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大猫時代

夫は奴隷 猫たちに翻弄され続ける人生

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 (おとうたん)こと夫はずっと猫の奴隷だ。

 夫は空軍に勤めていた頃ずっと朝早い仕事だった。それなのに夜は猫たちのいたずらでよく起こされていた。

チャチャがタッチ式のランプでつけたり消したりして遊ぶ。それからコタローが立てかけてある大きな鏡で太鼓の達人のような遊びをする。

真夜中のディスコのような点滅ライト。それに合わせたミラードラム。

カッカ!ライト!カッカ!オフ!……やめたげて。


それから一番ひどいのが2匹でベッドの下の部分を引っ掻きながらグルッグル回る遊び。何周もする。

なにがおもしろいのか、全然わからない。 これが始まると爪の引っかかる『バリッガリッ』と嫌な音とともにベッドが揺れる。

夫は「やめて~!」とよく怒っていた。一度足でベッドマットレスをバンと叩いたので鬼嫁の私にものすごく怒られた。

「あんなに小さいのに(大きいけど)ベッドに足を挟んだらどうするの! なにもわからないで遊んでいるんだから!(いや、絶対わかってると思うけど)謝って!!」


I'm sorryごめんなさい と小さい声で言いつつ寝直すのだった。 

 
朝は朝で歯を磨いている時に「お前の手で水を飲ませろ」怪獣がやってくる。

チャチャだ。

人間の手をコップにして飲む水が大好きで手の大きなおとうたんは一番人気があった。
 
「まだあ~? 遅刻する~」とバスルームからよく声が聞こえた。だったらさっさと『終わり!』とやめればいいのに、それができない。

 
ねこが赤ちゃんの頃から見慣れているのは(カモフラージュ)と呼ばれる軍服で、ブーツを最後に履くのだが、このブーツの紐で遊ぶのが大好きだった。

 ぐいっと引っ張って靴紐を結ぶ夫。 

 「にゃ!!」っと飛びついて紐を緩めるにゃんず。

「や~めて、や~めて~~」変なイントネーションで言っていた。もっと威厳を持ってNO!と言えばいいのに、優しい夫はそれができない。笑っちゃ悪いけど笑ってしまう。 
 

 動物病院に連れて行く時はよく軍服のまま家に帰ってきていた。ランチタイムに連れて行くことが多かった。先程書いた軍のブーツは履くのがとても大変で、できたら脱ぎたくない。

そんな時はブーツを履いた上から足にスーパーの袋をかぶせて足首でギュッと結んでいた。

全身カモフラージュの軍服。でも足はスーパーの袋。 

歩くたびにガッサガサ音がする。ものすごく怪しい。

案の定、何か変だと悟ったチャチャは逃げていく。2階の大きなベッドの下に隠れるともう手が届かない。
猫の視線から見えるのは歩く白いスーパーの袋。 

がさがさ、がさがさ言わせながら「チャチャ~出てきて~」

そんなん、絶対に出てこないよ。

がさがさスーパー男は今度は両手に猫じゃらしを持ってきた。どんどん変な人になっているのを本人は全く気がついていない。

ベッドの右側から「チャチャ~」じゃらしをふりふり覗き込む。 左に逃げるチャチャ。

左側にがさがさ回る夫。 

すぐに右側に逃げるチャチャ。

これがいつも延々と続いていた。最後は結局ものすごく重いマットレスをガバーッと持ち上げて、そのスキに私が引っ張り出していた。

「まさか、この靴怖いのかな?」とがさがさ男はやっと気がついた。

「怖いに決まってるじゃない!ガッサガサ音もするのに。わからなかったの?」「うん」

猫に対していつもどこか抜けている夫なのだ。 すごく愛情を持っているのに、いつも空回りしてしまうというか……今日も猫が眠い時に限って「かわいいね~」としつこく撫でて怒られていた。
 
犬は家族の中で一番偉い人から順位をつけるという。 もし猫もそうならば、完全に最下位のおとうたんなのであった。








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