、指輪の交換を行う。その指輪は互いが込めた守りの術が刻まれている。
「ユフィ………この世界で何よりもお前を愛している。私とこの先も共に歩んでくれるか?」
「貴方に出会えたからこそ、今私はここにいることができました。私も貴方を──エルフィンを愛しています。何があっても、貴方と共にあることが私の一番の望みです」
「ああ………もう決して手離さないから、覚悟しろよ……?」
「はい………!」
そして私たちは誓いの口づけを交わした。それは今までしてきた口付けの何倍も甘く感じた。
その後、王都へ凱旋パレードを行った。国民からも祝福の嵐だったことが何よりも嬉しかった。ここに住む人々をエルフィンやみんなと共に守っていくんだ、そう改めて心に刻んだ日だった。
夜は……………これまで耐えに耐えていたらしいエルフィンのたがが外れました、とだけ言っておきます。………うん。次の日一日起き上がれなかったわ………。エルフィンがしきりに謝っていたけど、彼自身は疲れの色の欠片も無かったのがなんだか悔しかった。もしかして竜の血筋ってぜ────ううん、考えるのはやめよう。
その後は王太子妃としての公務の傍ら、精霊としての責務も果たしている。そして、公務が休みの日は夫婦水入らずで過ごしている。
ただ、その内子供が出来そうな気はする。何でかは聞かないで欲しい。
※※※※※※※※※※
五歳で前世の記憶を取り戻してから十年余り。最初は攻略対象のみんなが幸せになってくれればいいと、悪役令嬢として断罪されようと思って行動してきた。
単純に“乙女ゲーム”の世界だと思っていた考えは間違っていると気付いた。みんなちゃんと自分の意思を持っていて、当たり前に生きているんだと分かった。
私は断罪されるべき人間なのに、と思いながらも私を気遣い守ろうとしてくれるみんなに嬉しさと同時に申し訳なさがあった。
エルフィンも、私とじゃなくてヒロインと結ばれて欲しいと思っていたのが、だんだんそう思うたびに胸が痛むことに気づかない振りをしていた。
まさかエルフィンたちが私が立てた破滅フラグのための嫌がらせを全て叩きおろうと全力投球してくるとは思いもしなかった。
前世は異世界の日本人だと思っていたのが、実は精霊で、疲弊した魂を癒すために異世界へ転生していたんだという事実が判明して驚いた。
“乙女ゲーム”のヒロインだと思っていたウィアナが、性格が壊滅的で、ゲーム通りにするわけにはいかないと思うようになった。その中で彼女が前世では私を冷遇して死に追いやった望結だと気付いてからは、なおのことだった。
魔王として転生したケルニオとの交戦の最中、エルフィンへの恋心を自覚した。エルフィンの方はずっと私だけを想っていてくれたことに驚いたのと同時に、嬉しさが込み上げた。
それからケルニオに連れ去られるも、エルフィンやそれまで陰ながら手助けをしてくれていたリュミィさん、クルシェット殿下の助力もあって、すぐに助け出された。
ウィアナへの断罪を経て、ケルニオからエルフィンに決闘が申し込まれた。その最中、魔王側の事情も明らかになり、実はウィアナの実母・マリーナさんは、死後に卑劣にも侯爵位の男に辱しめられていたと判明した。
その人間も罰せられ、ケルニオたちも罪に処せられた。
転生した彼らが今度こそ穏やかにに生きてくれることを願った。
それからエルフィンと結婚し、王族としての日常を送るようになった。もちろん、楽しいことばかりではなく、時には辛い決断を迫られることもあるだろう。でも、私たちは共に力を合わせて乗り越えていけると信じている。
いろいろあったこれまでの人生は辛いこともあったけど、みんなとの強い絆と共に乗り越えてきた日々は私の何よりの宝物だ。
たとえ精霊界に戻る日が来るのだとしても、私はこの幸せに満ちた日々を忘れないだろう。
だからこの幸せが出来るだけ永く、そしてこの世界に生きる人々にも同じように幸せな日々が訪れることを願います。
悪役令嬢として生まれたと知った日から断罪される時がいつか来ると思っていたけど、王太子殿下にリカバリーされて私は今、幸せに暮らしています!
応援ありがとうございます!
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