ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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第4章 ニートと富国強兵

第12話 復活祭

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 ーー鹿児島陸軍基地 輸送艦 艦橋 阿久津公爵軍 第一師団長 荒川 義人 少将 ーー



「各艦より報告。陸軍ニート連隊及び第一魔導機甲連隊。新設の歩兵大隊の隊員の輸送艦への搭乗を完了いたしました! 」

「ご苦労。直ぐに出発させてくれ」

「はっ! 全巻発進! 桜島へ急行せよ! 」

 私は師団付きの参謀が通信手へ命令を下し、各艦が発信していくのを見守っているとふと飛空艦隊ののことが気になった。

「通信手、出雲少将に繋いでくれ」

『了解! 第二飛空機動艦隊へ繋ぎます! 』

 通信手がそう返答をすると、少しして戦術画面に黒地に銀の刺繍の入った軍服を身に纏った出雲少将が映し出された。

《荒川少将。そちらもどうやら慌ただしそうだな》

「はい。突然人族のみ非常呼集が掛かり困惑しています」

 私は少し困った表情の出雲さんにそう答えた。

 沈着冷静な出雲さんもさすがに今回の非常呼集には戸惑いを隠せないようだ。

 クリスマスを目前に控えた今朝方。フォースター副司令官を飛び越え、阿久津公爵様から突然全軍に非常呼集が掛かった。最初はまたどこかの貴族が奇襲攻撃をしにきたのかと思ったが、車両等の装備は必要なく身一つで桜島に集合しろというのだ。

 それにより奇襲ではないことは分かったが、阿久津様の次の言葉に私を含め師団司令部の者たちは戸惑いを隠せなかった。

 阿久津様は今回の招集は、人族のみだというのだ。

 軍にいる人族は元日本人しかない。日本人だけ集めて一体どうするつもりなのだろうか? それでも公爵様直々の命令だ。軍人たるもの迅速に行動を起こすのが務め。

 私は陸軍に対し即時に非常呼集を発動した。

《私も同じだよ。沖縄近海を警戒中の第二機動艦隊と、新設の第三飛空艦隊を急ぎ招集し終えたところだ》

「沖縄近海の警戒任務に……どうやら今回の招集は予定していた物のようですね」

 二週間ほど前に副司令のフォースター中将から、陸軍は今日から数日の間は沖縄と台湾の軍専用のダンジョンに入らないように言われていた。てっきり最近ダンジョンの増殖や進化が世界中で頻繁に起こっている事から、訓練に入るダンジョンを他の地域のものに変更するのかと思っていたが……

 空軍まで近隣の警戒任務を行っていたということは、今回の招集は恐らく最初から予定されていたものなのだろう。

《うむ。年末まで沖縄近海の警戒のみ行うようフォースター中将から命令があった。第一艦隊のウォルター少将はクリスマスを家族と過ごせないとボヤいておったがな。恐らく今日この日のためだったのだろう》

「やはりそうでしたか。いったい桜島で何があるというのか……」

《さてな。いずれにせよ行ってみないことにはわかるまい》

「確かにおっしゃる通りですね。では後ほど現地でお会いいたしましょう」

 私はそう言って出雲少将ふと敬礼をし通信を切った。

 それから数十分ほどで桜島に到着し、新設したばかりの軍専用の飛空艦発着場へと着陸した。

 そして輸送艦から降りると発着場の管制塔の前に、まるで舞台とも言えるほどの大型の演台と、その前には複数のテーブルが設置されているのが視界に映った。

 テーブルには獣人とエルフの女性たちが、忙しそうに皿や酒を並べている。

「これは……」

「荒川少将。何か式典でもするのでしょうか? まさか阿久津さんがとうとう結婚するとかですかね? 」

 私が演台を見ていると、ニート連隊長の三田中佐が声を掛けてきた。

「ん? ああ、いやそれならば全軍を招集するだろう。恐らく別の理由だと思うが……」

 結婚の発表にしては華やかさがない。それに今現在公爵家は、軍を急激に拡張している最中だ。万が一帝国貴族たちに包囲された際に、日本領と帝国本土の領地を守れるほどの武力はまだ無い。そんな中で阿久津様が結婚を決意するとも思えない。まだ数年は先だろう。

 恐らく他に何か祝い事があるのかもしれないな。
 いずれにしろ演台の大きな紅白の幕といい立食の準備をしている事といい、どうやら悪い話ではなさそうだ。

 私は発着場の雰囲気から心配する必要はなさそうだと、部隊を整列させた後に阿久津公爵様へ報告するのだった。



※※※※※※※



「コウ、荒川さんが到着したそうよ? 」

「さすがに早いな。連隊にはテーブルの設置を手伝うように言っておいてよ。酒とつまみの配膳は人手が足りそう? 」

 悪魔城の執務室から島に向かってくる飛空艦隊を眺めていると、ティナが執務室に入ってきて陸軍が到着したことを教えてくれた。

「お酒はクリスマスパーティーやるつもりだったからあるけど、人手は足らないわ。だからリズとシーナに言ってギルドの新人を集めてもらっているわ」

「そうか、急に決めて悪かったよ。本当はクリスマスが終わってからやるつもりだったんだけど、アイツらがうるさくてさ」

 仁科に和田に飯塚の野郎め……早く街に行きたいだの獣人の女の子を呼べだの調子に乗りやがって。


 昨日、俺は転生した仲間と元自衛隊の恩人たちと一緒に古代ダンジョンを出た。

 ダンジョンを出ると、皆は太陽の光と目の前にそびえ立つ桜島の火山を前に涙を流しながらしばらく固まっていた。

 それから抱き合い肩を叩きながら喜ぶ皆を、悪魔城の東塔に併設している騎士用の兵舎へとゲートで移動させた。

 そこで悪魔城からメイドを呼んで、4年以上ぶりの昼食を食べさせたんだ。

 その間に俺は恋人たちに転生が成功したことを念話で伝えた。そしたら皆が俺以上に喜んでくれて祝福してくれたよ。メレスとリリアは身動きが取れないけど、帝国本土にいたオリビアは急いで戻ってきてくれた。そして馬場さんたちに改めてティナたちを紹介したんだ。

 霊が見えて何度か顔を合わしているティナは、肉体を得た仁科たちの顔が変わったことに驚いていたけどな。仁科たちはティナとリリア以外は霊が見えないのを知っているからか、最初からこの顔だって言い張っていたけど。

 でもドッペルゲンガーの中に入ったことを知っているリズに、嘘つけって頭を叩かれていたよ。その姿を見てオリビアもティナも笑っていた。

 その後は男だけでみんなで兵舎の風呂に入って、夜は宴会をした。その時にメイドの子にちょっかいを出すアイツらをしばいて大変だった。そしたら早く仲間に会いたいだの、家族に会いたいだの街に行きたいだのの大合唱でさ。本当は初めてやった転生による影響を、もう少し確認してからやろうと思っていたお披露目会を仕方なく早めたってわけだ。

 もう早朝から移民街の獣人をかき集めて、エルフとダークエルフたちにも協力してもらって準備に大忙しだったよ。

「ふふふ、仕方ないわ。ずっと外に出れなかったのだもの。メイドの子たちはちょっと引いていたけどね」

「あれじゃオークに転生させたのと変わらないよな。今日も朝から全員で映画館に行ってエロビデオ鑑賞会してるし……」

 アイツらシート汚さねえかな。心配だな。なにげに馬場さんと浜田も一緒に行ってるしな。多分百合物もあったからだろうな。浜田は百合好きだしな。

「きっと久しぶりに肉体を得て嬉しいのよ。それにしてもまさか本当にドッペルゲンガーの中に憑依できたなんて驚きよ」

「ほんと俺もびっくりだよ。ああ、彼らは全員軍に入ることを承諾してくれたし、勝手ができないよう色々と縛ったから安心してくれ」

 昨夜馬場さんたちと話し合い、全員が軍に加入することになった。一応もう自由に生きたいと思う者がいれば擬態の能力を封じて好きにさせるつもりだったけど、全員が俺に恩を返したいと言って軍に加入することになった。

 でも仁科や飯塚が目を輝かせてそんなことを言うもんだから、何か裏があると思って浜田に聞いたんだ。そしたらどうやら隠蔽のスキルを覚えていない状態で、俺から離れるのは自殺行為だと話していたみたいなんだよね。

 まあ確かに鑑定されたら高確率で魔物だと思わられて狩られるかもしれないしな。そんなことだろうと思ったよ。

 そんな彼らとその後もいろいろ話し合い、約束事をして能力を悪用できないようにした。

 正直言って馬場さんと浜田と木更津で同じパーティだった者たち以外は、そこまで親しくはないからな。同じニートでも、古代ダンジョンに初めて入ったあの時に知り合った者たちがほとんどだし。

 それに恩人といえど元自衛隊の人たちも人間だ。大きな力を得て人が変わるかもしれない。無いとは信じたいが、もしものことがあったらお互い不幸なことになる。だったら嫌な顔をされてでも、最初に不安の種は摘んでおくべきだと思ったんだ。

「あら? 擬態の能力に対して何か対策を打ったのね? 」

「ああ、契約のスキルで勝手ができないようにした。これはみんな納得してくれたよ」

 約束事というのは契約のスキルで制限をかけたことだ。

 契約の内容は以下の二点だ。

 ○任務中以外で阿久津公爵または、然るべき場所に報告なしに勝手に顔や性別を変えない。
 ○軍の所属から離れた場合は擬態の能力を使わない。

 これは仁科たち三馬鹿トリオから大反対されたが、コロコロ姿を変える奴を軍の皆が信用するはずがない事。何か犯罪が起こった時に、真っ先に疑われることを説明したら渋々納得した。

 あの残念具合から、アイツら絶対女性に擬態して女風呂に入る気だったに違いない。あとは恋人に擬態して寝取ろうとしたりな。うん、やりかねないな。

 まあ馬場さんと浜田には制限なんて必要はないけど、二人だけやらないわけにもいかないからな。全員とその場で契約のスキルで契約をしたわけだ。

 俺はそうしたことをティナに説明した。

「そう、それなら周囲の人たちも安心ね。でも軍に入るってどの部隊に入れるの? 能力的に御庭番衆かしら? 幻身の指輪と同じ効果だし、草として使うの? 」

「そうだね。潜入部隊として使いはするけど、正直擬態能力以外はそこまで強くないからね。もっと鍛えてからかな」

 確かに潜入工作員として使うのが適任だろう。擬態は幻身の指輪のように鑑定してもバレないしな。でもダークエルフのように、闇の精霊魔法は使えない。それだと個の戦闘力に不安があるから、しばらくは色々とスキルを覚えさせながら鍛える必要がある。

 そのあとは潜入工作部隊として運用していくつもりだ。

「確かに擬態以外は普通の人族と変わらないものね。わかったわ、全員分の初級のスキル書やマジックアイテムの手配をしておくわ」

「頼むよ。さて、そろそろアイツらを呼んで連れていくかな」

 俺はそう言ってティナと一緒に西塔の映画館へと皆を迎えに行き、ゲートで飛空艦発着場に設置した演台の裏へと移動した。

 そして急に緊張し始めた皆を紅白の幕の裏に並ばせ、そこでおとなしくしているように言って俺はティナと共に幕の外へと出た。

 幕の外に出ると既に1万人以上になった日本人の兵士たちが、部隊ごとに用意した各テーブルの横に立ち談笑している姿が目に映った。

 すると演台のすぐ目の前にある高級士官用の丸テーブルで、出雲少将と三田や田辺たちと談笑していた荒川さんが俺に気づいた。

『きおつけーーー! 総司令官へ敬礼! 』

「楽にしてください」

 荒川さんの号令により、全兵士が一斉に直立不動よなり敬礼を行った。それに対し俺は答礼をしたあと、楽にするように告げた。

『休め! 』

 荒川さんの休めという号令のあと、全員が肩幅に足を広げ両手を後ろで結び休めの姿勢をとった。

 俺はそれを横目に目の前を飛んでいたシルフに魔力水を渡し、声を皆に届けるようにお願いした。

「あっ、またコウは直接精霊を使って! 」

「あはは、ごめんごめん。風精霊の森のエルフが近くにいなかったからさ」

 俺はティナに肘で脇腹を突かれながらそう言い訳をした。

 いやぁ精霊が見えるようになってから、直接頼むようになったんだよね。ティナにエルフたちが自信を失うからやめなさいって言われてるんだけど、いちいちエルフに頼むのがめんどさくてついついね。

 俺は隣で呆れているティナを横目に、背筋を伸ばしこちらに顔を向ける兵士たちに口を開いた。

「突然の招集に驚かせたと思う。見ての通り戦争とかそういう物じゃない。今日皆を呼んだのは紹介したい人たちがいたからだ」

 俺は兵士たちを見渡してから言葉を続けた。

「だけどその前に4年ほど前に起こったことを話そうと思う。今から4年ほど前。この世界に帝国が攻めてくる前の話だ。知っての通り俺はあの悪法によりダンジョンに無理やり放り込まれた。そんな中で仲間と助け合い、いつか俺たちを見捨てた国に復讐することを誓い合い戦っていた。しかしあの日。この島にある【魔】の古代ダンジョンの調査に駆り出された。当時の自衛隊の方達と共に……」

 俺がそこまで話すと手前のテーブルで、三田や荒川さんたちが苦い顔をするのが見えた。

「その後は皆も聞いているだろう。俺たちはヴェロキラプトルの待ち伏せにあい、100名いた自衛官は半数以下になり、その自衛官が命を賭けて守り逃がそうとしてくれたニートたちも、俺を含めたった4名しか生き残ったものはいなかった」

『くっ……武田……白井……』

 荒川さんはうつむき、亡き部下たちの名を呼んでいた。

『馬場さん……』

『浜田……すまん』

 三田や田辺に鈴木も馬場さんたちを死なせ、自分たちだけが生き残ったことを悔やんでいるようだった。



 あの時一緒にいた自衛隊の生き残りの皆も、亡き同僚であり友を失ったことを悲しむ声が聞こえる。

 俺はそんな皆を見渡したあと、続けて口を開いた。

「俺には皆が知っての通り死者蘇生のスキルがある。だがこれは肉体が無いと蘇生はできない。その戦友たちの肉体はダンジョンに呑み込まれもう存在しない。だから彼らを生き返らせることはできない。しかし俺は仲間の仇を取るために、このダンジョンを出る時にヴェロキラプトルを狩りまくった。それによりあの時ダンジョンで命を落とし、ヴェロキラプトルに吸収された魂は俺の魂に融合した。そしてある日、死者蘇生を試したところ霊体となった彼らと再会することができたんだ」

『そ、そんな事が!? 』

『馬場さんの幽霊と会ったってことですか? 』

「ああ、話しても皆は霊が見えないから黙っていたんだ。でもこの話にはまだ続きがある。先日俺はその霊体に再び死者蘇生をかけることにより、本人以外の肉体に憑依させる事ができることを知ったんだよ」

 

『なっ!? ま、まさか!』

『そんな阿久津さん! まさかみんなを!? 』

「そうだ。それがわかった俺は冥の古代ダンジョンに行き、下層でドッペルゲンガーという擬態の特殊能力を持つ魔物を狩り集めた。そして昨日。その肉体に俺はかつての仲間と恩人を憑依させることに成功した」

 俺はそこまで話したあと、手をあげて幕の両側にいる獣人へと合図をした。

 すると演台の奥に掛けられていた紅白の幕が一斉に上がり、馬場さんたち元ニートと元自衛隊の者たちが姿を表した。

 その顔は人間だった頃のままで……

 どうやらみんなかつての仲間たちに気付いてもらうために顔を戻したようだ。

「た、武田……根岸に江島も……そんな……こんなこと……が……」

「ばば……さん」

「浜田に仁科さんも……」

「飯塚もいる……」

 武田一曹や馬場さんたちを目にした荒川さんや三田たちは、演台の上に整列しているかつての部下であり仲間を目を見開いて見て固まっていた。

 荒川さんたちの後ろにいる兵士で彼らを知る者たちも同じ反応で、その他の者たちはいったい何が起こっているのか理解できないのか隣の者とヒソヒソと話していた。

「彼らは魔物の身体と人の魂を持つ、幻影人族という種族として転生した。中身は生前の皆と同じだ。記憶も全て残っている。つまり生き返ったんだよ、馬場さんも浜田も武田一曹もあの時あの場所で命を落とした者全員がな」

「生き返っ……た? あの時私が死なせた部下が全員……」

 俺の説明に荒川さんは未だに信じられないのか、かつての部下たちに視線を固定させながら一歩、また一歩と演台へと近づいていった。

 しかしその時。

「気をつけー! 第一迷宮偵察中隊! 一歩前へ! 」

 演台の上にいた武田一曹が大きな声で号令を掛けた。

 すると転生した元自衛官の皆が一斉に一歩前へと出た。

「報告します! 武田一曹以下63名は、探索者146名をダンジョンより連れ帰るよう受けた命令を完遂致しました! 欠員なし! 傷病者なし! 一人も欠けることなく帰隊いたしました! 」

 武田一曹はそう言って荒川さんへ敬礼をした。そして隊員たちも続いて敬礼を行った。隊員たちは目に涙を浮かべながらも、全員が任務を完璧にやり遂げたことに満足しているように見えた。

「あ……ご、ご苦労だった……な、長きに渡る任務を完璧にやり遂げた諸君を誇りに思う。よくぞ、よくぞ民間人を守り戻ってきてくれた。諸君らは我々自衛官の誇りである。帰隊を認める。以後命令があるまでゆっくり休め」

 荒川さんは答礼をしながら涙声で帰隊した部下たちを労った。

「了解! 荒川中隊長……4年以上も掛かり申し訳ありません。身体は変わってしまいましたが、中身は隊長の部下であった時のままです。どうかまた一緒に仕事をさせてください」

「ああ……また一緒に……」

「「「「「隊長! 」」」」」

 荒川さんが溢れ出る涙をそのままにうなずくと、演台の上にいた隊員たちが一斉に飛び降り荒川さんの周りを囲んだ。そんな彼らを荒川さんは抱きしめ、すまない、すまないと彼らを死なせてしまったことを何度も謝っていた。

「見ての通りだ! 彼らは生き返った! いや、新たな肉体を得て転生した! 当然のことだが彼らが皆に危害を加えることは無い! それは俺が保証する! 俺は彼らを公爵家に迎え入れる! 大切な仲間として! そしてかけがえのない友として! 」

《《《 》》》

 俺がそう宣言すると、それまで呆然と見ていた兵士たちが一斉に演台へと駆け寄ってきた。

「「ばばざーーーん! 」」

「はまだーーー! 」

「おっと、三田に田辺。久しぶりだな。阿久津から色々聞いているぞ? ニートたちをまとめて戦っていたとな」

「鈴木君! 久しぶり。虎人族の美女を恋人にしたって聞いたよ? いいなぁ、羨ましいいなぁ」

 一番前の席にいた三田と田辺と鈴木は、真っ先に同じパーティだった馬場さんと浜田のへと抱きついて再会を喜びあっている。

《仁科ぁぁ! よかった! 生きてた! 》

《ああ、阿久津のおかげで転生できたわ。しかもなかなかに便利な身体でよ? これから生きるのが楽しくなったわ》

《飯塚! お前マジで飯塚なのかよ! 転生とかやべえなお前! あれ? なんか鼻が高くなってないか? 目も二重だったっけ? まさかお前……》

《ば、ばっか! 久しぶりで俺の顔を忘れたのかよ! 俺は元からこうだって! 》

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《え? あ……はい……》

《根岸三曹! 生きて……生きてた……》

《林……ああ、再びこの世で生きることができそうだ。女房子供に早く会いたくて仕方ない》

《奥さんもお子さんも元気ですよ。阿久津公爵様が全員保護してます。学校にだって通ってますよ》

《そうか……阿久津さんには返せない借りができてしまったな》


「ふふふ、みんな嬉しそうね」

「ははは、そりゃあね」

 人の波に飲み込まれる前に演台から降り、再会に喜びあう皆を眺めていた俺とティナはそう言って笑い合った。

《ぎゃぁぁぁぁ! なんで? なんで結婚して子供までいんだよぉぉ! 嘘だろ! 嘘だと言ってくれよ智美ぃぃぃ! 》

「「…………」」

 一部の残酷な時の流れの犠牲者を見なかったことにして……

 それから皆が落ち着くのを待ち、俺はテーブルに着くように言った。

 そしてリズとシーナが率いてきた獣人のギルド員が持ってきたつまみを前に、復活祭という名の宴会を始めるのだった。

 この日は初めて荒川さんが酔い潰れるのを見た。

 嬉しかったんだろうな。自分の指揮で死なせた部下たちが生き返ったことが。

 俺も嬉しいよ。またみんなでこうして騒げるのがさ。







 ーーテルミナ帝国 帝城 執務室 皇帝 ゼオルム・テルミナ ーー



「じんぐるべーる じんぐるべーる フンフンフンフンフン♪ 」

「陛下、本日は特にごきげんですな」

「む? そうか? まあ明日はクリスマスという家族で過ごすイベントじゃからな。こんなイベントを作るなど、チキュウの人族もなかなかに気がきくのう」

「確か神の使徒が復活する日だとか? それを祝うイベントのようですな」

「チキュウの神の使徒? そんなものこのチキュウにはおらんだろう。おれば余の先祖が魔界から来れるはずもないからのう。まあなんでもよい。アルディスとメレスに堂々とプレゼントを渡して、二人からも貰えるんじゃからの。まったく、素晴らしいイベントじゃのう! おお、リヒテン。トナカイの用意はできておるか? 明日が本番じゃからの。メレスが寝ているところにコッソリとプレゼントを置くのが父親の仕事らしいからの」

 メレスとアルディスには特注のドレスを作らせたからの。二人の喜ぶ顔が目に浮かぶのう。

「トナカイもソリも用意しております。サンタセットも抜かりはございません」

「うむ。さすがはリヒテンじゃ。ちょうどアルディス湖は雪が降っておるからの。余がサンタというものになるには打って付けじゃのう」

 しっかり供の者に余の勇士を撮影をさせねばの。余がサンタだと知ったらメレスは大喜びするじゃろうのう。

「はい。ちょうど良く積もっておりますな」

「さて、そろそろ定時じゃの。今日の執務はこれまでじゃ。アルディスとメレスが夕食を作って待っておるからの! 今日は余の好物を作ってくれると今朝言っておったからの! 」

 妻と娘に毎朝送り出されて仕事に行くのがこれほど幸せじゃとはな。魔王のおかげで夜の生活も耐えられるようになった。何より若返った余をメレスが素敵じゃと言っておったのが嬉しいのう。アルディスは相変わらず余を普通の見た目と言っておるが……やはりエルフの女は美的感覚がおかしいのう。まあ魔王には感謝じゃの。メレスはやらんがな!

「陛下。毎日定時で帰られるのはよいのですが、仕事が少々溜まっておりまして……」

「うむ。クリスマスが終わればまとめて処理をするとしよう。では時間ゆえ余は帰る」

 余の代わりに残業をするリヒテンの恨めしい顔を見て見ぬ振りをし、余は鞄に手を伸ばした。

 その時。執務室のドアが開き、守衛の者がマルスが訪ねてきたことを告げた。

「マルスが何用じゃ? まあよい入れ」

「失礼します」

「なんじゃそんなシケた顔をしおって。余は帰るところなんじゃ、要件があるならクリスマスが終わってからにせい」

 余は深刻な顔をして入室してきたマルスに片手でシッシとしながらそう言った。

 あのマルスが深刻な顔をするなど、なんかめんどくさい匂いがするのう。これは聞かずに返した方が良さそうじゃ。

「陛下……緊急事態です。インプです。インプが欧州領に現れました」

「なっ!? インプじゃと! 」

 まさか……こんなに早く見つかったというのか!? 

 4年じゃ……余たちがこの世界に来てたった4年しか経っていないのじゃぞ?

「息子のカインがイギリス地域とフランス地域にて、複数のインプとゲイザーの遺体を入手致しました。魔界へと繋がる門は発見できておりません。ですが恐らくは魔界に我々がいることは知られているかと」

「なんということじゃ。早い、あまりにも早すぎる」

 考えられるのは、以前にいた世界からデルミナ様の力を辿ってきたか、先日魔王へ加護をお与えになった際の力を感知されたか……

 いずれにしろ偵察が任務のインプとゲイザーが現れたということは、すでに余ら魔人の存在は知られていると思って間違いなかろう。

 となれば遅くとも数年以内には大規模な侵攻があると見てよいじゃろう。

 それまでにガーゴイルとケルベロスくらいは送り込んで来るじゃろうな。

 大昔に突然現れたケルベロスに多大な犠牲を払ったというが、今の帝国の軍装備があればそれほど苦労はせぬじゃろう。問題はサキュバスとそれ以上の上位の悪魔がやってきた時じゃな。

 じゃがそうか。このタイミングでやってきたか。

 これは余の生きている間に、デルミナ様の悲願を叶えることができるやも知れぬな。

 なんといってもこちらには魔王がおるからの。これはチャンスじゃのう……

 どうにかして悪魔を全て魔王に所に差し向けられぬかのう。

「陛下! まずは侯爵以上の者を招集し、悪魔が現れたことを伝えねばなりませんぞ。その後は全てのインプが見つかるまで探索させるべきです」

「む? しかし余はこの後アルディスとメレスとの夕食が……」

「陛下! 非常事態ですぞ! この魔素が濃いチキュウに強力な悪魔が突然現れる可能性もあるのですぞ! 魔界の門が現れる場所を特定できるまでは、帝城にて寝泊まりをしていただきますぞ! 」

「そ、そこまでする必要はなかろう! 」

 そんなことをすればクリスマスを家族で祝えないではないか!

「いいえ必要がございます。魔界の門がいつどこに現れるかわからない以上、帝国本土に現れた時の想定もしておかねばなりません。陛下にはすぐに動き指揮を取っていただく必要があるのです。どうしてもとおっしゃるのならば、アルディス様を帝城にお呼びくだされ」

「そ、それはアルディスが嫌がるのじゃ……気が抜けぬと言ってのう」

「ならば諦めてくだされ。アルディス湖には艦隊を派遣し守らせますゆえ、陛下は帝城にて万が一の時に備えてくだされ」

「い、嫌じゃ! 余は帰るんじゃ! クリスマスを親子で過ごすんじゃ! 」

「陛下! 皇帝たるもの臣民を優先してくだされ! マルス公爵! 陛下を取り押さえるのじゃ! 十二神将! 何をしておる! 陛下を縛り監禁せぬか! 」

「わ、わかった! 陛下、おとなしくしていてください! 」

「何をするのじゃマルス! 余は帰りたいだけなんじゃ! トナカイが待っておるのじゃ! 妻と娘からプレゼントをもらうのじゃあぁぁぁ! 」

 それから執務室を半壊させるほど抵抗したが、蘇生によりランクが下がった余は以前ほどの力を発揮できず、十二神将とマルスにより取り押さえられ縛られた挙句に寝室へと監禁された。

 くっ……皇帝であるはずの余がなぜこんな目に!

 ああ……アルディスとメレスとのクリスマスが……余の幸せが……おのれ悪魔め! 許さんぞ!

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