エンド後勇者、奴隷たちに振られまくる総受け生活

極寒の日々

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35甘えたい

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アル視点


俺は農村の貧しい村で生まれた。
母は一人息子の俺が生まれてすぐに俺の実父と死別しており、再婚して継父ができた。
その後、継父との間に次々と5人の弟妹が生まれて俺は一気にお兄ちゃんになった。

畑仕事は当然として弟妹たちの世話も俺の仕事で遊ぶ暇なんてなかった。
継父は俺に厳しく、しかしそれはこの家の長男として期待してくれているからだろうと、弟妹が可愛がられる横で叱られ殴られてばかりだったが、厳しさが愛情なのだと信じてそれに縋っていた。
それがまったく違うのだと自覚したのは、間抜けにも奴隷として売られた後だった。

俺の村では5つのお祝いで晴れ着を着る風習がある。
丁度末子である妹も近く5つになる。
兄弟唯一の女であった妹を溺愛していた継父は、村で一番豪華なドレスを着せるのだと張り切っていたのを覚えている。
それから数日後に俺は奴隷商に引き渡されていた。
別に食うに困っていたわけではないと思う。
去年は豊作だったし、畑の規模は村の中でも大きい方だ。
俺は…妹のドレスの為に家畜のように売られたらしい。

奴隷商に引き渡される時、弟妹から反対する声は上がらず、家の為に金に換えられることは当然だと笑顔で手を振っていた。
あの家の長男は最初からすぐ下の異父弟だったのだ。
母は最初から最後まで何も言わない。
あの人は継父に付き従うしか出来ない人だから。


檻に入れられ数日、家族に捨てられた現実に打ちのめされた。
ショックからかぼんやりして当時の記憶があまり鮮明ではないのだが、気づくとマサキ様に引き取られていた。

男が好きだと打ち明けられて付き合って欲しいと言われたが、あの時はそういう知識がまったくなくて変人だという感想しか浮かばなかった。
そして俺の年齢がまだ10代だと知るとものすごく驚いたようで、告白したこと自体を謝られてなぜかそのまま奴隷から解放された。
まだ若すぎるので、しばらくこのままここで働いて金と経験を積んでから独立を考えてはどうかと提案されて言われるままに従って、屋敷の庭師として就職することになった。

そこで待っていたのは自由で豊かな暮らしだった。
誰かの為ではなく自分の為に働いて、それが自分の対価として返ってくる。
休みの日はどれだけ寝ていても誰も何も言わない。
自分の世話だけやっていれば、あとは誰の面倒もみなくていいし。
自分が手にいれた物は、誰かに与えなくていい、全部ひとり占めだ。


先輩のショーンは就職先を探すのがダルいのでこの屋敷に残っているそうで、気軽なノリで年上だが馬が合った。
どうやらショーンはマサキ様が嫌いらしい。
卑屈で偽善者ぶった態度が気に入らないとよく愚痴っている。
それに同性愛者というのも笑えることなんだと教わった。
今の暮らしはマサキ様のお陰だと密かに感謝しているが、俺もショーンに倣ってどこか舐めた態度を取っている。
素直に感謝を示すのは俺には少しハードルが高い。

マサキ様は変な人だと思う。
これほどショーンや俺に馬鹿にされてもまったく意に介さず、気弱そうに見えて結構自分の意見は曲げない頑固さもある。
新しい奴隷を買ってきてはすぐに惚れたと大騒ぎするのは厄介だが、基本的に善良で無害だ。

いつもは俺たちを避けるようにしているのに、たまに思いついたように近寄って来る時がある。
身長が伸びたとか、筋肉が付いたとか、食べっぷりが気持ちいいとか、庭の木の剪定が見事だとか、一言二言だけ褒めて慌てて離れていく。

その独り言のように呟かれる言葉を、俺はこっそり心待ちにしている。
俺の成長を喜び、食べているだけで褒められ、仕事ぶりに感心される。
親さえくれなかった自尊心を育てる何かを、唐突に寄越してくるマサキ様はやっぱり変だ。
もっとマサキ様に褒められたい。
甘やかされたい。
でもそう願っていることを死んでも悟られたくない。
ごまかすようにマサキ様への態度は更に悪くなっていき、今では殆ど憎まれ口しか叩いていない。

それにマサキ様はやっぱり基本的には新しい奴隷にしか興味はない。
今のお気に入りは異例のエルフ少女で、それはもう溺愛している。
マサキ様に恋愛感情がないからか、二人の関係はすこぶる良好だ。
羨ましい…俺だってマサキ様にもっともっと褒められたい。
どんな我儘でも受け入れて欲しい。
機嫌を取ってチヤホヤして欲しい。
あのエルフは狡い。
俺だってマサキ様から大切にされたい。

マサキ様から菓子を贈られているエルフに怨みがましい視線を送らないよう気を張っていた時、マサキ様がエルフが持つ菓子の詰め合わせと同じような袋を俺に寄越してきた。

袋の中にはチョコレートも入っている。
俺がこの屋敷に来て初めて食べた甘い物もチョコレートだった。
マサキ様が俺にくれたんだ。
初めて食べる甘味。
舌が痺れるような濃い甘みに目を白黒させる俺にマサキ様は優しい笑みを浮かべていたっけ。
まだ俺が奴隷の中で一番新しかった時の話だ。

なんで今更こんな物を寄越すのだ。
なんであれからずっと甘い物が好きで堪らないのを知っているんだ。
もう俺に興味ないはずなのに、気まぐれで気にかけるなんてあの人は本当に残酷だ。

ああ、俺もショーンと同じだった。
マサキ様が嫌いだ。
こちらを見てくれないマサキ様が憎い。
俺は自分の部屋に鍵をかけて、菓子の袋を潰さないようにそっと抱き締めた。
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