タッタラ子爵家の奇妙な結婚事情

れん

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公爵令嬢と第三王子の恋人ごっこ

恋人ごっこ 前編

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 しばらくして、ロンとリーナは学園内のサロンにて向かい合っていた。
 二人の間にあるのは少しばかりスモーキーな香りの強い紅茶。
 これをリーナはミルクと砂糖をたっぷりと入れて、ロンはミルクだけを入れて飲むのが好みだった。茶菓子は口の中でほろりと崩れるクッキーだ。
 お互いの授業の内容や、友人達の話をしながら恋人同士の話は弾む。
 もうすぐ王宮の庭ではクチナシが咲くね。などと話していた二人に向けられる視線は穏やかだ。

 今の学園内で最も高貴な二人が「恋人ごっこ」をすることははじめは奇異の目で見られていた。
 高位の貴族にとっては結婚は家同士の繋がりであり、契約だ。ゆえに市井の者のような恋人などは夢物語の中でしか存在せず、せいぜいが愛人がいいところだろう。
 三男や次男など、まだ婚約者がいないものが学園内で庶民や下位貴族を相手に恋人を作ることもある。だが、その多くが期間限定のお遊びで、そこから婚約に至るケースは少ない。
 結局のところ、高位貴族にとっては恋人と婚約者は別物なのだ。

 そんな中で、市井の者のように婚約者と「恋人ごっこ」をする二人は変わり者に違いなかった。
 だが、家同士の繋がりである婚約者ではなく恋人ならば、紳士淑女の〝適切な距離〟が少しだけ短くなる。それはほんの一歩、いや、場合によっては半歩の距離なのかもしれない。
 だがそれでも近いのだ。
 婚約者を寮の入り口まで送るのは義務ではなく権利である王子は言う。

 ロビーの隅で別れを惜しむように話すことも、別れ際、お互いの手を握ることも、明日また会うことを約束することも。
 サロンでテーブルの上でお互いの手を握り合っていても、自分だけの愛称で相手を呼んでも、呼ばれても、恋人同士ならばいいじゃないかと言う。

 貴族の、家同士の、婚約者同士なら「はしたない」ことでも、市井の恋人同士の間柄なら、むしろそれくらいは可愛らしい部類だ。
 しかも彼らはちゃんとした婚約者同士だ。他の誰かを相手にちょっかいを出しているわけでもない。
 そしてそんな彼らを見て、真似するものが出てくるのも早かった。
 何しろ彼らだってそういうことに興味を持つお年ごろなのだ。

 市井の恋人同士をはしたないなどと言いながらも、本音を言えば興味があるし、何なら試してみたい。
 だが婚約者のいる身で恋人を作るわけにもいかない。だが「恋人ごっこ」ならば? 何よりそれをしているのは今学年の生徒で最も高貴な二人である。
 あの二人がしているのならばと、免罪符を手に入れた生徒たちの行動は早かった。
 おかげで現在の学園の雰囲気はかつてない程ふわふわしている。

「そういえば、入学式の日に高位貴族用の校舎付近で迷子になっている生徒がいたね」
「まぁ珍しいですわね」

 そんなふわふわした空気の中で、ロンが「そういえば」と話題を変えた。
 リーナは首を傾げつつも驚いた。この学園は様々な経験をもとに、現在は校舎が大きく五つに分けられている。
 卒業式や入学式を行う講堂を中心に、王族、高位貴族が学ぶ場所と、下位貴族、平民が学ぶ校舎に分かれ、さらには男女も校舎そのものが分かれている。
 男女が一緒に授業ももちろんあるが、多くが別々に分かれており、昼食も別々の場所に食堂がある。もちろん、中庭などで男女が一緒に取ることも可能だが、リーナもロンも友人達との社交に努めており、別々にとることが多かった。

「高位貴族なら一人で動かないだろうし、下位貴族や庶民なら高位貴族の校舎にそもそも用がないだろうしね」

 高位貴族が下位貴族や庶民と一緒に学ぶこともあるが、その場合は必ず高位貴族が下位貴族の校舎に出向くことになっているし、呼びつける場合は講堂までだ。
 庶民が立ち入り禁止と言うわけではなく、高位貴族と一緒ならば校内を歩くことや施設の利用は可能だ。ただし、行き帰りは必ず高位貴族が付き添うことが決められている。
 これは警備上の決まりであり、破れば高位貴族側が罰せられるのだ。
 そういうことになるまでに、最初に渡される手引書のページが倍になったらしいと聞けば、卒業生も在校生もそれ以上は何も言えなかった。
 ゆえに下位貴族や庶民が、ロンたちが学ぶ校舎に一人で来ることはほぼない。

「ロン様はどうしたんですの?」
「警備に言っておいた。それでその足でキミに会いに行ったよ」

 王子である彼が直接庶民や下位貴族に声をかけることはない。かけられた方も困るだろうということをしっかり理解している彼は、適切な対応を取るとリーナのもとへ駆けつけたのだという。
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