人類を救うことを決意したんだが、敵がチート過ぎてつらい

名無なな

文字の大きさ
10 / 31
第二章

しおりを挟む


 柳生武蔵の刀は、言わば『人殺しの刀』であった。


 剣道のような作法や芸術性を求められるものでなく、ただ殺すためにある剣術――それがムサシの全てである。彼の実家は知る人ぞ知る剣術の流派であり、ムサシは箸を握るよりも早く刀に触れていた。
 物心つく以前から剣術を仕込まれ、江戸時代より続く流派において、最高傑作と称されるほどの上達ぶりを見せた。ただこれをムサシは褒め言葉と感じたことはない。剣術において『最高傑作』とは即ち、誰よりも人殺しの才能に長けているということ。乱世ならばともかく、現代においては侮蔑に等しいものと考えていたからだった。

 かと言って鍛錬を怠ることも良しとしなかった。決して楽しいなどと思うことはなかったが、染みついたものがそう簡単に落ちるはずがない。やらなければ一日が消化不良に終わってしまう。

 剣の腕を誇ろうなどと思い上がったことはなく。
 一生のうちに役立つことがあるのかすら定かではなかった。

 ――――しかし、『それ』は確かにあったのだ。奇しくもそれは、ニュアンスは違えど乱世の到来によって。
 当初は諸悪の根源たる【十二使徒】への怒りよりも、己が剣術を護国のために活かせることへの喜びの方が強かったはずだ。本来人殺しの武芸を国のために活かせるのなら、それはどれほど素晴らしいことだろうか、と。

 混沌が齎されたことで、自分の力が役に立つ――――それはとてつもなく嬉しかった。ヨーロッパが滅びる一年前に言霊に目覚めて、本当に良かった。


 感謝されることが嬉しかった。
 人を傷付けるだけと思っていた力を役立てて、毎日が充実していた。
 ――――だからこそ、己の本性に触れた時、あまりの醜さに愕然とした。


 それに気付いたのは【静謐姫】との一戦。いかに冷気に対する対策を積んでいたとはいえ、活動できる時間はそう長くはなかった。周辺では立ったまま凍り付いている人々の姿が多数見えた。
 加えて【静謐姫】本体の実力も相当なものであった。幾万もの氷刃が身を切り裂き、彼女の身体が氷でできていたため、まともに刀を振るっているだけでは傷一つ付けられない現状である。

 常に絶体絶命。退却が何度も頭を過ぎった。それでもなお退かなかったのは、単なる正義感によるものではないことに、ムサシはこの瞬間ようやく理解した。

(そうか。俺は――――この戦いそのものを楽しんでいるのか)

 命のやり取りに魂が震えた。普段ない死地にいるという、総毛立つような感覚が生きているという実感を与えてくれた。

 とどのつまり、彼は正義の味方などでは断じてなかった。

 身勝手で、傲慢で、蛮勇の持ち主。まさしく『人斬り』に相応しい男だった。
 しかし周囲は彼の本質に気付かないまま、次第にムサシのことをこう称するようになっていった。


 ――――【真実斬り】、と。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...