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第一章 メルトヴァル学院での日々
攻略情報 その1
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「落ち着いたか?」
「ええ……重ね重ね、失礼しましたわ」
興奮状態のリンジー様を正気に戻すのに一時間ほどかかりました。私たち何をしにきたんだっけ?と思ったのは悪くないと思います。
私に前世の記憶があるとか、ルティウス様たちとの関係とかを説明するのにかかった時間でもありますが。
「もうお察しかと思いますが……まぁ、私にも前世の記憶というものがございます」
「なんで黙っていたんだ」
「リュミエルのためですわ」
「は?」
「事実、私の懸念は見事に当たりましたもの。みなさんも会ったでしょう?あの、シーラ・ステイトに」
主が質問を重ねていると、彼女はそう言ったのですが……………
リンジー様が神妙に言ったその名前を聞いて、私たちの間では疑問符が浮かんでいました。はっきりいうと、「誰?それ?」状態です。
「あの、リンジー嬢。誰ですか?そいつは」
「は?あ……ご無礼を、ルティウス殿下。……ちょっとお待ちください?まさかとは思いますが………皆様、誰もご存知ありませんの⁉」
『あ、それボクも言った。辛うじて知ってるのはシャウド──ウェインって名乗ってるんだっけ?──だけで、それも攻略対象の名前くらいしか分からないみたいだよ。一応エンディングも聞いたんだけど、あまり覚えていなかったみたいで、役にたちそうになかったし』
「あ~………どうりで皆様彼女の行動を把握できていらっしゃらないと思っていましたら………」
リンジー様、頭を抱えてしまわれましたね。返す言葉もないので、主でさえばつが悪そうに腕を組んでるだけですし。
「あのヒロインにこれ以上好き勝手にさせるわけには参りませんね………僭越ながら私が知り得るシナリオをお話致しますわ。クレイシェスが聞きたいことというのはそういうことでしょう?」
『ああ、うん。もしそうならいいなって程度だったけど……教えてもらえるなら願ってもないしね』
そして、リンジー様は攻略情報を話して下さいました。
「まず、初めに申し上げておきますが……この続編、シミュレーションパートはほぼ宛てにしない方がよろしいかと存じます」
「どういうこと?学院で好感度を上げて戦闘で絆を高めるゲームだって聞いてたけど」
「ウェインが知っているそれは、おそらく恋愛パート──シミュレーションパートの別称です──を重視していたプレイヤーの意見だからでしょうね。一応乙女ゲームですから、恋愛面が重要なのは当たり前なのですが。この続編の場合は、むしろアドベンチャーパートの方が最重要なのですよ」
リンジー様いわく、『スピリチュアル・シンフォニー2~聖なる乙女と天翼の守護者~』──こちらは『スピ天』と呼ばれていたそうです──は、攻略対象者たちの好感度の上がり具合はアドベンチャーパートの進行に左右されるのだとか。そして、攻略の鍵を握るのが、幼い頃から友人として、家族として側に寄り添う聖獣・『リュミエル』なのだそうです。つまり、私のことですね。現実は彼女とは家族としてどころか、友人ですらありませんが。
「一週目は必ず大団円エンドで、二週目からの戦闘パートを進めながら攻略対象者たちを攻略できるようになるという珍しい仕様でしたわね」
この続編、戦闘パート──アドベンチャーパートの別称です──を同時進行で進めないと攻略対象たちとの恋も進まない仕様だったとか。
ちなみに、聖獣から与えられる聖属性の魔力に自分の魔力を併せて浄化を行うのがゲームヒロインの戦い方なのだそうです。ヒロインが他に使える術は治癒や補助的な術が大半で、戦闘は専ら『リュミエル』と攻略対象者のほうに任せるため、戦闘はそう難しくはなかったそうですが。まあ……乙女ゲームですから、戦闘パートが難しかったらアクション系が苦手な人は行き詰まってしまいますしね。
「そしてもう一つ。この続編の最も厄介な点がありますの。この続編、先に『リュミエル』の好感度を上げておかないと攻略したいキャラとのイベントを起こせないというものですわ」
「───成る程?だからあの自称ヒロインはリュミエルにしつこく付き纏っているわけですか」
「ルティウス殿下の仰る通りかと。彼女にとって最もイレギュラーだと思っているのはクルシェット殿下がリュミエルと契約していることでしょうかね」
「ああ、だから最近のあれはオレのことを敵対視しているわけか」
「でしょうね。彼女、おそらく貴方の攻略は諦めたでしょうね」
「今度は『囚われのリュミエルを解放するんだ』とか言って纏わりつかれそうだな………」
恋愛フラグは折ることはできたものの、危害を加えられそうなフラグが立ったのですから、溜め息もでますよね。
「私、『平民の編入生に絡まれたことが原因で体調を崩した』と学院では思われているでしょう?シュア様」
「ん?ああ。私はその事は半信半疑だったのだが。お前の素を知らないルティウス殿下方の前ではそちらが嘘だとは言いづらくてな」
「あれ、一応シュア様との出会いイベントになるはずだったのですよ」
「なに⁉」
予想外なところでイベントフラグが折れていたようで、シュドヘル様だけでなく、私たちも驚きました。
「ゲームでの『リンジー』は、私が猫を被っている時そのままの令嬢なのです。『シュドヘル様の婚約者には相応しくない』と他の令嬢に嫌みを言われているところをヒロインが助けに入り、その直後にシュア様が現れ、助けた礼を言われるというもののはずでしたの」
「私は図書室の一件以降、あの娘とろくな会話をしていないが?」
「ええ、そうでしょうね。私、ヒロインに関しては『ある警戒』をしていましたから、先手を打たせてもらいました」
リンジー様は、自称ヒロインさん──シーラ・ステイトというそうです──がいずれ自分に接触してくると読んで他の令嬢たちとの関係改善をしておいたのだそうです。つまり、敢えてフラグを潰すことで、彼女が転生者なのかを確かめようとしたわけですね。結果はビンゴだったようですが。
「まさか教室までやってきて『なんであんたモブから苛められてないのよ!イベントが起きないじゃない‼』なんて怒鳴られるとは思いもしなかったですが」
その台詞を聞いて、皆さん一様に顔が引き攣りました。私に付き纏っている裏側でそんなトラブルまで引き起こしていたのですか、彼女は。
それは噂にもなりますよね、『なんでイジメを受けてない』とか言われれば。学院などで演じている『気弱で大人しいリンジー嬢』ならば、体調を崩した振りをして学院を休むしかなかったというのが真実だったわけですね。
「それで、リンジー様。『ある警戒』、とは?」
「ヒロインも転生者で、なおかつゲームの世界だと信じ込み、『私はヒロインだから何をやっても許される』と思い込んでリュミエルや皆様を引っ掻き回すのでは?という警戒ですわ」
ああ、それ、今一番頭を悩ませている案件です………リンジー様。
「ええ……重ね重ね、失礼しましたわ」
興奮状態のリンジー様を正気に戻すのに一時間ほどかかりました。私たち何をしにきたんだっけ?と思ったのは悪くないと思います。
私に前世の記憶があるとか、ルティウス様たちとの関係とかを説明するのにかかった時間でもありますが。
「もうお察しかと思いますが……まぁ、私にも前世の記憶というものがございます」
「なんで黙っていたんだ」
「リュミエルのためですわ」
「は?」
「事実、私の懸念は見事に当たりましたもの。みなさんも会ったでしょう?あの、シーラ・ステイトに」
主が質問を重ねていると、彼女はそう言ったのですが……………
リンジー様が神妙に言ったその名前を聞いて、私たちの間では疑問符が浮かんでいました。はっきりいうと、「誰?それ?」状態です。
「あの、リンジー嬢。誰ですか?そいつは」
「は?あ……ご無礼を、ルティウス殿下。……ちょっとお待ちください?まさかとは思いますが………皆様、誰もご存知ありませんの⁉」
『あ、それボクも言った。辛うじて知ってるのはシャウド──ウェインって名乗ってるんだっけ?──だけで、それも攻略対象の名前くらいしか分からないみたいだよ。一応エンディングも聞いたんだけど、あまり覚えていなかったみたいで、役にたちそうになかったし』
「あ~………どうりで皆様彼女の行動を把握できていらっしゃらないと思っていましたら………」
リンジー様、頭を抱えてしまわれましたね。返す言葉もないので、主でさえばつが悪そうに腕を組んでるだけですし。
「あのヒロインにこれ以上好き勝手にさせるわけには参りませんね………僭越ながら私が知り得るシナリオをお話致しますわ。クレイシェスが聞きたいことというのはそういうことでしょう?」
『ああ、うん。もしそうならいいなって程度だったけど……教えてもらえるなら願ってもないしね』
そして、リンジー様は攻略情報を話して下さいました。
「まず、初めに申し上げておきますが……この続編、シミュレーションパートはほぼ宛てにしない方がよろしいかと存じます」
「どういうこと?学院で好感度を上げて戦闘で絆を高めるゲームだって聞いてたけど」
「ウェインが知っているそれは、おそらく恋愛パート──シミュレーションパートの別称です──を重視していたプレイヤーの意見だからでしょうね。一応乙女ゲームですから、恋愛面が重要なのは当たり前なのですが。この続編の場合は、むしろアドベンチャーパートの方が最重要なのですよ」
リンジー様いわく、『スピリチュアル・シンフォニー2~聖なる乙女と天翼の守護者~』──こちらは『スピ天』と呼ばれていたそうです──は、攻略対象者たちの好感度の上がり具合はアドベンチャーパートの進行に左右されるのだとか。そして、攻略の鍵を握るのが、幼い頃から友人として、家族として側に寄り添う聖獣・『リュミエル』なのだそうです。つまり、私のことですね。現実は彼女とは家族としてどころか、友人ですらありませんが。
「一週目は必ず大団円エンドで、二週目からの戦闘パートを進めながら攻略対象者たちを攻略できるようになるという珍しい仕様でしたわね」
この続編、戦闘パート──アドベンチャーパートの別称です──を同時進行で進めないと攻略対象たちとの恋も進まない仕様だったとか。
ちなみに、聖獣から与えられる聖属性の魔力に自分の魔力を併せて浄化を行うのがゲームヒロインの戦い方なのだそうです。ヒロインが他に使える術は治癒や補助的な術が大半で、戦闘は専ら『リュミエル』と攻略対象者のほうに任せるため、戦闘はそう難しくはなかったそうですが。まあ……乙女ゲームですから、戦闘パートが難しかったらアクション系が苦手な人は行き詰まってしまいますしね。
「そしてもう一つ。この続編の最も厄介な点がありますの。この続編、先に『リュミエル』の好感度を上げておかないと攻略したいキャラとのイベントを起こせないというものですわ」
「───成る程?だからあの自称ヒロインはリュミエルにしつこく付き纏っているわけですか」
「ルティウス殿下の仰る通りかと。彼女にとって最もイレギュラーだと思っているのはクルシェット殿下がリュミエルと契約していることでしょうかね」
「ああ、だから最近のあれはオレのことを敵対視しているわけか」
「でしょうね。彼女、おそらく貴方の攻略は諦めたでしょうね」
「今度は『囚われのリュミエルを解放するんだ』とか言って纏わりつかれそうだな………」
恋愛フラグは折ることはできたものの、危害を加えられそうなフラグが立ったのですから、溜め息もでますよね。
「私、『平民の編入生に絡まれたことが原因で体調を崩した』と学院では思われているでしょう?シュア様」
「ん?ああ。私はその事は半信半疑だったのだが。お前の素を知らないルティウス殿下方の前ではそちらが嘘だとは言いづらくてな」
「あれ、一応シュア様との出会いイベントになるはずだったのですよ」
「なに⁉」
予想外なところでイベントフラグが折れていたようで、シュドヘル様だけでなく、私たちも驚きました。
「ゲームでの『リンジー』は、私が猫を被っている時そのままの令嬢なのです。『シュドヘル様の婚約者には相応しくない』と他の令嬢に嫌みを言われているところをヒロインが助けに入り、その直後にシュア様が現れ、助けた礼を言われるというもののはずでしたの」
「私は図書室の一件以降、あの娘とろくな会話をしていないが?」
「ええ、そうでしょうね。私、ヒロインに関しては『ある警戒』をしていましたから、先手を打たせてもらいました」
リンジー様は、自称ヒロインさん──シーラ・ステイトというそうです──がいずれ自分に接触してくると読んで他の令嬢たちとの関係改善をしておいたのだそうです。つまり、敢えてフラグを潰すことで、彼女が転生者なのかを確かめようとしたわけですね。結果はビンゴだったようですが。
「まさか教室までやってきて『なんであんたモブから苛められてないのよ!イベントが起きないじゃない‼』なんて怒鳴られるとは思いもしなかったですが」
その台詞を聞いて、皆さん一様に顔が引き攣りました。私に付き纏っている裏側でそんなトラブルまで引き起こしていたのですか、彼女は。
それは噂にもなりますよね、『なんでイジメを受けてない』とか言われれば。学院などで演じている『気弱で大人しいリンジー嬢』ならば、体調を崩した振りをして学院を休むしかなかったというのが真実だったわけですね。
「それで、リンジー様。『ある警戒』、とは?」
「ヒロインも転生者で、なおかつゲームの世界だと信じ込み、『私はヒロインだから何をやっても許される』と思い込んでリュミエルや皆様を引っ掻き回すのでは?という警戒ですわ」
ああ、それ、今一番頭を悩ませている案件です………リンジー様。
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