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第19話 ゾンビ、録音を再生する
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カラは俺が西浦先生に渡されたICレコーダーを見ながら言った。
「これって、ニッシーが何かを録音したってことだよね?」
「うん、たぶん」
俺はICレコーダーを除菌シートで拭いてカラに渡した。
カラはICレコーダーを操作し、録音を再生した。
しばらく電子音と物音がするだけの状態が続いた後、西浦先生の声が聞こえた。
「もしもし、手越先生。西浦です。遅くにすみません」
「西浦さんか」
西浦先生が手越先生との電話の内容を録音したみたいだ。
音はクリアではないけど、ちゃんと聞き取れる。
「手越先生。明日の朝、なるべく早くに避難したいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ。構わんよ。あの怪しい男がちゃんとあらわれるのならな」
どうやらこれは、西浦先生が手越先生にかけた電話の録音のようだ。たしか、西浦先生は出発を早めるために昨夜手越先生に電話をかけたと言っていた。
でも、会話はそこでは終わらなかった。
「ありがとうございます。他に、2つほど、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「どうぞ」
西浦先生は、まず一つ目の質問をした。
「まず、TGS1のことです。手越先生、ひょっとして、出力に変更を加えましたか?」
「うむ。TGS1でゾンビに対抗できないかと考えて、出力の調整を変えて制限を外したが。何か問題でも?」
「やはりそうでしたか。申し訳ありません。とんでもないことになってしまいました。詳しくは、明日の朝、直接お話します。それから、今日の、あの遺書のようなメモのことですが……。あれは、立花さんのものには思えないのですが、手越先生、何かご存知ではありませんか?」
手越先生は深くため息をついているようだった。
「存じているよ。あれは、私の責任だ。正直に話そう」
手越先生は暗く重たい声で話しだした。
「西浦さん。あれは、あなたがここに来られる前、6年前の3月に起きたことだ。あの年、私のところに相談に来た1年の男子学生がいてな。友だちにゲイだというのが知られて悩んでいると言っていた。だが、学生同士がからかいあっているだけだと、私は軽くあしらった。ところが、それからしばらくして、3月の終わりに、その学生はここ、M棟裏の桜の樹で首つり自殺を図った」
手越先生が話している桜は、たぶん、この部屋の外にある、あの桜の老木のことだ。
3月の終わりなら、きっと桜の花が咲き誇っていた頃だ。
「すぐに発見されて一命はとりとめたが、そのまま意識が戻ることはなかった。あの時、私は騒動になるのを恐れて事態の鎮静化に全力を注いだ。つまり、もみ消してしまったのだ。マスコミが食いつき人権団体と反LGBT団体双方が騒ぎ出せば、誰のためにもならないと考えたのだが。今となっては卑怯な言い訳にしか聞こえんだろう。今日、あの部屋に置かれていた遺書は、6年前、あの学生が自殺をはかる直前に書き残したものだ」
手越先生の話が終わると、西浦先生は質問をした。
「その事件に、立花さんはどう関わっているのですか?」
「立花君は、先頭にたっていじめていた学生だ。本来なら処罰されるべきだったが、私がかばい何の罰も受けなかった」
「そうですか……」
「西浦さん。立花君は殺されたんだよ。誰がやったのかは知らんが、6年前のあの件の復讐をしようとしている者がいる。立花君も私も自業自得だがな。そういうことだ。あの件と関係のない西浦さんは安心してくれ」
「手越先生……」
「では、また明日。明日があればお会いしよう」
そこで会話は終わった。
俺とカラは無言でICレコーダーを見つめていた。
しばらくして、俺は言った。
「つまり、その6年前の事件の復讐で、立花さんと手越先生は殺された? 木村さんも?」
カラは即座に首を横に振った。
「ちがうよ。絶対ちがうよ。だって……」
カラの声は心なしか震えていた。
「カラ? ひょっとして、心当たりがある?」
カラは俯き気味に、小さな声で言った。
「アヤヤンには、ずっと意識のない状態で入院しているお兄ちゃんがいるんだけど、たしか、4つ上で、6年前の3月なら、1年生だったはず」
「つまり、アヤヤンさん……三上彩さんが自殺未遂をした学生の妹かもしれないってこと? それで、復讐のために3人を殺したってこと?」
カラははっきりと力強く首を横に振った。
「アヤヤンは、人殺しじゃない。あたしの親友だよ? アヤヤンのことは、よく知ってるもん。そんな人じゃない。絶対に違うよ」
カラはそう断言した。
俺は三上彩さんのことは何も知らない。
だけど、俺はカラの言うことを信じられかった。
ゾンビウイルスのパンデミックが始まって以来、人々は感染者を容赦なく殺し続けてきた。
俺は何度も元・同級生に殺されかけてきた。
だから、俺の感覚はパンデミック以前とはすっかり変わっている。
人は人を殺す生き物だ。
少なくとも、この混沌とした世界では。
「これって、ニッシーが何かを録音したってことだよね?」
「うん、たぶん」
俺はICレコーダーを除菌シートで拭いてカラに渡した。
カラはICレコーダーを操作し、録音を再生した。
しばらく電子音と物音がするだけの状態が続いた後、西浦先生の声が聞こえた。
「もしもし、手越先生。西浦です。遅くにすみません」
「西浦さんか」
西浦先生が手越先生との電話の内容を録音したみたいだ。
音はクリアではないけど、ちゃんと聞き取れる。
「手越先生。明日の朝、なるべく早くに避難したいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ。構わんよ。あの怪しい男がちゃんとあらわれるのならな」
どうやらこれは、西浦先生が手越先生にかけた電話の録音のようだ。たしか、西浦先生は出発を早めるために昨夜手越先生に電話をかけたと言っていた。
でも、会話はそこでは終わらなかった。
「ありがとうございます。他に、2つほど、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「どうぞ」
西浦先生は、まず一つ目の質問をした。
「まず、TGS1のことです。手越先生、ひょっとして、出力に変更を加えましたか?」
「うむ。TGS1でゾンビに対抗できないかと考えて、出力の調整を変えて制限を外したが。何か問題でも?」
「やはりそうでしたか。申し訳ありません。とんでもないことになってしまいました。詳しくは、明日の朝、直接お話します。それから、今日の、あの遺書のようなメモのことですが……。あれは、立花さんのものには思えないのですが、手越先生、何かご存知ではありませんか?」
手越先生は深くため息をついているようだった。
「存じているよ。あれは、私の責任だ。正直に話そう」
手越先生は暗く重たい声で話しだした。
「西浦さん。あれは、あなたがここに来られる前、6年前の3月に起きたことだ。あの年、私のところに相談に来た1年の男子学生がいてな。友だちにゲイだというのが知られて悩んでいると言っていた。だが、学生同士がからかいあっているだけだと、私は軽くあしらった。ところが、それからしばらくして、3月の終わりに、その学生はここ、M棟裏の桜の樹で首つり自殺を図った」
手越先生が話している桜は、たぶん、この部屋の外にある、あの桜の老木のことだ。
3月の終わりなら、きっと桜の花が咲き誇っていた頃だ。
「すぐに発見されて一命はとりとめたが、そのまま意識が戻ることはなかった。あの時、私は騒動になるのを恐れて事態の鎮静化に全力を注いだ。つまり、もみ消してしまったのだ。マスコミが食いつき人権団体と反LGBT団体双方が騒ぎ出せば、誰のためにもならないと考えたのだが。今となっては卑怯な言い訳にしか聞こえんだろう。今日、あの部屋に置かれていた遺書は、6年前、あの学生が自殺をはかる直前に書き残したものだ」
手越先生の話が終わると、西浦先生は質問をした。
「その事件に、立花さんはどう関わっているのですか?」
「立花君は、先頭にたっていじめていた学生だ。本来なら処罰されるべきだったが、私がかばい何の罰も受けなかった」
「そうですか……」
「西浦さん。立花君は殺されたんだよ。誰がやったのかは知らんが、6年前のあの件の復讐をしようとしている者がいる。立花君も私も自業自得だがな。そういうことだ。あの件と関係のない西浦さんは安心してくれ」
「手越先生……」
「では、また明日。明日があればお会いしよう」
そこで会話は終わった。
俺とカラは無言でICレコーダーを見つめていた。
しばらくして、俺は言った。
「つまり、その6年前の事件の復讐で、立花さんと手越先生は殺された? 木村さんも?」
カラは即座に首を横に振った。
「ちがうよ。絶対ちがうよ。だって……」
カラの声は心なしか震えていた。
「カラ? ひょっとして、心当たりがある?」
カラは俯き気味に、小さな声で言った。
「アヤヤンには、ずっと意識のない状態で入院しているお兄ちゃんがいるんだけど、たしか、4つ上で、6年前の3月なら、1年生だったはず」
「つまり、アヤヤンさん……三上彩さんが自殺未遂をした学生の妹かもしれないってこと? それで、復讐のために3人を殺したってこと?」
カラははっきりと力強く首を横に振った。
「アヤヤンは、人殺しじゃない。あたしの親友だよ? アヤヤンのことは、よく知ってるもん。そんな人じゃない。絶対に違うよ」
カラはそう断言した。
俺は三上彩さんのことは何も知らない。
だけど、俺はカラの言うことを信じられかった。
ゾンビウイルスのパンデミックが始まって以来、人々は感染者を容赦なく殺し続けてきた。
俺は何度も元・同級生に殺されかけてきた。
だから、俺の感覚はパンデミック以前とはすっかり変わっている。
人は人を殺す生き物だ。
少なくとも、この混沌とした世界では。
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