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*ロキ視点
奴隷を解放されて数ヶ月が経った。
冒険者としてそこそこ頑張る日々が続いている。
「あ、あれ? ロキ。な、なんか久しぶりだな」
廊下でばったり出くわしたマサキ様から声を掛けられる。
確かに同じ屋敷に住んでいるのに顔を合わせるのは3日ぶりだ。
「最近仕事で遅くなってましたから。だから今日は久々に休みにしたんです」
冒険者ギルドのランクが上がると、任務も難しくなる。
主にモンスター討伐を中心に活動しており、まだ日帰りできるダンジョンや森の探索で済むモンスターしか依頼が来ていないが、そのうち数日遠征しなければならないシーンも多くなるだろう。
ますますマサキ様と顔を合わせる機会が減るかもしれない。
「そ、それはお疲れ様。ゆ、ゆっくり休んでな」
そう言ってあっさりとすれ違おうとするマサキ様。
「あの!よければマッド・クローラーの特徴について知っていたら教えて欲しいんですが。討伐依頼があったのですが、昔の活動地域には生息しておらずその魔物のことをまったく知らないんです」
そんな唐突な言葉で思わず引き留めてしまった。
マサキ様はちょっと意外そうな顔をしたが、どこか嬉しそうに微笑んだ。
その姿に何故かホッとした。
自分でもこんなことをするつもりはなかったのにどうしたのだろうか。
まぁマッド・クローラーについてはあとで魔物図鑑でも読んでみようと思っていたので、教えて貰えれば手間が省ける。
「マ、マッド・クローラーは、た、確かにこの地域にしか、せ、生息しない魔物だからな。ぬ、沼地の、は、徘徊者っていわれている、か、蟹に似たやつだ。ふ、複数で、ぬ、沼地に引きずり込もうとしてくるから、え、遠距離からの攻撃が有効だよ。み、眉間の間が柔らかいから、そ、そこを狙うといいかも」
いつになく饒舌なマサキ様。
適格なアドバイスに改めてこの人が勇者なのだと実感する。
「へぇ…確か爪が回復ポーションの素材になるんでしたよね?」
「う、うん。そ、それに身はかなり美味しいよ」
「あれ食えるんですか?」
「た、確かに色はショッキングピンクで、か、かなり強烈だけど、ゆ、茹でると鮮やかな赤になって普通の蟹とた、大差ないよ。え、栄養価もあって、ほ、保存もある程度利くから、な、長旅の時は積極的に狩るといい」
「へぇ」
こんなに金持ちでもやはり冒険時の飯は現地調達のサバイバルなのか。
そもそもマサキ様はあまり金持ちの印象がないな。
普段からまったく気取っていないからか、はたまた素朴過ぎるためか。
謙虚すぎて卑屈に見えるこの人が勇者であることを信じることが出来たのは、あのエルフの少女を買い取った場面に立ち会ったからだ。
俺に対してはあんなにオドオドしていたのに、口調こそつっかえていたが横暴な貴族のくそ野郎に堂々とした態度で対峙していて心底驚いた。
しかも魔力が凝縮して金に輝く縄を同時に三本も無詠唱で出して完璧な操作で操るなんて芸当、一般的な冒険者に出来るわけがない。
あの場面がなかったら今でもマサキ様のことは勇者を騙る大金持ちの息子か何かだと勝手に疑っていたかもしれない。
あの魔法の金縄は本当に美しかった。
もう一度、この人の使う魔法を見たいな。
ふとそんな考えが浮かんで、ギルドに二人で立ち寄ったときに、その場にいた冒険者にパーティを組んで欲しいと懇願されていたことを思い出す。
マサキ様はそれをあっさり断っていたが、俺の申し出ならもしかして請けてくれたりしないだろうか。
「あの、よければ今度一緒に――」
「マサキ!」
俺のセリフを遮るように、マサキ様の胸に小さな体が飛び込んできた。
「わ、わ…!セ、セイレス!」
マサキ様は慌ててエルフの少女の小さな体を受け止める。
「ふふふ」
「もう、セイレス。危ないだろ?」
腕の中で幸せそうに笑うエルフに注意するマサキ様。
だが声色にまったく怒りはなく、愛しさで溢れた目をしている。
なんだろうか? 心の中に靄が浮かぶ。
「マサキお話終わった? 今日はお庭でお野菜植える約束だよ?」
「あ、あ、そ、その件だけど、ジョ、ジョフィルからお野菜はダメだって怒られたんだ。に、庭の景観が壊れるって」
「野菜?」
思わず問うとエルフの食育の為に野菜の栽培を目論んでいたのだと説明される。
「やだぁ!マサキとお野菜植える!」
「あ、あ、あ、じゃ、じゃあ、は、鉢で育てられる野菜がないか市場で探そうか。そ、そこでか、帰りにお菓子も買おう」
「お出かけ? 行く! マサキとお出かけ!」
「い、行こう行こう。じゃ、じゃあロキ、またね」
俺に軽く挨拶したマサキ様は、エルフと仲良く手を繋いでルンルン音がしそうなほど楽しそうに去っていった。
しばらくその背中を見つめていたが、マサキ様がこちらを振り返ることはなかった。
奴隷を解放されて数ヶ月が経った。
冒険者としてそこそこ頑張る日々が続いている。
「あ、あれ? ロキ。な、なんか久しぶりだな」
廊下でばったり出くわしたマサキ様から声を掛けられる。
確かに同じ屋敷に住んでいるのに顔を合わせるのは3日ぶりだ。
「最近仕事で遅くなってましたから。だから今日は久々に休みにしたんです」
冒険者ギルドのランクが上がると、任務も難しくなる。
主にモンスター討伐を中心に活動しており、まだ日帰りできるダンジョンや森の探索で済むモンスターしか依頼が来ていないが、そのうち数日遠征しなければならないシーンも多くなるだろう。
ますますマサキ様と顔を合わせる機会が減るかもしれない。
「そ、それはお疲れ様。ゆ、ゆっくり休んでな」
そう言ってあっさりとすれ違おうとするマサキ様。
「あの!よければマッド・クローラーの特徴について知っていたら教えて欲しいんですが。討伐依頼があったのですが、昔の活動地域には生息しておらずその魔物のことをまったく知らないんです」
そんな唐突な言葉で思わず引き留めてしまった。
マサキ様はちょっと意外そうな顔をしたが、どこか嬉しそうに微笑んだ。
その姿に何故かホッとした。
自分でもこんなことをするつもりはなかったのにどうしたのだろうか。
まぁマッド・クローラーについてはあとで魔物図鑑でも読んでみようと思っていたので、教えて貰えれば手間が省ける。
「マ、マッド・クローラーは、た、確かにこの地域にしか、せ、生息しない魔物だからな。ぬ、沼地の、は、徘徊者っていわれている、か、蟹に似たやつだ。ふ、複数で、ぬ、沼地に引きずり込もうとしてくるから、え、遠距離からの攻撃が有効だよ。み、眉間の間が柔らかいから、そ、そこを狙うといいかも」
いつになく饒舌なマサキ様。
適格なアドバイスに改めてこの人が勇者なのだと実感する。
「へぇ…確か爪が回復ポーションの素材になるんでしたよね?」
「う、うん。そ、それに身はかなり美味しいよ」
「あれ食えるんですか?」
「た、確かに色はショッキングピンクで、か、かなり強烈だけど、ゆ、茹でると鮮やかな赤になって普通の蟹とた、大差ないよ。え、栄養価もあって、ほ、保存もある程度利くから、な、長旅の時は積極的に狩るといい」
「へぇ」
こんなに金持ちでもやはり冒険時の飯は現地調達のサバイバルなのか。
そもそもマサキ様はあまり金持ちの印象がないな。
普段からまったく気取っていないからか、はたまた素朴過ぎるためか。
謙虚すぎて卑屈に見えるこの人が勇者であることを信じることが出来たのは、あのエルフの少女を買い取った場面に立ち会ったからだ。
俺に対してはあんなにオドオドしていたのに、口調こそつっかえていたが横暴な貴族のくそ野郎に堂々とした態度で対峙していて心底驚いた。
しかも魔力が凝縮して金に輝く縄を同時に三本も無詠唱で出して完璧な操作で操るなんて芸当、一般的な冒険者に出来るわけがない。
あの場面がなかったら今でもマサキ様のことは勇者を騙る大金持ちの息子か何かだと勝手に疑っていたかもしれない。
あの魔法の金縄は本当に美しかった。
もう一度、この人の使う魔法を見たいな。
ふとそんな考えが浮かんで、ギルドに二人で立ち寄ったときに、その場にいた冒険者にパーティを組んで欲しいと懇願されていたことを思い出す。
マサキ様はそれをあっさり断っていたが、俺の申し出ならもしかして請けてくれたりしないだろうか。
「あの、よければ今度一緒に――」
「マサキ!」
俺のセリフを遮るように、マサキ様の胸に小さな体が飛び込んできた。
「わ、わ…!セ、セイレス!」
マサキ様は慌ててエルフの少女の小さな体を受け止める。
「ふふふ」
「もう、セイレス。危ないだろ?」
腕の中で幸せそうに笑うエルフに注意するマサキ様。
だが声色にまったく怒りはなく、愛しさで溢れた目をしている。
なんだろうか? 心の中に靄が浮かぶ。
「マサキお話終わった? 今日はお庭でお野菜植える約束だよ?」
「あ、あ、そ、その件だけど、ジョ、ジョフィルからお野菜はダメだって怒られたんだ。に、庭の景観が壊れるって」
「野菜?」
思わず問うとエルフの食育の為に野菜の栽培を目論んでいたのだと説明される。
「やだぁ!マサキとお野菜植える!」
「あ、あ、あ、じゃ、じゃあ、は、鉢で育てられる野菜がないか市場で探そうか。そ、そこでか、帰りにお菓子も買おう」
「お出かけ? 行く! マサキとお出かけ!」
「い、行こう行こう。じゃ、じゃあロキ、またね」
俺に軽く挨拶したマサキ様は、エルフと仲良く手を繋いでルンルン音がしそうなほど楽しそうに去っていった。
しばらくその背中を見つめていたが、マサキ様がこちらを振り返ることはなかった。
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